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広島高等裁判所岡山支部 昭和29年(ネ)151号 判決

控訴人(原告) 藤沢若数 外三名

被控訴人(被告) 玉島市長・岡山県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人等の予備的請求を却下する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴代理人は、請求を訂正して、第一次的請求として、「原判決を取消す、被控訴人玉島市長は玉島市議会に同市大字南浦部落を同市より分離する案を上程せねばならない、被控訴人岡山県知事は玉島市に対し同市議会が右南浦部落を同市より分離する決議をなすよう、又、岡山県浅口郡寄島町に対し同町議会が右南浦部落を同町に編入する決議をなすようそれぞれ勧告しなければならない、訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする」、との判決を求め、予備的請求として、「被控訴人等は連帯の上控訴人等に対し金五十万円ならびにこれに対する昭和二十八年四月一日以降完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ、訴訟費用は被控訴人等の連帯負担とする、」との判決および担保を条件とする仮執行の宣言を求めた。

被控訴人玉島市長および同岡山県知事各訴訟代理人は孰れも第一次的請求につき、控訴棄却の判決を求め、控訴人等の予備的請求に対し、本案前の答弁として、訴却下の判決を求め、本案につき請求棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は左記のほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(甲)  控訴人等の陳述。

一、控訴人等が原審でした町村合併促進法第十一條の三に基く旨の主張はこれを撤回する。

二、本訴第一次的請求は昭和二十八年三月十一日の契約(甲第一号証)に基く義務の履行を求めるものである。南浦部落住民投票の結果同部落を寄島町に編入することを希望する旨の投票が過半数を占めたので、右契約に基き、被控訴人玉島市長は同部落を玉島市より分離せしめるために分離案を玉島市議会に上程する法律上の義務を負うのであり、被控訴人岡山県知事を事後において右契約を追認したから、市町村に対する監督権関として、玉島市に対し、同市議会が同部落を同市より分離する決議をするよう、又、寄島町に対し、同町議が同部落を同町に編入する決議をするよう、それぞれ勘告する義務を負うのである。裁判所がその判決において被控訴人等に対し右義務の履行を命ずることは司法権の行政に対する干渉ではなく、三権分立の原則に牴触しない。

三、右契約は訴外赤沢利一が南浦部落民を代表してしたものでその効力は同部落民たる控訴人等に及ぶから、控訴人等は右契約に基く義務の履行を請求し得る資格を有する。

四、若し本訴第一次的請求が容れられないときは、左のとおり予備的請求を追加して申立てる。即ち、

仮に前示契約が無効であるならば、玉島市長として公共団体の公権力の行使に当つている被控訴人堀口勇はその職務に関連する前示契約の締結に当りその契約の無効なることを知りながら、是が無効なることを知らない南浦部落民代表者赤沢利一をだまし、同人をして右契約を承諾させたのであるし、又、被控訴人岡山県知事は事後において右の様に玉島市長が赤沢利一をだまして契約を締結させた事実を知りながら右契約を追認したのであつて、だまされた南浦部落民は被控訴人玉島市長および同岡山県知事に対し右契約に基く義務の履行を促すべく莫大な費用を遣つて猛運動を展開し、遂に履行を見るに至らなかつたが、この運動費用は金五十万円を下らず、これはつまり被控訴人等が違法に控訴人等に加えた損害であり、被控訴人等において連帯してこれを賠償する責に任ずべきものであるから、控訴人等は国家賠償法に基き被控訴人等に対し右損害額の内金五十万円ならびにこれに対する不法行為発生の日(契約成立の日)の後たる昭和二十八年四月一日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

(乙)  被控訴人玉島市長の陳述。

一、控訴人等が当審でする第一次的請求は訴の変更であつて、それは訴訟手続を著く遅滞せしめるから許さるべきではない。

二、市町村の廃置分合は地方自治法第七條により関係市町村議会の議決および、当該都道府県議会の議決、当該都道府県知事の裁決、内閣総理大臣への届出内閣総理大臣の告示等一連の行政行為によつてされるのであつて、被控訴人玉島市長が控訴人等の主張の様な分離案を玉島市議会に上程するだけでは分離の効果が発生しないから、この点からするも控訴人等の被控訴人玉島市長に対する第一次的請求は失当である。

三、本訴第一次的請求は行政事件訴訟特例法第二条所定の訴ではないから同法第六条の適用なく、従つて予備的請求を右第一次的請求に併合して提起することは許されないものというべく、予備的請求は不適法である。

四、仮に然らずとするも、予備的請求の追加による訴の変更は訴訟手続を著く遅滞せしめるから許さるべきでない。

五、仮に予備的請求が許容されるものとするならば、その請求にかゝる主張事実は全部これを否認する。

(丙)  被控訴人岡山県知事の陳述。

一、被控訴人玉島市長の前掲一、三乃至五、と同一。

二、被控訴人岡山県知事は控訴人等の主張の契約の当事者ではないし、かつ、この契約を事後において追認したことはないから、右契約上の義務の履行を求められるいわれはない。(証拠省略)

