大判例

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大阪高等裁判所 昭和46年(行ス)6号 決定

大阪市天王寺区玉造元町五丁目一番地)

(抗告人(原告)

佐藤嘉美雄

右代理人弁護士

吉田恒俊

大阪市天王寺区堂ヶ芝町一九四番地

相手方(被告)

天王寺税務署長

岡部俊雄

大阪地方裁判所が、同庁昭和四二年(行ウ)第八四号所得税更正決定取消請求事件について、昭和四六年一一月八日した文書提出申立却下決定に対し、抗告人から即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨と理由は、別紙記載のとおりである。

一件記録を調査するに、抗告人主張の所得税調査書は、民訴法第三一二条各号のいずれも当らないものと認められるから、抗告人の主張はいずれも採用できず、その余の点について判断するまでもなく、本件文書提出の申立は却下すべきものである。

よつて、文書提出の申立を却下した原決定は正当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することにし、民訴法第八九条に従い、主文のとおり決定する。

抗告の論旨

一、原決定を取消す。

二、被告は、原告についての昭和四〇年度所得税調査書を提出せよ。

との裁判を求める。

抗告の理由

一、原決定は、申立人が民訴第三一二条第二号にのみ該当するものとして、文書提出の申立をしているように述べているが、申立人は、本文書が同条第一乃至第三号の全てに該当するものとして申立ており、申立を却下する場合は、全ての場合にわたつて判断しなければならない。しかるに、原決定は第二号にのみついてしか判断していないので、明らかに判断の脱漏である。

二、原決定は本文書が同条第二号に該当しないと判断するが、これは行政訴訟ことに税務訴訟の特殊性を見失つているからである。

一般に行政訴訟においては、強大な国家権力を相手に一私人がその違法性を追及するものであつて、政治社会経済等全ゆる観点からみても弱い立場にある原告の立証活動には大きな制限があるのであつて、公平妥当な裁判を行うには原告側の立証活動を最大限に保証しなければならない。とくに私人に多大の不利益を探すべき課税処分の違法性を争う税務訴訟に於ては、被告は自己に有利不利を問わず全ての課税処分に当つて考慮した資料を法廷に提出し、裁判所の公平な判断に委ねるべきである。これは刑事訴訟に於ける検察官の証拠開示義務の問題と軌を一にするものである。

本件に於て、被告は本文書の存在を肯定しており、公平妥当な課税処分を求める原告の権利からすれば(納税は必ずしも国民の義務だけでなく、権利であえある)、その引渡又は閲覧を求めうる法律上の権利を有する場合と考えられる。

三、次に、本文書は、被告がそれに基いて課税処分を行つたことは弁論の全論旨よりして極めて蓋然性の高いものであり、かような場合には、税務訴訟の特殊性から、被告が訴訟において引用したるものと同視して、民訴三一二条一号によつて提出命令を発すべきである。

四、本件文書の存在および被告の調査よりして、原告に対する課税が本文書によつて行われたことは明白である。

それ以外に課税の根拠を考えることはできない。従つて、本件文書は実質的に原告と被告との間の課税処分という法律関係について作成せられたものと考えられたものと考えられる。

よつて本件文書は前同条三号に該当するものとして文書提出命令を行うべきである。

(裁判長裁判官 長瀬清澄 裁判官 岡部重信 裁判官 藪田康雄)

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