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広島地方裁判所 昭和42年(行ク)3号 決定

申立人 紙屋町タクシー株式会社

相手方 広島陸運局長

訴訟代理人 山田二郎 外五名

主文

相手方が申立人に対し昭和四二年九月一二日付をもつてした一般乗用旅客自動車運送事業の停止を命じた処分は、昭和四二年一一月一九日からその執行を停止する。

理由

(申立ての趣旨及び理由)

申立人の申立ての趣旨及び理由の要旨は、別紙(一)執行停止決定申請書(引用された訴状を含む)のとおり。

(相手方の意見)

相手方の意見の要旨は、別紙(二)意見書のとおり。

(当裁判所の判断)

一、相手方は申立人に対し、昭和四二年九月一二日付広陸自第九四二号をもつて、申立人に道路運送法第一八条第一項(事業計画変更の認可)、第二四条(事業区域外運送の禁止)、第二五条(事故報告義務)、第三〇条第一項(輸送の安全等遵守義務)の各規定に違反する事実があるとして、同法第四三条により、昭和四二年九月一九日から昭和四三年二月一五日まで一五〇日間、申立人の一般乗用旅客自動車運送事業の停止を命ずる処分をした(甲第一号証)。これに対し申立人は右事業停止を命ずる処分は違法であるとして広島地方裁判所にその処分の取消しを求める行政訴訟を提起(同裁判所昭和四二年(行ウ)第二八号事件)するとともに、右処分の執行の停止を求める本件申立てをした。

二、そこで、まず行政事件訴訟法第二五条にいう回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるかどうかを検討する。

右本案事件の審理及び判決にはかなりの日時を要し、その確定をまつていたのでは本件事業停止期間の一五〇日が経過することは十分に予測し得るところである。そして、申立人の事業停止が一五〇日間続くときは、資産収入にみるべきものがなく、車輛四九台、運転手一〇六名を擁し、ビル建設資金その他負債合計金一億五千五百万円を有するタクシー専業の申立人会社の経営内容(これらの事実は甲第三、四号証、第九号証、第二一号証、第九二号証、乙第一号証、及び前野弘道の審尋の結果によつて疎明される。)に照らせば、申立人会社が倒産に陥るであろうことは推認するに難くないところである。そうであるとすれば、右事業停止によつて申立人の受ける損害は回復困難であるというべく、その損害を避けるため相当の時期において右事業停止処分の執行を停止すべき緊急の必要があるものと認められる。

三、次に、事業停止処分の取消しを求める本案の申立てが理由がないとみえるかどうかについて判断する。

相手方が指摘する道路運送法違反事実のうち、まず、無認可による営業所、車庫の各設置及び増車の事実についてみると、庚午タクシー有限会社としてはそれらについて所定の手続を採り各認可を受けているところ、相手方は、右庚午タクシーが全車輛につき申立人に対し名義貸し(同法第三六条第一項違反)をしたとして庚午タクシーに対しては免許取消しの処分をし、申立人には、その事実を他の観点からみて、同法第一八条の違反があるというのであるが、申立人に右名義借りの行為があると一応判断できるとしても、相手方主張の法律違反に該るか否かは、適確な事実認定とともに、本案審理において慎重に決すべきことである。その他の違反事実については申立人のおおむね自認するところである。

ところで、事業停止等道路運送法第四三条所定の処分をする場合、事前に改善命令を出すことは法律上その要件ではないけれども、しかし、従来同法違反の事実がある場合にはまず事前に注意、警告、その他の改善命令等の行政措置をとり、そのうえでなお且つ処分の必要な場合に限つて前記法条所定の処分をするのが通例であつたのに、今回の申立人に対する事業停止処分の場合にはそれらの行政措置を経ないでした点で異例であり、また、事業停止処分は免許の取消しと異なり、本質的に免許基準には適合するものであることを前提としていると一応判断されるので、当該事業の経営に致命的打撃を与えるような処分であつてはならないと解されるのに、本件処分庁においては申立人会社の前記経営内容に照らし、本件処分の如く事業停止一五〇日の処分をした場合は同社が倒産にいたることを予知しつつ、旧代表者の性格、行動や各種世論の動向をも参酌し、あえて今回の処分に踏み切つた疑いがあること、それに本件の特殊性を十分考慮しても、従前の処分例に比して相当きびしい処分であること(以上の各事実は本件疎明資料によつて疎明される。)、これらの事実に、本件審理にあらわれた一切の事情を考慮に入れて判断すると、結局、事業停止一五〇日とした本件処分はその適法性において疑いがある。

