大判例

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富山地方裁判所 昭和53年(行ウ)9号 判決

原告

石黒千恵子

右訴訟代理人弁護士

北尾強也

岩淵正明

被告

富山県教育委員会

右代表者委員長

中川秀幸

右訴訟代理人弁護士

俵正市

(ほか二名)

右指定代理人

打出功

(ほか一〇名)

主文

一  被告が原告に対し昭和五三年七月五日になした免職処分はこれを取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告より在宅児等訪問指導事務を嘱託され、在宅児等訪問指導員として富山県立ふるさと養護学校に勤務する地方公務員であり、被告は原告の任命権者である。

2  被告は、昭和五三年七月五日付をもって原告に対し、免職処分をなした。

3  よって、原告は、右免職処分の取消を求めるため本訴に及んだ。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1及び2項の各事実は、すべて認める。

2  本件免職処分に至る経緯

(一) 原告は、勤務を要する日である昭和五三年七月三日、四日及び五日に欠勤した。

(二) 右欠勤に際して、同月三日及び四日の朝には、原告の友人である弓井啓子から、原告が発熱したため病気欠勤する旨の電話連絡があった。

同月五日には欠勤について何らの連絡もなかったが、原告が同月二日成田空港反対闘争に参加して千葉県下の警察署に逮捕されていたことが判明した。

3  本件免職処分理由

(一) 原告の在宅児等訪問指導員としての適格性について

原告が実際には刑事事件に関連して逮捕・留置されていながら、病気であるという虚偽の理由を告げて欠勤したことは、原告が在宅児等訪問指導員としての適格性に欠けるものである。

(二) 在宅児等訪問指導員の職務の性質について

(1) 重度心身障害の児童にとっては、ラポートの成立している指導員による指導・訓練を反覆・継続することが必要ではあるが、他方その職務は一日もゆるがせにできない性質のものである。

(2) 原告の欠勤により、他の指導員・看護婦・保母等に大きな負担を与え、児童の教育効果上も指導員の指導・訓練を受けられないことによるリズムの乱れが生しる。

また、重度心身障害児童の指導・訓練には一時的な補欠要員を充てることによって補うことは不適当であり、早期に後任の指導員を配置する必要がある。

(3) 遠隔地の警察で逮捕・勾留されて欠勤し、いつ欠勤事由が解消して出勤可能となるかが不確定な原告の復帰を待つことは、児童の指導・教育上著しい支障となり、早急に代替要員を補充する必要があった。

(三) したがって、本件免職処分は適法である。

三  被告の主張に対する原告の反論

1(一)  被告の主張2項(一)の事実は認める。

(二)  同項(二)の事実のうち、弓井啓子から欠勤する旨の連絡があったこと及び原告が七月二日逮捕されていたことは認め、その余の事実は知らない。

2(一)  被告の主張3項(一)の事実は否認する。

(1) 原告は、昭和五三年七月二日、突然逮捕され、友人・知人に連絡するいとまもなく、更に勾留、接見禁止の処分を受け、同月五日、井上豊治弁護士と接見した際、学校への欠勤事実の申告と休暇の申請の手配を依頼したものである。

したがって、弓井啓子の虚偽の申告は、原告の依頼、指示に基づくものではなく、原告にその責を負わせることはできない。また、接見禁止処分を受けた原告としては、可能な限り早い段階で事実通りの申告をなす手続をとっており、誠実にその義務を尽している。

(2) そもそも、適格性を欠くとは、当人の素質・能力・性格等からいって公務員たるに適しない場合でそれが簡単には矯正することができない持続性をもっている場合でなければならず、職務遂行にあたり偶々任務違背があったとしても、不断の勤務が忠実であればその事実のみで適格性を欠くとはいえない。

原告は、教育一家に育ち、大学入学当時から障害児教育に強い関心を持ち、在学中から特に訪問指導員教育に意欲をもって学習し、卒業後直ちに訪問指導員となり障害児教育に豊富な経験を有しているのであるから、原告の素質・能力・性格・経験からも訪問指導員としての適格性に欠けるところはない。

しかも被告は、適格性に欠けるという判断の前提となった事実について調査が容易であったにもかかわらず、十分な調査をしておらず公平の原則に反する。

(二)  同項(二)の各事実は否認する。

(1) 原告が担当してきた訪問指導教育は、一つの成果を得るにしても根気のいるサイクルの長い教育であって、大幅な遅滞が許されていない教育とは趣きを異にし、一日もゆるがせにできない性質のものではない。

(2) 原告の担当する児童が居住する国立療養所富山病院においては、訪問指導なき場合、病院の看護婦・保母等により、訪問指導と目的及び内容に大差ない療育がなされ、代替措置の制度が備わっているのであるから、一日も早く代替要員を確保する必要性は乏しい。

(3) 原告は、訪問指導に十二分の意欲と熱意を持ち、豊富な経験を持ち、児童との間にラポートが成立していたのであるから、教育効果の観点からも、代替要員をあてるよりも、原告の釈放を待って原告が引続き教育の任にあたる方法が最良の道であった。

(4) 被告は、原告の出勤可能時期について調査せず、また、教育への支障の有無と程度、代替要員の要否について最も重大な関心を持つべき現場の管理者たるふるさと養護学校校長から具体的要求が出ていないにもかかわらず、本件免職処分をなしたもので、その合理性に疑問がある。

