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宇都宮地方裁判所 昭和28年(行)11号 判決

原告 谷田部守吉

被告 国 外一名

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は請求の趣旨として原告に対し被告国は別紙第一目録記載の土地につき昭和二十二年十二月二日付栃木県知事により為された買収処分の無効なることを確認し、被告松丸健吉は別紙第一目録記載(イ)及び別紙第二目録記載(イ)の土地を引渡せ訴訟費用は被告等の負担とする判決を求むる旨申立て、其請求原因として別紙第一目録記載の土地は原告の所有であるが、右土地は梨子園であるのを原告が昭和十三年九月十三日訴外内藤音吉の伜増渕三郎名義のものを製材工場建設の目的で買受けた。しかし事業資金に窮したので昭和十八年五月中従来宅地であつた約五十坪を被告松丸健吉に賃貸し、その残りの梨子樹は撤去せずそのまゝとし同人に梨子園を管理せしめ、更に同年十一月五日訴外村山房吉に対し右土地全部を売渡抵当と為す目的で形式は五ケ年内に登記料等一切の費用を負担し且つ年一割五分の利子を附して元利金を支払うときは買戻ができる特約つきで売渡した。その後事業資金を獲得したので製板と瓦斯薪工場建設の為め昭和二十二年四月二十八日約定の金員を支払つて右土地を村山房吉より買戻したのである。

しかるに昭和二十二年五月中西那須野町農業委員会(旧農地委員会)は原告が使用目的変更を相当とする農地としての指定願を為したに拘らずこれを却下して、前記土地を訴外村山房吉所有なりとして同年十一月十一日不在地主を理由に買収計画を樹立したので、原告等はこれに対し異議申立、訴願、陳情を為したが何れも却下されて、同年十二月二日附栃木県知事により買収処分が為された。被告国は別紙第一目録記載(イ)の土地につき、昭和二十二年十二月二日旧自創法第十六条により被告松丸健吉に売渡したものとして昭和二十四年十二月十日その登記を経由し、昭和二十七年二月二十二日錯誤を理由に右登記の抹消登記を為し、昭和二十二年十二月二日同法第十六条により西那須野町に売渡したものとして同日その登記を経由し、更に昭和二十八年五月三十日錯誤を理由にこれも抹消登記を為した。次に同目録(ロ)の土地については、登記簿の登記用紙を閉鎖して、別紙第二目録記載(イ)(ロ)(ハ)の三筆に分筆し、(イ)の土地について同法第十六条により西那須野町に売渡したとして昭和二十七年二月二十二日その登記を経由し、昭和二十八年五月三十日錯誤を理由に右登記の抹消登記を為し、(ロ)の土地につき同法第二十九条により売渡したものとして昭和二十六年十二月二十一日その登記を経由し、(ハ)の土地につき同法第二十九条により売渡したものとして同日その登記を経由した。しかし別紙第一目録記載の土地は梨子畑まで宅地に変更して前記の如く村山房吉より買戻を受けたのであり、且つ右土地は西那須野駅に近接し西方は小学校を控え南方及び北方は商店街に囲まれ、店舖住宅地として使用する方が土地の利用価値があり、町の発展上からも当然であるような地域である。勿論原告及び訴外村山房吉は地目を宅地と変更した程で、梨の木の植替えその他の施培管理をせず荒れるまゝとし、収穫は管理人に委せその所得としてあつた。従つて原告としては土地使用目的変更の手続を取つたのであるがこれは却下されたのである。その裏面には西那須野町農業委員会と西那須野町とが被告松丸健吉を利用して、不当に町の利益を計らんとしたものと為さねばならない。これは旧自創法の目的精神に背反するもので前記買収処分は不当違法たること明白であると陳述し、被告等の主張事実を否認した。(立証省略)

被告国指定代表者及び被告松丸健吉は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中買収処分の点、売渡処分の点、その登記その抹消登記の点、登記用紙閉鎖の点、所有権取得登記の点、土地使用目的変更願とその却下の点、異議申立、訴願その却下陳情の点は認め内藤音吉より買受けの点は不知であるがその他は否認する。別紙第一目録記載の土地は台帳地目現在宅地であるが当時も今日も現況は農地であり、当時被告松丸健吉が梨畑として賃借して耕作していた小作地である。これを訴外村山房吉の所有地として不在地主を理由に買収したのであつて毫も違法ではない。原告は昭和二十二年四月二十八日村山房吉より右土地を買受けたのであるが、旧農地調整法第四条の手続を了せずに為したもので、その無効であることが明瞭であると述べた。(立証省略)

理由

先ず被告国に対する買収処分無効確認の点につき審按するが、別紙第一目録記載の土地の所有が争われているので果して原告の所有であるかどうかである。そこで成立に争ない甲第一号証(登記簿謄本)(甲第三号証の一、同第四号証の二、乙第一号証の三同じ)乙第二号証(地目変換届)証人内藤音吉同矢田部慧光の証言原告本人の訊問結果等を綜合すれば、別紙第一目録記載の土地は昭和十三年九月十三日原告が訴外内藤音吉よりその伜増渕三郎名義のものを買受けその所有に帰したことが認定できるのである。しかし前顕諸証拠を綜合すれば昭和十八年十一月五日原告は訴外村山房吉より金一万円を借受け売買名義にて前記土地の所有権を移転し、元金に利息を附し且つ公租公課等諸掛一切を負担し支払うときは五ケ年内買戻を為し得ることを特約したことが認定し得られる。原告はこの点に関し右売買は形式に過ぎないのであつて実質は売渡し抵当であると主張するが、仮りにその主張の通りであるとしても左様なことは当事者以外の第三者に対しては対抗できないことは当然であるので、その所有権は村山房吉に移転していることゝなる。更に前顕諸証拠によれば原告は前記買戻の特約に従い昭和二十二年四月二十八日元利金諸掛を含めて金二万円を支払い村山房吉より右土地を買戻すべき旨の意思表示を為したことが認められるのである。しかるに被告等はこの点につき右買戻は単純の売買であり旧農地調整法所定の手続を経ていないので無効であると主張するのである。そこで右買戻は単純の売買でないとしても、旧農地調整法第四条の規定は買戻の如き農地に関する権利の移転をも県知事の許可の対象とする法意であると解されるので、右土地が農地であれば該買戻行為は同条に違反し無効であると断ぜざるを得ない。

