大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)1911号 判決

控訴人 森哲夫

右訴訟代理人弁護士 直江達治

被控訴人 信用組合大阪弘容

右代表者代表理事 吉川彦治

右訴訟代理人弁護士 宅島康二

補助参加人 竹田政

右訴訟代理人弁護士 長池勇

主文

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人は、控訴人に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は第一、二審とも、参加により生じた費用は補助参加人の負担とし、その余は被控訴人の負担とする。

四、この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、申立て

一、控訴人

1. 主文第一、二項と同旨

2. 訴訟費用は、参加により生じた分も含め、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、被控訴人及び補助参加人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

との判決を求める。

第二、主張関係

次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一、原判決三枚目裏一行目冒頭に「(一)」を加え、末行の次に改行のうえ次のとおり加える。

「なお商栄の代表者である堀河修(以下「堀河」という。)と控訴人とはわいせつなビデオを共同で販売するような間柄にあったものである。

(二) 金融機関を債務者とする債権については、譲渡禁止の特約の付されるのが一般であることは世間周知の事実である。しかるに貸金業の登録もしており銀行取引について相応の知識を有する控訴人が、商栄の資金繰りの苦しいことを知りながら、商栄の被控訴人に対する多額の債権を、その内容すら明確に認識せず、かつ、被控訴人に対し譲渡の可否についての問合せをすることもなく、漫然と譲り受けたものであるから、控訴人には本件債権の譲受に際して譲渡禁止の特約の存在を知らなかったことについて重大な過失があったというべきである。」

二、同四枚目表四行目の「同2」の次に「(一)」を、七行目の次に改行のうえ「同2(二)は争う。」をそれぞれ加える。

三、同裏三行目の「知らない」を「知らなかったし、知らなかったことにつき重大な過失はない」と改める。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、請求原因1及び3の事実は当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、請求原因2の事実が認められ(但し、本件債権を譲渡する旨の内容証明郵便が被控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。)、これに反する証拠はない。

二、そこで抗弁について判断する。

1. まず本件債権譲渡が通謀虚偽表示であるとの主張につき検討するに、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

(一)  控訴人は、タクシーの運転手として稼働するかたわら、保険代理業を営むとともに貸金業の登録をもなし、知人等限られた範囲の者に金銭を貸付けていた。タクシー運転手としての収入は月額二〇万円前後である。

(二)  控訴人と商栄の代表者である堀河とは二十年来の友人関係にあり、控訴人はこれまでにも二、三回融資をしたことがあった。

(三)  控訴人は、昭和六〇年四月一六日、商栄に対し、工事代金支払のための資金として一〇〇〇万円を、弁済期同年六月一五日、利息年二〇パーセントの約定で貸し渡した。右の一〇〇〇万円は控訴人が兄弟から五〇〇万円を借入れるなどして調達し、昭和六〇年四月一六日に被控訴人組合山本支店の商栄の当座口に電信送金により振込まれた。

堀河は翌一七日借用証(甲第一号証)を控訴人方まで持参したが、右の借入に際し保証や担保が提供された事実はない。

(四)  一方、商栄、信光建設工業株式会社(以下「信光建設」という。)及び補助参加人の三者間で、本件各手形が信光建設の補助参加人に対する債務の保証のために振り出されたものか否かにつき争いを生じたところから、商栄は、取引停止処分を避けるため、被控訴人に対し、請求原因1のとおりの預託をなした。

右預託に際し、堀河は、被控訴人宛に不渡異議申立依頼書(乙第一号証の一、二)を提出したが、右依頼書に不動文字で印刷されていた預託金債権についての譲渡禁止条項には十分目を通さなかった。

(五)  控訴人は、右貸付金が期限に弁済されなかったので督促していたところ、堀河は、昭和六〇年六月二一日、電話で控訴人に対し、その弁済として、「商栄は銀行に一〇〇〇万円を入れており、それがもらえるようになれば、控訴人がもらえるよう段取りする。」と申し入れて来たので、控訴人は右商栄の債権の内容等についてはよく分らないままこれを承諾した。

