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広島地方裁判所福山支部 平成4年(ワ)272号 判決

主文

一  被告らは、各自、原告福井京子に対し金六六二万〇七〇七円、その余の原告らに対し各金一四九万四一四一円及びこれらに対する平成二年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とし、参加によつて生じた費用は補助参加人の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、各自、原告福井京子(以下、原告京子という。)に対し金三五〇〇万円、その余の原告らに対し各金七〇〇万円及びこれらに対する平成二年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

平成二年五月二日午前一〇時三〇分ころ、広島県神石郡三和町井関一六八九番地川上正明方先路上において、被告福田申二(以下、被告福田という。)が、大型貨物自動車(福山一一さ三九六四。以下、加害車という。)に積載されているパワーシヨベル(以下、被害車という。)を降ろすため加害車の荷台を傾斜させたところ、被害車が加害車の荷台から滑落横転し、被害車に乗つていた福井弘二(以下、訴外福井という。)が加害車の下敷きになつて死亡した。

2  責任原因

(一) 被告福田について

被告福田は、加害車(最大積載量八二五〇キログラム)の荷台に最大積載量を超える重量の被害車(総重量約一四三〇〇キログラム)を積載し、当時、降雨のため加害車の荷台が濡れて滑りやすい状態にあり、しかも、被害車のキャタピラが左右それぞれ約二〇センチメートル加害車の荷台からはみ出していたにもかかわらず、南方向に約四度上がり勾配になつている本件事故現場に加害車を停車させたうえ、同所は地盤が軟弱で舗装されてないため加害車の車体が右に約六度傾いていたのに、漫然と加害車のアウトリガーのレバーを操作し、右前アウトリガーを約一三七センチメートル、左前アウトリガーを約一四〇・五センチメートルそれぞれ張出させ、加害車の荷台を後方に約一三度傾斜させた過失により、被害車を加害車の荷台から滑落転落させたものであるから、民法七〇九条の損害賠償責任がある。

(二) 被告児玉建設株式会社(以下、被告会社という。)について

(1) 自賠法三条の責任

〈1〉 被告会社は加害車を使用し、これを運行の用に供していた。

〈2〉 加害車はアウトリガー、荷台付の大型貨物自動車であり、アウトリガー、荷台は加害車の固有の装置である。

本件事故は加害車の本来の用途にしたがいアウトリガーを操作する作業によつて発生したものであり、右作業は加害車の走行に引き続き道路上で行われ、被害車の積み降ろし後直ちに他に走行する予定であつて、加害車の走行と時間的、場所的に接着しているから、本件事故は加害車の「運行によつて」生じたものである。

〈3〉 加害車の運転、アウトリガーの操作はいずれも被告福田の固有の作業であり、訴外福井が直接関与するものではない。

また、訴外福井と被告福田とは、被害車の運送の依頼主とその依頼を受けた被告会社の従業員という関係にすぎず、訴外福井は被告会社の従業員でもなく、訴外福井には、被告福田に指示を与えるなどして加害車の運行につき間接的にもコントロールしうる地位にはなかつた。

したがつて、訴外福井は自賠法三条にいう「他人」にあたる。

〈4〉 よつて、被告会社は自賠法三条の損害賠償責任がある。

(2) 民法七一五条一項の責任

被告会社は被告福田を雇用していたが、本件事故は被告福田が被告会社の業務に従事していた際の事故であり、右事故は前記のとおり被告福田の過失によるものであるから、被告会社は民法七一五条一項の損害賠償責任がある。

(3) 安全配慮義務違反

被告会社は訴外福井と被害車の運送契約を締結したものであり、右運送にあたつては被害車はもちろん訴外福井の安全に配慮する義務があるのにこれに違反したから、民法四一五条により、損害賠償責任がある。

(三) 被告児玉信二(以下、被告児玉という。)

被告児玉は、被害車が加害車の最大積載量を超える重量を有することを承知のうえであえて被告福田に加害車を運転して被害車を搬送するよう具体的な指示を与えているから、民法七一五条二項により、事業監督者としての損害賠償責任がある。

3  損害

(一) 訴外福井の損害

(1) 逸失利益 金六九三五万六九二七円

訴外福井は建設業を営んでおり、平成元年の所得は金六二一万四二九四円であつた。

訴外福井は死亡当時四二才であるから就労可能年数は六七才までの二五年間であり、生活費控除を三割とし、新ホフマン係数一五・九四四一により、訴外福井の逸失利益を算定すると、頭書金額となる。

