大判例

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大阪高等裁判所 昭和62年(う)1012号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

原審における未決勾留日数中一五日を右の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣旨は、弁護人稲葉源三郎作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、量刑不当を主張し、再度の執行猶予が相当であるというが、論旨に対する判断に先だち、職権をもつて検討するに、原判決が、本件公訴事実中、昭和六二年六月九日付起訴状記載の「被告人は昭和六二年五月二九日午前九時ころ、金品窃取のため侵入する目的で大阪市此花区四貫島○丁目○○番○○号甲マンション四階四〇一号室A方表出入口ドアを開けようとしたが、そのドアの施錠が頑強で開かなかつたため、その目的を遂げなかつたものである。」との公訴事実に対し、原判示第四の事実として、「被告人は窃盗の目的で、同月二九日午前九時ころ、右A方表出入口ドアを開けようとしたが、そのドアの施錠が頑強で開かなかつたため、その目的を遂げなかつたものである。」との事実を判示し、右起訴状記載の罰条と同一の住居侵入未遂の法条を適用していることは原判決書に徴し明らかである。

ところで、住居侵入未遂の罪となるべき事実を判示するには、実体法を適用するに十分な構成要件的特徴を示し、かつ、前記起訴状記載の公訴事実と同一性を推認せしめる程度に明示され特定されていなければならないところ、本件において、右原判決の判文は、「窃盗の目的で、……出入口ドアを開けようとしたが、そのドアの施錠が頑強で開かなかつたため、その目的を遂げなかつた」というもので、右判文では右起訴状記載の公訴事実にある「金員窃取のため侵入する目的で」との判示を欠いているため、ドアを開けようとしたことが窃盗の着手に当たり、開けることができなかつたため窃盗未遂に終わつたとの事実を判示したものと解されるおそれがあり、住居侵入未遂の事実の判示としては、刑事訴訟法第三七八条四号前段にいう理由不備の違法があるといわなければならない。

そして、原判決は、この事実と原判示第一、第二及び第三の各事実とを併合罪の関係にあるものとして一個の刑を言い渡しているから、原判決はその全部について破棄を免れない。

よつて、量刑不当の論旨に対する判断を省略し、同法第三九七条一項、第三七八条四号により原判決の全部を破棄し、同法第四〇〇条ただし書に従い、更に次のとおり判決することとする。

(当裁判所が新たに認定した罪となるべき事実)

被告人は

第四 金員窃取のため侵入する目的で、昭和六二年五月二九日午前九時ころ、大阪市此花区四貫島○丁目○○番○○号甲マンション四〇一号室A方表出入口ドアを故なく開けて同人方に侵入しようとしたが、そのドアの施錠が頑強で開かなかつたため、右目的を遂げなかつたものである。

(右認定事実についての証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

原判決の認定した原判示第一、第二及び第三並びに当裁判所の認定した前記第四の各所為に、原判決挙示の各法令(ただし、判示第四の所為の法条の末尾に(懲役刑を選択)を附加し、牽連犯、併合罪の処理をも含む。)を適用し、所定刑期の範囲内で被告人を処断すべきところ、情状についてみるに、本件各犯行の動機、態様、非行歴及び前科、殊に、二か月足らずの間に四回にわたり、同一被害者方に侵入盗をはかり、犯行を累行したもので、甚だ大胆、かつ、執ようであり、しかも、昭和五九年一月二五日(同年二月九日確定)恐喝罪により懲役一年、四年間執行猶予に処せられながら、その執行猶予期間中に更に本件各犯行に及んだものであること、被害者の妻は相当重い精神的衝撃を受けるなどしたため、被告人側からの被害弁償の受領を拒絶し、右弁償は未了であること、真面目に稼働せず、勤労意欲に乏しいことなどの生活態度、その他記録に表れた諸般の事情を考慮すると、刑責は軽視できず、被害弁償として二度にわたり金三万円の提供をしたこと(当審において弁護人から被害者にあて三万円を送つたが、送り返された)、相当期間未決勾留されていること、被告人の年令などをしんしやくした上、被告人を懲役一年に処し、刑法二一条により原審における未決勾留日数中一五日を右の刑に算入し、原、当審における訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人に全部これらを負担させないこととする。

(裁判長裁判官尾鼻輝次 裁判官岡次郎 裁判官木村幸男)

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