大判例

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広島高等裁判所 昭和49年(ラ)5号 決定

抗告人 谷克己(仮名)

相手方 谷恵美子(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は「原審判を取消す。相手方の申立を却下する。」との裁判を求め、その抗告理由の要旨は、(一)原決定は、抗告人が高梁市で医院を開業する際相手方の父・亡勝人が援助し、かつ、医院経営につき相手方が協力したとした点、及び抗告人が時折り子供らに暴力を振るい、また、養父母との折り合いに円満さを欠くなど夫婦別居の原因が抗告人の性格行動にあるとした点で、いずれも事実の認定を誤つている。(二)抗告人と相手方の別居原因は、長男、次男が大学入試に失敗し、抗告人に反逆家出したのを相手方がその行方を抗告人に秘匿し、又深夜迄仕事に多忙で疲れた抗告人に対するいたわりや理解に欠け、抗告人を無視し勝手な行動をとる等、要するに相手方が抗告人に対し反抗的態度を措つたことにあり、その原因責任は一方的に相手方にある。(三)このように自からに別居の責任があり、正当の理由なく同居に応じない妻からの生活費の請求は許されない。(四)婚姻より生ずる費用は夫婦と未成熟児の生活費に限られ、成人に達した子の生活費や大学の学資を含めて抗告人に支払を命じたのは不当である。(五)夫婦関係が破綻し最早その実体が失われた場合、婚姻費用の分担を命ずることはできない。(六)婚姻費用を請求し得るのは申立時以降に限られ、過去に遡つて請求できない、というに帰する。

抗告理由(一)、(二)及び(三)について、記録を精査し原審判の挙示する証拠資料を総合すれば、抗告人、相手方間の夫婦生活関係の推移、本件紛争の実情及び経過、殊に別居の事情、双方の資産、収人等について、ほぼ原審判の認定と同様の事実を認めることができ、そして叙上事実関係のもとにおいては、夫たる抗告人において原審判がその支払いを命じた程度の費用を分担すべきが相当と認められるのであつて原審判に事実誤認の廉はなく、よつて抗告理由(一)(二)は失当である。

そうだとすると別居の原因が相手方にあつて正当の理由なく同居を拒んでいるとは到底いえないのであるから、抗告理由(三)も失当である。

抗告理由(四)について、前記認定によれば、抗告人は激励する意味で一旦は入試失敗の子を責めたものの、内心には医学部進学に賛成同意していたこと(その故にこそ昭和四五年三月長男が二浪で医大へ入学する迄の二子の教育費を抗告人が負担していた。)が認められ、そしてこのように子に学習能力と意欲があり、他方抗告人の医師たる職業身分並びにその資力、収入、社会的地位によりすれば抗告人にとり子に医学教育を授けることはその社会的身分に相応したものと認められ、当裁判所も二子が大学医学部を卒業して一人立ちする迄その学資金を分担費用に含ましめるのが相当と考えるのであつて、原審の措置は相当として是認できる。よつて抗告理由(四)も採用できない。

抗告理由(五)について。

前記経過事実によると、抗告人、相手方間の婚姻関係は一応破綻しており、にわかに円満な夫婦関係への復帰を期待し得ない状況にあるが、しかしこのような状況に立ち至つたのは主として抗告人に責むべき原因があり、相手方に一方的な原因があるといえないことが明らかである以上、事実上婚姻関係が破綻していても、法律上夫婦である限り相互の扶助義務がなくなるものではない。ただ夫婦の一方が同居義務に著るしく違背するような特段の事情がある場合には、他方に対する扶助義務の履行を求めることが権利の濫用として許されず、相手方が免責される場合があるにとどまるものというべきところ、本件の全資料によつても、そのような特段の事情の存在することは認められない。よつて抗告理由(五)も失当である。

抗告理由(六)について。

しかしながら前認定によれば、抗告人は相手方に対する昭和四四年三月以降婚姻費用の支払いを完全に打切つて以降、養母、二子を含む相手方らの生活費や、同四五年四月、次いで四六年四月長男、次男が相次いで医学部に入学した後はその学資、生活費もすべて相手方において金融機関からの借入や、道具、衣類の売り食いで賄つていたもので、その総額は原審における相手方作成の回答書が提出された昭和四八年八月迄に約九百万円にも達し、右の要扶養状態は当時抗告人も当然知悉していたと認められる。そしてこれらは当然抗告人の負担すべき費用と考えられるところ、このような場合、家庭裁判所が婚姻費用分担額を決定するに当り、単に請求時或いは審判時以降にとどまることなく、それが要扶養状態にありかつ義務者がそれを知り得た時期に遡つてその額を決定し得るものと解するのが相当であり、原審判にはこの点で違法はなく、抗告理由(六)も失当である。

そうすると原審判は相当であつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法四一四条、三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 山下進 大野孝英)

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