大判例

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大阪高等裁判所 昭和46年(行コ)4号 判決

控訴人

本願与一

被控訴人

泉佐野市長

熊取谷米太郎

義本仲

右両名代理人

黒田静雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。控訴人と被控訴人両名との間において、被控訴人市長が昭和三五年五月佐野簡易裁判所建設促進委員会に対し、泉佐野市上町九四七番の一、宅地、五四五坪三〇(1802.64平方メートル)を代金四〇八万九七五〇円で売渡した処分は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実に関する主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおり(訂正略)であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一、控訴人が地方自治法第二四二条に規定する「一年」の期間内に監査請求をしなかつたことには、正当な理由がある。すなわち、被控訴人市長は、本件土地を被控訴人義本に売渡す際に、泉佐野市議会の議決を経ていない。この点につき、被控訴人らは、土地区画整理法第一〇八条の規定により議決を要しないと主張しているが、本件土地処分は、土地区画整理法に基づくものではなく、泉佐野市の単なる環境整備事業としてなされたもので、代金も同市が受領しており、土地区画整理組合が受取つたのではない。また、控訴人が監査請求をしたとき、泉佐野市監査委員は「昭和三六年三月一一日の市議会の認定を受けた」旨回答したので、控訴人が議事録を調査したところ、同日認定された土地の中に本件土地は含まれていないことが判明し、その後被控訴人らは議会の同意を要しないと主張するに至つたもので、この経過からみても、議会の同意を必要とするものであつたことは明らかである。本件土地処分は、このように本来必要な議会の議決を経ていないのであるから、控訴人には「正当な理由」がある。

なお、控訴人は、昭和四一年一〇月五日付読売新聞の記事によつてはじめて本件の事実を知り、それ以来、陳情や訴訟を通じて糺明を続けていたものであり、被控訴人らにとつてすでに事態が安定していたということはできず、本訴によつて突如として事態が攪乱されるというわけのものではない。

二、本件土地は、登記面では泉佐野市から大阪市に直接売却したことになつていて、佐野簡易裁判所建設促進委員会の登記も、その代表者である被控訴人義本の登記もない。また当時の泉佐野市長山本昇平は、大阪市へ所有権移転登記をなすについて「承諾書」を手渡しており、右の事情を知らない筈はない。すると、同市は、被控訴人義本にひと儲けさせようとしたものとしか考えられず、同被控訴人が転売利益のうち金三〇〇万円を裁判所に寄附するつもりであつたにしても、到底納得できないものがある。

理由

当裁判所は、本件訴を、適法な監査請求を経ていない不適法な訴えと判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決理由に説示するところと同一であるから、これを引用する。

一、原判決五枚目表九行目に「被告市長」とあるのを「被控訴人(被告)ら」と改める。

二、五枚目裏一〇行目に「昭和三五年五月であり、」とある次に、「これに対する監査請求は、地方自治法第二四二条第二項、同法の一部を改正する法律(昭和三八年法律第九九号)附則第一条、第一一条第一項の規定により、「正当な理由」のない限り、右改正法中第二四二条、附則第一一条に関する部分の施行期日である昭和三九年一月一日から起算して、一年の期間内に請求しなければならないところ、」を加え、同終りから二行目に「その間実に一〇年」とあるのを「、右期間経過後すでに五年(本件売渡処分の日からは一〇年)と改める。

三、控訴人は、本件売渡処分は議会の議決を経ていないから、控訴人には法定の期間内に監査請求をしなかつたことにつき「正当な理由」があると主張するけれども、本件売渡処分につき泉佐野市議会の議決を必要とするか、必要とすればその議決を経たかの問題は、本件売渡処分が違法、不当であるかどうかの問題であつて、それ自体、住民が監査請求をすることの妨げとなるような性質のものではないから、これをもつて法定の期間内に監査請求をしなかつたことの「正当な理由」とすることはできない。

四、また、控訴人は、昭和四一年一〇月五日付新聞記事によりはじめて事実を知つたと主張するけれども、地方自治法第二四二条第二項は、監査請求のできる期間の起算日を「当該行為のあつた日又は終つた日」と規定しているのであつて、「当該行為を知つた日」としておらず、このことは、監査請求が普通地方公共団体の住民に一般的に与えられている権利であり、しかも監査請求の対象となる行為が行われたことについて個々の住民に個別的に告知されるわけのものではないことから、その起算日を個々の住民の個別的な知不知にかからせると、個々の住民の主観的事情によつて起算日が区々となり、いつまでも法律関係が不安定な状態にとどまるおそれがあるため、法が、住民の個別的事情の考慮よりも、法律関係の画一的安定を優先させることとし、監査請求をする住民が当該行為をいつ知つたかにかかわりなく、客観的に、「当該行為のあつた日又は終つた日」を起算日としたものと解するのが相当であるから、控訴人が昭和四一年一〇月五日付読売新聞の記事によつてはじめて本件売渡処分の事実ないしはその違法不当性を知つたとしても、そのことの故に右起算日が左右されるものではないし、従つてまた、そのことのみによつて当然には、右期間を遵守できなかつた「正当な理由」があつたとすることもできない。

五、なお、控訴人は、本訴に至るまでにも、陳情や他の訴訟により本件売渡処分を糺明してきたと主張するが、そのこともまた適法な期間内に監査請求をしなかつたことの「正当な理由」となりうるものではない。

そうすると、本件訴えを不適法として却下した原判決は正当で、控訴は失当として棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(宮川種一郎 林繁 平田浩)

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