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広島高等裁判所 昭和61年(ネ)226号 判決

控訴人・附帯被控訴人(被告)

江口哲治

被控訴人・附帯控訴人(原告)

久保トモ子

主文

一  控訴人の本件控訴にもとづき、原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金四二九万五一八九円及び内金三七九万五一八九円に対する昭和五七年九月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  被控訴人の本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを四分し、その三を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

四  この判決の主文一の1は、仮に執行することができる。

事実

第一申立

(昭和六一年(ネ)第二二六号事件関係)

一  控訴人

1  原判決の控訴人と被控訴人に関する部分中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

(昭和六二年(ネ)第二四四号事件関係)

一  被控訴人

1  原判決の被控訴人と控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

2  控訴人は、被控訴人に対し、金一六九三万三一七七円及び内金一五四三万三一七七円に対する昭和五七年九月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

二  控訴人

本件附帯控訴を棄却する。

附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  昭和五七年九月一〇日午後七時五〇分ころ山口県光市宝町四―一六先道路上で、控訴人が加害者で、被控訴人が被害者である次の態様の本件交通事故が発生した。

(一) 事故現場は急な下り坂の道(勾配一八分の一・五)で、当時夕闇が既におりて暗くなつており、また付近に外灯等の照明もなかつたにもかかわらず、控訴人は無灯火の自転車に乗り、その下り坂道を時速三〇キロメートル以上の高速度で走り下りてきて、折柄、被控訴人がその背中に孫の福森由希(原審相原告。当時一歳)を両手で背負つて、その下り坂道を同じ方向に歩行しているのに気付くのが遅れ、そのまま控訴人の自転車の先部が被控訴人の尻辺に衝突した。

(二) 被控訴人は、両手を背部にまわして由希を背負つていたので、その両手を外して自分の身を守ることができず、そのまま衝突地点から約三メートル前方に飛ばされ顎からアスフアルト舗装の路面に落ちる態勢で同所に転倒した。

被控訴人は、本件事故により、合計一六本の永久歯欠損、両下顎骨関節突起骨折、下顎骨体部解放性骨折、上顎骨歯槽突起解放性骨折の傷害を負つた。

2  本件事故は、暗い坂道で、控訴人がその乗つている自転車の前照灯の点灯をせず、しかも高速度で坂道を走り下りようとした過失により発生したものであるから、控訴人は民法七〇九条により、本件事故によつて被控訴人が被つた損害を賠償すべき義務がある。

3  被控訴人の損害

(一) 治療費(診断書代を含む)一一万三八四四円

(1) 広島大学歯学部附属病院(以下、広大病院という)関係

(イ) 昭和五七年九月一七日から五八年三月二八日までの費用中、自己負担分合計一五万二六八五円から控訴人が直接右病院へ支払ずみの五万九九三〇円を控除した残額九万一七五五円

(ロ) 昭和六一年一〇月四日から六二年一月二二日までの費用合計一万一六六〇円

(2) 徳山中央病院関係三〇六九円

(3) 光市立病院関係

自己負担分合計五万二一八〇円から控訴人が直接右病院へ支払ずみの四万四八二〇円を控除した残額七三六〇円

(二) 付添費六万三八八八円

被控訴人の姉久保文子は、被控訴人の前記負傷治療中の昭和五七年九月一一日から二二日までの一二日間、その看護のために付添した。文子は、その期間、勤務先の日立笠戸重工業協同組合を欠勤し、その賃金六万三八八八円(一日当り五三二四円)を得られなかつた。

(三) 交通費

(1) 被控訴人が広大病院に入院中及び昭和五八年五月二五日までの同病院への通院に関して、被控訴人の娘福森由美子やその夫福森健二が付添つた。控訴人は右付添人の交通費も含む全額を負担することを承諾した。その交通費合計額は六一万八四六〇円である。

(2) 被控訴人は、広大病院へ昭和六一年一〇月四日から同六二年一月二二日までの間に一二回通院し、その交通費に合計一〇万二二〇〇円を支払つた。

(四) 宿泊費

控訴人は、被控訴人が広大病院へ入院及び通院した際の宿泊費及びこれに付添つた前記福森由美子、同健二の宿泊費全額を負担することを承諾した。その費用合計額は七一万四二三〇円である。