(2) 慰謝料 金二五〇〇万円

(二) 相続

原告京子は訴外福井の妻、その余の原告らは訴外福井の子であり、訴外福井の死亡により、法定相続分にしたがい、原告京子は二分の一、その余の原告らは各一〇分の一の割合で、訴外福井の権利義務を相続した。

(三) 原告京子の損害

訴外福井の葬儀費 金一〇〇万円

(四) 弁護士費用

原告京子につき金二〇〇万円、その余の原告らにつき各金四〇万円

4  損害の填補

原告京子は被告会社から金一〇〇万円の支払を受けた。

5  よつて、原告らは被告らに対し、各自、右損害の内金として原告京子は金三五〇〇万円、その余の原告らは各金七〇〇万円及びこれらに対する本件事故の日である平成二年五月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2について

(一) (一)は争う。

後記のとおり被告福田には過失はなく、同被告の行為と本件事故との間には因果関係もない。

(二) (二)のうち、被告会社が加害車の使用者であること、被告会社が被告福田を雇用し、加害車による建設機械等の運搬に従事させていたこと、被告会社が訴外福井との間で被害車の運送契約を締結したことは認め、その余は争う。

(三) (三)のうち、被告児玉において被害車が加害車の最大積載量を超える重量を有することを承知のうえで被告福田に加害車を運転して被害車を搬送するよう具体的な指示を与えたことは認め、その余は争う。

被告福田に過失がない以上、被告児玉に事業監督者としての責任はない。

3  同3のうち、(二)の相続関係は認め、その余は争う。

4  同4の事実は認める。

三  被告らの主張

1  事故状況

(一) 被告福田は加害車を運転して本件事故現場に到着後、訴外福井の誘導により加害車を後進させて同人の合図により加害車を事故発生位置に停止させ、次いで、加害車から降りて加害車左側の運転席と荷台の中間にあるアウトリガー等の操作ハンドルの存する付近に移動した。

(二) 被告福田は右移動の際、加害車の停止位置は多少の勾配があり、加害車が少し傾斜していることを知つたが、アウトリガー調整レバーの操作により微調整することによつて平衡状態を保てると考えた。

(三) 被告福田は、訴外福井は加害車後方で誘導、合図した状態で待機しているものと考え、加害車のレバーを操作し、運転席を浮き上がらせ、後部荷台裏面部分の左右に付いている固定式アウトリガーを地面に着地させた。

ただし、この段階ではレバー操作は完了しておらず、アウトリガーの着地状況や傾斜具合等を確認しつつ微調整する作業が残されていた。

なお、右レバー操作中は、加害車のエンジン音のため周囲の音は被告福田には聞き取れない状況であつた。

(四) 被告福田は右レバー操作の最終段階において荷台上の被害車のエンジン音がしているのに気付き、初めて訴外福井が被害車に乗り込んでエンジンをかけて発進作業をしていることを知り、同時に、被害車のキヤタピラーが左右に振れるのが見えた。

そこで、被告福田は、訴外福井が被害車を降ろす作業をしているものと思い、誘導をしようと考え、加害車の運転席のほうに回つたと同時に、被害車が加害車の荷台から転落した。

2  本件事故と訴外福井の死亡との因果関係

訴外福井は被害車の運転席のドアを開いたまま被害車の運転を開始したため、被害車から外に放り出され、被害車の下敷きになつた。

仮に、訴外福井が右運転席のドアを閉めていたならば、被害車が転落しても訴外福井は被害車の下敷きになることはなく、したがつて、死亡することもなかつたから、本件事故と訴外福井の死亡との間には因果関係はない。

3  被告福田の責任

(一) 被告福田の業務は加害車に被害車を積載して現場まで行き、被害車を降ろせる状態にすることであり、その状態確定後の被害車の降車作業は訴外福井の業務である。

(二) しかも、パワーシヨベルは一般に車体重量が膨大であり、降車時に滑りやすいので、訴外福井としては、加害車のアウトリガーの接地状況等、降車の安全を確認した後に被害車に乗り込み、被告福田の監視、誘導を受けつつ、しかも、被害車が滑らないように被害車のブーム・アーム及びバケツト部分を滑る可能性のある加害車荷台右側部分へ回転移動させて地面に接地させたうえ降車させるか、あるいは少なくともバケツト部分を加害車の荷台部分に接着させてこれを支えとしてバケツトを徐々に前方(降車方向)へ移動させ、被害車の安全を確認しながら降車作業をすべきであつた。