しからば前記買戻された別紙第一目録記載の土地が農地であるかどうかであるが、証人村山房吉(第一、二回)同古谷福男同香坂竜造同長谷川兼松同川上安一郎(第一回)同大野文吾同内藤音吉同字山長助の証言検証の結果(第二回)被告松丸健吉本人の訊問結果等を綜合すれば、前記土地は買収処分時は勿論買戻時に於て梨畑であつたのであり、唯同目録記載(ロ)の土地の西北隅約六十坪が宅地として使用され被告松丸健吉の住家が建てられていたことが認定できる(占有の点は被告等争わない)のである。甲第一号証(登記簿謄本)等に宅地の記載があること或は乙第二号証(地目変換届)の存在することは右認定の妨げとはならないものと解するし、前顕諸証拠によつて明かな如く訴外村山房吉が西那須野旧農地委員会に対し右土地の使用目的変更を相当とする農地指定願が却下されていることから考えても該土地は宅地に変更されていないのが真実であると思われる。しからば前記土地の大部分は農地であつてその部分については前記原告の土地買戻は無効と言わねばならない。勿論宅地の部分は旧農地調整法の適用は受けないからその部分の買戻は有効である。そこで右有効部分についてはその所有権は原告に帰属したことゝなる。

ところが右宅地を含む別紙第一目録記載(ロ)の土地は買収処分後別紙第二目録記載(イ)(ロ)(ハ)の三筆の土地に分割されたことは当事者間に争がないのであるが、前記宅地に該当する部分はその周囲を拡大して約百坪の部分が宅地として扱われ同目録記載の(ロ)(ハ)の土地となつていることは証人古谷福男同内藤音吉の証言検証(第二回)の結果により窺われるのである。しかも成立に争ない乙第一号証の二(登記簿謄本)同号証の三(登記簿謄本)によれば右(ロ)(ハ)の土地はいずれも旧自創法第二十九条の規定により(ロ)の土地は被告松丸健吉の為めに(ハ)の土地は訴外金子勝巳の為めに宅地としての農業用施設として昭和二十六年十二月二十一日栃木県知事によりそれぞれ売渡処分が行われていることが明かである。しかりとすれば明白な証拠はないが右(ロ)(ハ)の土地の部分については前記買収処分は反対の事情なき限り取消されているものと解するのが相当である。尤もその宅地の範囲は必ずしも正確妥当のものであるとは考えられないが、広きに失することは右買収処分を受ける側からすれば買収土地が縮少するのであるから不利益であるとは言えない。唯右宅地につき次に為された農業用施設としての買収或は売渡処分については異論の生ずべきことは当然ではあるが本件の問題とはならない。

しからば原告主張の別紙第一目録記載の土地の内前記(ロ)(ハ)の土地を除く土地については前記買収処分は何等違法の点は存在しないし、(ロ)(ハ)の土地の部分については一応その買収処分が既に処分庁に於て取消されているのであるとされたのであるからその無効確認を求める利益は失われているものと為さねばならない。

原告は前記土地は四囲の情況等よりして土地使用目的変更を相当とする農地であると主張するがこれは買収処分の無効確認を求める直接の理由とは為し難い。また原告は前記買収処分に関しては西那須野旧農地委員会と西那須野町とが被告松丸健吉を利用して不当に町の利益を計つたのであると主張するがこれを明認するに足る証拠は存在しないが、西那須野町が前記買収地に関して被告松丸健吉に対し金銭上の援助を為したこと、右土地に関する登記簿の登記につき好ましからぬ手続を繰り返えしたことは証拠上明かである。しかしこれが為めに前記買収処分が旧自創法の精神に背反して無効であるとの結論には到達しないものと解せられるのである。以上の次第であるので原告の買収処分無効を求める点は失当として棄却されるのは止むなきところである。

次に被告松丸健吉に対する土地引渡の点であるが、別紙第一目録記載(イ)の土地及び別紙第二目録記載(イ)の土地を原告は引渡せと主張するのである。ところで右土地を被告松丸健吉が使用占有せることは被告等の認めるところであるが右土地は前段詳細説明した通り結局は原告の所有ではなく訴外村山房吉の所有に属することゝなる(別紙第二目録記載(ロ)(ハ)の土地は別である)。しかりとすればその所有権を前提とする原告の被告松丸健吉に対する右土地の引渡の請求は、その理由なきこと当然であるので、これを棄却せねばならない。

以上の次第で原告の請求はいずれも棄却されたのであり、訴訟費用は敗訴原告の負担とし主文の通り判決する。

(裁判官 岡村顕二)

(目録省略)

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