大判例

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大阪高等裁判所 昭和50年(う)234号 判決

本籍

兵庫県飾磨郡家島町真浦七二六番地

住居

同 県西宮市浦風町六番四号

会社役員

中野秀吉

昭和六年六月七日生

法人の本店

右本籍に同じ

法人の商号

家島建設株式会社

代表者の氏名

中野秀吉

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五〇年一月二四日神戸地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人および被告会社から控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 瀧本勝出席

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は弁護人平井卓二作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これをここに引用して次のとおり判決する。

所論は要するに原判決の量刑不当を主張するにあるので、所論にかんがみ本件記録を精査するに、被告会社家島建設株式会社は昭和二七年設立にかかる土木建設請負等を主たる目的とする会社で肩書本店のほか大阪、神戸、姫路に各支店を有し授権資本一億円、従業員約一〇〇名で昭和四六年度の出来高約三〇億にのぼる業者で、被告人中野秀吉はその代表取締役であるところ、原判示のとおりの手段方法により五六、〇九一、一〇〇円の法人税を逋脱したもので、未成工事支出金を当期完成工事の原価に算入することが法人税法二二条所定の計算通則に違背し且つ公正妥当と認められる会計処理基準に悖ること多言を要せず、所論の如く事業の将来のため経費の先取りにより社内留保を図つたとして軽々に看過することは到底許されないところであり、逋脱の手段方法ならびに逋脱の額および割合など犯情に徴すると所論指摘のすべての情状を考慮し特に本税および加算税の全額を納付したことを参酌しても、原判決程度の量刑はまことにやむをえないところであつてなんら重きに過ぎるものとは認められず、論旨は理由がない。

よつて本件各控訴は刑事訴訟法三九六条により棄却すべきであるから主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 細江秀雄 裁判官 深谷真也 裁判官 近藤和義)

控訴趣意書

被告人 家島建設株式会社

同 中野秀吉

右両名に対する法人税法違反事件につき、神戸地方裁判所の有罪判決に対し、昭和五十年二月三日被告人から控訴の申立をしたが、その趣意は左記のとおりである。

昭和五十年四月七日

右弁護人 平井卓二

大阪高等裁判所

第三刑事部 御中

原判決は、次の理由により刑の量定が不当であつて破棄されるべきものである。

一、本件犯行の動機に酌量すべきものがある。

証拠によれば、被告人会社の所得は、昭和四五年度五七八万円余、同四七年度三、六〇〇万円余、同四八年度二、二〇〇万円余である。

ところが違反年度である同四六年度では会社設立以来の異常な高収益があつたが、これは同年度は神戸製鋼所加古川工場の受註工事が八億円位にのぼり、ために利益が一億円を超すという異例の所得をみるに至つた。

そこで好不況の多いこの種建設事業の経営者として、被告人中野が不況時に備え、社内留保を図り将来の事業運営の円滑を企画したことが本件の主たる動機であると認められる(被告人中野、経理課長藤井文夫の各供述調書の記載、右両名の公判における供述、弁護人提出の前記各年度の法人所得申告書、修正申告書等)。

もとより、これは事業経営者としての利己的動機であることは否定しがたいが、経営者の立場のみからみれば無理からぬものといえるのであつて、巷間ときとして報ぜられるような脱税による裏金を利用、悪用して投機的行為に出たり、経営者の私利、私慾を図る類のものと比較すれば、その犯情むしろ軽きものというべきである。

また一部の裏金は、いわゆる機密費に廻されているが、これとても、この種事業者としては事業運営上公表帳簿に記載しがたいもの、領収証のとれない交際費等の若干の支出を要することは、業界の常識、必要悪ともいうべきもので、しかも個々の金額は比較的少額であつて強くとがめることは酷であると考える(昭和四九年三月六日付被告人中野供述調書添付一覧表参照)。

要するに、本件はその動機において悪質なものではなく、むしろ酌量すべき案件といえる。

二、本件犯行の手段方法は、大別して

(1) 未完成工事原価を完成工事原価に付替えたもの

(2) 架空工事費を計上したもの

(3) 架空人件費を計上したもの

となるが、その大部分は(1)である(昭和四九年三月二一日付被告人中野供述調書添付上申書参照)。

この(1)については、完成工事の売上高からこれに要した工事原価を控除したものを右工事による利益金とすることが、損益計算の原則であることは異論はなく、被告会社は右原則に反した計理に出たことが脱税とされているのであるが、単に当該年度の収支計算という見方に立てば、未完成工事費用といえどもその年度に支出した経費であり、その支出した経費をどの時点で損金として計上すべきかどうかということになるのであつて、本件が税法上正しい計理でないとしても、全く架空の仕入れ、架空の支出等を計上して所得を偽わり、税額をほ脱した脱税事犯とは全くその性質を異にするものである。

被告人中野らが経費の先取りというのもこの意味であり、それだけにまた違法の認識が希薄であつたことも十分首督し得るところである。

しかも、好不況の多い建設業界のことであり、工事の売上げが減少した年度においては、未完成工事費を先取りして税額の減少を図る必要はないことになるのであつて、被告人中野の述べるように三年ないし五年の間には自らこのような先取りは是正されるものである。

