大判例

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宇都宮地方裁判所 昭和28年(行)14号 判決

原告 小熊三哉

被告 栃木県知事

補助参加人 坂木徳也 外一名

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は請求趣旨として被告は原告に対して昭和二十四年十月一日附別紙目録記載の山林に対する買収処分及び昭和二十七年七月十一日附同目録記載の竹木に対する買収処分の無効なることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする判決を求むる旨申立て、其請求原因として別紙目録記載の山林及び竹木は先代小熊安一郎の所有であつたが、安一郎が昭和十七年七月十八日死亡したので原告がその家督相続を為し、右山林竹木も原告の所有に移つた。しかるに栃木県農業委員会は昭和二十四年三月二十六日右山林につき旧自創法第三十条第三十七条の規定により未墾地として買収計画を樹立し、被告は右山林につき買収処分を為し同年十月二日買収令書を益子農地委員会に委嘱して原告に交付せんとした。しかし右買収令書は原告の先代小熊安一郎宛であつた為め原告はこれが受領を拒絶したので被告は昭和二十五年五月九日買収令書の交付に代えて公告を為したのである。しかし公告は当該土地所有者の住所が不明であるかその生死が不明である為めに、買収令書の交付が出来ないときに行われるもので、これによつて買収令書の交付と同一の効果を与えようとするものである。従つて当該所有者が死亡した場合には公告を為すべきでなく、相続人に買収令書を再発行してこれを相続人に交付すべきである。仮りに斯る場合に公告が許されたとしても、その場合は相続人を明かにして行わるべきでそれのない前記公告は死亡者を対象とする公示として無効と謂わざるを得ない。仮りにこれが認められるとしても前記被告の為した公告は旧自創法第九条第一項に違背している。即ち同法条によれば公告は遅滞なく行われねばならないに拘らず、前記買収令書の送達が拒否されたのが昭和二十四年十月二日であるので、それ以来七ケ月余を放置したことになり、該公告は無効である。かような放置された公告が前記法条の規定するところとするならば、それは関係者の権利は蹂躙され訴願等の権利の保護に重大な支障を来たすこと明かで、憲法第十一条の国民の基本的人権を侵害することゝなり違憲も甚だしい。最後に買収令書の交付が有効に為されたとしても買収処分は死亡者宛であり死亡者に対する買収処分は行政処分として無効であると為さねばならない。従つて被告が昭和二十七年七月十一日附別紙目録記載の竹木につき為された買収処分も無効である。よつて本訴請求に及ぶと陳述し、被告の主張を否認した。(立証省略)

被告指定代表者は原告の請求棄却の判決を求め、補助参加訴訟代理人と共に答弁として原告請求原因中土地所有の点、小熊安一郎死亡、相続の点、買収計画の点、買収処分の点、買収令書が受領を拒絶された点は認めるがその他は否認する。買収令書は宛名は小熊安一郎となつていたが、それは安一郎死亡したのであるから、相続人である原告小熊三哉となすべきであつたのを事務担当者が過つて登記簿上の安一郎を表示したもので単なる誤謬であつて、買収処分の対象は原告であるのである。被告としては山林に対する買収令書が原告によつてその受領が拒絶されたので、旧自創法第三十四条第九条により昭和二十五年五月九日買収令書交付に代え公告の手続が行われたのであり、竹木に対する買収処分についても同様であり、この分公告は昭和二十七年九月五日為された。従つて原告主張の買収処分は有効で原告の請求は理由がないと述べた。(立証省略)

理由

先づ山林に関する買収処分の点であるが、被告が別紙目録記載の山林に対し昭和二十四年十月一日買収処分を為したことは兎も角当事者間に争がない。原告は右買収処分は無効であると主張するのであるが、原告はその理由として右山林は原告先代小熊安一郎の所有であつたが同人が昭和十七年七月十八日死亡したので、原告がその家督を相続し右山林所有を取得したに拘らず、被告は右買収処分による買収令書の宛名は先代小熊安一郎であつたと主張し、この事実は当事者間に争がないのであるが、右買収令書の交付により、右買収処分が効力を発生するに到つたかどうかはしばらく留保するとして、買収処分そのものは一応成立していることは明かである。そこで右買収処分が真実死亡者である小熊安一郎に対し為されたとすれば、死亡者は公法たると私法たるとを問わず権利義務の主体たり得ないのであるから、右買収処分は無効たることに違論はないはずである。(昭和二十四年十月十七日和歌山地方裁判所判決もその主旨と解する。)