(五) 入院雑費

入院中一日あたり一〇〇〇円の三三日分で合計三万三〇〇〇円である。

(六) 薬代

薬局で必要な薬を買い、代金合計六万四四七五円を支払つた。

(七) 医療器具代

薬局で、口腔内を洗浄するための器具を代金三万円で買つた。

(八) 休業損害

被控訴人は、前記傷害のため、昭和五七年九月一〇日から同五八年七月四日までの二九八日間にわたり就労することができなかつた。

そして、被控訴人は、高等学校を卒業していて、本件事故にあうまで、家事に従事するかたわら、呉服販売店のパートタイマーや冠婚葬祭時の着付仕事を行ない相当の収入を得ていた。したがつて、休業による逸失利益は、昭和五七年賃金統計における四七歳の女子労働者の平均日当賃金五六八八円の二九八日分である一六九万五〇二四円であるというべきである。

(九) 後遺障害による逸失利益

被控訴人は、昭和五八年二月に、広大病院で、受傷部に暫間義歯を装着してもらい、後日、歯牙欠損部の顎堤状態が良くなれば、再度印象を行ない新義歯を装置する必要があることを前提に、一旦治療を打切つた。しかし、顎の痛みがひどいため、広大病院で、昭和六一年一〇月四日から翌六二年一月二二日までの間、再び治療を受け、同年二月二八日、中川歯科医院で新義歯を装着して貰い、その装着をもつて、受傷部の治療全部が終了し、同日、症状が固定した。

そして、被控訴人に、右症状固定後、次の後遺障害が残つた。

(1) 一六歯が欠損し、これに歯科補綴を加えた(自動車損害賠償保障法施行令第二条別表一〇級三号)

(2) 右側顎関節部に放散痛がある(同表一二級一二号)

(3) 咀しやく機能に障害を残した(同表一〇級二号)

(4) 下顎部に創痕が二個あり、外貌に醜状を残した(同表一二級一四号)

(5) 他に、顎関節部の疼痛、耳鳴り、開口障害等が残つた。

以上の障害を総合すると、その程度は、右別表九級に該当し、それによる労働能力の喪失率は二七パーセントである。

そして、被控訴人は、五一歳から六七歳までの間(その新ホフマン係数一一・五三六三)、右労働能力の減少による損害を被つたことになり、昭和六〇年賃金統計上の五一歳の女子労働者の年収額は二四四万九八〇〇円であるから、被控訴人の右損害額は七六三万〇六三九円であるというべきである。

(一〇) 新義歯装着費

前記中川歯科医院で新義歯の装着を受けて支払つた代金額は四七万八二九〇円である。

(一一) 物損

(1) 眼鏡代(事故時に破損して使用不能)五万七〇〇〇円

(2) ふとん代(血痕が付着して使用不能)五万六〇〇〇円

(3) 時計代(事故時に紛失)八万円

(一二) 傷害慰謝料

本件事故の態様、傷害の部位程度、入院及び通院の期間のほか、被控訴人は、広大病院で整復固定術を施して貰い、また永久歯一六本欠損部の補綴的処置を受け、暫間義歯を装着されたが、歯の咬合が安定せず、食事が満足にできないうえ、顎関節部の放散痛及び耳鳴り等があるため、睡眠も十分にとれない状態が続いた。

右精神的、肉体的苦痛は、金一二〇万円をもつて慰謝されるべきである。

(一三) 後遺障害の慰謝料

前記のとおりの後遺障害の部位、程度からして、その慰謝料は金五二二万円が相当である。

(一四) 弁護士費用一五〇万円

(一五) 以上の(一)ないし(一四)損害金合計額は、一九六五万七〇五〇円であるところ、そのうち控訴人から支払いを受けた金二五五万三五七二円を控除した残額は金一七一〇万三四七八円である。

4  よつて、被控訴人は、控訴人に対し、右損害金のうち物損一九万三〇〇〇円とその他の損害の内金一六七四万〇一七七円との合計金一六九三万三一七七円及びそのうち弁護士費用一五〇万円以外の金一五四三万三一七七円に対する本件事故の日である昭和五七年九月一〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1については、そのうち被控訴人が負つた傷害の点は不知、その余の事実は認める。