従つて、一または二事業年度だけをみると不正な計理であつても、右以上の長期的視野に立つてみると不正な計理、脱税はないことになる筋合のものである。

被告人中野が「三年毎に調査に来るまでに是正されていればおめこぼしをいただけるという感触があつた。三年の間に是正しておけば、判つても許されると考えていた。」と供述しているのも被告人中野としては、偽わりのない真実の気持を吐露していたものといえる(被告人中野、証人藤井の公判供述)。

大阪国税局の調査部係官が定例調査で本件の脱税を発見した際、脱税金額等からすれば、本件がいわゆる告発基準に該当しているに拘らず、査察の手続に移さず調査の段階で事を終結し、単なる更正決定にとどめようという方針であつたこともこの辺の事情を斟酌したものと推認されるのである(証人藤井、被告人中野の公判の供述、弁護人提出の申告指導票、嘆願書参照)。

本件(1)のような手段、方法は、脱税の手口としてまた被告人中野らの犯意の程度において多分に情状酌量の余地あるものであつて前記調査部見解のように刑事処分までの要がない脱税といつても過言でなかろう。

三、被告人会社が本件脱税の結果、納付すべき本税加算税については、国税当局との間において分納の許可があり、必要な担保を提供し、かつ、所要の手形を差入れており、全額を支払うことは疑いの余地はない(弁護人提出の換価の猶予通知書、納付受託証書等参照)。

そして、原審結審当時までに三千万円を支払い(弁護人提出の弁証八ノ一ないし七)、さらに昭和四九年一二月から同五〇年三月末までに一、三〇〇万円が納付ずみである(控訴審で立証)。

残余の一、八六〇万円余についても予定どおり支払い得ることは明らかである。被告会社の差入れの手形にについて不渡りを出せば破産のやむなきに至るのであり、担保物も当然処分されることになり、会社の存続を図る以上支払を怠ることは考えられない。

被告会社が誠意をもつて分割納付に努めている実情も有利な事情の一つとしてご考慮賜わりたいのである。

四、被告人中野及び被告会社は、本件検挙により相当な社会的、経済的制裁を受けている。

被告人中野が法廷で供述するように、本件検挙のため官公庁方面の工事受註は激減し、業界の不況と相俟つて百余名の従業員をかかえてその経営に苦慮している現況である。身から出た錆とはいえ多額の本税、加算税を納付したうえ、さらに高額の罰金刑に処せられるのみならず、被告人中野も執行猶予の恩典を受けたとはいえ、体刑の前科者として業界における公私の活動を遠慮し、謹慎すべき立場におかれていることについてもご同情をいただきたいのである。

五、被告人中野らの会社責任者には改悛の情顕著なものがある。

被告人中野は法廷において「自分の横着と安易に事を考えたことから本件を犯し申訳ない。心から反省している。」とその心境を吐露しているが、その言は全く措信するに足り、改悛の情顕著であると認められる。

六、被告会社及び被告人中野には船舶関係法令違反以外に前科はない(前科調書参照)。

七、なお、被告人中野及び経理課長藤井は、本件により勾留のうえ取調を受けたものであることから本件が悪質であるかの如く認められる虞れがあるのでこの点について附言する。

本件では前述のように昭和四八年中に大阪国税局の調査で脱税の全ぼうが明らかとなり、被告人らもこれを是認し、証拠物もあつて調査は終結し、更正決定を俟つだけの状態にあつたところ、突如検察官の強制捜査を受けるに至つたものであることは、被告人中野及び藤井証人の公判廷の供述、弁護人提出の前記、申告指導票等により明らかである。

本件脱税については、検察官において強制捜査する要はないのに拘らず、何故この種脱税事犯について身柄拘束の挙に出たのか。このことは被告人中野が法廷で「勾留取調の際には汚職関係、談合関係について調べを受けた、結論としてそんなことは無かつたということを理解していただけたと思う。」と述べていることや、本件告発が起訴の前々日である昭和四九年三月二〇日になされていることなどからみて検察官が何らかのいわれなき情報により他罪摘発の意図をもつて強制捜査に出たのであろうことは容易に窺知し得るところであろう。以上の理由により、本件は酌量すべき事情の多い脱税事犯と考える。

にも拘らず原審が被告会社に求刑どおりの罰金一、五〇〇万円、被告中野に執行猶予付とはいえ求刑どおりの懲役一〇月を言渡したことは、刑の量定酷に失するものといわねばならない。

この種脱税事犯に対する従来の裁判例においても、法人に対する罰金額は、ほ脱額の二割程度の金額に処せられていることは顕著な、または公知の事実というべく現に去る昭和四九年六月二一日神戸地方裁判所において言渡された北浦建材株式会社の法人税法違反事件では、本件のように特に酌量すべき事情がない案件であつたが、ほ脱額三、三一五万円の事案で、検察官の求刑罰金八〇〇万円に対して五〇〇万円の判決がなされていることは裁判所に公知の事実である。

これらに徴しても、原判決の科刑は特に被告会社の罰金刑において著しく不当であるといわねばならない。

前掲諸般の事情ご賢察のうえ、原判決を破棄しご寛大な判決を賜わりたい。

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