大判例

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広島高等裁判所 昭和38年(う)85号 判決

控訴人 被告人 大西卓男

弁護人 新井照雄

検察官 寺下勝丸

主文

本件控訴を棄却する。

当審の未決勾留日数中一八〇日を刑期に算入する。

理由

弁護人新井照雄の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書同補充書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一、事実誤認の論旨について

所論は原判示第三の平山幸子に対する管理売春の事実竝びに右第三の各管理売春における利得額を争うのである。

なるほど証拠によると右平山幸子は、既に本件売春前より土井稔城と内縁関係を結び、広島市二葉の里の土井方において同人と同棲し、本件売春の如きも、外形上は同住居から通いの形でこれに従事していたことが認められる。しかしながら売春防止法第一二条の趣旨は、人を支配ないしは監視するに容易な場所に居住させ、その者に売春させることを業とする者を処罰しようとするにあるから、同条に「人を自己の指定する場所に居住させ」というのは、人を従前の住居から転居させ、新たに自己の指定する別の場所に居住させる場合に限ると解すべきではなく、その者の希望により右に代る方法として、従前の場所での居住を認めながら、これに制限を加え毎日自己の支配する一定の場所に食事に通わせ、よつてその居住関係を監視し、無断で他に転居できないようにする場合もまた、同条にいう「人を自己の指定する場所に居住させ」ることになるものと解するを相当とする。

ところで原判決挙示の証拠によると、右平山は前記土井と同棲中その生活費に窮したところから、土井とも相談の上売春の前借金を借りることを考え、昭和三七年四月二〇日頃、両名で被告人方を訪ね、被告人に対し「売春して返すから一万円程貸して貰いたい。」と申込んだところ、被告人は「一万円は貸してやるが、紀子方に住込んで呉れ、逃げるようなことはなかろうが、他の女の手前もあるからそうして呉れ」と被告人の情婦岩岡紀子方に居住するよう要求したのであるが平山の強い希望により、食事は毎日岩岡方に出向いて同人方で採ること、売春についてはすべて岩岡の指示に従うことなどの条件をつけて、従前の住居から通つて売春することを認め、爾来平山は、被告人やその共犯者岩岡の指示のとおり、毎日午前一〇時と午後四時の二回に亘り岩岡方に食事に出向き、午後四時の食事を済ませてからは、売春のために岩岡方に待機し、岩岡に連れられて原判示一二三食堂前等に立ち岩岡が物色する遊客を相手に、被告人の経営する売春宿において売春し、よつて得た対価のほとんど全部(前借弁済後は六分を渡す。)を、食事代、客引料、宿代、前借金の弁済として、その都度岩岡または被告人の使用人に渡し、生理日等の関係で売春を休むような場合には、事前にその旨岩岡に報告するなど、売春そのものについて、被告人等の強い管理を受けていたものであるばかりでなく、その居住関係についても監視を受け、無断ではこれを変更し得ないような状況にあつたことが認められるのである。

してみれば原判決が、被告人の右所為を売春防止法第一二条の罪と認定したのは、もとより正当で、事実誤認の疑はないなお所論は本件各管理売春の利得額を争うのであるが、この点に関する原判決の認定もまた相当であつて、記録を精査しても誤認の疑はない。論旨はいずれも理由がない。

二、量刑不当の論旨について。

しかしながら、記録によると被告人は、福留正義、瀬川郁夫などを配下に持ち、右両名及び情婦岩岡紀子等を使用して、多数の婦女子を対象とする売春業務を行い、よつて不法な利を貧り、これを助けていた右瀬川が被告人と手を切ろうとすると、同人に暴行を加え、さらに同人を恐喝して金品を捲き上げているのであつて、所犯の罪質、規模、手口などその犯情は悪質と認められるばかりでなく、既に被告人には多数の前科のあることが明らかである。以上のような情状前歴を考慮すると、弁護人の所論にかかわらず、原判決の刑はやむを得ないところであつて、重きに失するものではない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条、刑法第二一条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河相格治 裁判官 幸田輝治 裁判官 高橋正男)

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