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山形地方裁判所 昭和40年(行ウ)2号 判決

原告 横尾修作

被告 仙台国税局長・村山税務署長

訴訟代理人 光広龍夫 外五名

主文

原告の被告仙台国税局長に対する訴を却下する。

原告の被告村山税務署長に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「原告の昭和三七年分所得税について、被告村山税務署長が昭和三八年一一月四日になした更正ならびに加算税および延滞税を賦課する旨の決定を取り消す。右処分に関する原告の審査請求について、被告仙台国税局長が昭和三九年一二月二三日になした裁決を取り消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因として、

一、原告は、昭和三七年三月二日別紙物件目録記載の原告所有物件を代金一、〇〇〇万円で訴外五十嵐フクに譲渡し、ついで同年四月一二日原告の居住の用に供する家屋等の財産を取得し、翌三八年三月二七日右取得した居住用財産を原告の居住の用に供したので、同年三月一二日原告の昭和三七年分所得税の確定申告をなすに当たり、訴外五十嵐に譲渡した右財産全部を、譲渡所得の課税の特例の扱いを受ける租税特別措置法(昭和三八年改正前のもの、以下同じ)第三五条第一項の「居住用財産」(以下単に居住用財産と称す)に該当するとして、前記譲渡価額から取得価額を控除した金額に基づいて同年分の譲渡所得金額を算出し、その他の所得金額と併せて右申告をし、申告納税額金三二万四九七〇円を納入した。ところが、被告村山税務署長は、右申告に対し昭和三八年一一月四日、前記譲渡にかかる別紙物件目録記載の土地のうち一、一四〇・五平方メートル(三四五・一坪)、家屋のうち四七九・六平方メートル(一四五・八坪)、引湯権および電話加入権は、居住用財産に該当しないとの理由で、さらに納付すべき本税の額を金二七万七、二〇〇円と更正し、過少申告加算税の額金一万三八五〇円および本税の額に対し日歩二銭の割合による昭和三八年三月一六日から納入の日までの利息を賦課する旨の決定をし、その旨原告に通知した。そこで、原告は同年一二月三日被告村山税務署長の右処分について異議を申し立て、右異議申立は被告村山税務署長において審査請求として取り扱うことを適当と認め、かつ原告が同年同月一七日これに同意したので、同日被告仙台国税局長に対する審査請求とみなされることとなつたが、被告仙台国税局長は昭和三九年一二月二三日前記更正および賦課決定と同旨の理由で右審査請求を棄却する旨裁決をし、同裁決は同月二七日原告に送達された。

二、しかしながら、被告らの右決定および裁決は次の理由により違法である。

(一)  原告の前記譲渡家屋は、従前その一部を原告および原告の家族の住居に使用し、他の部分を原告の妻訴外横尾知子の経営する温泉旅館営業のため事業用として使用して来たのであるが、右訴外知子が昭和三六年三月三一日限りで実質上右旅館業を廃業したので、以来、全く営業用としては使用せず右家屋全部を原告らの居住用のみに供していた。従つて、当然右譲渡家屋および譲渡土地の全部は、それぞれ租税特別措置法にいう「居住の用に供する家屋」および「当該敷地に供される土地」に該当し、「居住用財産」として譲渡所得の課税の特例の対象となることが明らかである。ところが、被告らは、前記のとおり、右譲渡家屋および譲渡土地の各一部のみを「居住用財産」に該当するとし他の部分をこれに該当しないとしたのは、明らかにその認定を誤つたというべきである。

(二)  かりに、右譲渡家屋が居住用部分および事業用部分に区分され、前者のみが「居住の用に供する家屋」に該当すると認められるべきだとしても、被告村山税務署長が、前記決定において、右譲渡家屋につき「居住の用に供する家屋」に該当するとした範囲に認定の誤りがある。すなわち、右被告は、右譲渡家屋につき居住用部分として認定した別紙図面表示〈a〉〈b〉〈c〉〈d〉〈e〉〈f〉および〈g〉のうち〈f〉、〈g〉を除く各部分は何れも廊下によらなければ相互に通行連絡のできない位置にあり、右廊下の部分は居住用と事業用の双方に共用される関係にあることが明らかである。従つて、その共用部分については、その面積を譲渡家屋の面積から控除したうえ、居住用、事業用の各面積に応じてこれを按分し、居住用部分に対応するその按分部分を当然「居住の用に供する家屋」に含ませるべきである。しかるに、同被告は、右決定に当り右共有部分を全く無視したのは明らかに不当というべきである。

