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徳島地方裁判所 平成4年(ワ)16号 判決

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告を解散する。

第二  事案の概要

本件は、原告らが、原告らと被告の現代表者である高橋直(以下「高橋」という。)との間で被告が山林を売却して得た代金の処理、帰属をめぐって大きな対立が生じたところ、被告においては出資比率及び役員構成比率が原告らと高橋側とで平等に二分の一ずつであるから、このまま被告の運営が正常に行える目処が全くなく、かかる状態は「会社の業務の執行上著しい難局に逢着し、会社に回復すべからざる損害を生じる恐れ」があり、「会社の財産の管理及び処分が著しく不当で、会社の存立を危殆ならしめた」ものであって、被告を解散する以外に原告らの社員としての正当な利益を守る方法がないとして、有限会社法七一条ノ二に基づき被告の解散判決を求めた事案である。

一  争いのない事実

1. 原告浅野忠義(以下「原告忠義」という。)は、昭和五六年ころから徳島市に最終処分場を設置するなどして産業廃棄物処理業を営んでいた。一方、高橋は、鳴門市大津町吉永にガソリンスタンドを所有して、高橋石油の名称で石油類の小売販売を行っていた。

原告忠義は、重機類の燃料等に使うために高橋石油から石油類を購入していた関係から、高橋と面識があった。

2. 原告忠義は、昭和六三年半ばころ、高橋に対して鳴門市で新たに産業廃棄物処理業を共同で経営することを持ちかけ、両者でその旨の合意をした。

3. その結果、同年一二月一五日、産業廃棄物の処理、土木工事の請負等を目的として被告が設立された。出資口数は五〇〇口、資本金は五〇〇万円であった。定款の上では、出資口数の内訳は、原告忠義が二〇〇口、原告忠義の妻の原告浅野美惠子(以下「原告美惠子」という。)が五〇口、高橋が二〇〇口、高橋の子である勉が五〇口とされたが、実際には高橋が資本金五〇〇万円を全額出資し、原告らは出捐していない。設立当初は、被告の代表取締役には原告忠義が就任し、高橋は取締役に就任した。

4. 原告忠義を代表取締役とする被告は、平成元年から平成二年にかけて鳴門市大麻町板東字下板ケ谷九二番一外八筆の山林(その総面積は約三七町歩に及ぶ。以下「本件土地」という。)を代金約五〇〇〇万円で買い受けることに成功した。

5. 被告は、その後、本件土地に産業廃棄物処理場の建設を実現すべく行政上の許可申請手続を進めてきたが、産業廃棄物処理場が環境を破壊するとの理由で地元において反対運動が起き、事実上産業廃棄物の処理場の建設ができなくなった。

6. このような経緯で、被告は右処理場の建設を事実上断念したところ、訴外本四土地株式会社が本件土地周辺でゴルフ場の建設を計画しているという話があり、被告は、平成二年五月ころ、本件土地を含む諸物件を、代金約三億七〇〇〇万円で同社に売却した。

7. その間、高橋は平成元年九月三〇日に被告の代表取締役に就任した旨の登記がなされ、一方、原告忠義については、平成三年一一月一四日の時点で被告の登記簿の役員欄から記載が落ちている。

二  本件の争点と当事者の主張

1. 原告らの被告に対する出資持分の有無

(原告らの主張)

原告忠義と高橋との間では、原告忠義が地元の土地改良区の同意を取り付けるなど産業廃棄物処理場の設置とその運営の一切を行い、高橋においてそれに必要な資金を準備し、これにより挙がった利益は折半するという約束が成立しており、法人の設立はこの約束を果たすためのものであった。すなわち、原告忠義と高橋との間では、すべて平等という考え方にしたがって、法人の出資金についても原告側と被告側とで二五〇万円ずつであるとし、役員の構成、報酬の支給等についても同等とされたのである。このように、原告忠義と高橋との間では、事業が共同経営であって利益を折半するという約束が基本にあり、被告の設立はこれを実現するための手段であるという関係にあり、原告らが被告の所有権、支配権の半分を保有していることは明らかである。よって、原告らが出資金を実際には出捐していないけれども、利益折半の約束を実現するための手段として、あくまで原告らは被告の出資口数五〇〇口のうち二五〇口の出資持分を有するものである。

(被告の主張)

被告の資本金五〇〇万円は高橋が全額を単独で払い込んでおり、実質上、社員権は全部高橋に帰属している。原告らを名義上被告の社員としたのは、産業廃棄物処理事業を行ってその結果利益が出た場合に、その利益の五〇パーセントを原告忠義に分配するという合意があったためであって、実質をみれば、原告らは被告に対する出資持分を有してはいない。

2. 被告の解散事由の有無

(原告らの主張)

高橋は、被告が本四土地株式会社に大麻町の本件土地等を売却して、三億七〇〇〇万円という巨額の売却代金を手にするや、原告らが出資金を負担していないことを理由に、被告は自分の会社であって、原告らは全く関係がないと主張しはじめた。そして、右売却代金を取り込んでそれを自由に支配し、原告らにその運用状況を一切明らかにせず、更には、原告らを勝手に被告の役員等から排除し、出資口数についても勝手に名義を変更している。被告においては原告らと高橋側との出資比率は対等であるから、このような原告らと高橋との間で尖鋭的な対立を生じている状況下では、被告の経営が正常に行われる目処は全くない。かかる状態は「会社の業務の執行上著しい難局に逢着し、会社に回復すべからざる損害を生じる」恐れがあり、「会社に財産の管理及び処分が著しく不当で、会社の存立を危殆ならしめた」ものであって、被告の解散事由にあたる。

