大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)37号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

長屋佐吉

右訴訟代理人

林成凱

被控訴人(附帯控訴人)

末松秀子

右訴訟代理人

若松芳也

主文

(第三七号控訴事件)

一、原判決を次のとおり変更する。

二、控訴人は被控訴人に対し一一七万円およびこれに対する昭和四七年二月一〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三、被控訴人のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は一、二審を通じ五分し、その四を控訴人の負担、その余を被控訴人の負担とする。

五、この判決の二項は仮に執行することができる。

(第一、一四〇号附帯控訴事件)

六、附帯控訴に基づく請求を棄却する。

七、附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

事実

第一、求める裁判

第三七号

(控訴人)

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人の請求を棄却する。

三、訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

本件控訴を棄却する。

第一、一四〇号

(被控訴人)

控訴人は被控訴人に対し二〇万円を支払え。

(控訴人)

主文六項と同旨。

第二、事実上の陳述

第三七号

(控訴人)

一、本件工事はまず土止め工事が行われ、その後に、増築工事をしたものであるが、土止め工事には本来設計図および配筋図がなかつたので、図面と異つた施行がなされたということはあり得ない。また、右工事については、京都市の許可があるので改修補強の必要はない。

二、控訴人は、本件土止め工事および基礎工事の解体費用を訴外津村常夫に見積らせたところ、一七万円を要することが明らかとなつた。従つて、被控訴人の見積額は過大であり、失当である。

(被控訴人)

本件土止め工事には欠陥がある。京都市吏員作成の違反建築物報告書処理経過表にも「擁壁についても建物同様設計図面がつくられていないので構造耐力的にどうかわからない旨説明した」とあり、欠陥があることを暗示している。右土止め工事(擁壁)は京都市の許可を受けていないし、擁壁の基礎部分についても正規の施工をしていない。

以上のほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

第一、一四〇号

(被控訴人)

被控訴人は、控訴人が本件請負契約の債務不履行に基づく損害を任意に賠償しないため、やむなく被控訴代理人に本件訴訟提起を委任し、弁護士費用として着手金五万円、成功報酬第一審判決認容額の二割を支払うことを約束した。この弁護士費用も控訴人の債務不履行に基づく損害であるから、被控訴人は控訴人に対し内金二〇万円の支払いを求める。

第三、証拠〈略〉

理由

第三七号事件

一原判決理由を次の点を附加削除するほか、引用する。

原判決七枚目末行(判決理由二(7))に、「本件土止め工事、」とあるのを削除し、同七枚目裏一行目の「施工がなされ、」のあとに、「本件土止め工事とともに」と附加する。

同八枚目表三行目から七行目まで(判決理由二(10))と、同八枚目裏五行目から九行目まで(判決理由三の一部)を削除し、同五行目以下に、

「原審証人笹岡数雄、当審証人長島辰雄の各証言ならびに右証人長島の証言により真正に成立したものと認める乙二六号証によれば、控訴人がした基礎工事、配筋工事および土止め工事(擁壁)は欠陥があり、使用に耐えないものであるから、これを全部撤去し、旧に復するのには一七万円の費用を要することが明らかであつて、この認定に反する右証人笹岡の証言ならびに甲一号証の記載内容はたやすく採用できない。

したがつて、被控訴人は、控訴人が本件請負契約を履行しなかつたため合計一一七万円の損害を蒙むつたものということができる。」

と附加する。

同九枚目裏四行目に、「(10)」とあるのを(9)と訂正し、八行目以下全部を削除する。

以上の認定に反する前記証人長島の証言は採用しない。

二よつて、被控訴人の本訴請求は、控訴人が一一七万円とこれに対し本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明かな昭和四七年二月一〇日以降完済に至るまで民事法定利率たる年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある限度で正当であり、その余は失当として棄却を免れない。

第一、一四〇号

一般に、債務不履行を原因とする損害賠償の請求の場合には、その債務不履行が著しく反社会的、反倫理的なものであるとき(例えば、列車事故による乗客の死傷)を除いて、右請求をするのに要した弁護士費用はその債務不履行と相当因果関係のある債権者の損害には該当しない。けだし、不法行為や債務不履行を原因とする損害賠償の請求に関し、反社会的、反倫理的行為によつて他人を加害した者が被害者の正当な請求に抗争するのは、被害者の物質的、精神的損害を故なく増加させる行為として不当な行為であるから、右抗争のために被害者が支出を余儀なくされた弁護士費用は、その事案に相当な限度については、加害者の責に帰すべき事由によつて拡大された前記加害行為による損害の延長に当ると解されるけれども、不法行為や債務不履行が反社会的、反倫理的加害行為に該当しない場合には、賠償義務者は違法に至らない限度で自分の権利の防禦伸長のために抗争することが許されるから、右抗争のために賠償請求権者が弁護士費用の支出を余儀なくされても、その支出は不法行為や債務不履行と相当因果関係のある損害には該当しないと解するのが相当であるからである。したがつて、債務不履行が著しく反社会的、反倫理的なものに当ることが認められないときは、債務者が故意又は過失によつて債権者の請求に対し違法に抗争したことが認められない限り、債権者は債務者に対して債務不履行を原因とする損害賠償の請求をするのに要した弁護士費用の賠償を請求することはできない。

本件の場合、控訴人の本件請負契約上の債務の不履行は、前認定の事実関係および同認定に用いた各証拠を総合しても、著しく反社会的反倫理的な行為に該当するものと認められず、また、控訴人の本訴訟における抗争が同人の故意、過失による違法行為に当ることの証明もないので、被控訴人は控訴人に対し本訴請求のために要する弁護士費用の賠償を請求することができない。したがつて、右弁護士費用の支払いを求める本件附帯控訴に基づく請求は失当として棄却すべきものである。

以上の次第で、第三七号事件については、原判決を変更し、被控訴人の請求を右認定の限度で認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用につき民訴法八九条九六条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、仮執行免脱の宣言は相当でないからこれをしないことにし、第一、一四〇号事件については、附帯控訴に基づく請求を棄却し、附帯控訴費用につき民訴法八九条九五条を適用して主文のとおり判決する。

(長瀬清澄 岡部重信 小北陽三)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com