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宮崎地方裁判所 平成10年(ワ)353号 判決

原告

甲野次郎

外一名

原告兼原告ら三名法定代理人相続財産管理人

甲野春子

右訴訟代理人弁護士

織戸良寛

被告

安田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

有吉孝一

被告

全国労働者共済生活協同組合連合会

右代表者理事

岩山保雄

被告

はまゆう農業協同組合

右代表者理事

横山忠男

被告ら三名訴訟代理人弁護士

江藤利彦

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告安田火災海上保険株式会社は、原告甲野次郎、原告甲野夏子それぞれに対し、各一九二万八五七一円、原告甲野春子に対し三八五万七一四二円、及びこれらに対する平成一〇年八月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告全国労働者共済生活協同組合連合会は、原告甲野次郎、原告甲野夏子それぞれに対し、各二八三万三三三三円、原告甲野春子に対し五六六万六六六六円、及びこれらに対する平成一〇年八月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告はまゆう農業協同組合は、原告甲野次郎、原告甲野夏子それぞれに対し、各二九八万八〇九五円、原告甲野春子に対し五九七万六一九〇円、及びこれらに対する平成一〇年八月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告らの被相続人が締結した火災に関する保険、共済各契約に関し、その目的物件である建物及び内部の家財道具一式が火災により滅失したとして、原告らが被告らに対し、保険金、共済金の各支払を請求した事案である。

二  争いがない事実

1  亡甲野太郎(以下「太郎」という。)は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を有していたが、次のとおり、被告らとの間で火災保険(共済)契約を締結した。

(一) 契約先 被告安田火災海上保険株式会社(以下「被告安田火災」という。)

契約日 平成六年一〇月二五日

契約の種類 住宅金融公庫特約火災保険

目的物件 本件建物

保険金額 一五〇〇万円

保険期間 平成六年一〇月二五日から二五年間

被保険者 太郎

(二) 契約先 被告全国労働者共済生活協同組合連合会(以下「被告全労済」という。)

契約日 平成九年七月二日

契約の種類 火災共済

目的物件 本件建物

共済金額 二〇〇〇万円

共済期間 平成九年八月一日から一年間

被共済者 太郎

(三) 契約先 被告はまゆう農業協同組合(以下「被告農協」という。)

契約日 平成七年二月二八日

契約の種類 建物更生共済

目的物件 本件建物内収容家財家具一式

共済金額 一一〇〇万円

共済期間 平成七年二月二八日から三〇年間

被共済者 太郎

(四) 契約先 被告農協

契約日 平成八年七月三一日

契約の種類 建物更生共済

目的物件 本件建物

共済金額 一〇〇〇万円

共済期間 平成八年七月三一日から三〇年間

被共済者 太郎

(契約日と保険期間は、甲九から一二まで。その余は争いがない。)

2  右各契約の約款には、火災が発生した場合でも、契約者の故意、または重過失によって損害が生じた場合は被告らが保険金、共済金を支払わないこと、被告らは、損害が生じた目的物について調査ができること、被告らは、保険金請求書が到達してから三〇日または一か月以内に保険金を支払うが、必要な調査が終わっていないときはこの限りでないことが規定されていた。

(乙一から三まで)

3  本件建物及び内部の家財は、平成九年九月三〇日の火災(以下「本件火災」という。)によって全焼し、太郎に損害が生じた。

(乙七の1から5まで、二五、二八)

4  原告甲野春子は太郎の妻、原告甲野次郎、原告甲野夏子は、太郎の子で、太郎が平成一〇年二月二八日死亡したことにより、相続人として限定承認をなし、原告甲野春子が相続財産管理人に選任された。

(争いがない)

5  被告らは、原告らに対し、保険金、共済金の各支払を拒んでいる。

(争いがない)

三  争点

1  本件火災は、太郎の故意、または重過失によるものか。

2  太郎は、被告らによる本件火災原因の調査を正当な理由なく妨害したといえるか。

3  被告らの本件火災原因の調査が不十分であるといえるか。

4  太郎が本件火災により被った損害額はどの程度か。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件火災は、太郎の故意、または重過失によるものか)について

1  証拠及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 平成六年三月一〇日午前九時二七分ころ、本件建物敷地内にあった太郎所有建物に火災が発生し(以下「第一火災」という。)、全焼となった。この日、右建物は、午前七時五〇分ころ家族全員が外出し、同八時三〇分ころ太郎が一時帰宅していたが、第一火災時には無人の状態であった。警察と消防が原因調査したが、出火場所の特定は現在までできていない。