同2について、本件事故の発生が控訴人の過失に起因することは認める。

2  請求原因3については、そのうち(一)ないし(四)、(六)ないし(一四)の事実は不知ないし争う。(五)の事実及び(一五)のうち控訴人が被控訴人に二五五万三五七二円を支払つたことは認める。

三  抗弁

控訴人は、前記一、3、(一五)の金二五五万三五七二円を支払つたほか、被控訴人の治療費合計七八万一二五三円を広大病院その他へ支払つた。

四  抗弁に対する認否

控訴人が被控訴人の治療費の一部を、広大病院その他へ支払つたことは認めるが、その支払額は不知。被控訴人が本訴で請求している治療費には、控訴人の支払ずみである分は含まれていないから、抗弁は失当である。

第三証拠

原審・当審記録中の書証目録及び証人等目録に各記載のとおりであるから、それを引用する。

理由

一  請求原因1のうち、被控訴人が本件事故により負つた傷害の点以外の事実は、当事者間に争いがない。

そして、成立に争いがない甲二、七六、七八号証、原審における被控訴人の本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は、本件事故により、被控訴人主張のとおりの傷害を負つたことが認められる。

二  当事者に争いがない本件事故の態様に関する事実によると、本件事故の発生は、控訴人が相当急勾配の下り坂道を、暗くなつた夕暮時に、自転車で走行していたのに、その照灯をつけず、また徐行していなかつた過失に起因するというべきであるから、控訴人は、本件事故により被控訴人が被つた損害を賠償すべき義務がある。

三  被控訴人の損害金額につき検討する。

1  前掲甲二号証、成立に争いがない甲三ないし五、六八号証、原審における相原告福森由希法定代理人福森由美子の尋問結果(以下、原審相原告代理人の尋問結果という)とそれにより真正に成立したものと認められる甲一〇号証、原審における広大病院(但し、第一、二回)及び徳山中央病院に対する各調査嘱託の結果、原審・当審における被控訴人の各本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は、前記傷害の治療のため、事故当日の昭和五七年九月一〇日から同月一七日まで光市立病院へ入院し、同月一七日に広大病院へ通院し、同月二〇日から翌一〇月一四日まで広大病院に入院し、その間の九月二七日、下顎骨観血的整復固定の手術を受け、同年一一月九日から翌五八年三月五日までの間に前後八回にわたり広大病院へ通院し、それで前記受傷のうち骨折に関する治療を終了し、その間の昭和五七年一二月三日ころ徳山中央病院へ通院し、昭和五八年三月六日以降暫らくの間は、広大病院で受傷部に装着して貰つている暫間義歯(仮義歯)の使用などにより、口腔粘膜の調整が自然に行われるのを待つた後、昭和六一年一〇月四日から翌六二年一月二二日までの間に前後一二回にわたり広大病院へ通院して、口を開閉した際に生じていた顎部の放散痛、疼痛などの対症治療及び上下両顎咬合位置の安定、調整に関する医療を受け、六二年二月二八日、中川歯科医院へ通院して、従来装置していた暫間義歯を外して、本義歯の装着を受けたことが認められる。

2  治療費

前掲甲一〇号証、成立に争いがない甲一二ないし二六号証、七二号証の一ないし一二、原審相原告代理人の尋問結果、原審における光市立病院(第二回)、広大病院(第三回)、徳山中央病院に対する各調査嘱託の結果、当審における被控訴人の本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は、前記三病院での治療費の自己負担分のうち、被控訴人主張のとおりの金額合計一一万三八四四円(内訳、光市立病院分七三六〇円、広大病院分一〇万三四一五円、徳山中央病院分三〇六九円)を支払つたことが認められる。