(三)  原告が譲渡した前記引湯権は、譲渡所得の課税の特例の対象たる租税特別措置法第三五条第四項第一号の「当該土地の上に存する権利」に該当するものである。すなわち、右譲渡引湯権を含む東根市大字東根在住の温泉利用者の有する引湯権は、これら利用者によつて組成されている東根温泉協同組合の定款および源泉管理規約に基づいて、同組合の管理する源泉から引湯してこれを利用することを内容とするものであるが、それは、かつて各個に鉱泉地を所有或は賃借してそこに湧出する温泉を使用していたその権利者が、契約によりその権利利用を廃止する代わりにこれを取得したものであり、いわば、自己所有の土地に存した鉱泉権或はその賃借権が右引湯権に換替せられたものである。そして、右引湯権の化体したものとみるべき分湯桝が、それぞれの引湯権者の土地内に設けられ、前記規約および組合役員会決議により、これをその設置土地と同一地番以外の土地に移転することが禁ぜられ、かつ、引湯権を譲渡し或はこれに対し担保権を設定する場合は、分湯桝の設置土地および入浴設備建物と一括してなされることを要するとされているのである。このように、引湯権とその分湯桝の設置土地とが不離一体のものと扱われているから、少くとも東根地区における引湯権は、分湯桝の設置土地に付着した地役権と同一の権利であるということができる。

そして、原告の譲渡した引湯権の化体である分湯桝が前記譲渡土地に設置されているから、結局、右譲渡引湯権は、前記譲渡土地の上に存する権利に該当することが明らかである。従つて、被告らが前記決定および裁決をなすに当り、右譲渡引湯権が前記法条に該当しないとして課税の対象としたのは、明らかにその判断を誤つたものというべきである。

よつて、被告らの前記決定および裁決は、右の点において違法であるから、その取消を求める。

と述べた。

被告ら指定代理人は注文同旨の判決を求め、本案前の主張として、原告が、被告村山税務署長のなした所得税の更正および加算税の賦課決定の違法を主張して、右原処分を維持した被告仙台国税局長の裁決の取消を求める訴えを提起することは、行政事件訴訟法第一〇条第二項の規定により許されないところであるから、不適法としてこれを却下せられるべきである。

と述べ、請求原因に対する答弁および本案についての主張として、

一、請求原因一項は認める。

二、同二項の(一)のうち、原告の譲渡家屋は、その一部を原告およびその家族の住居に使用し、他の部分を訴外横尾知子の経営する温泉旅館業のため事業用として使用してきたこと、同項の(二)のうち、被告村山税務署長が右譲渡家屋につき居住用部分として認定した範囲中別紙図面表示〈a〉〈b〉〈c〉〈d〉および〈e〉の各部分が、何れも廊下によらなければ相互に通行連絡のできない位置にあること、しかし右被告は、右通路部分を原告主張のとおり居住用の範囲面積に加えて算定しなかつたこと、同項の(三)のうち、原告の譲渡した引湯権を含む東根地区の温泉利用者の有する引湯権は、右利用者によつて組成されている東根温泉協同組合の定款および源泉管理規約に基づいて同組合の管理する源泉から引湯してこれを利用することを内容とする権利であること、原告が引湯を受けるための設備である分湯桝が、原告の前記譲渡土地に設置されていることの各事実は認めるが、その余は争う。

四、被告村山税務署長が原告に対してなした前記決定は、次に述べるように適法のものである。

(一)  原告は、訴外横尾知子が昭和三六年三月三一日限り旅館業を廃止し、譲渡家屋全部を居住用として使用するに至つたから、当然右家屋全部につき「居住用家屋」として扱うべきであると主張するのであるが、しかし、右訴外知子が山形県知事に対し旅館業法施行規則第二条の規定による旅館業の廃止届出をしたのが昭和三七年一一月一九日山形県公安委員会に対し風俗営業取締施行条例第七条による料理店廃業に伴う許可証返納届を提出したのが昭和三八年五月三一日であるから、右旅館業の廃業があつたのは、前記家屋譲渡後の昭和三七年一一月一九日であつたというべきである。もつとも、右訴外知子は右家屋の譲渡当時旅館業を休止していただけに過ぎず、右家屋は営業の継続に伴いいつでも営業用として使用可能の状態にあつたのであるから、右譲渡当時これを営業用財産とみられるべきものであつたことが明らかである。結局原告の右主張は何ら理由がないというべきである。