しかし、そうだからといつて、本件事業停止処分のすべてが違法であるということにならないのは勿論であつて、相手方が指摘する前記違反事実がすべて認められるとすると、申立人が相当期間内の事業停止処分を免れないことはいうまでもない。それゆえ、少なくとも右相当期間の限度では本件処分は違法であるとはみられないけれども、それを超える事業停止部分については申立人勝訴の見込みがないわけではない。そして、本件にあらわれた全証拠を総合すれば、少なくとも、主文掲記の昭和四二年一一月一九日以降でなければ勝訴の見込みがないと一応判断されるので、本件処分は右の日からその執行を停止するのを相当と認める。

四、なお、相手方は本件処分の執行を停止すると、公共の福祉に重大な影響を与えるおそれがあると主張するが、本件審理の結果によると、申立人は、その後車庫及び営業所を新たに設置し、それらの認可を相手方に申請した(甲第一一七号証)のをはじめ、その他の違反事実についてもおおむね改善すべき点は改善しており、また、事業停止をしてから既に相当期間を経過し、この間今回の事業停止処分によつて申立人会社の労使はもとより、市中の一般業者間においても、法規遵守による輸送の安全を期していることなどがうかがわれるし、相手方において全面的な監督権に基づき適切な行政指導並びに措置を採りうることも言うを俟たないで、前記の日から執行停止をすることによつて安全性その他の面からみて直ちに公共の福祉に重大な影響があるものとは認め難い。

五、よつて、前記の限度において本件申立てを相当と認め、行政事件訴訟法第二五条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 熊佐義里 立川共生 角田進)

別紙(一)

執行停止決定申請書

申請の趣旨

被申請人が申請人に対し昭和四二年九月一二日付広陸自第九四二号をもつてなした道路運送法第四三条の規定にもとづいてなした事業停止命令の執行は本案判決が確定するまでこれを停止する。

との裁判を求める。

申請の理由

一、訴状記載の請求の原因と同一であるから別添訴状写の請求の原因記載事項を援用する。

二、申請会社は昭和四二年九月一九日広島地方裁判所に対し右行政処分の取消の訴を提起したが同裁判所の判決があるまで申請会社の事業を停止するにおいては収入の途を断たれ遂には倒産に至ることが必至であり、かゝる事態をみるにおいては別紙債務一覧表記載の多数の債権者に対する支払いが不能となり多大の迷惑を及ぼすばかりでなく現在申請会社で働いている従業員及びその家族四〇〇名の生活の資を奪うこととなり申請会社としては社会的信用を失墜し多大の財産上の損害を蒙ることとなり、後日行政処分取消の判決が確定しても、そのときは申請会社の再建は不可能で回復の困難な損害が生じることが明らかであるので執行の停止を求める緊急の必要がある。

よつて申請の趣旨記載の如き裁判を求めるため本申請に及んだ次第である。

訴状

請求の趣旨

被告が原告に対し昭和四二年九月一二日広陸自第九四二号をもつてなした道路運送法第四三条の規定にもとづいてなした事業停止命令はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

請求の原因

との裁判を求める。

一、被告広島陸運局長上島敏夫は原告がタクシー営業に関し、道路運送法(以下法という)自動車運送事業等運輸規則(以下規則という)及び道路運送車輛法(以下車輛法という)の定めに違反した事実があつたことを理由として請求の趣旨記載のような処分をなした。

二、原告が前記の如き違反をしている事実があつたことは認めるが、その内容は形式的な違反で重大な事項に関するものではなく昭和四二年八月二九日現在においては一部を除き完全に改善を遂げているのであつて前記処分は甚だ重きに失し不当なものといわざるを得ない。

その違反事実及びこれに対する改善状況は左のとおりである。

1、法第一八条第一項に違反し、無認可で車庫を廃止したため認可を受けた車庫がなく規則第三二条に定める点検施設もない状況で営業したことについて、これが最も重い違反事実と思われるが、ビル建設は従業員の要望によつて、その福利厚生のために、その宿舎建設するためのものであつて本来公共の福祉にそう目的のためのものであるうえ、認可されていた車庫及び点検、施設は(イ)広島市庚午北町一〇丁目四五の一三・二六八m2(ロ)同町四丁目四五の一、二、二二七m2合計四九五m2であつたところ、ビル建設のため、昭和四一年七月右(イ)に隣接する、同町一〇丁目四五の六の土地三六三m2を購入したため、右(ロ)の車庫を廃止して、右購入土地を車庫として認可を受ける予定のところ、右(イ)の地上に当時更生年金事業団よりの融資による車庫、従業員の仮眠所、住宅のためのビル建築計画をたてたので、これと併せて事業計画変更の認可を受けようと考えたが、ビル建築後は一部修理場等に充てる計画のため右(イ)の車庫が幾分狭くなるため設計を完了して右融資の決定後に認可申請をすることとしていたところ、遂にその手続を遅延するに至つたものである。しかしビル建設に着手後は庚午北町一〇丁目二〇番地九六七m2を借受けて車庫及び点検施設に充てていたので、実質上車庫及び点検施設は法定のものが存していたのである。