3  付添費

前掲甲四、一〇号証、原審相原告代理人の尋問結果とそれにより真正に成立したものと認められる甲七、八号証、原審における光市立病院に対する第一回調査嘱託の結果を総合すると、被控訴人は、光市立病院で入院治療を受けた八日間、広大病院で第一回目の通院治療を受けた日の翌日及び同病院へ入院した日とその前日の合計一一日について、前記傷害のため付添看護を必要とし、姉の久保文子が勤務先(日立笠戸重工業協同組合)から無給休暇をとつて、その看護を行つたこと、文子は右勤務先を休んだことにより賃金合計五万八五六四円(日当五三二四円)を得られなかつたことが認められる。原審相原告代理人の尋問結果及び原審における被控訴人の本人尋問の結果中、被控訴人は広大病院へ入院した日の翌日もその付添看護が必要であつた旨供述しているところは、原審における広大病院に対する第一回調査嘱託の結果と比較して措信し難く、他に右認定の一一日以外の期間につき付添が必要であつたことを認めるべき証拠はない。

右認定事実によると、本件事故と相当因果関係のある付添費の額は金五万八五六四円であるというべきである。

4  交通費

前掲甲五、一〇号証、原審における光市立病院に対する第一回調査嘱託の結果、原審相原告代理人の尋問結果、当審における被控訴人の本人尋問の結果とそれにより真正に成立したものと認められる甲七三号証によると、被控訴人は、広大病院関係の第一回目の通院及び入院と退院にそれぞれ伴う交通費として、別表中1記載のとおり金三万六一二〇円(昭和五七年九月一七日から二〇日までの間のものには、付添人の交通費も含む)を必要とし、退院後である昭和五七年一一月九日の第二回目の通院から翌五八年三月五日の第九回目の通院までの前後八回の通院に伴う交通費として、別表中2記載のとおり金六万三五二〇円を必要とし、さらにその後の第一〇回目以降の通院に伴う交通費として、別表中3記載のとおり金一〇万一〇四〇円を必要とし、これらの交通費合計額は金二〇万〇六八〇円であることが認められる。

原審における相原告代理人及び被控訴人本人の各尋問結果中、被控訴人は、右認定の回数を超えて広大病院へ通院したし、また右認定回数の通院についても認定額以上の交通費を支払つた旨供述しているところは、たとえ右認定回数を超えて通院したとしても、前掲甲五号証及び原審における広大病院に対する第一、二回調査嘱託の結果に照らして、認定回数以外の通院が治療のために必要であつたとは認められず、また認定の通院分のうち認定額以上の交通費を支払つても、それは通院のために通常必要とする費用とは認められない。また原審における被控訴人の本人尋問の結果中、昭和五七年九月二一日以降における付添人の交通費についても、その全額を控訴人が負担することを承諾していた旨供述しているところは、原審における控訴人の本人尋問の結果と比較して措信できず、他に控訴人が前記認定額を超える交通費を負担することを承諾したことを認めるに足る証拠はない。

したがつて、本件事故と相当因果関係のある交通費は金二〇万〇六八〇円であるというべきである。

5  宿泊費

前掲甲一〇号証、原審における光市立病院に対する第一回調査嘱託の結果、原審相原告代理人及び被控訴人本人の各尋問結果によると、被控訴人及びその付添人の久保文子は、広大病院へ第一回目の通院を行つた日の夜及び同病院へ入院した日の前夜の二夜は、広島市内のホテルに宿泊する必要があり、その代金として合計三万六〇〇〇円(二人で一泊につき一万八〇〇〇円)を必要としたこと、被控訴人はその後の第二回から第九回目までの通院の際、病院の受付時間が早く締切られるため、その前夜に広島市内のホテルで宿泊する必要があり、その代金合計七万二〇〇〇円(一泊につき九〇〇〇円)を必要としたことが認められる。

原審相原告代理人の尋問結果中、右認定した日以外にも被控訴人及び付添人が宿泊したことがあるし、また右認定の日の宿泊でも認定額を超える代金を支払つた旨供述しているところは、原審における広大病院に対する第一、二回調査嘱託の結果に照らして、認定した日以外の宿泊が必要であつたとは認められず、また認定した日の認定額を超える代金を支払つても、それが必要な費用であるとは認め難い。また原審における被控訴人の本人尋問の結果中、付添人が昭和五七年九月二一日以降宿泊した費用も控訴人において負担することの承諾を得ていた旨供述しているところは、原審における控訴人の本人尋問の結果と比較して措信できず、他に右認定以外の宿泊費の負担を控訴人が承諾したことを肯認するに足る証拠はない。

