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広島地方裁判所 昭和37年(行)6号 判決

原告 水戸川源二

被告 広島県知事

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「一、被告が昭和三五年六月三〇日になした訴外尾道市吉和漁業協同組合に対する公衆浴場営業許可処分は無効であることを確認する。右請求が理由なきときは、右営業許可処分を取消す。二、被告は原告の尾道市吉和町字正徳浜七五番地の一四を施設場所とする公衆浴場営業許可申請に対する昭和三七年一月二三日付の不許可処分を取消す。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として

一、原告は、昭和三四年六月八日被告に対し尾道市吉和町七五番地の一四を浴場の設置場所として公衆浴場営業許可申請をした。

二、被告は昭和三五年六月三〇日訴外尾道市吉和漁業協同組合(以下訴外組合という)が昭和三四年六月一一日になした尾道市吉和町七四番地の五を浴場設置場所とする浴場許可申請に対して営業許可処分をした。

三、しかしながら右営業許可処分には次のような違法がある。

(一)  公衆浴場営業については、公衆浴場法第二条第一項により都道府県知事の許可を得なければならないのであるが、同条第三項広島県公衆浴場法施行条例第一条第一項によると公衆浴場を設置しようとする者は既設の公衆浴場との距離を三〇〇メートル以上保たなければならない旨定められている。ところで原告申請の前記浴場設置場所と訴外組合申請の前記浴場設置場所の距離は一〇メートル以内であり右二つの公衆浴場は法令上併せて営業許可を受けることのできない関係にある。このように一方につき営業許可をすれば他方につき営業の許可をなし得ないような競願関係にある場合には、県知事は法令の要件を具備し、公益を害する事由のない限り、先願者に対し営業の許可をしなければならないものである。

しかるに被告は原告の先願権を無視して前記のとおり訴外組合の営業許可申請につきこれを許可する旨の処分をした。

(二)  また、訴外組合は昭和三四年一〇月一九日被告に対し浴場設置場所を尾道市吉和町三〇九番地の四地先とする公衆浴場申請事項変更承認願なる書面を提出して、前記申請の浴場設置場所を変更したので訴外組合の前記尾道市吉和町七四番地の五地先を浴場設置場所とする営業許可申請は失効した。従つて右訴外組合に対する本件営業許可処分は、営業許可申請がないのになされたもので違法である。

そして右各違法は、いずれも明白かつ重大なかしであるから訴外組合に対する本件営業許可処分は無効である。仮に右違法が右営業許可処分の無効事由にならないとしても右処分の取消事由に該当する。

四、被告は、昭和三四年六月八日原告がなした前記営業許可申請に対して昭和三七年一月二三日付でこれを既設の訴外組合浴場から三〇〇メートル以内の距離にあり広島県公衆浴場施行条例第一条第一項に定める配置の基準に適合せず配置の適正を欠くとの理由で不許可処分に付し、この通知書を同月三〇日原告に交付した。

しかしながら訴外組合に対する公衆浴場営業許可処分は前記のとおり無効もしくは取消さるべきものであり、右不許可処分は訴外組合の浴場営業を適法なものであることを前提としてなされたものであるから、違法であつて取消を免れない。

よつて、原告は被告に対して前記訴外組合に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認、予備的に右処分の取消及び前記原告に対する公衆浴場営業不許可処分の取消を求めるため本訴に及ぶ、と述べ、

被告の主張に対して

一、訴外組合の申請が先願であるとの主張は否認する。

保健所が適式な申請書の提出があつた場合、当日付の受付印を押捺するのは当然である。

二、訴外組合は、申請事項変更願を提出して昭和三四年六月一一日付の申請を取下げたものと解すべきである。

三、訴外組合に対する営業許可処分が取消されても、公共の福祉に反するようなことはない。

と述べた。

被告訴訟代理人は、本案前の申立として「原告の訴外組合に対する公衆浴場営業許可処分無効確認及び右処分取消の訴をいずれも却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本案につき「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

請求原因第一項の事実は認める、第二項の事実中、訴外組合が営業許可申請をしたのは昭和三四年六月一一日であるとの主張は否認、右申請日は同月六日である、その余の事実は認める、第三項は争う、被告の処分に何ら違法な点はない、同項(二)の事実中訴外組合が公衆浴場申請事項変更願を提出したことは認めるがこれにより訴外組合の営業許可申請が失効することはない、

第四項の事実は認める、と述べ、

被告の主張として次のとおり述べた。

一、原告及び訴外組合の公衆浴場営業許可申請の日時が仮に原告主張どおりであるとしても、わずか三日間の差をもつて競願関係となつたに過ぎないような場合には、そのいずれの許可申請に対し営業許可をするかは、被告の裁量権の範囲に属し訴外組合に対する営業許可処分をもつて違法とする原告の主張は裁判所の審理の対象とならないものである。

