大判例

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広島高等裁判所 昭和41年(く)8号 決定

抗告人 検察官

被告人 畠山正観 外二名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告申立人の抗告の趣旨は、記録編綴の抗告申立書記載のとおりであるからここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断はつぎのとおりである。

所論は要するに、原裁判所のなした前記移送決定により検察官が著るしく利益を害されるから右決定の取り消しを求めるというものである。

そこで原審記録に基いて判断するに、被告人ら三名のうち被告人畠山、同伊藤の住居は東京都内であり、被告人今西の住居は北九州市内であつて、いずれも身柄在宅のまま起訴されていること、起訴事実に顕われた犯罪地が東京都内であることが認められ、これらの点からすると、公判の審理にあたり犯罪の存否に関する証人が、犯罪の性質上、一応犯罪地たる東京都内に存し、又被告人のための情状に関する証人が少くとも被告人、畠山、伊藤については東京都内に存することが予想される。

原裁判所は事件審理の便宜及び被告人の利益を考慮して本件を東京地方裁判所に移送したものと解せられるが、公訴を維持する責任を有する検察官の立場からすれば、一般的に捜査担当検察官が公判に立会し、又は犯罪の発覚以来捜査を担当した司法警察職員並びに検察官と随時容易に連絡協議しうることが望ましく、この便宜が事件の移送により妨げられることは不利益にあたるであろうことも容易に理解できる。しかしながらこの不利益は犯罪の捜査を担当した警察機関並びに検察庁が移送を受けた裁判所の管轄地域外に在る限り移送の場合当然随伴する現象であつて刑事訴訟法第一九条が主として裁判所の事件審理の便宜を計り且つまた被告人の保護、証人となる者の利便を計る為移送の途を開いた趣旨に鑑みると右公訴維持の一般的便宜の点のみを強調して移送決定を不当とする理由とはなし難い。

もつとも検察側にとつて事件が移送せられることにより公判の審理を受けるにつき立証の方法が困難となり、公訴の維持に重大な支障を来すがごとき事情が存すれば、著るしく利益を害されるものとしてその移送決定取り消しの事由となりうることも考えられるが、本件においては東京近辺居住の証人以外に広島近辺に居住して居る証人数人の取り調べの必要が予想せられることの外、事件が東京地方裁判所に移送されることにより一般的な捜査担当官との連絡の便宜が害されるとしても前記公訴の維持に重大な支障を来すごとき事情を惹起すべき点について具体的疎明もなく、その他検察官の利益が著しく害されることの疎明がない。

結局原決定は相当であつて本件抗告は理由がないから刑事訴訟法第四二六条第一項に則りこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 福地寿三 裁判官 田辺博介)

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