(二)  仮に、訴外横尾知子が原告主張の頃既に右旅館業を廃止したものとしても、右廃業により旅館営業に供していた家屋全部が直ちに「居住用財産」に該当するというべきではない。すなわち、租税特別措置法第三五条にいう「居住用に供する家屋」とは、主として居住用にふさわしい設備構造を備えた家屋を指すものであると解すべきであつて従来、営業目的に使用し客観的にも事業用家屋とみられるものが、その事業を廃止したというだけで、その設備構造をそのままにして直ちに右の「居住用に供する家屋」に該当することにはならないというべきであるところ、前記譲渡家屋は、その譲渡当時において、旅館営業用としての設備構造を有し、客観的にみて事業用家屋とみられるものであつたことが明らかである。

なお、原告は、右譲渡家屋を旅館廃業後は営業用として使用せず、その全部を居住用のみに供していたから右家屋全部につき「居住用財産」に該当するものとすべきであると主張するのであるが、原告が右譲渡当時現実に原告およびその家族の起居の用に供していたのは右家屋の一部であつてその全部でなかつたことが明らかである。要するに、右譲渡家屋はその主なる部分が事業用に用いられるいわゆる店舗兼居宅の併用家屋とみられるものであるが、このような併用家屋については、昭和三七年二月二日付「租税特別措置法(第二章第四節関係)の取扱通達の全部改正について」と題する国税庁長官通達により、当該家屋中、家屋所有者らが主としてその起居に供している居住用の部分に限り前記「居住用に供する家屋」として取扱うべきものとされているところから、被告村山税務署長は、前記譲渡家屋中原告およびその家族が起居の用に供している居住用部分のみを右「居住用に供する家屋」に該当すると認定したものである。

以上何れにしても、右被告が右譲渡家屋の全部を「居住用財産」に該当しないとして扱つたことには何ら違法の点はない。

(三)  次いで原告は、被告村山税務署長が居住用として認定した別紙図面表示〈a〉〈b〉〈c〉〈d〉および〈e〉の各部分を連絡する各通路(廊下)の面積を、居住用、事業用の共同部分として双方の面積に応じて按分し、居住用部分に対するその按分部分を居住用部分の面積に算入しなかつたのは不当であると主張するのであるが、しかし、そもそも右被告は前記決定に当り、居住用部分の範囲を原告が現に主として起居に供している範囲を超えて過大に認定したため、その居住用部分の認定総面積は、本来居住用と認めるべき範囲面積に原告主張の右共同部分の按分面積を加えたものを上廻つているから、結局右被告のなした居住用部分の範囲の認定に原告の利益を害するような違法は存しないということになる。すなわち、右被告は、右譲渡家屋のうち別紙図面〈a〉〈b〉〈c〉〈d〉〈e〉〈f〉および〈g〉の各部分(面積合計三六八・五九四九平方メートル=一一一坪五合)を居住用と認定したのであるが、そのうち、右〈c〉〈f〉の部分〈b〉のうち女中部屋と記載された部分を除いた部分および〈e〉のうち男子用浴室の部分は、何れも本来は居住用に該当しないものであつたから、右被告の右認定面積から右過大認定部分を控除した二六八・五九四九平方メートル(八一坪二合五勺)が適正な居住用の範囲面積であつたということになる。ところで、原告主張の廊下を含む共同部分(別紙図面表示〈1〉ないし〈14〉)の面積は合計一〇四・七九三三平方メートル(三一坪七合)であり、そのうち居住用部分に算入すべき面積は、右適正居住用の面積と事業用の面積に応じて按分計算すると三三・〇九〇八平方メートル(一〇坪〇一勺)となので、これを右適正居住用の面積に加えると、結局その総面積は三〇一・六八五七平方メートル(九一坪二合六勺)となり、これは、右被告が居住用として認定した前記面積を下廻るものであることが明らかである。

