大判例

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広島家庭裁判所 昭和62年(少)2732号 決定

少年 N・T(昭46.5.15生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、盲・ろうあ児施設社会福祉法人○○学園に入園中の者であるが、昭和62年10月10日夕方頃、指導員らの目をぬすんで無断で同学園をぬけ出して実父の居住する広島県安芸郡○○町○○町付近に赴き、

1  同日午後5時25分頃、同郡○○町○○町×番××号メッキ工場○○商店物置場(A管理)の窓から故なく内部に侵入したうえ、そこにあった机の引出しの中にライターがあるのを発見するや、これで火をつけて付近の物や建物を燃やそうと考え、近くにあった紙片相当量を壁際の床の上に置き、別の紙片に上記ライターで点火し、これで床の上に置いた紙に火をつけて燃えあがらせたうえ、これから土台木やベニヤ壁板、角柱へと燃え移らせ、よってその頃前記A所有の現に人の住居として使用していない木造スレート葺工場の一角にある物置場部分(延面積約21.6平方メートル)を全焼させてこれを焼燬し

2  引き続き同日午後5時30分頃、同町○○町×番××号株式会社○○鉄工所の元寄宿舎(B管理)2階に故なく侵入し、前同様の意図のもとに、同所2階奥10畳間において、近くにあった紙片に前記ライターで点火したうえ、これを同所南側押入れ内の布団の下に入れて布団を燃えあがらせ、更にこれから同押入れ天井板などに燃えうつらせ、よってその頃前記海南鉄工所所有の現に人の住居として使用していない木造セメント瓦葺2階建寄宿舎、2階部分(延面積約32.04平方メートル)を半焼させてこれを燃燬したものである。

(適用法令)

刑法130条前段、109条1項

(処遇の理由)

1  少年は、幼時からの高度神経性難聴のため言語機能に高度の障害があり、精神発達の遅滞が著しく、理解力、判断力も極めて劣っており、中度級の精神薄弱で、総じてその精神年齢は5歳程度に相当すると認められる。

2  少年は、3歳頃から父母の不和、協議離婚、母の所在不明等による家庭崩壊のために乳児院に預けられ、5歳頃以降現在に至るまで前記○○学園に入園してそこを生活の本拠としてろう学校に通学するようになった。しかし入園当初頃から火遊びの兆候がみられ、更に盗癖も現われたが、12歳頃(昭和60年頃)から弄火がひどくなり、火災事件を頻繁に起すようになった。特に、昭和61年8月に実父の稼働先である岩国市内の飯場に一時外泊中に惹起した倉庫放火事件が当庁に係属した際には、家庭裁判所調査官も事実上参加して関係機関による対策委員会が設けられ、少年の問題行動改善と治療のために協議し、種々の方策が試みられて、一時その効果が現われるやにみえたため、該事件は審判不開始により終局したが、少年の前記身体的、精神的負因のために所期の効果が必らずしも十分にあがらず、本件非行に至ったものである。

3  少年が本件のような非行を起すに至る心理的動因等については、少年との意思疎通方法や少年の理解力、表現力が極めて限られているため、しかく明瞭ではないが、周囲の状況から推測するに、うっ積した愛情欲求不満が何らかの外部的状況(例えば信頼する指導員の不在、他児の一時帰宅等に触発された淋しさ等)をきっかけとして少年の心理状態を著しく不安定にし、無断外出などの行動に走らせたうえ、その欲求不満を解消するために火を弄び、ついには建物に火を放つに至るものと考えられる。

このような少年の行動傾向に対し、保護者である父親は、終日酒びたりで入退院をくり返し、その監護能力はなきに等しい。そして○○学園側においても、事犯の重大性や少年の問題性の深刻さからして既に福祉施設としての対処の限界を超えていることを自覚し、何らかの強制的措置を伴った矯正教育に委ねるほかないと考えている。

4  少年の資質、能力から考えると、その問題行動ないし非行性の改善、矯正の方法があるか否かについて疑問の余地がないではないが、しかし最近の行動心理学上の知見、研究によれば、この種弄火に対する行動療法の方途がない訳ではなく、少くともその考え方などを参考にして何らかの訓練、教育を施し、治療の手がかりとすることが充分考えられることが認められる

5  以上の事情を総合すると、少年に対してはこれを医療少年院に送致して適切な治療、教育を受けさせるほかないと思料する。そして、その処遇については、少年との意思疎通及び人間関係形成の困難さと、前記問題行動の治療についての専門的、個別的対応の必要から、現時点において望み得る限り、人的物的に十全の対応が可能な施設を選択されるように関係機関の特段の配慮を望みたい。よって少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 藤戸憲二)

〔参考1〕少年調査票

少年調査票〈省略〉

犯罪事実

被疑者は、ろうあ児施設、社会福祉法人○○学園に入寮中の者であるが、昭和62年10月10日ほかの園児が、外泊しているのに、自分は外泊することができないなどの理由から指導員の隙をぬすんで、無断外出し、実父の住む安芸郡○○町○○町にむけ自転車にて帰宅したが、留守であったため、勝手に自からを父はかまってくれないと思い込み、そのうつ憤を晴らすため

(一) 同日午後5時25分ころ、ネジなどの工具を盗む目的をもって、安芸郡○○町○○町×番××号○○商店A管理にかかる物置場の窓から故なく侵入し、同所において、北側壁に接して置かれていた、机の引出しを物色中のところ、ライターをみつけ、火事になれば気が休まると考え、机上の紙片を同所付近の土台木のところに置いて、これにライターで点火して放火し、右紙片を燃え上がらせ、右物置場土台木から角柱に燃え移らせ、よって間もなく、同人が所有する、現に住居として使用しない、木造スレート葺トタン壁の工場(延面積123.7平方メートル)の一角にある物置場(延面積21.6平方メートル)を全焼させて焼燬し

(二) 更に同日午後5時30分ころ、安芸郡○○町○○町×番××号株式会社○○鉄工所B所有管理にかかる、空家となる元寄宿舎2階部に故なく侵入し、火をつけたことを確認するためと火事になると気が休まるという考えから、2階部北側奥10畳間内、南側押入れ上段の布団にむけて、付近の紙に所携のライターで点火して、これを布団の下に入れて放火し、右布団を燃え上がらせて、右押入れベニヤ板に燃え移らせよって、間もなく現に住居として、使用していない木造瓦葺2階建の元寄宿舎2階部(延面積311.04平方メートル)を半焼させて、焼燬した

ものである。

〔参考2〕鑑別結果通知書〈省略〉

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