したがつて、仮に、超過積載があるとしても、訴外福井においてこのような安全な降車運転をしていたら、滑落は回避可能であつた。

(三) しかも、訴外福井は二〇年にわたる重機オペレーター経験のある熟練者であり、被害車の重量が加害車の積載量を超過するものであることは充分に承知しており、被害車のキヤタピラーの一部が加害車の荷台からはみ出していて被害車の運転操作をしにくいこと、雨のために荷台が滑りやすいことも知つていた。

(四) 然るに、訴外福井は加害車の降車準備の完了前にその安全確認がされないまま、被害車に乗り込み、バケツトによる安定操作も行わずに被害車の前後進操作を行つたために、被害車のキヤタピラーが滑り、自重により車体が転落したものである。

(五) 右のとおり、本件事故は、訴外福井が安全を無視して無謀な運転操作をしたことによるものであり、被告福田には予測しえないものであるから、同被告には過失がなく、また、被告福田の行為と事故との間には法律上の因果関係もない。

4  被告会社の自賠法三条の責任

(一) 本件事故は、加害車の停車中に右車両に積載された被害車の降車作業の操作ミスによつて発生したものであるから、自賠法三条にいう「運行によつて」発生したものではない。

(二) 仮に「運行によつて」発生したとしても、被害車の加害車からの降車作業は被告福田と訴外福井との相互の誘導、監視のもとに行われるべき関係にある。

すなわち、訴外福井は事故現場において加害車を停車位置まで誘導しており、その後の加害車のアウトリガー等の操作段階においては加害車の平衡状態を補助的に監視すべき関係にあり、その後の被害車の運転操作段階においてはその運転は訴外福井において行うものであり、したがつて、いずれの段階においても、訴外福井は加害車の運転者である被告福田の運転補助者たる地位にあり、自賠法三条にいう「他人」とはいえない。

5  過失相殺

仮に被告らに損害賠償責任があるとしても、前記のとおり本件事故については訴外福井にも重大な過失があり、損害額の九割以上を過失相殺すべきである。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故状況等

証拠(甲第二、第四、第六ないし第九、第一三、第一四号証、被告福田)によれば、次の事実が認められる。

1  加害車は、車両重量一一四七〇キログラム、最大積載量八二五〇キログラム、長さ一〇・九メートル、幅二・四九メートル、高さ三・四五メートルの大型貨物自動車であり、前後左右に計四本のアウトリガーがあり(前側の左右二本は運転席と荷台との中間部の中央に位置する油圧伸縮式であり、後側の左右二本は荷台の底部に位置する固定式である。)、運転席と荷台の中間部にはアウトリガーの操作レバーがある。加害車の荷台は縦七・三メートル、横二・四メートル、高さ一・一五メートルの板張り敷で、前部の一部を除き、周囲には枠がない。

被害車は重量約一四三〇〇キログラム、長さ約八・三九メートル、幅約二・五三メートル、高さ約二・八メートルのパワーシヨベルで、キヤタピラーからキヤタピラーの全幅は二・八メートル、キヤタピラーの全長は三・七メートル、キヤタピラー一輪の幅は〇・八メートルである。

2  被告会社は土木建設業を営む訴外福井に圃場整備工事を下請けさせていたが、平成二年五月一日、訴外福井から、被害車を右工事現場へ搬送することを依頼されたので、被告会社の代表者である被告児玉は被告福井に、加害車で被害車を右工事現場に搬送するよう指示した。

なお、被告福田は被告会社の関連会社である有限会社三和工場(同社は被告児玉の義父が代表者であり、被告児玉も取締役になつている。)の従業員であるが、被告会社の仕事もしており、被告会社は加害車を建設機械等の搬送用に購入し、これをほとんど被告福田の専用として使用させ、被告福田はこれを双方の会社の仕事のために使用していた。

