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岡山地方裁判所 昭和59年(ワ)169号 判決

原告

近藤崇

被告

秋久一

主文

一  被告は原告に対し、金七九万八九三〇円及び内金六七万八九三〇円に対する昭和五八年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は一項につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金二六一万〇七〇〇円、及び、内金二四九万〇七〇〇円につき昭和五八年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件交通事故の発生

原告は、昭和五二年一月二二日生れの未成年者であるが、次の交通事故により受傷した。

(1) 日時 昭和五七年八月一一日午後五時三五分

(2) 場所 岡山市南古都四四〇番地一六地先

(3) 加害車 普通乗用自動車 岡五六ヒ二八九九

(4) 運転者 被告

(5) 態様 原告が道路を東から西に向けて横断歩行中、被告は事故地手前の交差点を左折して南から北へ進行した直後に衝突したもの

2  被告の責任

被告は、本件加害車を保有して運転の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により原告の損害を賠償する責任がある。

3  損害

原告は本件事故により、左下腿開放粉砕骨折、左足部挫滅皮膚欠損、左第一中足開放骨折等の重傷を負い手術を受けたが、その後手術に起因する血清肝炎を併発し、次のとおり入通院をした。

〈1〉 昭和五七年八月一一日から同年一一月一九日まで一〇一日間 岡山市藤原所在の竜操整形外科病院入院

〈2〉 同年一一月二〇日から同五八年三月九日まで一一〇日間(実日数六日)同病院に通院

〈3〉 昭和五七年一一月二四日から同年一二月二九日まで三六日間 岡山市赤十字病院入院(血清肝炎の治療)

(一) 治療に伴う費用

(1) 付添費用 金七三万八五〇〇円

原告は、小学校入学前の幼児であつたため、事故日から後遺症が確定した昭和五八年三月九日まで合計二一一日の全部について原告の母が看護のため付添つたもので、一日金三五〇〇円として計算すると冒頭記載の金額となる。

(2) 通院費 金二万円

原告の蒙つた受けた傷の部位、程度からタクシーを利用したもので、そのうちの金二万円。

(3) 入院中の雑費 金八万二二〇〇円

一日六〇〇円として入院日数一三七日分

(4) その他の損害 金一五万円

事故当時の原告の家族状況は、両親と原告の姉(昭和四九年一一月一〇日生まれ)の四人家族で、母が原告の入院の付添をしたことから、姉の養育に支障をきたしたことから姉を母の実家に寄宿させ、また転校させざるをえなかつたことから生じたもの。

(二) 傷害慰藉料 金一五〇万円

(三) 後遺症による慰藉料 金七五万円

原告は、自賠責保険において一四級の後遺症の査定を受けており、慰藉料として右金額が相当である。

(四) 弁護士費用 金一二万円

原告は、本件訴訟のため原告訴訟代理人両名に委任し、着手金として金一二万円を支払つた。

4  原告は、自賠責保険から金七五万円の支払を受けた。

5  よつて、原告は被告に対し、右3の合計金額から4の金額を控除した金二六一万〇七〇〇円、及び、右金員のうち弁護士費用を差し引いた金二四九万〇七〇〇円に対する本件事故後であり、後遺症の確定した昭和五八年三月一〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1の事実のうち、(1)ないし(4)は認め、(5)につき、原告が事故発生地の道路を東から西へ横断していたこと、被告が事故地手前の交差点を左折して進行していたことは認めるが、南から北へ進行した直後、すなわち、左折した直後に衝突したとの点は争う。被告は左折後直進態勢に入つて少なくとも約一一・五メートル進行して衝突しているものである。

2  同2は認める。

3  同3は、いずれも不知ないし争う。

4  同4の事実は認める。

5  同5は争う。

三  抗弁

1(一)  本件交通事故は、原告が路上に駐車中の車両の陰から前方左右を確認しないままいきなり飛び出して被告車の前を横切つたため発生したものであり、原告の一方的な過失によるものであるから、被告に責任はない。

(二)  仮にそうでないとしても、原告の過失を斟酌すべきである。

2  損害について

(一) 損害については、原告の主張するもの以外に治療費として合計金二四二万一三四四円を要している。

(二) 右治療費のうち、被告は原告に対し合計金一六六万一六九六円を支払つているほか、原告の治療費の一部が同人の健康保険療養給付により填補されているため、被告は保険代位により岡山東社会保険事務所から合計金七五万九六四八円の支払を請求されており、これを履行しなければならない立場にある。従つて、右総額二四二万一三四四円につき弁済がなされているのと同視すべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の(一)、(二)はいずれも争う。

2  同2の各事実は認めるが、弁済と同視すべきとの主張は争う。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中、書証目録等記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実のうち、(5)を除くその余の事実、及び、同2は当事者間に争いがない。

二  事故の態様について

1  成立に争いのない甲第七号証の一ないし三、乙第一号証、原告法定代理人親権者近藤保及び被告本人の各尋問の結果によると、次のとおり認めることができ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件事故現場は、信号機の設置されていないT字型交差点(被告車の進行方向が南から北への直進で、これに西からの道路が交わるもの。歩行者用の横断歩道は設けられていない。以下イ交差点という。)北方付近の幅員約六メートルの道路上で、そのおよそ二〇数メートル位南に信号機の設置された交差点(以下、ロ交差点といい、イ交差点との間隔は約一〇メートル位である。)がある。なお、制限速度は毎時三〇キロメートルと指定されている。