理由

第一、第一次的請求に対する判断。

(1)  訴の変更の許否について。

控訴人等は原審で「被控訴人玉島市長は玉島市議会が同市大字南浦部落を同市より分離する決議をなすよう措置しなければならない。被控訴人岡山県知事は玉島市に対し同市議会が右南浦部落を同市より分離する決議をなすよう、又、岡山県浅口郡寄島町に対し同町議会が右南浦部落を同町に編入する決議をなすよう、それぞれ適切な措置をしなければならない。」との判決を求めたが、当審ではこれを訂正して「被控訴人玉島市長は玉島市議会に同市大字南浦部落を同市より分離する案を上程せねばならない。被控訴人岡山県知事は玉島市に対し同市議会が右南浦部落を同市より分離する決議をなすよう、又、岡山県浅口郡寄島町に対し同町議会が右南浦部落を同町に編入する決議をなすよう、それぞれ勧告しなければならない。」との判決を求めた。

右は従来の旧請求が明確を欠くのでこれを明らかにしたにすぎない。また原審においては「町村合併促進法第十一條の三に基いて本件覚書の趣旨の実行を求める」ことを請求の原因としていたのを、当審では右促進法に基いて訴求するのではなく、前記覚書による契約に基く義務の履行を求めると変更したが、その主張は終始右覚書記載の事実を骨子とするものであつて請求の基礎には何等変更がないのみならず、この様な変更は訴訟手続を著く遅滞せしめるとは認め難い。従つて右訴の変更は適法であつてこれを許容するを相当とする。

(2)  本案前の抗弁について。

控訴人等は玉島市大字南浦部落民による住民投票の結果同部落を同市から分離して寄島町に編入することを希望する旨の投票が過半数を占めたので、これよりさき昭和二十八年三月十一日南浦部落民代表者赤沢利一と被控訴人玉島市長等との間に成立していた契約(甲第一号証)に基き同被控訴人に対し前記請求の趣旨の行為を求める、と主張する。しかし、法律上契約とは、当事者の意思の合致によつて法律的効果の発生を目的とするものであるから、かような効果を生ずる法律関係は、当事者の意思によつて定めらるべきものであることを必要とする。しかるに市町村の分離併合の如きは当事者の意思によつて自由になし得ない公法上の法律関係であるから、これに関し契約の観念を容れる余地は全然あり得ない。控訴人等が本訴で請求する被控訴人市長の分離案の市議会えの提出または被控訴人知事の関係市町えの勧告は地方自治法第七条または第八条の二により公権力の主体として独自の権限として為すべきものであつて、契約によつて生じた義務としてなすべきものではない。従つて控訴人等居住部落の代表者が被控訴人等と控訴人等主張の如き約定をしたとしても、それが政治的または道徳的意味を持つは格別、法律上の効果を発生するに由なく裁判上これが履行を求めることはできないから、控訴人等の第一次的請求は権利保護の利益を欠き、不適法として却下を免れない。

第二、予備的請求に対する判断。

(1)  本案前の抗弁について、

(イ)  控訴人等は当審で本件契約が無効であるならば被控訴人等の行為は不法行為であるから不法行為を原因とする損害賦償を求めると主張して、予備的請求を追加し、訴の変更を申立てたのであるが、斯様に第一次的には債務の本旨に従つた履行を求め、予備的にその不履行に因る損害賠償を求めることは請求の基礎に変更なきものと解するを相当とすべく、この予備的請求の追加によつて当審の訴訟手続を著く遅滞せしめるとは認め難いから、右訴の変更は適法であつてこれを許容するを相当とする。

(ロ)  被控訴人等は本訴第一次請求は行政事件訴訟特例法第二条所定の訴ではなく同法第六条の適用がないから、予備的請求をこれに附加して提起することは許されないと主張するけれども、右第六条は訴の併合を特に制限した規定であるから、この規定があるからといつて、通常の場合に許される併合までも排斥する理由とはならない。

(2)  予備的請求が適法であるかどうかについて。

控訴人等は、被控訴人玉島市長は前示契約の無効なることを知りつゝ南浦部落民代表者赤沢利一をだまして契約を承諾せしめ、被控訴人岡山県知事はこのだました事実を知りながら右契約を追認したので、控訴人等を含む南浦部落民においては右契約を履行させようとして莫大な費用をつかい、結局被控訴人等のために違法に損害を被つたから、国家賠償法に従い被控訴人等に対しその損害賠償の連帯支払を求めると主張する。しかし、国家賠償法によつて損害賠償を求めるには、同法第一条第一項によりその相手方は公共団体である玉島市および岡山県とすべきであつて、その長である玉島市長または岡山県知事が当事者となることはないから、控訴人等の予備的請求もまた不適法として却下を免れない。もしまた当時の玉島市長であつた堀口功、岡山県知事であつた三木行治個人に対して右不法行為による損害賠償を請求するというのであれば、当事者を変更しなければならないので本訴を維持するに由ないこととなる。

以上の次第であるから、原判決が本訴第一次的請求を不適法と認めて訴を却下したことは結局相当であつて、これに対する控訴は理由がないから控訴を棄却し、控訴人等の当審における予備的請求は不適法であつて、これを却下すべく、控訴費用は控訴人等をしてこれを負担させることゝし、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅芳郎 高橋雄一 林歓一)

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