3  被告福田は被告児玉の前記指示にしたがい、翌二日午前一〇時ころ、神石郡三和町大字小畠の工事現場に加害車を運転して行き、同所で訴外福井が加害車の荷台に被害車を積載した後、被告福田が加害車を運転して出発し、訴外福井がジープを運転して後に続き、同日午前一〇時三〇分ころ、本件事故現場に到着した。

4  本件事故現場の地形及び被害車の転落位置は別紙現場見取図第2のとおりであり、現場は南北に通じる幅約四・六メートルのアスフアルト道路と右町道から北東に分岐する農道の交差点で、農道は右見取図の点線より西側部分はアスフアルト鋪装されていたが、右点線より東側部分は舗装されてなく、農道の舗装部分と非鋪装部分の境の部分の幅は約三・五メートルである。

町道は南から北に約四度の下り勾配になつており、農道は北東に向かつてやや上り勾配になつていた。

5  被告福田は訴外福井の誘導のもとに加害車を町道から農道にバツクで入れ、前記見取図に表示した場所に加害車を停車させたが、前記のとおり道路が傾斜していたため、荷台部分は進行方向に向かつて約六度右側に低く傾斜していた。

そして、被告福田は加害車から降り、前記見取図の〈2〉点に立つて加害車の運転席と荷台との中間部左外側にあるアウトリガーレバー等を操作して車両前側のアウトリガーを伸ばして運転席を持ち上げ、荷台後部を低くして荷台を傾斜させ、車両後側左右の固定式アウトリガーが地面に接地する状態になつた(その状態は別紙現場見取図第3のとおりであり、当時の加害車の荷台の傾斜角度は約一三度であり、前部右側のアウトリガーは約一三七センチメートル、前部左側のアウトリガーは約一四〇・五センチメートル伸びていた。)ので、レバーのアクセルを緩めた。

そのとき、被害車のエンジン音が聞こえたので、被告福田は、訴外福井が被害車に乗り込んでいるのに初めて気付き、被害車の降車を誘導しようとしたが、その間もなく被害車は加害車の荷台上を移動して転落し、訴外福井は別紙現場見取図第2の〈A〉点で被害車の下敷きになり、内蔵破裂等の傷害を受け、右傷害により同日午後〇時三〇分ころ死亡した。

6  本件事故当日は、加害車に被害車を積載したときから事故当時まで小雨が降つており、加害車の荷台は濡れて滑りやすい状態であつた。

7  事故当日午後一時三五分から同日午後四時二六分まで福山東警察署員により事故現場の実況見分が行われたが、その結果は次のとおりである。

(一)  加害車の荷台床面には中央部及び後部右側から右側鉄枠にかけて新しい擦過痕がみられ、荷台前部右側に位置する三角形の材木が事故前の位置から動いていた。

(二)  加害車の後側右側の固定式アウトリガーが接地していた部分の地面は約七センチメートル陥没していた。

(三)  被害車の運転席ボツクス内にある前後進レバーはニユートラルの状態であり、アクセルレバーもスローの状態で止まつており、スタータースイツチは切られていた。

(なお、右スタータースイツチは事故直後に被告福田が切つたが、その他の機器については右実況見分時まで誰も触れていない。)

(四)  被害車の運転席ボツクスへの出入口ドアは外に開いた状態であつた。

8  被害車の製作会社が作成した取扱説明書には、被害車の重量は一四トンあるから原則としてトレーラーで搬送すること、被害車の積降ろしは平坦な場所ですること、クレーン車での搬送はできるだけ避けること等が記載されている。

9  本件事故につき被告福田は業務上過失致死罪で略式起訴され、罰金一五万円の略式命令を受けた。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

二  本件事故の原因

前記認定事実によれば、加害車の荷台に積載された被害車の重量は加害車の最大積載量を超過しており、しかも、加害車の荷台の幅より被害車のキヤタピラの幅が広いため被害車のキヤタピラは加害車の荷台から約四〇センチメートルはみ出していたうえ、本件事故現場の地盤が傾斜していたため加害車の荷台は右側に傾斜していた等、加害車の荷台上の被害車はもともと不安定な状態であつたが、事故現場での加害車のアウトリガーの操作により加害車の荷台が傾斜したため被害車はますます安定性を損ない、さらに、折りからの降雨のため加害車の荷台が滑りやすくなつていたことも加わつて、被害車のキヤタピラが加害車の荷台上を滑走して外れ、転落したものと認められる。