(四)  さらに原告は、前記譲渡引湯権は租税特別措置法第三五条第四項第一号の「当該土地の上に存する権利」に該当すると主張するのであるが、しかし、「当該土地の上に存する権利」とは、土地そのものを利用することを目的とし、且つ居住用建物の所有を目的とする権利をいうものと解すべきであるから、これに該当するのは、地上権、賃借権および地役権に限られるのであつて、土地そのものを利用することを目的とするのではなく、東根温泉協同組合管理の源泉から引湯してこれを利用することを内容とする権利に過ぎない右引湯権の如きは、これに該当しないことが明らかである。

ところで、原告は、配湯を受けるための施設である分湯桝が、分湯権利者の所有地或は賃借地に設置されていることを理由に、引湯権をその所有地および賃借地の上に存する権利であるというのであるが、しかし、右分湯桝は、右組合所有の施設であつて、分湯権利者は組合に対し単に右設置のため土地の使用を供与することを義務づけられているに過ぎず、また、分湯桝の存する土地の所有権および賃借権の移転は必ず引湯権と共にしなければならないとする慣行も存しないのであるから、分湯桝が設置されていることをもつて、分湯権そのものが分湯桝の設置土地に結びついた権利ということもできない。

結局、右被告が引湯権を「当該土地の上に存する権利」に該当しないとして譲渡所得の課税の特例の扱いをしなかつたのは正当である。

と述べた。

原告は被告らの主張に対する答弁として

一、訴外横尾知子の旅館業の廃止届および料理店許可返納届を被告ら主張の日になしたことは認める。しかしそれは、右訴外知子が昭和三六年三月三一日廃業した直後、遅滞なく廃業に伴う所定の右届出をすべきところ、これを右主張の日まで遅怠したに過ぎないものである。被告らが右廃業の有無を、実質的な廃業状態によつて把えることなく、単に形式的な廃業届出の年月日のみによつて認定したのは明らかに不当であり、実質課税の原則にも反する。

二、被告らは、譲渡家屋は事業用としての設備、構造を有している限り、廃業したからといつて直ちに居住用とみるべきでないと主張するのであるが、しかし、設備、構造において旅館営業用家屋は、工場、店舗等の事業用家屋と異なり、居住用家屋と特に異つていないのであるから、右譲渡家屋が設備、構造上居住用に適合していないとの見解を前提とする右主張は失当というべきである。

三、被告らは、被告ら主張の国税庁長官通達に則り、「居住用財産」に該当する「居住用に供する家屋」の意義範囲を主として起居するための家屋と限定的に解釈し、これを前提に、原告の前記譲渡家屋の一部のみを「居住用に供する家屋」と認定したのであるが、そもそも、右通達は、法文上の根拠もないのに「居住用に供する家屋」の意義範囲を納税者にことさら不利益に解釈した不当なものであるから、右通達に基づいてなした被告らの右認定も、結局適用法律の解釈を誤つた違法のものというべきである。原告は右譲渡当時、その譲渡家屋を現実に営業用としては全く使用しておらず、その全部を不可分一体として居住用に供しているのででるから、当然その全部につき「居住用に供している家屋」に該当するものとみるのが正当というべきである。

と述べた、

(証拠省略)

理由

一、被告仙台国税局長に対する請求について。

原告は、被告村山税務署長のなした所得税の更正および加算税の賦課決定の取消の訴えと併せて、右原処分を維持した被告仙台国税局長の裁決の取消を求める訴えを提起したのであるが、原告が右裁決取消の訴えにつき取消の理由として主張するところは、右裁決固有の違法ではなく、結局原処分の違法を理由とするに過ぎないことが明らかである。そうだとすると、右裁決の取消の訴えは、行政事件訴訟法第一〇条第二項により不適法として許されないというべきである。

二、被告村山税務署長に対する請求について。

(一)  原告主張のとおり、原告が別紙物件目録記載の物件を訴外五十嵐に譲渡し、ついで原告の居住の用に供する財産を取得してそれを居住の用に供したこと、原告主張のとおり、昭和三七年分所得税確定申告をなし、これに対し被告村山税務署長が所得税の更正および加算税の賦課決定をなしたことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件更正および賦課決定が違法であるか否かについて原告の主張するところに副つて順次判断する。

