大判例

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奈良地方裁判所 昭和61年(モ)205号 決定

当事者

別紙当事者目録記載のとおり

右当事者間の昭和五七年(行ウ)第四号所得税更正処分取消請求事件について、原告から文書提出命令の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を却下する。

理由

一  原告の本件申立の趣旨及び理由の要旨は、昭和五七年(行ウ)第四号所得税更正処分取消請求事件において、被告提出の書証である「行政事件訴訟に関する資料」と題する報告書(乙第六ないし第一〇号証、同業者の所得税青色申告決算書から昭和五二年分ないし昭和五四年分の売上金額、雑収入金額、支払販売手数料、売上原価の数値を移記したもので、納税者の住所氏名が秘匿されているもの)(以下「本件報告書」という。)が、原告への推計課税の合理性を裏付ける資料たりえないことを立証するために、本件報告書で住所氏名の秘匿されていないもの(以下「本件文書」という。)が必要であり、本件文書は民事訴訟法三一二条一号に該当し、被告が提出義務を負担する文書であるから、その提出命令を求めるというのであり、これに対する被告の答弁及び反論の要旨は、本件文書は、同号に該当せず、被告はその提出義務を負つていないので、本件申立の却下を求めるというのである。

二  そこで判断するに、記録によれば、本件文書は、特定の納税者の住所氏名及びその所得税青色申告決算書記載の三年分の売上金額、雑収入金額、支払販売手数料、売上原価が記載されているものであり、これら事項は被告が本件訴訟追行上知り得た事項であると認められるところ、税務署長である被告は、国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条により納税者の青色申告決算書記載の売上金額、売上原価等について守秘義務を負つているのであるから、民事訴訟法二八一条一号、二七二条の類推適用により、被告は本件文書の提出を拒むことができると解すべきであり、結局、被告に本件文書の提出義務を課すことはできないというべきである。

このように本件文書の提出義務を否定すると、原告の反証にある程度の支障をきたすことは免れないが、原告は本件報告書の作成の経緯等について関係者に反対尋問するなどして同報告書の証明力を争うことができ、また本件報告書自体そのような文書であることを考慮してその証明力が評価されるのであるから、本件文書が提出されないことをもつて訴訟における信義誠実の理念に悖るとはいえない。

三  よつて、その余の判断をするまでもなく、本件申立は理由がないので却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 長谷喜仁 裁判官 山田賢 裁判官 伊名波宏仁)

当事者目録

奈良市西大寺東町二丁目一-六三

申立人(原告) 辰巳寿一

右訴訟代理人 吉田恒俊

同 佐藤真理

同 相良博美

奈良市登大路町八一番地

被申立人(被告) 奈良税務署長

右指定代理人 小見山進

同 中嶋康雄

同 棚橋満雄

同 葛原大二郎

同 柏原一郎

同 大崎直之

同 西崎邦男

同 幸田数徳

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