右については近く事業計画変更の認可申請をする予定である。

2、法第二四条に違反して区域外営業をした点について顧客よりの強い求めを拒否し得なかつた特別、緊急な事情が存した事例が多い実情にあつたが、昭和四二年八月一五日全従業員に対し厳重注意したうえ、社内にもこれを掲示し、今後かかる違反行為なきを期している。

3、法第二五条に違反し、昭和四二年二月二四日安佐郡可部町で発生した事故について、事故報告をしなかつたことについて、偶々一件の届出の怠慢があつたが同年八月二〇日その届出を了した。

4、規則第二二条(点呼が適切に行われていなかつた)、同第二八条(車内標示のないものがあつた)、同第二九条(応急修理用器具及び部品、赤旗、非常信号用具の備付のないものがあつた)、同第三一条(定期点検基準が作成されず記録がなされていなかつた)、同第四七条(掲示事項が不備であつた)、車輛法第四八条第一項(定期点検整備が励行されていない)、同第四九条第一項(定期点検整備記録簿の記載がない)、同第五〇条第一項(整備管理者の選任がなされていない)、同第七八条第一項(認証工場でない工場で修理等をしていた)等の違反(法第三〇条第一項違反)については、昭和四二年八月一五日何れもその不備を是正し現在においては全く非違がなく、これら過去の違反事実について今更事業停止の重い処分をする必要性は全く存しない。

5、被告は原告が庚午タクシー有限会社の名義を利用して増車九台を行つたと認定したが、かゝる事実は全く存しないのである。即ち昭和三八年三月一日広島陸運局より事業の免許を受けるに際し聴問会には代表者難波利磨が自ら出席し免許後は庚午タクシーにおいて事務員一名を雇入れて会計庶務等の事務を処理させ、運転手を雇傭して自ら経営し会計経理、納税等総て独自に行つて来たのである。

たゞ難波利磨はその実兄が入院、病死という事態発生のため司法書士業を手伝わなければならなくなりやむなく実妹難波季子に業務運営の補助をさせたにすぎないのであり原告が右庚午タクシー営業の収益を取得したり、名義使用の対価を庚午タクシーに支払つたこともないのであつて右は事実を誤認したものであり処分の理由とはならない。

二、右のような形式的な違反に対し予め法第三三条による改善命令を発することなく、直ちに事業停止一五〇日を命じた処分は必要性と従来の行政措置との公平性を欠き妥当な処分とは言い難いので、取消しを免れないものというべきである。

すなわち、

1、原告は昭和三〇年四月八日自動車三台について事業の譲渡を受けその認可後数回に亘り増車を受け、現在四九台の車輛を以て長年間に亘り営業を続け、その間数回に亘つて当局の監査を受けたが違反事項とてなく適正な運営を続け運送に関する秩序を守り、社会的信用を得て公共の福祉の増進に寄与しており、現に運転手一〇六名、事業員一〇名を雇傭しているものであつて、特に一般業者に対するものよりも不当に重い処分を受ける事情はなかつた。

2、法第三三条によれば運輸大臣は自動車運送事業者の事業について、公共福祉を阻害している事実があると認めるときは、各種の事項に亘り事業改善命令をすることができると規定され、重大な違反事項についても先づ改善命令を以て是正せしめることを前提とし、これによつても、尚改善の実がみられないときに初めて事業停止又は免許取消等の重い処分をなされることが法の趣旨と解される。

従来も業者の違反事実が発見された場合においては、何れも先づ改善命令をなし、これが効果の見られないときに初めて処分がなされ、しかもその処分は一部車輛の使用停止に止つているのが実情である。行政庁の自由裁量が認められる場合においても法に適合したものでなければならずしかも公共の目的に適合あるものであることを必要とし、これに反する処分は完全にその効力を生ずるものでないことは言を俟たないところである。

ところが原告に対しては事業改善命令の措置を経ず直ちに事業停止一五〇日の重い処分をしたことは著しく法の趣旨に反し、従来の措置と異つて不当に重く著しく公平に反するもので違法といわざるを得ない。