二、訴外組合の公衆浴場営業許可申請の日時は昭和三四年六月六日であり、原告の公衆浴場営業許可申請より先願である。訴外組合の営業許可申請書に押されている受付印は、昭和三四年六月一一日となつているが、これは次のような事情に基づくものである。

保健所へ持参される公衆浴場の営業許可関係申請書は、先ず主務課である公衆衛生課の担当職員のもとに提出され、公衆衛生課において申請書を審査し受理するものと決定したものを総務課の受付係に廻し、受付印を押捺する取扱になつている。そして訴外組合は、昭和三四年六月六日適法な公衆浴場営業許可申請書を尾道保健所公衆衛生課に提出したが、衛生課における申請書の審理が遅れたため同年六月一一日に総務課受付係に廻わり、受付印が同日付になつたのである。そして営業許可申請の効力発生時期は、受付印の日付にかかわらず、訴外組合が右申請書を保健所に提出した昭和三四年六月六日と認めるべきである。

一方原告は昭和三四年六月八日、訴外渡辺徳造をして原告の公衆浴場営業許可申請書を尾道保健所へ持参させ、公衆衛生課に提出したが、右訴外人は同保健所総務課長訴外専頭格に面接したうえ、強く同日付の受付印を押捺することを要請したので右総務課長は、やむなく同日付の受付印を押捺し異例の取扱をしたのである。

三、訴外組合が昭和三四年一〇月一九日被告に提出した公衆浴場申請事項変更願は、公衆浴場の設置場所を尾道市吉和町七四番地の五から同市同町三〇九番地の四の新らしい場所に変更することについて承認を求めたものであるが、これは広島県公衆浴場法施行細則第三条第二項に照らし許されないものであるから法的には全く無効なものであり、この承認額は、訴外組合が広島県公衆浴場法施行条例第一条第二項の「工場事業場等の福利厚生施設的な浴場」を尾道市吉和町三〇九番地の四地先に設置したい旨の希望を申し入れた意味に解するほかなく、右承認願の提出により、先に提出されている前記申請の効力が左右されることはない。

四、仮に訴外組合に対する営業許可処分につき取消すべき違法事由があるとしても、訴外組合は昭和三五年六月三〇日付公衆浴場営業許可指令書の交付を受け、爾来組合の福利施設として尾道市吉和町七四番地の五に公衆浴場を開設し、農山漁村振興特別助成事業事務取扱要領(昭和三一年一〇月三〇日農林省振興局長通達)に基づく共同浴場管理規定に準拠して組合員の利用に供している現況であるから、本件営業許可処分が取消されるようなことがあれば著しく公共の福祉に適合しない結果を招来するので行政事件訴訟法第三一条により、原告の右営業許可処分取消請求は棄却さるべきである。

五、原告の公衆浴場営業許可申請に対する不許可処分は、公衆浴場法第二条、広島県公衆浴場施行条例第一条第一項によりなされたものであり、訴外組合の公衆浴場営業は前記のとおり適法なものであるから右不許可処分に何ら違法な点はない。

(証拠省略)

理由

一、原告が昭和三四年六月八日被告に対して尾道市吉和町字正徳浜七五番地の一四地先を浴場の設置場所とする公衆浴場営業許可申請をしたこと、訴外組合がその頃(正確な日時については後述)被告に対し、原告の右浴場設置場所から一〇メートル以内の距離である同市同町七四番地の五地先を浴場設置場所とする公衆浴場営業許可申請をしたこと、被告が昭和三五年六月三〇日付で右訴外組合の申請を許可したこと、はいずれも当事者間に争いがない。

そこでまず被告の本案前の申立について判断する。

都道府県知事のする浴場営業許可処分は、講学上警察許可といわれるものであつて、許可申請があつた場合処分庁たる知事はその申請が浴場営業法等の法令所定要件の具備の有無を審査し、右要件を具備するものである以上必ず許可しなければならないと解するを相当とするところ、本件のように二個の許可申請の一方を許可すれば、法令上他方を不許可にしなければならないような競願関係にある場合には、処分庁としては公平の見地からまず先願の申請から審査すべく、いわゆる先願権を無視してなされた許可処分は違法な処分というべきである。そして、この点につき裁判所の審理の対象となること当然であつて、被告の申立は理由がない。

二、被告の訴外組合に対する本件営業許可処分について違法事由の有無を順次検討する。

(一)  原告の先願権を無視したとの主張について、

証人古川昇、同山本一四、同玄場時太郎、同久保満の各証言を綜合すると次の事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