そこで前記買収処分が果して死亡者の小熊安一郎を真実買収処分の対象としたかどうかであり、原告がこの点の立証を為さない限り右買収処分が無効であるとの結論は生じない。ところがこれを認定するに足る証拠はなく寧ろ右買収処分の目的となつている山林は買収処分の主旨から開発適地としてそれが小態安一郎の所有なると相続によつて原告に所有権が移転したりや否やとを問わないものと解されるばかりか、買収処分当時小熊安一郎は既に死亡し原告が相続していたことは前説明の通りであり、真実は原告に対して買収処分は為されたものであるに拘らず事務上の手違いから、小熊安一郎死亡後も登記簿上の名義が依然小熊安一郎となつていた為め、買収令書が小熊安一郎に対し発せられたものであることは成立に争ない乙第二号証の一(歎願書)同第二号証の二、三(志願書)丙第三号証(ハガキ)同第四号証(回答)証人杉田光平の証言を綜合しこれを窺うことができるのである。前記買収処分につき発行された買収令書が単に小熊安一郎宛に為されたことのみを以て買収処分を無効であると解すべきではない。

以上説明の次第で前記買収処分は有効に成立したのであるが、それが効力を発生するには、相手方である原告に買収処分の意思表示が到達することを必要とすることは当然である。この点を考えて見るのに、右買収令書が原告によつてその受領が拒絶されたことは被告の認めるところであり、該買収令書は小熊安一郎宛ではあつたが真実は原告に対する買収処分の買収令書であると解されることは前説明の通りであるので、このことは原告に於て買収処分が自己に対し為されたことを了知し得べき状態に置かれたものと解するのを相当とする。仮りに原告が原告に対し買収処分が為されたと思料しなかつたとしても、原告としては少くとも自己所有の山林につき買収処分が為されたと考えた筈であるので、この場合は原告として不服申立の手段は与えられているのであるから、原告に不測の損害を蒙らせることにはならない。従つて前記買収処分は原告に到達したことゝなり、該買収処分は効力を発生するに至つたと謂わねばならない。仮りに以上の断定が無理としても成立に争ない乙第五号証(栃木県公報)によれば被告主張の如く旧自創法第三十四条第九条第一項の規定により昭和二十五年五月九日買収令書はその交付に代え公告がされたことが明かであるので、該買収処分はその効力を発生したものと為さねばならない。

この点に関し原告は前記買収処分は当該所有者が死亡した場合であるから公告を為すべきでなく、相続人に買収令書を再発行すべきであると主張するが、必ずしも再発行の必要はないものと解する。次に原告は前記公告が許されるとしてもその場合は相続人を明かにして行わるべきであると主張するが、一応これを是認し得るようである。しかし買収処分が真実相続人を対象とするに拘らず、単に買収令書の宛名を死亡者となしたに過ぎないような場合、相続人の明示を欠いたことは当該買収令書の公告を無効ならしめるものとは解されない。次に原告は前記公告は遅滞なく行わるべきであると主張するが、旧自創法第三十四条第九条第一項には農地法第十一条の如き遅滞なく買収令書を交付し又は公示することは要求されてない。原告は遅滞が許されるとすれば憲法第十一条に背反し国民の基本的人権を侵害すると主張するが、これは原告の意見であつて左様な結論は生じないことは、前段認定中に於ても了解され得るところである。仮りに以上何れも無理があるとして、買収令書の交付又は公告が違法であり買収処分が効力を発生しないとしても、買収処分そのものは成立しているのであり、それが有効であるので原告の主張は理由なきに帰する。

次に立木に関する買収処分の点であるが、被告が別紙目録記載の立木に対し昭和二十七年七月十一日買収処分を為したことも当事者間に争がないのである。ところで右買収処分についても前記山林に対する買収処分の場合と事情は全く同一で、買収令書は小熊安一郎に宛て発行されたのであり、その買収令書が原告により受領を拒絶されたこと、これに対し栃木県公報により交付に代る公告が為された(昭和二十七年九月五日)こと等いずれも同様である。従つてその説明を全部こゝに援用しその結論として立木に関する前記買収処分についても無効ではなく有効に成立した買収処分はその効力が発生しているものと為すのである。

果してしからば原告の山林及び立木に対する買収処分の無効確認を求める本訴請求は失当として棄却は免れざるところであり、訴訟費用については敗訴原告の負担とする。以上の理由により主文の通り判決する次第である。

(裁判官 岡村顕二)

(目録省略)

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