3、前記の如き重い処分がなされたことについて原告の元代表取締役打越信夫が打越会々長であつたことが関連するものと思われる事情があるが、右打越信夫は従来事業の運営上形式的ながら過誤のあつたことを深く反省し、昭和四二年八月二八日代表取締役を辞任して経営から一切の関係を絶ち、同月二六日打越会をも解散して組関係と絶縁し、原告は面目を一新したものである。

四、原告が一五〇日間の事業停止をするにおいては収入の途を断たれ遂には倒産に至ることが必至であり、かかる事態を見るときは別紙債権者表のとおりの善意の多数債権者に、多大の迷惑を及ぼし、多数従業員及びその家族の生活の資を奪うこととなり、原告としては、社会的信用の失墜と多大の財産上の損害を蒙ることとなり、どの面からみても回復し難い損害を蒙ることとなることは明白である。

五、原告に対する本件違反についての処分は長年に亘る経営の実績努力と多額の投資を一挙にして覆えされるような重い処分を避け、改善命令に止められ、以て将来の適正な運営を期せしめ、かりにこれが認められないとしても一部車輛についての短期間の使用停止処分に止められるのが至当である。

六、道路運送法違反事件に対する陸運局従前の処分を観るも本件の如き苛酷なる処分の例は絶えて無く、広島陸運局管下従前の行政処置中昭和三八年及同三二年の二回に亘る業界再編成についての著名な行政処置をみても幾度か指導警告改善命令等重ねなお改善見込みなき業者に対してすら強権発動することなく説得了承の下に自発的減車を促す等温情ある配慮が行われ円満に行政所期の目的を収めて居る。

本件の処分経緯を観ると指導警告改善命令の指導官庁として当然為すべき手続をふむことなく併も前叙の如く既に改善の実を収めて居る業者を極端なる重罰を以て処分することは従前の行政に比し全く異質的態度と謂わざるを得ず何を以て斯る処分に出でたのか到底首肯し得ないところであつて、憲法の所謂法の平等の原則に反するものと考へる。

七、又、本処分に際り、陸運局は処分命令書と同日附で且同時に警告書を発して居るが処分と同時に警告書を交付するが如きは未だ曽てない処遇であり到底理解し得ない許りでなく、聴問会開催の結果同警告書摘示1項を除き2乃至14項は完全に改善されて居るに不拘斯る過去の違反事実を例示し今なお改善せられざるが如く故意に粉飾しようとするものという以外にはなく、重罰処分に先行すべき手続の意義を無視し徒らに処分の為めの処分の観を深からしめることは極めて遺憾である。

八、更に、警告書、処分書の対象者表示を観ると、代表者の表示を欠いて居るが、理論的には対象者を特定するを以て足るとはいへ代表者を併せ掲記し文書受領者等をも明かにすることは蓋し文書の重要性に照して当然なすべきこと裁判文書の例に照すまでもないことと考へるところ、内容に於て裁判以上とも謂うべく且又即時発生に等しい効力を伴う処分文書を安直に作成取扱うところに指導を本旨とすべき職責を忘れ処罰官庁の如く錯覚して事案処理に当つたのではないかとすら考察せざるを得ないし、既に代表者交替して居る為め前代表者表示を為し得ず、新代表者を表記することは一部改善を承認したことになり重罰処分の文書内容と不均衡となることを慮り故意に回避したのではないかとさへ推測する余地がある。

よつて本訴請求に及んだ。

別紙(二)

意見書

本件申請は却下されるべきものと思料する。

理由

一、本件処分(事業停止命令)は正当である。

(一) 本件処分に対する取消の訴は、原則として、裁決を経た後でなければ提起できないものであり(道路運送法一二一条)また、本件について、裁決を経ないで取消の訴を提起しうるような緊急性等も特に明らかにされていないから(行政事件訴訟法八条二項)、本件処分に対する取消の訴は不適法というべく、従つて、本件申請も却下されるべきものである。

(二) 昭和四二年七月二六日実施した申請人に対する監査並びに同年八月二九日実施した道路運送法(以下「法」という)第一二二条の二の規定に基づく聴聞の結果は、監査結果報告書(疎乙第一号証)並びに聴聞状況書(疎乙第二号証)の記載のとおりであつて、事業停止命令書(疎乙第三号証)記載の違反事実が確認された。この多数の違反事実は、特に悪質なものと認められたため、法第四三条の規定に基づき事業の停止(百五十日間)を命じたもので、この処分はもとより正当である。すなわち

