大判例

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大阪高等裁判所 昭和40年(ラ)205号 決定

抗告人 株式会社ミナト商事

相手方 松永明

主文

原決定中転付命令に関する部分を取消す。

相手方の本件転付命令の申請はこれを却下する。

抗告人の差押命令に対する抗告はこれを棄却する。

申請費用及び抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

記録によると、相手方は抗告人に対する昭和四〇年四、五、六月分の給料債権の先取特権にもとづき、原裁判所に債権差押および転付命令を申立て、昭和四〇年九月九日申立て認容の原裁判を得たこと、右命令は債務者である抗告人には昭和四〇年九月二一日、第三債務者である日本復興建設株式会社に対しては同年九月二四日それぞれ送達されたものであり、本件抗告は同年九月二五日申立てられたこと、以上のとおり認めることができる。

そこでまず本件即時抗告の適否について考えるに、右のように債権差押および転付命令が債務者および第三債務者に送達されたときは、これによつて執行は終了し、もはや執行方法の異議や即時抗告などの不服申立ては許されないとの見解が従来むしろ有力であるが、当裁判所は右のような場合にも即時抗告があれば債権差押および転付命令の効力は遮断されるのであるから、即時抗告期間を徒過するか抗告審の裁判が確定するまでは当該執行は終了しないと解するので、右見解を採用しない(当庁昭和四〇年(ラ)第九三号、同年七月一三日決定参照)。

ところで抗告人は相手方に対し前記のような給料支払債務を負担していないと主張する。しかしながら記録によると抗告会社の代表者である安達浩明の名義で抗告会社の社印を押捺し、昭和四〇年六月二一日付給料未払証明書が発行されており、それには、相手方に対し昭和四〇年四月分の給料の一部を支払つたまゝ五、六月分の給料は未払いであることを証明する旨が記載されているのであるから、これによつて相手方の主張する債権の存在を認めることができる。抗告人は右のような債務はないというが、前記証明書に対する反証は何もないから、前記認定を覆えし、抗告人の主張を採用することはできない。

ところが、本件転付命令は抗告人たる債務者の第三債務者たる日本復興建設株式会社に対する店舗賃貸借保証金返還債権に対し発せられたものであり、右保証金返還債権は通常敷金返還債権とみるのが相当である。敷金は賃貸借終了によつて賃貸物件の返還をするさい、それまでの間に生じた家賃、またはこれに相当する損害金の未払部分の支払に当然充当される性質のものであるから、その返還請求金額は賃貸借終了し、賃貸物件を返還するときでなければ判明しないのである。敷金差入額が六万五、八〇〇円であつても、返還を請求しうる金額はそれより少額となる場合もあれば、あるいは全然存在しない場合もありうるのであつて、しかも返還の請求ができるのは、賃貸借の終了ないしは返還のときといつた、条件にかゝつているのである。転付命令は差押えた債権の券面額で無条件に弁済の効力を生ぜしめることを目的とするものであるから、右のように現在金額が不確定であり、無条件にその金額の支払を請求できない債権は券面額のない場合と同様被転付適格をもたないものというべきであつて、身元保証金の返還請求権につき被転付適格を肯定する従来の判例には賛することができず、むしろ将来の家賃金債権、給料債権と同様、被転付適格を否定するのが相当である。とくに本件は給料債権を被担保債権とする一般の先取特権の実行であつて、右の如き不確実な差押債権に被転付適格を認め、転付命令によつて被担保債権弁済の効果を肯定するのは先取特権によつて特定の債権者を保護せんとする法の趣旨に鑑み不当である。しかのみならず、一般の先取特権者が債権に対する先取特権の実行方法として転付命令を求めることができるかどうかについては、必ずしも疑義なしとはしない。競売法は、動産、不動産、船舶に対する担保権の実行方法として競売を規定するだけで、債権に対する担保権の実行方法については何ら触れるところがない。強制執行法において債権に対する強制執行は動産に対する強制執行の一部として規定されているから、競売法における動産の競売には、前同様債権に対する担保権の実行も含まれているものと解しても、競売法の定める担保権の実行方法はいずれの場合でも担保物件の競売であるから、その手続の不備を強制執行法の規定の準用によつて賄うにしても、これと近似した規定に依拠するのが相当であるというべきところ、民訴法六一三条は、本件保証金返還債権の如き、無条件にその金額の支払を請求できない債権については、執行裁判所の換価命令による競売を以て執行債権の満足方法と定めているのであるから、一般先取特権に基づく、本件保証金返還債権に対する担保権の実行も、右民訴法の条文を準用し、換価命令による競売手続によるのが本筋であるというべきである。

以上のとおりであるから、原決定中転付命令に関する部分は失当としてこれを取消し、本件転付命令の申請はこれを却下すべく、抗告人の差押命令に対する抗告は理由がないから棄却することとし、申請費用及び抗告費用の負担について、民訴法九六条、九二条、八九条を各適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 金田宇佐夫 中島一郎 阪井いく朗)

(別紙)

抗告の趣旨

原債権差押及び転付命令は之を取消す

相手方の申立は之を却下する

との決定を求める

抗告の理由

一、相手方は抗告人に対し金八〇、九一〇円也の給料債権を有すると主張し前記の如き命令を得たるも如斯債権は存在せずむしろ抗告人は反対に相手方が抗告人方従業員であつた際生じた不法行為による損害賠償請求権を有する位である。

二、従つて右命令は不当であるから之が取消を求めるものである。

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