被告らは、訴外福井が被害車の前後進操作を行つたために被害車のキヤタピラーが滑り、自重により車体が転落したと主張し、被告福田は本人尋問及び甲第六号証において、被害車のキヤタピラが左右に振れて転落したから、訴外福井は被害車のレバーを操作して前進させていたと思うとの趣旨を述べる。

しかし、前記認定によれば、転落当時、被害車のスタータースイツチは入つていたが、事故直後に行われた実況見分の際には被害車の前後進レバーはニユートラルの状態に、アクセルレバーはスローの状態にあつたのであり、これらに照らすと、転落前、訴外福井が被害車を走行させていたとは認められない。

三  本件事故と訴外福井の死亡との因果関係

被告らは、訴外福井が被害車の運転席のドアを開けたまま同車の運転席に乗り込んでいたことを前提に、訴外福井が右運転席のドアを閉めていたならば被害車が転落しても被害車の下敷きになることはなかつたと主張して、本件事故と訴外福井の死亡との因果関係を争う。

そして、本件事故後の警察の実況見分の際には被害車の運転席ボツクスへの出入口ドアは外に開いた状態であつたことは前記認定のとおりであるが、転落の際の衝撃でドアが開いた可能性も考え得るし、本件事故状況に照らすと、本件事故と訴外福井の死亡との間には相当因果関係があるというべきである。

四  被告らの責任

1  被告福田について

前記認定によれば、被告福田は本件事故現場で加害車の荷台に積載されていた被害車を降車させるために加害車のアウトリガーを操作して荷台を傾斜させる作業をしていたのであるが、被害車は加害車の最大積載量を超過する重量を有しており、加害車の荷台の幅より被害車のキヤタピラの幅が広いため被害車のキヤタピラは加害車の荷台から約四〇センチメートルはみ出しており、また、事故現場の地盤は傾斜していたため加害車の荷台は右側に傾斜する等、加害車の荷台上の被害車はきわめて不安定な状態にあり、しかも、折りからの降雨のため加害車の荷台が滑りやすくなつていたから、このような場合、被告福田としては、加害車の荷台上の被害車が滑走したりすることのないよう加害車の荷台及びその上の被害車の状況を確認しながら細心の注意を払つてアウトリガーを操作すべきであつたのにこれを怠り、漫然とアウトリガーの操作をしたもので、その結果、本件事故が発生したものというべきである。

したがつて、被告福田は民法七〇九条の損害賠償責任がある。

2  被告会社について

まず、自賠法三条の責任について検討する。

(一)  前記認定によれば、被告会社は加害車を所有し、これを自己のために使用していたものと認められる。

(二)  本件事故は加害車が走行停止の状態にあるときに発生したものであるが、加害車のアウトリガー、荷台は加害車の固有の装置に該当するものということができる。

そして、本件事故は、加害車の運転手である被告福田が、加害車の本来の用途にしたがい加害車のアウトリガーを操作して荷台を傾斜させていた際に発生したのであるから、自賠法三条にいう「その連行によつて」発生した事故と認められる。

(三)  被告らは、訴外福井は加害車の運転補助者であるから、自賠法三条にいう「他人」とはいえない旨主張する。

前記認定によれば、本件事故は、被告福田が加害車の荷台に積載された被害車を降車させるために加害車のアウトリガーを操作して荷台を傾斜させていた際に発生したものであるが、証拠(被告福田、弁論の全趣旨)によれば、加害車の荷台を傾斜させて被害車の降車が可能な状態にする作業は被告福田のなすべき作業であり、右作業については訴外福井はなんの指示もしておらず、指示をすべき立場にもなく、訴外福井と被告福田との間にはなんらの主従関係もなかつたことが認められ、これらに照らすと、訴外福井は自賠法三条にいう「他人」というべきであり、加害車の運転補助者とは認められない。

(四)  よつて、被告会社は自賠法三条の損害賠償責任がある。

3  被告児玉について

被告児玉が被告会社の代表者であることは前記認定のとおりであり、被告会社が被告福田を雇用していたこと、被告児玉において被害車が加害車の最大積載量を超える重量を有することを承知のうえで被告福田に加害車を連転して被害車を搬送するよう具体的な指示を与えたことは当事者間に争いがない。

