大判例

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岡山地方裁判所 昭和33年(わ)633号 判決

被告人 窪田恵好

主文

被告人を懲役一年に処する。

ただしこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

右猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岡山県玉野市玉二千八百九十一番地の一製麺業窪田辰次の三男で、かねて家業に従事していたものであるが、昭和三十二年十月末頃、同業の同所二千六十八番地、近藤小松の五女近藤秀子(昭和八年三月二十日生)と知り合い、交際を重ねているうち互に好意を寄せるようになり、昭和三十三年一月頃から再三結婚話をもちかけ、双方の両親を説得してその同意を得たうえ、同年五、六月頃に婚約し、同年六月十五日の挙式を待つばかりとなつていたところ、その直前になつて被告人の父が年廻りが悪いとて挙式の延期を求めたことに端を発し、感情を害した右近藤小松が結婚に逡巡を見せるようになり、その頃自らの家業も顧りみず近藤家に入り浸りその家業を手伝う等これに尽しその意を迎えようとした被告人の熱意も及ばず、後に秀子の義兄の非難を受け近藤家に立入れぬ事態となり、一方被告人の不甲斐なさ等から父辰次も結婚に反対、遂に同年六月末頃破談となるに至つたが、なおあきらめ切れない被告人は、自宅にも帰れぬまま岡山市内のパチンコ店に勤めたりしながら秀子につきまとつているうち、当初は親の反対を押切つても結婚する意向を見せていた同女が、この結婚に最初から乗気でなかつた被告人の母から被告人の女関係を聞き知るに及んで次第に冷い素振を示すようになり、同年九月中頃には被告人の再三の翻意の求めを峻拒し結婚の意思のないことを明らかにするに至つたのを見て、秀子との結婚を熱望し焦躁の余り強いて同女を他所に連れ出し思いを遂げる外はないと決意し、かねがね事情を知つていた友人の佐川系一にその意を告げ、協力の承諾を得、ここに同人と共謀のうえ結婚の目的を以て秀子を強いて自動車に乗せ、運転資格のない被告人がこれを運転し他所に連れ出して略取しようと企て、同月二十八日午後七時三十分頃、玉野市内のドライブクラブから小型自動四輪車一台(岡5す一一三九号)を借り出し同市玉五百九十四番地、料理店「桃太郎」こと田村信治方前路上に赴き、折柄被告人等の偽電話に応じてそばの配達に出た秀子が帰つてくるのを待ち受けたうえ、同所でやにわに同女に抱きつき手で口を塞ぐ等の暴行を加えその反抗を制してこれを右自動車内に押込むや、被告人において、法令に定められた運転の資格をもたないで、同所から同市渋川、児島市田ノ口を経て玉野市槌ヶ原二千八十の一番地、吉村三四郎方前附近まで約二十粁にわたり右小型自動四輪車を運転して疾走させ、以て結婚の目的で右秀子を略取し、且つ無謀な操縦をしたものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(併合罪となる前科等)

被告人は、いずれも玉野簡易裁判所において、(一)昭和三十三年十月十日道路交通取締法違反罪により罰金五千円に処せられ、右裁判は同年十一月一日確定し、(二)昭和三十二年四月十九日窃盗罪により懲役一年、三年間刑執行猶予に処せられたものであつて、右の事実は被告人の当公廷における供述並びに検察事務官黒田貞夫作成の前科調書によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示各所為中、結婚略取の点は刑法第二百二十五条第六十条に、道路交通取締法違反の点は同法第七条第一項第二項第二号第九条第一項第二十八条第一号刑法第六十条に該当するところ、以上と前示(一)の前科にかかる罪とは同法第四十五条後段の併合罪であるから同法第五十条に則り未だ裁判を経ない前者の各罪につき更に処断すべく、右結婚略取の点と道路交通取締法違反の点とは一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから同法第五十四条第一項前段第十条により一罪として重い結婚略取罪の刑に従い、所定刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、なお被告人には前示(二)の前科があるけれども情状特に憫諒すべきものがあるから同法第二十五条第二項本文第一項に従いこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、同法第二十五条の二第一項後段に従い右猶予の期間中被告人を保護観察に付し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用し被告人にその全部を負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 菅納新太郎 守安清 山口繁)

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