大判例

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岡山地方裁判所 昭和46年(む)526号 決定

請求人 白川孝郎

決  定

(被告人氏名略)

右請求人に対する住居侵入傷害被告事件について、昭和四六年八月六日岡山地方裁判所が言渡した判決につき、同月二五日右請求人から上訴権回復の請求があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

請求人の上訴権回復の請求を許容する。

理由

一、本件請求の要旨は別紙記載のとおりである。

二、よつて、当裁判所が請求人、請求人の内妻伊賀明美および玉野郵便局についてそれぞれ事実の取調をし、かつ、疎明書類を検討すると、大略次のような事実を認めることができる。

1、請求人は、住居侵入等被告事件につき、昭和四六年八月六日岡山地方裁判所において、懲役一〇月に処する旨の判決を受け、即日控訴申立をすべく、作成日附を記入し署名押印すれば完成する控訴申立書を、弁護人豊田秀男に作成してもらつて持ち帰つた。

2、二、三日後、請求人は、右申立書に作成日附を同月九日と記入し、かつ署名捺印したうえ、請求人の内妻伊賀明美に手交し、岡山地方裁判所に郵送提出するよう命じた。

3、右伊賀明美は、右申立書を封書にして、宛先を記入し、発信者である請求人の住所、氏名を記して一五円切手を貼付し、普通郵便として同月一二日玉野市玉四丁目郵便局前のポストに投函した。

4、しかし、何故か右切手が剥離していたため、玉野郵便局は、そのころ「この郵便物は、切手をはつてないために料金一五円未納していますから一応お返しいたします」との差出人もどし用符箋を附して請求人宅に返戻したが、その際、請求人宅玄関先板塀外側に設置されていた木製赤色郵便受箱に投入せず、同所に設置してある新聞受箱に投入した。

5、請求人宅では新聞受箱より新聞を取り入れていたが、その際はよもや同箱に前記封書が返戻されているとも気付かず、当然同封書が岡山地方裁判所に送達されているものと信じていたところ、同月二四日突然判決確定による刑執行のための呼出状を受け取り、驚いて調査したところ、同封書は同裁判所に到達していないことが判明したので、さらに所轄玉野郵便局に赴き調査方依頼したところ、或いは切手未納により返戻されているのではないか、自宅や近所の同じ白川姓の家をよく調べるよう勧められ、念のため調べてみると前記新聞受箱の底に返戻投入されている前記封書を発見した。

三、右認定の事実よりすれば、請求人の代人である内妻伊賀明美が、切手を貼付した際、或いは確実に貼付しなかつたのではないかとの疑念があるけれども、若しそうだとしても、当然封書は請求人に返戻され、請求人又はその代人において再発送しうる理であり、かつ、このように再発送したとしても控訴期間内に岡山地方裁判所に到達しうるに十分な日時の余裕が存したと認められるから、前記伊賀明美が切手を確実に貼付しなかつたことにつき過失があるとは言いがたい。

それでは、返戻された封書が新聞受箱に投入されていたことに請求人又はその代人が気づくのが遅かつた点につき過失がないかどうか検討すると、請求人宅には、玄関外側板塀に雨よけの庇のついた新聞受箱と、その下方に赤色木製郵便受箱とが設置してあつたのであるから、請求人又はその代人において、よもや右新聞受箱に封書が返戻され投入されているなどと考えもしなかつたことは極めて自然であるとみるべく、従つて、右返戻された封書に気づくのが遅れ、その故に控訴期間を徒過する結果となつたことにつき、請求人又はその代人にその責を帰することはできないと解するのが相当であろう。

四、以上のとおり、請求人の控訴申立期間の徒過は、請求人又はその代人の責に帰することのできない事由によるものと言うべきであるから、本件請求は理由があり、かつ、請求人が右事実を知つた時から控訴申立期間に相当する期間内に本件請求をしたものであることは本件記録上明らかであるから、請求人の本件請求を許容することとし、主文のとおり決定する。

(別紙略)

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