第一火災により、太郎は、被告安田火災から七五五万円の保険金を被告農協から七五〇万円の共済金を、原告甲野春子は被告全労済から一一五万円の共済金をそれぞれ受領した。

(乙五の1から5まで、一一から一四まで、二三)

(二) 第一火災の後、太郎は、本件建物を平成六年一二月三日に新築したが、本件建物にも同九年一月九日午後四時四三分ころ、火災が発生し(以下「第二火災」という。)、部分焼となった。火災時、右建物は家人が不在で無人の状態であった。消防の原因調査では、太郎がストーブを点火したまま外出したために、襖に貼ってあった新聞紙に燃え移ったとのことであり、帰宅した第一発見者太郎から隣家に消防への通報依頼があったことが判明した。

第二火災により、太郎は、被告安田火災から二二五万八一七二円の保険金、被告農協から二七七万七三六〇円の共済金を受領した。

(甲一五、乙六の1から5まで、一一から一四まで、二四)

三 太郎は、本件建物新築後第二火災まで、保険金額と共済金額の合計四六〇〇万円の火災保険、火災共済等に加入していたが、平成九年七月二日被告全労済との間で、建物について共済金額一〇〇〇万円分を追加した。その結果、前記第二の二1(二)の二〇〇〇万円の契約となった。

(甲一〇、乙一二)

(四) 本件火災は、平成九年九月三〇日午前九時五五分頃出火した結果であるが、当時居住していた家人三人は外出して無人の状態であった。原告甲野春子は午前七時一五分頃外出し、太郎も八時一五分頃外出したが、太郎は同九時頃一旦帰宅し、同九時二五分頃再度外出した。出火場所は、一階玄関西側寝室であり、ここには、洋服ダンス、整理ダンス、テレビが置いてあるだけで、火元になるものはなく、家人の中で喫煙する者もいなかった。警察の調査では、漏電、ガス漏れの可能性は少ないとの結果が得られた。

(乙七の1から5まで、一五の1、乙一九から二一まで、二六、二九、証人平形、同岡田)

(五) 本件火災後、火災当日から平成九年一一月一七日頃まで、警察と消防により、本件建物についての立入禁止の措置がとられ、被告安田火災担当者は現場の確認ができなかった。その後同月一七日に、右担当者に太郎から連絡が入り、右立入禁止措置が解除されたとのことであったので、翌一八日右担当者は現場を訪問した。右担当者は、太郎に対し、火災原因が不明なので鑑定を希望すること、福岡から鑑定する人を招きたいので火災現場を保存してほしいこと、事故歴や原因の確定ができない状況で調査の協力がないようであれば、支払が困難になる旨伝えたところ、太郎から、翌一九日に取壊予定であるとして協力を拒絶された。そして、被告安田火災による専門家等の現場調査がないまま、本件建物は取り壊された。

(乙二二、証人平形)

(六) 被告安田火災から調査を依頼をうけた福岡損害保険調査株式会社の調査員岡田功(以下「岡田」という。)は、太郎と連絡を取り、平成一〇年二月九日面会した。太郎は、保険金の支払がないことから激怒していたが、岡田は説得の上、太郎に保険金請求を取り下げるように勧め、念書の形の取下書雛形を太郎に手渡した。なお、岡田は、火災関係の調査に三五年間従事し、保険金支払に問題があると考えた保険金請求者四〇人から五〇人に取下書雛形を手渡したことがあるが、最終的にはすべての事例で取下書を受領している。

岡田は、太郎の希望で翌一〇日にも面会し、岡田所有車の中で、三時間程度話し込んだ。太郎は、岡田に対し、被告安田火災保険の保険金は諦めてもよいが他の共済金等は取得したいと伝える一方、取下書を提出すれば、警察に逮捕されるのか、他の火災共済金等は支払われるのか等を尋ね、岡田に相談に乗ってほしい旨懇願した。そして、三〇分から四〇分間無言で考え込むことがあったが、最終的には、一週間から一〇日間ほど待つよう希望した。

岡田は、本件火災が太郎の放火によるものと考えていたので、右二日間にわたる面会の中で、太郎に対しその旨伝えたところ、太郎は侮辱や名誉毀損であるとの抗議は一切しなかった。

その後、岡田は、同月一三日、一七日に太郎から電話を受けたが、太郎は取下げについては待ってほしいとの意向であった。

(乙一五、証人岡田)

(七) 太郎は、平成一〇年二月二八日、自殺により死亡したが、団体信用生命保険の保険金により、本件建物の建築に際しての住宅金融公庫に対する一二〇〇万円の残債務は返済された。

