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山口地方裁判所 昭和34年(ヨ)6号 決定

申請人 守田效

被申請人 平生町農業共済組合

主文

申請人の本件仮処分申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実

申請人は「昭和三十三年九月二十八日山口県熊毛郡平生町習成小学校に招集された被申請人組合総代会において可決された昭和三十二年度決算及び昭和三十三年度事業計画を承認する旨の決議の執行を停止する」旨の仮処分を求め、その理由として次のとおり述べた。

一、被申請人組合は農業災害補償法により設立された組合で、申請人はその組合員であるが、被申請人組合は昭和三十三年九月二十八日山口県熊毛郡平生町習成小学校に招集した組合総代会において、昭和三十二年度決算承認の件及び昭和三十三年度事業計画承認の件の各議案を承認する旨決議した。しかしながら、右決議は何れも次のような瑕疵があるので取り消さるべきものである。

(一)  右総代会はその事前手続に違法がある。

総代会を開催するに当つては、それに先立ち総代会に付する議案の決定のため理事会を招集し且決算の承認のため監事会を招集しなければならないところ、被申請人組合は、理事会の招集に際しては理事である申請外今井寿一、同松野佐吉及び同亀永哲夫に対し、又監事会の招集に際しては監事である申請人に対し、それぞれ招集通知をしないで開催した違法がある。

(二)  右総代会はその招集手続が違法である。

右総代会の招集通知は総代全員六十二名に対しなさるべきであるにも拘らず、被申請人組合は総代である申請外今井寿一、同松野佐吉、及び同亀永哲夫に対し右総代会の招集通知をしないで開催した違法がある。

(三)  右総代会の議長選出に瑕疵がある。

総代会議長は、総代会において総代の中より選挙又はそれに準ずる方法で選出さるべきところ、申請外上領鉄夫は理事ではあるが総代でないから右議長となる資格がないにも拘らず、右総代会の議長として選出されたうえその議事を進行した違法がある。

(四)  右総代会の決議の方法に瑕疵がある。

右決議には、議決に参加することのできない者二名がこれに参加したうえ、各総代に対し本件議案に賛同するよう慫憑しその真意に基く表決を妨げた。

二、そこで申請人は組合員として現に右組合の監督行政庁たる山口県知事に対し検査竝に右決議の取消を求めているのであるが、今に至るも之に対し何等の処分がなされず、その裁定を待つていては仮令終局的には右決議取消の裁定を得てもそれ迄に組合は、その存立自体を危うくし回復し難い重大な損害を蒙るに至る虞があるので、本件申請に及んだ次第である。

被申請人は「申請人の本件仮処分申請を却下する」との判決を求める旨申立て、答弁として次のとおり述べた。

申請人主張の事実中、被申請人組合がその主張の如き組合で、申請人がその組合員であること、昭和三十三年九月二十八日申請人主張の場所に被申請人組合の総代会が開催されその主張の如き決議がなされたこと、被申請人が申請人主張の理事会及び総代会の開催に際し申請外今井寿一、同松野佐吉及び同亀哲夫に監事会の招集に当り、申請人に、それぞれ招集通知を発しなかつたこと、申請外上領鉄夫が理事であるが総代でなく而して本件総代会の議長に選出されてその議事を進行したこと、総代でない者は総代会の議決に加わる資格がなく、その資格なき者二名が右総代会の議場に居たことは認めるが、その他の事実は争う。

一、被申請人組合が前記のように申請外今井寿一外二名及び申請人にそれぞれの招集通知を発しなかつたのは、何れも昭和三十二年五月二十五日右今井寿一外二名が理事及び総代の辞表を申請人が監事の辞表を、被申請人組合に提出し、その後間もなく被申請人組合においてこれらを受理したため、それぞれ役員若しくは総代の資格を喪失していたからで、昭和三十三年七月十二日右役員及び総代の登記の抹消登記手続を了した。従つて当時それぞれ役員又は総代の資格なき右の者に招集通知を発しなくとも何ら違法はない。仮りに当時右資格があつたとしても、その時以前において理事会、監事会を二、三度招集したことがあるが、その際右の者は何れも招集通知を受けたにも拘らず出席せず、組合に対し非協力的な態度を示していたので、招集通知をしなかつたのであるから違法な点はない。

二、総代会議長は総代であるを要せず、理事も又議長となる資格がある。本件においては右議長の選出に際して申請外上領鉄夫が従来の慣行に則り仮議長となり、議長選出につき出席した総代に諮つた上、その過半数をもつて議長に選出されたものであつて、何れも総代会で認められた議長である故に、右議長によつてなされた総代会の議事進行には何ら違法の点はない。