1  (原告の前記譲渡家屋および譲渡土地の全部が、租税特別措置法第三五条一項の「居住用財産」に該当するか否かについて。)

(1) 原告の右譲渡家屋は、その一部を原告およびその家族の住居として使用し、他の部分を原告の妻訴外横尾知子の経営する温泉旅館業に使用してきたことは当事者間に争いがない。

ところで、原告は、右訴外知子が昭和三六年三月三一日限り右旅館業を廃業し、それ以降はその家屋全部を原告の居住用のみに供していた旨主張し、右被告はこれを争うので、先ず、この点について検討する。

原告本人尋問の結果によると、右訴外知子は、同年四月初め以降旅館営業を開業していなかつたことが認められる。しかし、右訴外知子は、山形県知事に対する旅館業法施行規則所定の旅館業廃止届を右家屋譲渡後の昭和三七年一一月一九日に、山形県公安委員会に対する風俗営業取締法施行条例所定の料理店廃業に伴う許可証返納届をさらにその後の昭和三八年五月三一日に各提出していることは当事者間に争いがなく、さらに、成立に争いのない乙第三号証の三ないし五、第五、第八号証、証人青木庸太郎の証言によりその成立が認められる第六、第七号証、同証言ならびに原告本人尋問および検証の各結果を綜合すると、右訴外知子は、昭和三六年四月三日付で所轄村山警察署長に対し、同年四月七日以降当分の間旅館営業を休業する旨の届出をし、また、同月八日付、同年六月一三日付、同年一一月二一日付の三回にわたり右警察署を通じ山形県公安委員会に対し、同年四月七日以降昭和三七年四月一七日までの料理店営業休業届を提出していること、原告が温泉利用者として加入していた東根温泉協同組合も、昭和三六年四月以降引湯料の徴収、記帳の整理等において右旅館営業を休業中のものとして取扱つていたこと、右家屋は、部屋の間取り、玄関、廊下、便所、浴場の広さその他の設備構造において多数の客を扱うに適したいわゆる旅館用建物として建築されてあるところ、原告は特に改築をすることなく殆んどそのままの状態で訴外五十嵐に譲渡していることが認められ、右認定に反する証拠はない。右の事実によると、訴外知子は昭和三六年三月限り右旅館業を廃止したのではなく、休業していたに過ぎないものであつて、少くとも、右譲渡した日までは、いつでも、右家屋を営業継続の可能な状態においていたことが明らかである。また、原告本人尋問および検証の各結果によると、休業後右譲渡する日までの間、右家屋のうち営業中に客室、宴会場として営業用に供していた部分は、原告方の冠婚葬祭の際などに来客用に臨時に使用したことがあるが、これを、原告およびその家族の起居のため使用していた事実はなく、従つて、右家屋の譲渡当時、その全部をその居住用に供していたものでなかつたことが認められ、この認定を左右する証拠はない。

右認定のような事実状態においては、右家屋は、その譲渡当時において、なお事業用にも供されていたいわゆる事業用兼居宅用の兼用家屋であるとみるのが相当であるから、結局、原告の右主張は理由がなく、右主張事実を前提としたその余の主張も採用できない。

(2) そこで、このような兼用家屋を譲渡した場合、そのいかなる範囲が、租税特別措置法第三五条第一項の「居住用財産」に該当し同法所定の課税の特例の扱いを受けるべきかを検討してみるに、その規定の趣旨目的に照らすと、当該兼用家屋のうち事業用部分が居住用部分に比較してごくわずかであるような場合に限りその全部を「居住用財産」とみなすほかは、原則として、当該譲渡した者が現に起居のために使用している居住用部分のみを「居住用財産」(すなわち同法にいう「居住の用に供する家屋」)に該当するものとし、事業用に供している部分はこれに該当しないと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原告本人尋問および検証の各結果によると、後記認定のとおり原告の右譲渡家屋中居住用に供する部分は営業用に供する部分より少いことが明らかであるから、結局、右被告が右譲渡家屋従つてその敷地である譲渡土地の全部が「居住用財産」に該当するものではないと認定したことに違法はないというべきである。

2  (右譲渡家屋のうち右被告が居住用部分として認定した範囲の当否について。)

