大判例

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広島高等裁判所 昭和28年(う)744号 判決

主文

原判決中被告人水野義則に関する部分を破棄する。

被告人水野義則を罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

右被告人に対しては、公職選挙法第二五二条第一項の規定を適用しない。

原審証人尼塚末吉、加藤与作、同吉村甚吉、同盛岡幹造、同牧野〓枝、同徳崎好夫、同天野誉祐、同台寿治、同大久保正登、同北村節夫、同大横田義雄、同小林敏雄、同土井ツネ、同橘三郎、同尼子三郎、同増田祝一、同松永博士、同平崎源平、同今田寿盛、同湊政一、同中邑元に支給したものは、原審相被告人等との連帯負担とする。

被告人水野義則を除くその余の被告人等に対する検察官の控訴並びに同被告人等の各控訴はいずれもこれを棄却する。

理由

検察官坂本杢次、弁護人牧野良三、同田坂戒三、同永井貢、同鈴木惣三郎の各控訴趣意は、記録編綴の各控訴趣意書(但し、田坂、永井、鈴木各弁護人の分は右三名連名のもの)記載のとおりであるから茲にこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一、弁護人牧野良三の控訴趣意について

一般政治活動と選挙運動と区別せらるべきものであつて政治活動即選挙運動となるものではなく、選挙運動とは、一定の選挙につき一定の議員候補者を当選させるために投票を得若しくは得させるにつき直接又は間接に有利な周旋勧誘その他諸般の行為をすることを指称するのであつて、当該特定の選挙と密接に結合している場合でなければならないことは所論のとおりである。又本件「砂原格幟町学区後援会」なるものは、本来的、終局的には幟町小学校の復興整備発展を所期したものであることも所論のとおりであろうけれども、右の所期の目的を達成するが為には砂原格を来るべき総選挙において衆議院議員に当選せしめ、以て同人の政治力を一層活溌ならしめることが必要且つ有利であるとの意図の下に、同選挙において立候補の意思を有した砂原格の当選を当面の目的として結成されたものであることは、近く総選挙の施行されることがほぼ確定的に予想されるに至つた昭和二七年七月二七日に創立されたこと、同年八月二八日衆議院が解散され砂原格が立候補の意思を正式に表明するや急拠規約を変更して政治運動を為し得る政治結社に切り替えようとしたことなどその他原判決挙示の被告人滝川正一、同檜垣新兵衛、同保本邦三、同水野義則、同浜田増義の検察官に対する各供述調書の記載等に徴し明らかなところである。そして本件は右総選挙において同人に当選を得しめる目的を以てその投票獲得のため同小学校のPTAに属する選挙人多数に対し饗応したものであることは後記説明のとおりであるから、これを以て選挙運動とは全く関係のない単なる政治活動に過ぎないものと認めることは到底できないのである。それ故論旨は理由がない。

二、田坂、永井、鈴木弁護人連名の控訴趣意中(甲)理由不備の第一点A及び同第二点の一について

証拠の標目を挙示するには必ずしもその犯罪の内容を為す個々の行為について逐一これに該当する証拠を各別に挙げる必要はなく、記録と照し合せて見ればどの証拠でどの部分が認定されたか明白であるときは、一括して挙示するも何等刑事訴訟法第三三五条第一項に違反するものではない。そして本件はその挙示の証拠を記録と照し合せて見れば右は自ら明白なところであるし、又証拠の標目だけを挙示するを以て足るとする現行法の下においては、その挙示した証拠に判示事実に符合した部分と符合しない部分があるときは、その符合した部分を採用し符合しない部分は罪証に供しない趣旨と解すべきものである。そして右のような証拠の取捨選択は事実審の裁判官の自由裁量に任かされているところであつて、経験則に反しない限り何等違法ではない。従つて以上の点を捉えて理由不備又は理由のくいちがいがあるというのは当らない。論旨は理由がない。