1 申請人は輸送秩序の維持並びに自動車の点検、調整の場として最も重要な事業施設であるべき自動車車庫をビル建設のため無認可で廃止していた。また申請人はこれに代つて実質上の車庫および点検施設として庚午北町十丁目二〇番地の借地を使用していたというが、自動車車庫は、車庫以外の施設と明瞭に区画されているとともに自動車の仕業点検並びに当該自動車の清掃及び調整が実施できる充分な広さおよび諸設備を有していなければならないにもかかわらず、これは、上屋もない単なる遊技場の前広場であり、かつこの遊技場とは一体をなすものである。したがつて自動車車庫として充分な機能を発揮し得るものではなく、仕業点検ならびに定期整備が充分行なわれていなかつた事実は、法に定められた自動車車庫とは異質のものであるといわなければならない。かゝる行為が独善的に行なわれていたことは輸送の秩序と安全性の確保の観点から重大である。

2 右に述べた如くこの多数の悪質な違反事実は、道路運送に関する秩序を混乱させ公共の福祉を著しく阻害すると認めたため改善命令をまたずに事業停止処分を行なつたものである。法第三三条(改善命令)及び第四三条(免許の取消等)の規定は、その趣旨からして各々独立したものであつて、法第三三条は同法第四三条の手続規定ではなく、改善命令がいかなる処分に対しても先行しなければならないわけのものではない。

したがつてこの種の処分は数多くの事例もあり、申請人の指摘する改善命令が処分に先行して行なわれなかつたことによる違法性は存しない。

3 本件処分にあたつて改善命令(疎乙第四号証)を併せ行なつたのは、一に列挙した多数の違反は輸送の秩序と安全を著しく阻害するおそれがあるため、単に形式のみの是正で実質が伴わず、完全に改善が実施されないならば、当該事業の健全な運営の継続は不可能と判断したもので、かかる事例は数多くある。

したがつて申請人の指摘するように過去の違反事項を例示して故意に紛飾し、処分のために処分したものではない。

二、本件申請は「処分の執行により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」には当らない。

申請人は、本件申請において、(イ)判決があるまで申請人の事業を停止するにおいては、収入の途を断たれ、倒産するおそれがあること、(ロ)多数の債権者に迷惑を及ぼすこと、(ハ)多数従業員及びその家族の生活の資を奪うこと、(ニ)社会的信用の失墜と財産上の損害を蒙ること、を主張されている。

しかし、「処分の執行により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」とは、原状回復不能の損害のみを指すものではなく、金銭賠償不能の損害をも含むものであつて(最高裁昭和二七年一〇月一五日判決、民集六巻九号八二七頁)、その損害は、申請人自体について生ずることを要し、第三者の蒙る損害を含まないものである(東京地裁昭和三〇年一二月一九日決定、行集六巻一二号二九六一頁、甲府地裁昭和三一年三月一五日決定、行集七巻三号六六七頁、甲府地裁昭和三二年六月一四日決定、行集八巻六号一一三四頁、秋田地裁昭和三三年一月二七日決定、行集九巻一号九〇頁、大阪地裁昭和三六年一一月一七日決定、行集一二巻一一号二三一二頁、広島地裁昭和三七年一一月六日決定、行集一三巻一一号二〇九〇頁)。

ところで、申請人の主張される(イ)の点(なお、事業停止の期間は、昭和四二年九月一九日から昭和四三年二月一五日までの一五〇日間であり、判決のあるまではない)は、得べかりし利益の喪失による損害であつて金銭をもつて償うことのできる損害であり、回復の困難な損害には当らないし、(ロ)及び(ハ)の点は、申請人自体に生ずる損害ではなく、第三者の蒙る損害であり、(ニ)の点も結局金銭賠償により償うことのできる損害であつて、回復の困難な損害には当らない。

三、本件処分の執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。

申請人の犯した道路運送違反事実は、極めて悪質なものであり、特に本件処分の事由とした違反事実の大半は、車輛管理上重大な影響のあるものであつて、もし本件処分の執行が停止されるならば、その間に事業停止期間は徒過し、結局において何らの処分もなされなかつたことになるが、かくては、道路運送法が事業停止命令を規定した趣旨が没却されることになり、また、他の運送事業者に遵法精神の欠如を来し、ひいては道路運送事業の適正な運営および道路運送秩序の維持をはかることができなくなるのみか、整備不良のおそれがある車輛が多数運行に供されることになつて、交通不安を惹起する結果となるから、本件処分の執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるといわなければならない。

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