したがつて、本件事故と相当因果関係のある宿泊費は一〇万八〇〇〇円であるというべきである。

6  入院雑費

前記入院に伴う雑費として三万三〇〇〇円を必要としたことは当事者間に争いがない。

7  薬代

前掲甲一〇号証、成立に争いがない乙三号証の七、四四、一〇一、一〇九、一九六、二六二、原審相原告代理人の尋問結果とそれにより真正に成立したものと認められる甲四七ないし五四号証によると、被控訴人は、光市立病院の医師の指示にしたがい、口腔洗浄のための薬品などを買い合計三万四二九五円を支払つたことが認められる。原審相原告代理人の尋問結果中、右認定額を超えて薬品を買つた旨供述しているところは措信し難く、他に右認定額を超えて薬品を買つたことを認めるべき的確な証拠はない。

8  医療器具代

前掲甲一〇号証、成立に争いがない乙三号証の二八一、原審相原告代理人の尋問結果とそれにより真正に成立したものと認められる甲五五、五六号証によると、被控訴人は、広大病院の医師の勧告にしたがい口腔内部の洗浄用器具(ウオーターピツク)を買い、代金三万円を支払つたことが認められる。

9  休業損害

原審相原告代理人の尋問結果、原審における光市立病院(第一回)・広大病院(第二回)に対する各調査嘱託の結果、原審・当審における被控訴人の各本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は昭和一〇年七月生(事故時四七歳)で、新制高校を卒業し、事故までは固疾はなく、家事(独身生活)に従事するかたわら、徳山市内のスーパーの呉服売場のパートタイマーとして働いたり、冠婚葬祭時における着物の着付を行つて、賃金や祝儀を得て生計をたてていたこと、しかし、本件事故による負傷とその治療のため昭和五七年九月一一日から翌五八年三月五日までの一七六日間は、就労することができなかつたことが認められる。原審相原告代理人の尋問結果及び原審・当審における被控訴人の各本人尋問の結果中、被控訴人は昭和五八年三月六日以降も、同年七月五日から約二か月間稼働できた以外は、夜分顎などが痛んで睡眠できないこと及び口の開閉時の痛み等で食事が満足にできないため、体力が衰弱して就労することができなかつた旨供述しているところは、前掲甲四号証、原審における光市立病院に対する第一回調査嘱託の結果及び当審における広大病院に対する調査嘱託の結果と比較して措信し難く、他に被控訴人が昭和五八年三月六日以降も本件事故のため就労することができなかつたことを肯認するに足る証拠はない。

右認定事実によると、被控訴人が本件事故のため休業を余儀なくされたことによる逸失利益は、昭和五七年における四七歳の高校卒女子労働者の平均給与日額六五六三円(成立に争いがない甲一一号証により右金額が算出される)に休業日数を乗じた金一一五万五〇八八円であるというべきである。

10  後遺障害による逸失利益

(一)  前掲甲四、五号証、原審における光市立病院に対する第一回調査嘱託の結果、原審・当審における広大病院に対する各調査嘱託の結果(原審分は第一回)及び被控訴人の各本人尋問の結果を総合すると、被控訴人の前記負傷の後遺障害として、昭和五八年三月五日をもつて、下顎部に二個の創痕(長さ三・八糎、幅〇・五糎のもの及び長さ二糎、幅一・八糎のもの)及びおとがい下部の長さ五糎の手術痕が残り、また口の開閉時等に右側顎関節部に軽度の放散痛・疼痛と軽度の開口障害が生ずる症状が残つたことが認められる。原審相原告代理人の尋問結果及び原審・当審における被控訴人の各本人尋問の結果中、被控訴人に、右認定以外の症状として咀嚼障害と耳鳴が残り、また右認定の痛みや開口障害の程度は軽くなく、そのため被控訴人は食事を満足にできないこと及び睡眠不足のため、就労するのに大きな支障となつている旨供述しているところは、前掲甲四、五号証、原審における光市立病院に対する第一回調査嘱託の結果、原審・当審における広大病院に対する各調査嘱託の結果(原審分は第一回)と比較して措信し難く、他に、右認定以外の後遺障害があること、右認定の障害については、その程度を超える症状であることを肯認するに足る証拠はない。

