大判例

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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)843号 判決

控訴人 大矢平造

被控訴人 国

訴訟代理人 川井重男 外四名

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

二、被控訴人は控訴人に対し金二二万円とこれに対する昭和三二年八月八日から右支払済に至るまで年五分の金員を支払うべきことを命ずる。

三、控訴人その余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は第一、二審を通じ二分し、その一を控訴人その一を被控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、 控訴人主張事実中

(1)  控訴人がその主張の工場を所有し、右工場構内には控訴人主張の数棟の建物があり事務所第一工場第三工場が控訴人主張の位置にあること。

(2)  控訴人がその主張の保険料を滞納したため控訴人主張の係官西野三千三同山内忠司の両名が昭和三二年三月一四日右工場事務所を訪れ、「旋盤八尺一台同六尺二台セーパー一台を差押える。」旨記載した差押調書を控訴人の留守番に交付したこと。

(3)  当時控訴人は八尺旋盤を三台所有し唐津製のもの一台を第一工場に、千田製のものと無名のものと各一台が第三工場にそれぞれ置かれてあつたこと。

(4)  右調書記載の旋盤が公売され、訴外山本忠男が代金八万円で競落し、次いで控訴人主張の係官高橋正義らが右訴外人と共に同年四月六日頃控訴人の工場を訪れ、右公売された旋盤は第一工場内の唐津製八尺旋盤であるとしてこれを控訴人工場から搬出したこと。

は当事者間に争いない。

二、右搬出にかかる八尺旋盤に対し有効な差押が行われたか否かについて検討する。

昭和三四年法律第一四七号を以て改正されるまでの国税徴収法(以下旧法と略称する)第二二条一項但書は、右改正法第六〇条二項と異なり、明文上は封印公示書その他差押を明白にする方法により差押の表示をすることを差押の効力発生要件としていない。しかしながら、いやしくも滞納処分が金銭債権のための強制執行の手段である点においては、通常の強制執行と本質を同じくするものであるから、一面において刑法第二五二条二項所定の犯罪の成否を明かにし、他面一般第三者に対し私法上不測の損害を及ぼすことを防止する必要から考えて、右改正以前においても、民事訴訟法第五六六条二項後段と同一の法理に従つたもので、改正法は単にこの趣旨を注意的に明らかにしたにすぎないと解する。又この解釈は、たとえ滞納者或はその家族から外聞を憚る等の事由に基づいて懇請があつた関係上右のごとき措置がとられ、右保管者に対しては差押物件を明確に指示したとしても、何等結論を異にしない。

以上の見地に立つて、原審および当審のすべての証拠調の結果を通覧するに、前記搬出にかかる八尺旋盤に対し封印公示書その他の方法により差押を明白にした事跡を認め得ないばかりでなく、右物件を差押える旨の告知が控訴人の長男政男に対してなされた事実すら明確と謂えない。文証人西野三千三同山内忠司は当審にいたつて始めて、工場事務所内に差押を明白にする公示書を貼布したと証言するが、原審における検証の結果によつて明らかなように工場事務所と第一工場は道路を隔てた別棟であり、第三工場は工場事務所との間に別棟はあるが同じく西側にあるから、右公示書が貼布されたとしても、第一工場内の唐津製八尺旋盤につき差押がなされたことを明白にするものとはいえない。

してみると、少くとも右搬出された八尺旋盤に関する限りは、有効な滞納処分が行われたと認められないから、収税官吏がこれを有効なりとして、競落人をして搬出せしめたことは違法処分と謂うべきである。又この当時すでに以上のとおりの解釈をした裁判例も公けにされていたのであるから、右処分を有効と信じたことにつき少くとも過失があつたと見なければならないので、本件につき国家賠償法第一条の適用を免れない。

三、原審証人山本忠男(第一、二回)柏原正治の各証言と弁論の全趣旨によると、本件八尺旋盤はその後競落人山本忠男から他に転売せられ、現在その所在不明であることが認められるので、控訴人は被控訴人に対し右物件は滅失したものとして、その時価相当の損害賠償を請求することができる。

そして右唐津製八尺旋盤の時価は、原審証人下田義三の証言及び原審における鑑定人田中止吉の鑑定の結果、当審における控訴人本人の供述を綜合して、金三〇万円の範囲内で認めることができる。原審証人山本忠男(第一、二回)同柏原正治の各証言によつて認められる公売価格、買受人の転売価格は右認定に影響を及ぼすものではない。そうすると右金三〇万円から公売代金八万円を差引いた金二二万円が控訴人の損害というべきである。控訴人はなお他に得べかりし利益の喪失を損害として主張しているが、この点については右控訴人本人の供述によつても具体的に認定できず、他に立証がないので、右主張は採用できない。

してみると被控訴人は控訴人に対し右金二二万円と之に対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明かな昭和三二年八月八日から右支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、右の範囲内で控訴人の請求を正当として認容し、その余は失当として棄却すべきである。

四、よつて右の限度で原判決を変更し、仮執行の宣言は不相当と認め、民訴法九二条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 沢井種雄 村瀬泰三 兼子徹夫)

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