訴外組合は、昭和三四年二月一一日組合総会において、組合員の福利厚生施設として共同浴場の建設を議決し、尾道市吉和町三〇九番地の四地先をその建設予定地と決め、浴場設置につき、尾道保健所を通じて被告に指導を仰いだところ、被告は訴外組合が計画している浴場設置はその規模からみて、公衆浴場法に基づく許可を受くべきものであること、訴外組合の右予定浴場設置場所は、公衆浴場配置基準によれば不適当である旨の指導をした。そこで訴外組合はやむなく浴場設置場所を尾道市吉和町七四番地の五地先に変更し、昭和三四年六月六日公衆浴場営業許可申請書を、尾道保健所に提出した。ところが、右申請書を受取つた同保健所公衆衛生課職員の訴外古川昇は訴外組合に対し右申請書添付の既設新屋湯―新設湯間距離図(乙第二号証の一)が平盤測量図面であるからこれにトラバス法による計算書を添付して補正するように指示し、同日は申請書に受付印を押捺しなかつた。

しかしその後同保健所は、被告から広島県公衆浴場法施行細則第二条第一項第四号所定の図面は、かならずしもトラバス法による測量図面である必要はなく、平盤測量図面で充分であるとの指示を受けたので、昭和三四年六月一一日訴外組合に再度前記図面を提出させ前記申請書を同日の受付印を押捺した上受理したのである。

ところで一般に私人の公法行為の効力発生時期は法令に特別の定めがない限り民法と同様到達主義によると解すべく、行政庁に提出すべき意思表示が下級行政庁を経由することを要するときは経由すべき下級行政庁に提出されたとき到達したものとみなすを相当とする。また行政庁に対する意思表示がいわゆる要式行為である場合には法令に定められた要式を具備しない限りその効力は発生しないというべきであるが、そのかしが軽微である場合には、かしの補正を許すべく、補正されれば意思表示の効力は提出の時から発生していたものと解される。

何が軽微なかしであるかは困難な問題であるが、本件においては処分行政庁と経由行政庁との法令解釈の相違により一旦かしの補正を命ぜられたものの結局その補正さえ必要でなかつたのであつて、訴外組合の当初の申請行為は適式なものであり受付印の日付にかかわらず申請書提出の日すなわち昭和三四年六月六日に訴外組合の公衆浴場営業許可申請の効力が発生したとみるのが相当である。

そうすると本件における先願権は訴外組合にあるというべく原告のこの点の主張は理由がない。

(二)  訴外組合の公衆浴場営業許可申請が失効したとの主張について、

訴外組合が昭和三四年一〇月一九日被告に対し浴場設置場所を尾道市吉和町三〇九番地先とする公衆浴場申請事項変更願と題する書面を提出したことは当事者間に争いがない。

そこで右書面の趣旨を検討するに、訴外組合は、前記認定のように浴場建設を計画した当初これを公衆浴場法の適用のない福利厚生施設と理解し、組合として最も便利な尾道市吉和町三〇九番地先を浴場設置場所に選んだのであるが、被告の指導によりやむなく設置場所を申請書記載の土地としたのであるから、尾道市吉和町三〇九番地先を設置場所として申請すれば、その申請は不許可になることを知つていたと推認される。

成立に争いのない甲第八号証の一及び証人熊沢俊彦、同高土一三、同小平千里の各証言によると、被告は訴外組合及び原告の本件各営業許可申請について、広島県浴場法運営審議会に諮問し、右審議会においては主として訴外組合の計画する浴場が福利厚生施設として公衆浴場法の適用から除外されるか否かにつき審議されたものと認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の各事実と証人山本一四、同玄場時太郎の各証言を綜合すると、訴外組合は前記審議会において訴外組合の浴場が浴場営業法適用除外浴場と認められる可能性もあると考え、仮にそう認められた場合には当初計画していた場所に浴場を設置したい旨の希望を前記申請事項変更承認願の提出という方法で意思表示し、その後右可能性がないと判断して右変更承認願を取下げたものと認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると原告主張のように右変更承認願の提出をもつて、尾道市吉和町七四番地の五地先を浴場設置場所とする本件許可申請を取下げ、ないし撤回したものとは到底解されず、右許可申請は有効に存続するものと認められる。

(三)  その他被告の訴外組合に対する公衆浴場営業許可処分が違法であると認めるに足る証拠はない。

三、被告の原告に対する昭和三七年一月二三日付不許可処分の取消請求について。

被告の訴外組合に対する浴場営業許可処分は、前記のとおり適法なものであるところ、原告が昭和三四年六月八日にした浴場営業許可申請は、浴場設置場所を訴外組合の既設浴場から一〇メートル以内の場所としているのであるから、被告がこれに対して公衆浴場法第二条第二項、広島県公衆浴場法施行条例第一条第一項を適用して不許可処分にしたのは適法である。

その他本件全証拠によるも右不許可処分を取消すべき事由は認められない。

四、以上判断のとおり、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田博司 雑賀飛龍 河村直樹)

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