大判例

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広島地方裁判所 昭和46年(モ)357号 決定

申立人 勝矢幸人 外五〇名

相手方 カネミ倉庫株式会社 外四名

主文

一、当庁昭和四六年(ワ)第三五六号損害賠償事件につき、申立人松本敏男、同井上信江、同津村昭を除く申立人らに対し、訴訟上の救助(訴状貼用印紙を含む)を付与する。

二、申立人松本敏男、同井上信江、同津村昭の申立を棄却する。

理由

一、申立人らは、民訴法一一八条に基づき、本件に関する本案訴訟である主文第一項記載の事件の訴訟費用について、訴訟上の救助の付与を求めるものである。

二、そこで、本件申立が、同条に規定する要件に該当するかどうかについて審按する。

(一)  疎明資料によると、前記本案訴訟について、申立人らに勝訴の見込みがないとはいえないことが明らかである。

(二)  次に、申立人らが「訴訟費用を支払う資力なき者」に該当するか否かについて判断する。

(1)  右にいう訴訟費用を支払う資力がない者とは、貧困で自己及び家族に必要な生活を危くしないでは訴訟費用を支払うことができない者を指称すると解される。

しかし、右判断に当つては、救助の対象となる裁判費用のみならず、当事者費用やその他訴訟の遂行のために出費を余儀なくされる必要諸経費と申立人らの資産、収入および申立人らが特別に出費している生活事情(病気など)を比較衡量して判断すべきものであると解するのが相当である。

本件の場合、前記本案訴訟は市販のライスオイルを食用に供しカネミ油症が発生したといういわゆる公害訴訟であつて、原告のみならず、被告関係者も多数にのぼつている。原因と結果の因果関係の立証のためには多くの専門的鑑定や証言が必要とされ、そのためには当事者においても調査研究が必要であろう。要するに右本案訴訟はその遂行が極めて複雑困難な事件といわざるを得ず、したがつて申立人らにおいては専門的知識を有する弁護士をして訴訟遂行に当らしめなくては十分な訴訟活動を期待できないといつてよい。右の次第で、本案訴訟においては裁判費用や当事者費用が多額にのぼると予想されるのみならず、調査研究費用、通信連絡費用、弁護士費用なども相当の額にのぼることが予想される。

一方、疎明資料によれば、申立人らは、自己又は家族の右油症の治療や、栄養補強のため余分の出費を余儀なくされていることが認められる。

右の事情等に鑑みれば、申立人らのうち、大体年収(税込み)一五〇万円以下の者は、その家族構成に照らしても、その収入は自己及びその家族の生活費に費消してしまうか、なお若干の余剰があるとしてもその程度では本案訴訟の訴訟費用を十分に支払うことができないものと判断する。

(2)  疎明資料によれば、本件申立人のうち主文第二項掲記の者および川本為義を除く者は、いずれも年収が一五〇万円に満たないものであることが認められる。そして、川本為義は年収約一八〇万円を有するけれど、その妻川本佳美並びに同居する妻の母毛頭キヨコ(いずれも無収入)が同じように本案訴訟の当事者となつている関係から、年収一五〇万円に満たない者と同一に扱うのが相当である。従つて、本件申立人中主文第二項掲記の者を除く者は民訴法一一八条の訴訟費用を支払う資力なき者に該当すると考える。

(3)  次に、主文第二項掲記の者のうち、松本敏男は、年収が一五〇万円を大幅に超える者であり、津村昭は、年収一五三万余円のほか預金が三〇〇万円あると認められるので、申立人らの上申書によるも、いまだ訴訟費用を支払う資力なき者とは認め難い。

なお、井上信江については、同人は家庭の主婦であり収入はないけれども、夫啓三の年収が二〇〇万円を超えている。そして訴訟救助の付与は、自己又は家族の生活を危くする者について与えられるものであるから、逆にすくなくとも生計を同じくする親子夫婦の間において他に収入の多額な者がいる場合は、これを考慮して判断するのが相当というべく、そうすると同人もいまだ訴訟費用を支払う資力なき者とはいい難い。

三、以上により、主文第一項掲記の申立人らの本件申立を相当と認めて訴訟上の救助を付与することとし、同第二項掲記の申立人らの本件申立は失当であるからこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 竹村寿 高升五十雄 井上郁夫)

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