(1) 右被告は、本件更正決定に当り、右譲渡土地のうち別紙図面表示〈a〉〈b〉〈c〉〈d〉〈e〉〈f〉および〈g〉の各部分、面積合計三六八・六平方メートル(一一一・五坪)を原告の居住用部分に該当すると認め「居住用財産」として扱つたこと、右〈a〉〈b〉〈c〉〈d〉および〈e〉の各部分は、いずれも廊下によらなければ相互に通行連絡のできない位置関係にあること、しかるに右被告は本件更正決定に当り、右通路部分を居住用の範囲に一切算入しなかつたことは当事者間に争いがなく、検証の結果によると、右の通路として必要の廊下の範囲は、別紙図面表示の赤斜線部分、面積約六三・一四平方メートル(一九・一坪)であることが認められる。右のような事実関係においては、右通路部分を事業用および居住用の共用部分と認めるのが相当であるから、これを居住用、事業用の各部分の面積に応じてこれを按分し、居住用部分に対応する按分面積を居住用部分の総面積に加えるべきであつたというべきである。なお、原告本人尋問および検証の結果によると、さらに別紙図面表示〈7〉、〈8〉の部分、面積合計四・二九平方メートル(一・三坪)も原告が洗濯、洗面に使用し居住用にも供していたと認められるから、この部分も共用部分として右同様の方法により算出したその按分面積を居住用面積に計上するのが相当である。

(2) ところで、右被告は、右共用部分の按分面積を居住用部分の総面積に加えない過誤をおかしたとしても、本件更正決定に当り、その居住用の範囲について、原告が現に居住用に供していた範囲を超えて過大に認定し、その総面積において、なお原告に有利な認定となつているから、結局右被告の居住用の範囲の認定に違法がないことに帰する旨主張するので、この点について検討するに、左記認定のとおり、譲渡家屋中右被告が居住用として認定したもののうち、少くとも別紙図面表示〈e〉のうちの女子用浴室および同図面表示〈g〉の物置部分はいずれも居住用部分に該当せず、また同図面表示〈c〉の便所は事業用、居住用の共用部分として扱うのが相当であつたというべきである。すなわち、

(イ) 原告本人尋問および検証の結果によると、右〈e〉の浴室は、旅館営業用につくられたため、男子用、女子用の二室になつており、かつそれぞれの浴室が一般家庭用のものより相当広くなつていること、旅館開業当時は右浴場を営業用に供し、併せて原告およびその家族もこれを使用してきたのであるが、旅館業を休業してからは、客用に使用しないので、事実上両浴場ともそのまま家庭用だけに使用していたものであることが認められ、右認定を左右する証拠はない。ところで、事業の休業中においても、その事業用家屋はなお事業用に供しているものとみなすべきであることは、既に判示したとおりであるから、旅館業の休業によつて、その営業施設である右〈e〉の浴場の全部が事業用部分でなくなつたとみるのは明らかに失当というべく、また、一般家庭においては、一個の浴場を有するのが通常であり、原告としても、前記認定のとおり、たまたま営業用施設として男子用、女子用に区別された浴場があるところから、そのままその双方を使用していたに過ぎないものであることを併せ考えると、「居住用財産」の範囲の認定に当つては、右浴室の全部を事業用と居住用の共用部分として扱うが、或はいづれか一方の浴室を居住用と認定するのが相当であつたというべきである。右被告は、右〈c〉の浴室の全部を居住用と認定したのであるが、結局、廊下に近いのでその使用に便宜であるとみられる男子用浴室のみを居住用と認め、女子用浴室はこれに該当しないとして扱えば充分であつたということになる。

(ロ) また、原告本人尋問および検証の結果によると、右〈g〉の物置は、建物が古く事実上使用に不適であること、原告は物置として、一般家庭用としては充分の広さを持つ別紙図面表示〈f〉の建物を使用しており、また右被告がその全部を居住用として認定した右図面表示〈a〉のうちにも食器用物置があり、さらに同所の料理場兼炊事場(この部分も本来は事業用、居住用の共同部分とみられないこともない)も、台所用品等はすべて収納し得るほどの広さをもつていることが認められ、この認定に反する証拠はない。この認定事実によれば、右〈g〉の物置部分は、本来これを居住用と認めるべきでないことが明らかである。