(二)  被告は、ロ交差点を東方から進行してきて、いつたん赤信号により停止した後発進し、左折してイ交差点に差しかかつたが、当時、交差点北側の対向車線に冷凍車が停車しており、被告はこれを現認したもののそのまま進行し、ほぼ交差点を通過しかけたところで右前方約五メートル位に、冷凍車の後方から飛び出してきた原告を発見し、あわてて急ブレーキをかけるとともに、左にハンドルを切つてよけようとしたが間に合わず、自車右側前部から右側方部を原告に衝突させたこと。

(三)  被告車の速度については判然とせず、被告は本人尋問において約三〇キロメートルと供述しており、右のとおり二つの交差点が接近していること、被告がロ交差点でいつたん停止して左折進行していること、ロ交差点から事故現場までは約二〇メートル程度であることに照らすと、被告の供述はうなづけないでもないが、前記甲第七号証の三によると、事故現場には右側約八メートル、左側四メートルのスリツプ痕がついていることが認められ、これを考慮すると被告の供述するところよりややこれを上回つているものと推認するのが相当であること。

2  ところで被告は、抗弁1において、本件事故はもつぱら原告の一方的過失によつて発生したものである旨、仮にそうでないとしても原告の過失による過失相殺を主張するので、まずこの点を検討するに、右認定の各事実によると、原告の飛び出しが本件事故発生の大きな要因になつていることは認められるが、自動車運転者としては、車両の物陰から幼児等が飛び出してくることも当然予見すべきであり、被告はイ交差点手前の対向車線に停車中の冷凍車を発見しているのであるから、このような場合右のような事態も予見して進行すべき注意義務があるものというべきであつて、被告はこれを怠つた過失を免れない。

そして、以上の認定判断ならびに原告が当時五歳の幼児であることもあわせ考慮すると、本件事故の過失割合としては、原告側四割、被告六割と認めるのが相当である。

三  原告の受傷の部位、程度等について

前記原告法定代理人親権者の供述、及び、弁論の全趣旨により成立を認める甲第三号証ないし第五号証、第六号証の一ないし四によると、原告の本件事故による受傷の部位、程度、及び、入通院の事実につき原告主張のとおりであること、原告の入通院治療中、原告が歩行困難なため症状が固定した昭和五八年三月九日までの間、常時付添看護が必要であり、原告の母が付添つたこと、また原告は後遺症として一四級の認定を受けていること、以上の事実を認めることができ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

四  損害(請求原因3、4、及び、抗弁2)について

1  治療費 金二四二万一三四四円

治療費として右金額を要したことは当事者間に争いがない。

2  付添費用 金六二万七五〇〇円

右三認定の事実に基づき、入院付添費を一日三五〇〇円、通院等その他の付添費を一日二〇〇〇円として次のとおり金六二万七五〇〇円の限度で認めるのが相当である。

入院 三五〇〇×一三七=四七万九五〇〇

通院等 二〇〇〇×七四=一四万八〇〇〇

3  通院費 金二万円

右三認定の事実によると、原告の通院治療においてタクシーの利用はやむをえないものであり、前記原告法定代理人親権者の尋問の結果によると、そのタクシー代として少なくとも金二万円を要したことが認められる。

4  入院雑費 金八万二二〇〇円

一日六〇〇円として一三七日分は右の金額となる。

5  傷害慰藉料 金一三〇万円

傷害慰藉料としては前記入通院の事実から右金額が相当である。

6  後遺症慰藉料 金七〇万円

後遺症慰藉料としては、前認定の後遺症の等級から右金額が相当である。

7  弁護士費用 金一二万円

前記原告法定代理人親権者の尋問の結果によると、弁護士費用として右金員を支払つたことが認められ、後記本件認容額に照らし右金額が相当である。

8  なお、原告はその他の損害として原告の姉の養育上の損害を主張するが、未だその必要性、相当性を認めることができない。

五  損害の填補

原告が自賠責保険から金七五万円の、また、被告から治療費として金一六六万一六九六円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

なお、被告は治療費として残額七五万九六四八円について岡山社会保険事務所から請求を受けており、これを支払わなければならない立場にあるとして、右残額についても支払ずみと同視すべきである旨主張し、同事実は当事者間に争いがないが、単に請求を受けていることのみをもつて支払と認めることはできない。従つて、この点に関する被告の主張は失当である。

六  以上によつて算定するに、弁護士費用を除く原告の損害額合計は前記四の1ないし6により金五一五万一〇四四円となるところ、これに前記過失割合を乗じると金三〇九万〇六二六円となる。

そして、これから支払額合計二四一万一六九六円を控除すると金六七万八九三〇円となる。

そうすると、原告の本訴請求は、弁護士費用を含め金七九万八九三〇円、及び弁護士費用を除いた金六七万八九三〇円に対する原告の請求する本件事故後である昭和五八年三月一〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員を求める限度で理由があり、その余は失当である。

七  よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一六一条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 郷俊介)

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