3(一)  したがって、被告の主張する免職理由は、いずれも事実に反し合理性を有せず、その他原告の免職を理由づける何らの事実もない。

(二)  むしろ、本件免職処分がなされた真の理由は、原告が成田闘争に参加したこと及び原告が養護学校義務化に反対していることにあると考えられるが、いずれも憲法上保障された思想信条の自由に関することであり、右理由による免職処分は許されない。

(三)  結局、本件免職処分は違法不当な動機理由に基づきなされたもので、解雇権の濫用であり、取消を免れない。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1及び2項の各事実は当事者間に争いがない。

二1  原告が昭和五三年七月三日、四日及び五日に欠勤したこと、弓井啓子から欠勤する旨の連絡があったこと及び原告が同月二日逮捕されていたことは当事者間に争いがない。

2  (証拠略)によれば、次の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告は、昭和五三年七月二日、いわゆる三里塚闘争に参加し、公務執行妨害罪の現行犯で逮捕され、引続き勾留のうえ接見禁止処分を受け、同月一四日、釈放された。

(二)  富山県立ふるさと養護学校々長川倉馨は、原告の友人である弓井啓子から、同月三日午前九時五分頃、原告が三八、九度の熱を出したため欠勤する旨の、同月四日午前八時三九分頃、原告が病気のためあと二、三日欠勤する旨の、いずれも電話連絡を受けた。

(三)  川倉は、同月五日、原告が逮捕・勾留されていることを知り、被告教職員課主幹黒沢景寿に報告したが、原告の釈放時期等については富山警察署で聞いたものの不明であるとの回答を得たのみでそれ以上調査はしなかった。

(四)  被告は、同日、県警察本部から、県の教員が成田闘争により同月二日に逮捕・勾留され、釈放時期は不明だが最小限一〇日程かかることの連絡を受け、更に右川倉からの報告をうけて善後策を協議し、逮捕地を管轄する千葉県警・千葉地検等に正確な釈放時期等について調査をしないまま、同月五日夕方には原告の免職処分を決定した。

三  本件免職処分の違法性について判断する。

1  原告の在宅児等訪問指導員としての適格性について

(一)  被告は、原告が虚偽の理由を告げて欠勤したことをもって適格性に欠ける旨主張する。

(二)  原告が、昭和五三年七月二日に逮捕され、引続き勾留されて同月一四日に釈放されたこと、しかるに弓井が富山県立ふるさと養護学校長に対し、原告が病気のため欠勤する旨の電話連絡をしたことは前記のとおりである。しかし右弓井の電話連絡が、原告の依頼又は指示による等原告が関与してなされたとの事実は認められない。原告本人尋問の結果によれば原告は、勾留されると共に接見禁止処分を受けており、逮捕後同月五日に弁護人と接見するまでの間一般人とは全く接していないことが認められる。したがって前記電話連絡は弓井の独断によるものと推認される。

そうすれば、原告が虚偽の理由を告げて欠勤したとの事由をもって在宅児等訪問指導員としての適格性に欠けるとした被告の判断は、前提事実を誤認した違法なものといわねばならない。

2  在宅児等訪問指導員の職務の性質について

(一)  被告は、原告の職務は一日もゆるがせにできない性質のものである旨主張する。

(二)  (証拠略)によれば、次の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 在宅児等訪問指導員は、心身障害のため義務教育諸学校等への就学義務が猶予又は免除されている者に対して、教育的指導を施し、その実態を調査し、その保護者等に必要な指導助言を行って適切な教育の充実を図るために設置されたものである。

(2) 原告は、国立療養所富山病院重度心身障害者病棟居住の学齢対象者のうち一三名の児童を担当し、症状の程度により五グループに分け、病院を訪問して一日に二グループずつ指導し、毎日指導するグループを交替する。

(3) 訪問指導員の指導を受けていない日には、児童は病院の看護婦・看護助手・保母・機能訓練士・生活指導員などから、基本的生活習慣の自立を目ざす等の目的をもったそれぞれの分野での療育を受ける。

(4) 訪問指導員が欠勤した場合、他の訪問指導員はそれぞれ自分の担当する児童を指導しなければならないため、欠勤した訪問指導員の担当児童は、病院で療育を受けることになる。

(5) 原告が免職処分となった結果、その代替要員として採用された小杉いずみは、昭和五三年七月一一日から出勤した。

(三)  一般的に、その職務が一日もゆるがせにできない性質のものであるならば、一日の欠勤も許されないものといわざるを得ないところ、前記認定の各事実によれば、在宅児等訪問指導員の職務は重要ではあるが、そもそも一日の欠勤も許されないものということはできず、また、訪問指導員の欠勤が長期にわたることが予測されていたものならともかく、本件においては前記認定のとおり、被告はそれについて十分な調査をせず、原告が長期間欠勤することが予測されていたものとはいえず被告の主張は失当である。

四  使用者が労働者に通常解雇をなす場合も、その解雇権の行使は、いやしくも恣意に流れ濫用にわたってはならず、もとより客観的に合理的理由が存することを要するところ、右の観点からすれば、原告にも訪問指導員という重大な職務を三日間にわたり欠勤したことで多少責められるべき点があったことは否定できないが、被告の主張する本件免職処分理由なるものは、右に認定説示したところにより、その理由としていずれも是認するに足りないものであり、したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件免職処分は合理的な処分理由なくなされたものとして、違法であるといわなければならない。

五  よって、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判断する。

(裁判長裁判官 寺﨑次郎 裁判官 宮城雅之 裁判官髙部眞規子は特別休暇中のため署名押印することができない。裁判長裁判官 寺﨑次郎)

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