そして、本件事故は被告福田が被告会社の業務執行中に生じたもので、かつ、右事故の発生につき被告福田に過失があつたことは既に認定判断したとおりである。

そうすると、被告児玉は民法七一五条二項の損害賠償責任がある。

五  過失相殺

本件事故当時、被告福田は加害車のアウトリガーを操作して加害車の荷台を傾斜させる作業をしていたのであるが、被害車の重量が加害車の最大積載量を超過していることや事故現場の地盤の傾斜等のため加害車の荷台に積載されていた被害車はもともと不安定な状態にあつたところ、右作業により被害車の安定性はより一段と損なわれ、被害車のキヤタピラが加害車の荷台上を滑走して外れて転落したことは前記認定のとおりであるところ、右滑走転落の危険については訴外福井も予測し得たものと認められるから、訴外福井としては、被告福田による加害車のアウトリガーの操作作業が完了するまで被害車に乗り込むことを差し控えるべきであったと考えられる。

ところが、訴外福井は右作業が完了するより前に被害車に乗り込んでいたことは前記認定のとおりである。

とすると、本件事故については訴外福井にも相当程度の過失があり、その過失割合は八割とみるのが相当である。

六  損害

1  訴外福井の損害

(一)  逸失利益

証拠(甲第三、第一五、第一六号証、原告京子)及び記録に編綴された訴外福井を筆頭者とする戸籍謄本によれば、訴外福井は本件事故当時四二才の健康な男子であり、個人で土木建設業を営み、平成元年分の事業所得を金四三一万九二九四円と申告していたこと、訴外福井とその妻の原告京子との間には五子(原告京子以外の原告)がいるが、本件事故当時、原告綾美(長女)は原告惠志(訴外福井と原告京子の養子)と婚姻し、原告由美技(四女)も婚姻し、原告朋美(二女)と原告奈美技(三女)は専門学校等に通つていたことが認められる。

右の事実によれば、訴外福井は本件事故により死亡しなければ六七才まで二五年間就労可能であり、その間、年間金四三一万九二九四円の収入を得ることができたと推認され、控除すべき生活費は三割とするのが相当である。

そこで、以上に基づき、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して訴外福井の逸失利益の事故時の現価を算定すると、次の算式のとおり金四八二〇万七〇七八円となる。

四三一万九二九四円×〇・七×一五・九四四一=四八二〇万七〇七八円

(二)  慰謝料

金二〇〇〇万円が相当である。

2  相続

訴外福井の損害は合計金六八二〇万七〇七八円となるところ、原告京子は訴外福井の妻、その余の原告らは訴外福井の子であり、訴外福井の死亡により、法定相続分にしたがい、原告京子は二分の一、その余の原告らは各一〇分の一の割合で訴外福井の権利義務を相続したことは当事者間に争いがないから、原告京子は金三四一〇万三五三九円、その余の原告らは各金六八二万〇七〇七円相続した。

3  原告京子の損害

弁論の全趣旨によれば、原告京子は訴外福井の葬儀を主宰し、相当額の費用を出捐したものと認められ、葬儀費は金一〇〇万円が相当である。

4  以上によれば、原告らの損害は、原告京子につき金三五一〇万三五三九円、その余の原告らにつき各金六八二万〇七〇七円であるが、前記説示にしたがつてその八割を過失相殺する(原告京子固有の損害についても公平の見地から訴外福井の過失を被害者側の過失として考慮し、同割合で過失相殺するのが相当である。)と、残額は原告京子につき金七〇二万〇七〇七円、その余の原告らにつき各金一三六万四一四一円となる。

七  損害の填補

原告京子が被告会社から金一〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、これを原告京子の前記損害額から控除すると、原告京子の残存損害額は金六〇二万〇七〇七円となる。

八  弁護士費用

原告京子につき金六〇万円、その余の原告らにつき各金一三万円が相当である。

九  結論

以上によれば、被告らは、各自、本件損害賠償として原告京子に対し金六六二万〇七〇七円、その余の原告らに対し各金一四九万四一四一円及びこれらに対する本件事故の日である平成二年五月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある(なお、原告らは被告会社に対しては民法七一五条一項、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償も求めているが、被告会社に右責任があるとしても、賠償すべき損害額は異ならないから、右請求については判断の必要がない。)。

よつて、原告らの請求を右の限度で認容し、原告らのその余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、九四条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川昭)

現場見取図第2現場見取図第3

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