(甲一四、弁論の全趣旨)

(八) 太郎の相続財産は、本件建物の敷地(宅地、186.02平方メートル)、自動車四台、船舶、ユンボ・パネル等の什器備品の他、五〇〇万円の簡易保険と本件保険、本件共済金であり、相続債務は右(七)の残債務を除いて少なくとも四五七〇万一四八九円であった。なお、本件建物の建築代金は一二七〇万円、家具等の評価額は五七万三〇〇〇円(消防による評価)であったが、被告側の試算では、本件火災により、被告らが計算上支払可能な保険金、共済金総額は、五二三六万四〇五五円であった。

(甲一五、乙一七、一八の4、三〇、証人平形)

(九) 第一、第二各火災、及び本件火災については、いずれも警察が捜査中であるが、原因等の解明には至っていないとの見解であり、また、太郎からもいずれの火災についても氏名不詳者を含めて第三者を念頭に置いた告訴等の手続は採られていない。

(乙一四、弁論の全趣旨)

2  右認定事実によると、太郎所有家屋に約三年六か月の間に三回の火災が起きたことになり、しかも、いずれも家人が不在中で、出火原因が警察等によっても明確にされていないから(1(一)(二)(四)(九))、一般的には極めて不自然な連続火災の経過ということができる。そして、本件火災の出火場所には、火元になるものはなく、家人の中で喫煙する者もなく、漏電、ガス漏れの可能性は少ないのであるから(1(四))、右不自然な経過を併せ考えると、本件火災の出火原因は、何者かの放火によるものであるか、一般的には考えにくい出火原因(火の気の無いところへ火の気のあるものを置くか、置かれている火の気のあるものを放置する等)であると推認するのが相当である。

そして、本件火災前、最後に外出したのは太郎で、しかも外出先から一旦帰宅して出火時刻約三〇分前に再び外出しており(1(四))、出火時刻に最も接近した時刻に本件建物に居たのは太郎であるといえるし、本件火災によって最も利益を受けるのも被告らと保険、共済の各契約を締結していた太郎であり、その支払額も実損害額を大幅に上回る可能性がある上(1(八)。消防による動産類の評価は現状価額であり、再取得価額はそれ以上になるであろうが、その点を考慮しても、支払額が実損害額を大幅に上回る可能性が高い。)、太郎は第一、第二各火災で多額の保険金、共済金を受領した経験があり、本件火災二か月前に発効する火災共済の追加をしているなど保険金、共済金に強い関心を示していたことが窺える(1(一)から(三)まで)。そして、本件火災後、太郎は本件火災の出火原因等を解明させないかのような行動をとり(1(五))、放火を疑いその旨明言した岡田に対し、抗議をせず相談に乗ってほしい旨懇願したり、取下げを勧められて取下書雛形を受領したりし(1(六))、さらに第三者等を念頭に置いた告訴等の手続をとっていない(1(九))等自らが出火原因に関与していなければ理解しにくい言動をしていたということができる。

以上の事情に加えて、原告ら側の反証活動がほとんどない立証状況を考慮すると(原告ら側は、本件建物内部の状況に熟知し、被告ら側に比べて太郎により多く接しているはずであるから、出火原因として可能性が考えられるものや、太郎の経済状態及び本件火災に対する太郎の態度等について反証活動が十分可能と考えるの自然である。)、本件火災の出火原因は、太郎の放火であると推認することができる。仮に、右推認が行き過ぎであるとしても、前記のように、放火ではない原因、すなわち火の気の無いところへ火の気のあるものを置くか、置かれている火の気のあるものを放置する等の出火原因を想定すると、太郎は、第一、第二各火災で家人不在時に自宅が全焼、部分焼する境遇に置かれ、本件火災前、第二火災からわずか九か月後の時点で、自らが最後に外出し、第一、第二各火災と同じく家人不在時になるという状況下にあったのであるから、一般にそうした境遇及び状況にあれば、火の気には極度に神経質になって当然であるのに、太郎は再度の外出時、一階玄関西側六畳の出火原因となるものについて見落としたことになり(最後の外出から出火まで約三〇分であるから、何らかの出火の遠因はあったのではないかと推察される。)、太郎に重大な落度があったというべきである。

3 よって、本件火災は、太郎の故意、または重過失によるものであるから、太郎と被告らとの各契約約款における免責自由があるといえる。

二  争点2以下については、判断する必要がない。

第四  結論

以上によると、原告らの請求は理由がないのでいずれも棄却する。

(裁判官浅見宣義)

別紙物件目録〈省略〉

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