(六)  堀河は、右同日、本件債権を控訴人に譲渡する旨の商栄名義の書面を作成し、これを内容証明郵便として被控訴人宛に発送し、翌二二日、右内容証明の控え(郵便局長の証明文言の記載のあるもの)と本件各手形のコピー(甲第四号証の一、二)を控訴人に交付した。

その際控訴人は、堀河から譲渡にかかる本件債権が手形の不渡処分を防ぐための預託金債権である旨の説明を受けたが、本件債権の譲渡の可否等について被控訴人に問合せることはしなかった。

以上のとおり認められ、丙第四号証及び証人襄鐘の証言も右の認定を妨げるものではない。

右に認定した事実を総合すれば、通謀虚偽表示の主張はこれを認めることができない。

2. 次に譲渡禁止の特約に関する主張について検討する。

(一)  本件債権に、被控訴人の承諾がなければ譲渡できない旨の譲渡禁止特約が付されていたことは当事者間に争いがない。

控訴人は、右特約に違反した譲渡も無効ではなく、「被控訴人が商栄に通知することなく手形交換所に対する異議申立を取下げ、そのために商栄が取引停止処分を受けることになっても異議がない」という効果を生ぜしめるのみであると主張しているところ、〈証拠〉によれば、商栄が本件預託金の預託に際して被控訴人に提出した不渡異議申立依頼書には、前記譲渡禁止の特約条項に続いて、「私が前項に違反した場合は、貴組合において私に通知することなく任意に交換所に対する異議申立を取りさげまたはこれにより私が取引停止処分を受けることがあっても、異議ありません。」との条項が記載されていることが認められるが、右条項は、商栄が譲渡禁止特約に違反して本件債権を譲渡した場合の効果の一を規定したものと解するのが相当であり、右条項があるからといって、譲渡禁止特約に違反した本件債権の譲渡が当然に有効であるとは認められないから、控訴人の主張は失当である。

(二)  次に、原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は商栄から本件債権を譲受けた際、本件債権に付された前記譲渡禁止特約の存在を知らなかったことが認められる。

ところで、民法四六六条二項但書は、債権の譲渡を禁止する特約は善意の第三者に対抗することができない旨規定しているが、右特約を知らないことにつき重大な過失のある譲受人は、悪意の譲受人と同様、譲渡によってその債権を取得しえないものと解するのが相当である。

そこで、右特約を知らなかった点に関する控訴人の重過失の有無について検討するに、当審における控訴人本人尋問の結果及び前記1の(一)ないし(六)において認定したところによれば、控訴人は貸金業の登録を受けて金銭を貸付けていたとはいえ副業としてこれを行っていたにすぎず、銀行取引及びこれに付随する銀行業務の実態や慣行等について特に一般人以上の知識経験を有していたとは認め難いから、本件債権の譲渡性の有無について特に疑問を抱かなかったとしても不思議ではなく、本件譲受にかかる債権の譲渡の可否について被控訴人に問合せをしなかったからといって控訴人に重大な過失があったとすることはできない。

参加人は、金融機関を債務者とする債権については一般に譲渡禁止の特約が付されていることは世間周知の事実である旨主張するが、各種預金債権の場合であれば格別、本件のような預託金債権についてまでそのようにいうことはできない(預金の場合は、大量の取引が行われる関係上預金債権者の確認や譲渡の事実の確認を行うことは事務処理上煩雑であって過誤を生じやすいこと、及び預金は銀行の貸出等による反対債権につき担保的機能を果しているところ、預金債権が譲渡されると相殺による反対債権の回収が事実上困難となることから譲渡を禁止する必要性が認められるのに対し、本件預託金債権については預金債権の場合と異なり特に譲渡禁止を必要とする事情は見当たらない。)。

よって控訴人には譲渡禁止の特約の存在を知らなかったことにつき重大な過失があったとする参加人の抗弁は理由がない。

以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、金一〇〇〇万円とこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和六〇年一〇月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

三、よって控訴人の本訴請求は理由があり、これを棄却した原判決は相当でないから、これを取り消したうえ控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九四条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 大石貢二 小澤義彦)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com