大判例

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大阪高等裁判所 昭和62年(く)143号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、申立人の代理人弁護士的場悠紀、同島武男、同高瀬忠春、同松田親男共同作成の即時抗告申立書記載のとおりであるが、論旨は要するに、大阪高等裁判所が申立人に対して昭和五八年二月二五日言い渡した懲役二年、四年間刑執行猶予の判決は同年六月三〇日確定したところ、同六二年六月一九日神戸地方裁判所が右執行猶予を取り消す決定をなし、これに対する即時抗告を棄却する大阪高等裁判所の決定が右同月三〇日に申立人に告知され、次いでこれに対する特別抗告を棄却する最高裁判所の決定が同年九月一一日になされ、右神戸地方裁判所のなした執行猶予取消決定が確定するに至つたのであるが、右事実関係によると、まず、右執行猶予期間は昭和六二年六月二九日の経過をもつて満了するから、右大阪高等裁判所の即時抗告棄却決定が申立人に告知されたのは右猶予期間経過の翌日であることになり、右執行猶予取消決定の効力を生じないままに執行猶予期間を経過したものとして刑の言渡は効力を失うこととなるのであり、次に、仮に右即時抗告棄却決定の告知が執行猶予期間内になされたと解すべき余地があるとしても、申立人はこれに対して特別抗告を申し立てたから、執行猶予取消決定の確定前に執行猶予期間を経過したことが明らかで同じく刑の言渡は効力を失うのであるから、いずれにせよ検察官のした刑の執行指揮は違法であるとして、右執行猶予取消決定をした神戸地方裁判所に対し、刑執行に関する異議の申立をしたところ、同裁判所は、右申立は刑事訴訟法五〇二条により言渡をした裁判所である大阪高等裁判所に対してこれをなすべきもので不適法であるとして却下したものであるが、本件のように異議の理由が執行猶予を取り消した裁判にかかる事案にあつては、右言渡をした裁判所は右執行猶予取消決定をした裁判所と解すべきであるから、右却下決定は違法であるというものである。

そこで記録を精査して検討するに、申立人に対する執行猶予付懲役刑の言渡からその執行猶予取消決定確定に至る経緯及び本件異議申立から原決定に至る経緯は執行猶予取消決定に対する即時抗告棄却決定の申立人への告知に関する点を除いては所論のとおりと認められ、右即時抗告棄却決定は昭和六二年六月二六日申立人に告知されたものと認められる。

右事実関係のもとで、はじめに本件申立を審理すべき裁判所についてみると、刑事訴訟法五〇二条が刑の執行に関する異議申立事件を審理すべき裁判所を「言渡をした裁判所」としているのは、刑執行の基礎となつた裁判をした裁判所に審理させるのが相当であるとの趣旨に出たものと解せられるから、本件のように当初の刑の言渡に執行猶予が付せられていたところ後に右執行猶予が取り消されたという事案にあつては、右執行猶予取消の裁判によつてはじめて先の刑の執行が現実化されるのであつて、執行猶予付の刑を言い渡した裁判のみならず執行猶予取消の裁判をも刑執行の基礎となつた裁判というべきで、右執行猶予取消決定をした裁判所をも「言渡をした裁判所」と解し得るのであり、そのように解することが事件の審理に便宜であり(本件のように異議の理由が執行猶予取消決定にかかわる事案ではとりわけそうである)、かつ申立人にとつて利益となることはあつても何らかの負担を強いることはないのである。従つて、本件異議申立事件を審理すべき裁判所としては先に執行猶予付の刑を言い渡した大阪高等裁判所のほか右執行猶予取消の裁判をした神戸地方裁判所もまたこれに含まれるのであるから、これと異り、大阪高等裁判所において審理すべきであるとして本件異議申立を却下した原決定には刑事訴訟法五〇二条の解釈を誤つた違法があるといわねばならない。

しかしながら、更に進んで本件異議申立の理由とするところについてみると、まず、前述のとおり執行猶予取消決定に対する即時抗告を棄却する決定が申立人に告知されたのは執行猶予期間経過前である昭和六二年六月二六日と認められるから、右告知を猶予期間経過後の同月三〇日とする前提による所論は採用の限りでなく、次に、右告知が執行猶予期間経過前になされ、その執行停止がなされない以上、右告知によつて執行猶予取消の効果を生じて刑の執行が可能な状態となるのであつて、その後右取消決定の確定前に執行猶予期間が経過したことは何ら右効果に影響しないと解すべきであるから、執行猶予取消決定確定前の執行猶予期間経過によつて刑の言渡は効力を失うとする所論も採用できない。そうすると検察官のした本件刑の執行指揮は適法であつて、前述したところと異る事実関係ないし法解釈に基づく本件異議申立は失当であり、これを排斥した原決定はその理由において異るけれども結論において正当である。

よつて、刑事訴訟法四二六条一項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官山中孝茂 裁判官髙橋通延 裁判官島敏男)

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