大判例

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広島高等裁判所 昭和24年(う)473号 判決

被告人

名持盛正

外一名

主文

被告人森田留次に対する原判決を破棄する。

原判決中被告人石持盛正に関する部分(無罪の部分を除く)を破棄する。

被告人石持盛正を罰金弐万円に、被告人森田留次を罰金壱万五千円に各処する。

被告人石持盛正及び被告人森田留次において右罰金を完納することができないときは金弐百円を壱日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

押収に係る証第四号の映画フイルム二卷はこれを沒収する。

原審における訴訟費用は被告人森田留次の負担とする。

被告人石持盛正が、昭和二十四年四月二十日頃芦品郡府中町大字府中旅館恋しきに於て北川実夫外五名位の観覧する場所に男女交媾の情景を撮影した猥褻の映画二卷を公然映写陳列したとの公訴事実及び同被告人が同年五月七日頃福山市二之丸町映画常設館日米館裏二階に於て小埜信男外四名の観覧する場所に前記猥褻映画二卷を公然映写陳列したとの公訴事実については孰れも被告人石持盛正は無罪。

理由

被告人石持盛正の弁護人安岡静四郎の控訴趣意第一点について。

刑法第百七十五条の猥褻の文書、図画其の他の物を陳列する犯罪は風俗を害する犯罪であるから、その陳列が秘密に行われた場合は未だ風俗を害する結果を生ずるものと云い得ないので、公然陳列した場合にのみ右犯罪が成立するものとしておるのである。而して原判決が被告人石持盛正に対する犯罪として判示第一、第四に於て認定した事実は「第一、被告人石持盛正は昭和二十四年四月二十日頃芦品郡府中町大字府中旅館業恋しきに於て北川実夫外五名位の観覧する場所に男女交媾の情景を撮影した猥褻の映画二卷を公然映写陳列し、第四、同被告人は昭和二十四年五月七日頃福山市二之丸町映画常設館日米館裏二階に於て小埜信男外四名の観覧する場所に前記猥褻映画二卷を公然映写陳列した」と云うのであるが、当審で行つた検証の結果によれば右判示第四の犯行場所である福山市二之丸町映画常設館日米館裏二階は客の観覧席とは全然別に設けられた通路を進み、そこに設けられた木製の梯子段を上り更に板戸を開けて這入る仕掛けになつていた二階約四疊半の部屋でその部屋の四囲は総てラツクス又はベニヤ板張りとなし、観覧席は勿論他とは全く遮断せられた裏二階の部屋であり、又判示第一の犯行場所である芦品郡府中町大字府中旅館恋しきの離れ座敷は同旅館福本館裏の高さ土塀又は板塀にて外部と完全に遮断されておる庭園内に右本館から二十五米を距て樹木に遮蔽された場所にある六疊と三疊二間の離れ座敷であることが認められ、当審で取り調べた証人小埜富男に対する尋問調書及び原審第四回公判調書中被告人石持盛正の供述記載によれば、右判示第四の日米館裏二階の犯行は、夜間の映画興業を終り客の立ち去つた後被告人石持盛正が前記日米館裏二階の部屋の入口及び窓を全部密蔽し、外部から窺うことも又這入ることもできないようにして右部屋に於てかぎられた特定の知友五名に本件エロ映画を秘かに映写観覧さしたものであること、又当審で取り調べた証人北川実夫、同土井キクヨに対する各尋問調書、検察事務官に対する藤沢チヨノの第一回供述調書及び原審第二回公判調書中被告人石持盛正の供述記載によれば、判示第一の旅館恋しきの離れ座敷の犯行は被告人石持盛正が同旅館に同宿した知人の藤井某、鳥貝某及び同旅館の女将部屋つきの仲居、同旅館の女将より無理に依頼された北川実夫並びに被告人石持盛正が連れていた女都合六名のかぎられた特定人に対し夜間前記離れ座敷の障子及び障子襖を閉め外部に知れぬようにして本件エロ映画を秘かに映写して観覧さしたものであることが各認められるのであつて、右は孰れもその映写の行われた場所は、外部との交通が全く遮断された部屋であり、しかも襖、障子、入口を閉める等外部から窺い知るを得ざるようにした上、知人とか又は特別の関係あるかぎられた特定の僅か一六名の極く少数の者に対し夜間秘かに映写観覧さしたものである点からみて判示第一、第四は未だ公然陳列したものと云うことができないものと云うべきである。然るにこれを公然陳列したものとして、有罪の認定をした原判決にはこの点に於て事実の誤認があり、そしてその誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから爾余の判断をする迄もなく被告人石持盛正に対する本件控訴は理由があるので刑事訴訟法第二百九十七条、第三百八十二条に則り原判決中同被告人に関する部分(但し無罪の部分を除く)はこれは破棄する。

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