三、総代の資格なき前記二名は票決の数には加えて居らず、又右の者が各総代の真意に基く議決を妨げたという事実もないから右議決は違法ではない。

理由

申請人の主張によれば申請人は結局本件総代会における決議が法令乃至定款に違反することを理由として右決議の効力自体を争わんとしその実効を保全する為に取敢えず本件仮処分を求めて居る趣旨であることが明白であり、但し之に対する本案訴訟は之を提起していないで単に所管行政庁の検査又は本件決議取消の請求に対する処置が遅れているからという理由で裁判所に対し右決議の執行停止の仮処分を求めているのであるが、仮りに本件決議の無効又は不存在の確認乃至はその取消を求める本案訴訟を提起する場合を考えて見ても以下述べる理由によりそもそも右のような仮処分の前提をなす実体的権利はないものと解するのを相当とする。蓋し農業災害補償法は商法第二百四十七条、同法第二百五十三条の如き規定を有せず、中小企業協定組合法第五十四条のように商法の株主総会の決議の取消又は無効に関する規定の準用を定めた規定もない。この根拠は結局農業共済組合なるものは一定地域の農業者が不慮の事故に因つて受けることのある損失を共済あるいは保険によつて補填するために組織される団体であるから、もとよりその自主性が尊重さるべきではあるけれども、他面では国家の重要産業である農業経営の安定を図り農業生産の発展に資するという国家的公共的要請を主たる目的とするため、その公益的色彩が極めて濃厚である点に求められる。このことは例えば農業災害補償法は、農業共済組合に対し設立命令を用意し(同法第二十九条)、当然加入の方式を採り(同法第十六条)、あるいは各種の国家の負担が行われ(例えば同法第十二条乃至第十四条)、特に行政庁の監督の規定を設けてその運営に関する行政監督の方法を採用している(同法第百四十二条の二乃至七)ことによつても明らかである。而して、同法第百四十二条の七は、総会又は総代会の招集手続、議決の方法又は選挙が法令、法令に基いてする行政庁の処分又は定款に違反するときは、それを理由としてその議決又は選挙若しくは当選決定の日から一箇月以内に総組合員の十分の一以上の同意を得てその取消を監督行政庁に請求することができる旨規定している。この規定のもつ意味は、結局、前記の如く右決議が団体法上の意思決定であることに加えて同組合が公益的性格を具有するをもつて、組合員に対し右決議の効力の存否自体の確定を求め得るものとしながら、その確定を直接裁判所により私法上の救済方法として講ぜしめるよりも、先ず、日常監督の衝にあつて当該組合の情勢や加えて農業経営全般に関する情勢に精通する監督行政庁に当らしめるのが組合の健全な発展に資するという考慮によるものと解するを相当とする。

もし右同法第百四十二条の七に基き組合員より行政庁に総代会の決議の取消を求めると共に、他方組合に対しても決議取消若しくは無効確認の訴(更にはこれを先決問題とする現在の権利乃至法律関係の存否の確認の訴)を裁判所へ求め得るものと解すれば、折角同法が定める一簡月以内に行政庁に取消を求め得るとした実益乃至目的を無視するばかりでなく、同法が定める組合員の十分の一以上の同意が得られない場合又は右期間経過後には訴を以て組合に対し訴訟をなし得られるというが如き徒ずらに紛争の道を多岐に認めることとなり、ひいては同一決議について裁判所の判断と行政庁の裁決とが同時になされ且その間に相牴触するような結果を招くことが有り得ることとなる。

それであるから同法が定める検査請求(同法第百四十二条の四)又は決議の取消(同法第百四十二条の七)は、一次的には行政庁の判断と処置とに委ねできるだけ決議による執行(業務活動)を迅速になさしめ業務活動の前提たる総会若しくは総代会の決議に取消し得べき瑕疵があるときは凡て行政庁の責任の下にこれを是正せしめることによつて、その瑕疵の治癒を計ろうとするにあるということができる。もしその是正の方法につき組合員に対し不服の点があるときは右行政庁の処分があつた後にそれに対する行政救済(訴願乃至行政訴訟)の方法を取り得ることができるものと解せられるのである。

右のように申請人は未だ行政救済を求め得る段階に至らない現在において民事訴訟法上の仮処分で右決議の瑕疵を是正しようとするのは不当といわざるを得ない。

以上の次第によつて申請人の主張する本件仮処分の申請は、被保全権利を有しないものと解するを相当とするから、本件申請を却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 永見真人 松本保三 田辺康次)

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