(ハ) さらに、原告本人尋問および検証の結果によると、右〈c〉の便所は、本来旅館営業用の施設であつて、その営業中客用に供せられていたものであること、譲渡家屋には、右便所のほかに、旅館営業用の便所は存しないことが明らかであるから、右便所の全部を専ら居住用のものと認めるのは相当でなく、少くとも、事業用居住用の共用部分として扱えば足りるものであつたということができる。

以上認定したとおり、右被告は、本来居住用に該当しない右〈e〉のうちの女子用浴室および右〈g〉の物置部分の各面積右〈c〉の便所の面積のうち居住用部分に対応するその按分面積を、それぞれ居住用部分の面積に算入し、過大に認定したのであるが、ところで、証人佐原良輔の証言および検証の結果によると、右〈e〉のうちの女子用浴室の面積は一七・八五平方メートル(五・四坪)、右〈g〉の部分の面積は五七・〇二平方メートル(一七・二五坪)、右〈c〉の面積は二六・四四平方メートル(八坪)であつて、本来居住用のみに該当する部分、すなわち別紙図面表示〈a〉〈b〉〈d〉〈f〉の各部分および〈e〉のうちの男子用浴室の面積合計は二六五・二八平方メートル(八〇・二五坪)となることが認められる。そうすると、前記廊下の通路部分および右図面表示〈7〉〈8〉の前記面積に右〈c〉の面積を加えると、譲渡家屋の事業用、居住用の共用部分の総面積は九三・八八平方メートル(二八・四坪)となるから、これを按分計算するまでもなく、居住用のみに供されたと認むべき範囲の前記総面積に、右共用部分の按分面積を加えたものは、右被告が本件更正決定に当つて認定した居住用部分の総面積より下廻ることが明らかである。

そうだとすると、右被告の居住用部分の範囲の認定は、その総面積において、本来居住用と認むべき範囲をこえて過大になされているから、結局原告の利益を害するような違法は存しないというべきである。

3  (原告主張の引湯権が租税特別措置法第三五条第四項第一号の「当該土地の上に存する権利」に該当するか否かについて)

租税特別措置法第三五条がいわゆる居住用財産の買換いについて所得税の課税の特例を認めたに過ぎないものであることに照らすと、右法条にいう「当該土地の上に存する権利」とは、地上権、土地賃借権のような居住用家屋の敷地である土地をその敷地として利用することを内容とする権利および地役権のようにその宅地の便益に供するため他の土地等を利用する権利を指し、それ以外の権利はこれに含まないと解するのが相当である。

そこで右解釈を前提として、原告の譲渡引湯権がこれに該当するか否かを検討するに、右引湯権は、原告が加入している東根温泉協同組合の定款および規約に基づいて同組合の管理する源泉から引湯しこれを利用することを内容とする権利であることは当事者間に争いがなく、従つて、それは、原告の譲渡家屋の敷地である譲渡土地を利用することを内容とする権利でなく、また右土地そのものの便益に供するための権利でもないから、結局右の「当該土地の上に存する権利」に該当しないものであることが明らかである。

ところで、原告は、引湯権が化体したものというべき分湯桝が、右譲渡土地に存し、しかも右組合の規約および組合役員会決議により、分湯桝をその設置土地から同一地番以外の土地に移動することを禁ぜられ、かつ引湯権の処分はその分湯桝の設置土地と共にしなければならないことになつているから、右引湯権は「当該土地の上に存する権利」に該当するとみるべきである旨主張するのであるが、仮に、右引湯権が譲渡土地と原告の主張するような関連を有しているものとしても、引湯権が温泉を利用することを内容とするものであるとの権利の実体には何ら変りがなく、従つて、これが、譲渡土地を利用する権利或は譲渡土地そのものの便益に供することを内容とする権利となるものとは到底解せられないから、結局、被告の右主張は理由がないということができる。

以上判断したとおり、右原告のなした本件更正および賦課決定には、原告主張のような取消すべき違法はなく、適法というべきである。

三、むすび

よつて、原告の被告仙台国税局長に対する本件訴は不適法として却下することとし、被告村山税務署長に対する本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 藤巻昇 柿沼久 和田忠義)

(別紙物件目録および図面省略)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

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