(二)  右認定のとおりの部位、程度の醜状痕、局部の痛み及び機能障害が残つていることが、通常、人の精神的、肉体的活動機能を客観的に阻害し、低下させるものであるとか、被控訴人が事故までに従事していた労働と同様な労働に就くことに支障をきたし、その労働能力に影響を及ぼすものであるとは考え難いから、右障害が残つたことによつて、被控訴人がその労働能力の一部を喪失したと認めることは困難である。したがつて、後遺障害による労働能力の喪失自体を損害と考え、これを金銭的に評価した額が後遺障害による逸失利益額であるとの見地に立つても、右認定の障害が残つたことにより被控訴人に逸失利益が生じたということはできない。

11  本義歯装着費

当審における被控訴人の本人尋問の結果とそれにより真正に成立したものと認められる甲六九、七〇号証によると、被控訴人は中川歯科医院で入れて貰つた本義歯の代金として金四七万八二九〇円を支払つたことが認められる。

12  物損

原審相原告代理人の尋問結果とそれにより真正に成立したものと認められる甲四六号証によると、被控訴人は、本件事故時に、そのかけていた眼鏡が破損したので、代金五万七〇〇〇円を支払つて買替えたこと、事故のとき、身につけていた時計(時価三万円相当)が紛失したこと、被控訴人は事故当日、自宅のふとん(時価五万円相当)にねかされて病院に運ばれたが、そのふとんが被控訴人の創口から流出して付着した血痕のため使用できなくなつたことが認められる。

右認定事実によると、物損合計額は金一三万七〇〇〇円であるというべきであり、右認定額を超える物損が生じたことを肯認するに足る証拠はない。

13  慰謝料

本件事故の態様、控訴人の過失の内容程度、被控訴人の傷害(後遺障害を含む)の部位程度、右治療に要した入院及び通院の期間、通院回数、被控訴人が昭和六二年二月二八日に入れた本義歯は終生使用できるものでなく、七年程度装着使用すれば取替える必要があること(この事実は、被控訴人の当審における本人尋問の結果によつて認められる)、被控訴人は家庭の主婦であり、本件事故当時、満四七歳であつたこと、その他、記録に現われた各般の事情を総合勘案すると、本件事故により傷害を受けたことに対する慰謝料は、金四〇〇万円(内訳、傷害自体に関する分が一〇〇万円、後遺障害に関する分が三〇〇万円)が相当であると認められる。

14  弁護士費用

本件訴訟の難易の度合、認容金額にかんがみると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は金五〇万円であると認められる。

そして、右2ないし9、11ないし14の各損害額を合計すると金六八四万八七六一円となる。

四  控訴人から被控訴人に損害の内払いとして金二五五万三五七二円を弁済したことは当事者に争いがないから、これを前記損害金から控除した残額は金四二九万五一八九円である。

そして、原審証人秋保隆彦の証言とそれにより真正に成立したものと認められる乙一号証によると、控訴人は、前記被控訴人に支払ずみの金二五五万三五七二円のほかに、被控訴人の治療代として、広大病院、光市立病院、徳山社会保険事務所へ、合計七八万一二五三円を支払つたことが認められる。しかし、右七八万一二五三円の中に、前記認容した治療費一一万三八四四円が含まれることの証拠がないから、抗弁は理由がない。

五  以上の説示によると、被控訴人の本訴請求は、損害金四二九万五一八九円及びそのうち弁護士費用以外の金三七九万五一八九円に対する本件事故発生日である昭和五七年九月一〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容すべく、その余の請求は失当であるから棄却すべきである。

よつて、原判決は一部失当であるから、控訴人の本件控訴にもとづき原判決を変更し、被控訴人の本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条前段、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上博巳 滝口功 池田克俊)

別表 交通費

1 昭和57年9月17日から同年10月14日まで(3万6,120円)

〈省略〉

2 昭和57年11月8日から翌58年3月5日まで(6万3,520円)

その明細は第2回目の通院治療に要した交通費すなわち7,940円を8倍した金額

〈省略〉

3 昭和61年10月4日から翌62年1月22日まで(10万1,040円)

その明細は第10回目の通院治療に要した交通費すなわち8,420円を12倍した金額

〈省略〉

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