三、同上の控訴趣意中、右二に記載した部分を除いた以外の部分(審理不尽、事実誤認、理由不備、法令適用の誤)について

しかし、原判決挙示の証拠を綜合すれば、原判決摘示の事実を各認めることができる。所論の「砂原格幟町学区後援会」なるものの性格及び目的等については前記牧野弁護人の論旨に対する判断において示したとおりであつて、同会は砂原格の当選を当面の目的として創立されたものであることは否定し得ないところである。そして本件饗応は来るべき総選挙において立候補の意思を有していた砂原格に当選を得しめる目的を以てその投票獲得のために為されたものであり、且つ判示第一の饗応には砂原格及び同人の妻久子も共謀加担していたものであることは、前掲証拠並びに右証拠により認め得るように、七月二七日の創立総会の打合せ会は右砂原方において開かれ同夫妻もこれに参加し、その際妻久子は「酒位は寄附する」と申したこと、同日の創立総会の席上には同夫妻も出席して挨拶並びに接待したこと及び当日の酒代は右砂原において負担支払つたこと等の事実に徴しこれを認めるに十分である。なお前記証拠並びに原審証人加藤タマヨの証言、同滝川正一に対する裁判官の尋問調書の記載によれば、判示第一の清酒及び折詰料理は砂原方より提供賄われたものであり、又判示第二のビール及び突き出しは被告人等の出捐によつて賄われたものであつて、当日会費名下に徴収した金員は、いずれも右以外の使途に充てられたものであつて本件の飲食費用に支弁されなかつたものであることが認められるから、原判決がこれを区別して控除等しなかつたのは当然であつて所論のような違法の点はない。又公職選挙法第二二一条第一項第一号の饗応罪の成否は一に饗応者の目的意思の如何により決すべきものであつて、被饗応者の知情の如何により左右されるものではないから(昭和一七年(れ)第一四六五号同一七年一一月一九日大審院判決参照)被饗応者の知情の点につき証拠を欠くとするも何等本件饗応罪の成立に消長を来たすものではない。

以上要するに、記録を調査するも、原判決には所論のような審理不尽、事実誤認、理由不備、法令適用の誤等はない。論旨は理由がない。

四、検察官の控訴趣意第一点(法令適用の誤)について

原判決は国家公務員法第一〇二条による人事院規則一七―四第五項第一号の「特定の候補者」の意義につき、所論摘示のように説示して結局被告人水野義則に対する同法違反の点につき無罪を言渡したことは所論のとおりである。しかし公務員が公選の選挙において特定人を候補者として支持しその者のために政治的行為をするが如きことは、その特定人が立候補の届出をしたと否とにかかわらず常に中立性を維持すべき公務員の本質に反するものであつて同条の精神に背反するものというべく、従つてこの種の行為は立候補届出後のものに制限すべき合理的理由はないから、前記「特定の候補者」中には立候補の届出をした候補者のみならず、未だ立候補の届出はしないが立候補しようとする特定人をも含むものと解するのが相当である。従つて原判決には所論のように法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明白であるから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

五、同上の第二点(量刑不当)について(但し水野被告を除く)

記録に現われた事実により本件の情状を検討するに、被告人等が判示の地位を利用し本件のような違反行為に及ぶに至つたのは、その罪責もとより軽くないものがあるけれども、しかし本件はもともと被告人等において私利私慾を図るの動機に出たものではなくして一に幟町小学校の復興、整備等を念願するの熱意の余りに出たものであつて、情状憫諒すべきものがなしとせず、その他各般の事情をかれこれ勘案するときは、原判決が被告人等に対し所論の罰金刑に処し、且つ公職選挙法第二五二条第一項の規定を適用しない旨を宣告したのは相当であると認められ、必ずしも所論のように科刑軽きに失するものとは認められない。論旨は理由がない。

よつて被告人水野義則に対する検察官の控訴は理由があるから刑事訴訟法第三九七条により原判決中同被告人に関する部分を破棄し同法第四〇〇条但書に従い当審において自判し、又右被告人を除くその余の被告人等に対する検察官の控訴及び同被告人等の各控訴はいずれもその理由がないから、同法第三九六条に従いこれを棄却すべきものである。

被告人水野義則の本件の罪となるべき事実は、原判示第一の冒頭に「被告人水野義則は国家公務員(広島幟町郵便局長)なるところ」と附加する外原判示第一事実と同一であり、又その証拠の標目も原判決記載のとおりであるから各これを引用する。

右被告人の所為は、昭和二七年法律第三〇七号改正公職選挙法附則第四項、右法律改正前の公職選挙法第一二九条、第二三九条第一号、第二二一条第一項第一号、刑法第六〇条、国家公務員法第一一〇条第一項第一九号人事院規則一四―七第五項第一号に各該当するところ、右は一個の行為にして三個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段第一〇条により最も重い国家公務員法違反罪の刑に従い、所定刑中罰金刑を選択し、その範囲内で同被告人を罰金一万円に処し、情状により公職選挙法第二五二条第三項に従い右被告人に対しては同条第一項の規定を適用しないこととし、なお罰金不完納の場合における労役場留置につき刑法第一八条原審における訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項に各則り主文のとおり判決する。(昭和二九年五月一四日広島高等裁判所第四部)

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