(被告の主張)

解散判決の請求が認められるためには、会社の業務の執行上著しい難局に直面し、会社に回復すべからざる損害を生じた状況が必要であるが、被告はそのような事態には陥っていない。また、被告はその所有していた大麻町の本件土地等を売却したことによる税金を平成八年度以降において支払わねばならず、この税額は一億五四〇〇万円余りとなり、これを支払うべき被告を解散させてしまうような無責任なことは許されない。

確かに、本件においては、被告から利益が生じた場合にはこれを折半するという約定が当初あったものの、それは被告の財産を二分するということではなく、あくまで会社経営の健全さを残した上で、それから得られる経常利益を分配するという合意である。しかるに、原告らは、あたかも被告の資産そのものを半分要求し、この要求の実現のために被告の解散判決を求めるものであって、その不当であることは明らかである。

三  証拠〈略〉

第三  争点に対する判断

一  原告らの被告に対する持分の有無について

1. 前記争いのない事実及び証拠(甲一、二、四ないし一四、一八、二九ないし三四、証人宮本重幸、原告浅野忠義、被告代表者)並びに本件弁論の全趣旨によれば、次のとおりの事実が認められる。

(一)  徳島市に最終処理場を設置して産業廃棄物処理業をしていた原告忠義は、従前鳴門市の板東川水系の砂利の採取を行ったことがあったりして、地元の板東川土地改良区や水利組合との関係者と付き合いがあったところ、新たに鳴門市に処理場を設置して大規模に処理事業を行うことを考え、地元の有力者で当時改良区の理事をしていた宮本重作に対し、産業廃棄物処理場の建設に適する土地を紹介してくれるよう依頼したところ、同人から土地を確保できるという返事を得た。しかし、実際には原告忠義には右土地の購入や処理場建設等に必要な資金的な余裕は全くなかった。

(二)  そこで、原告忠義は、重機等の燃料の購入先で以前に手形の割引等もしてもらったことのある高橋に対して、地元の住民も同意してくれているので事業としては必ず成功するからこの産業廃棄物処理事業を共同で行う話を持ちかけた。その結果、原告忠義と高橋との間で、原告忠義が用地の確保など処理場設置のための手続や地元の水利組合の同意等を取り付けるなど必要な手続を行い、高橋が全面的に資金の手当てをするという役割分担をし、同事業で利益が出れば両者で折半するという合意をした。

(三)  その結果、右事業を行うについては法人で行うことの方が信用もあり、税金対策でも有利であることから、昭和六三年一二月一五日被告が設立された。被告の資本金五〇〇万円は高橋が全額出資したものであるが、原告忠義と高橋との話し合いで、定款上は、総出資口数のうち、原告忠義が二〇〇口、原告の妻である原告美惠子が五〇口、高橋が二〇〇口、高橋の子である勉が五〇口として、原告側と高橋側とが対等の出資比率とされ、役員には、当初原告忠義が代表取締役、高橋が取締役、原告美惠子及び勉が各監査役に就任した旨の登記がなされた。そして、平成元年九月になって、高橋も代表取締役に就任し、被告は監査役を廃止して、それまで監査役であった原告美惠子、勉が取締役に就任した。

(四)  被告の設立後、原告忠義は、前記の宮本と相談するなどし、また再三地元に出かけて関係者と交渉するなど奔走して、宮本から産業廃棄物処理場の建設用地として大麻町の本件土地を見つけてもらい、同処理場の建設に必要な土地改良区の同意を取り付ける根回しをしてもらった結果、平成元年四月には同土地改良区の同意を取り付けることにも成功した。

(五)  被告は、平成元年から平成二年にかけて本件土地を代金五〇〇〇万円で買い受けた。右買い受けに必要な資金は、原告忠義との前記の合意により、高橋が妹の経営する丸恵工芸所有の不動産を担保にして被告の名義で銀行から融資を受けて調達した。

(六)  平成二年一月から、被告からの毎月の役員報酬として、原告忠義及び高橋は各五〇万円、原告美惠子及び勉は各二〇万円の支払を受け、また、原告忠義は平成二年五月からは、被告名義で一四二〇万円で買い受けた自動車ベンツを乗り回すようにもなった。

(七)  その後、被告は本件土地に産業廃棄物処理場の建設を実現すべく許可申請手続を進めてきたが、処理場が建設されると環境が破壊するとの理由で地元において反対運動がおき、これが新聞にも報道されるに至り、同処理場の建設が事実上できなくなった。

2. 右認定の事実によれば、本件において、原告らは現実には被告の出資金を一切出捐しておらず、この出資金は全額高橋が出資し、必要な事業資金は全面的に高橋に依存することにしたものであるが、しかし、被告が設立されたのは、原告忠義が事業を拡大することについての資金不足を解決するという動機から高橋との共同事業とすることを提案し、その結果、原告忠義において産業廃棄物設置のために必要な一切の手続、下工作を行うという労務を提供し、高橋が資金面の手当てをし、右事業から得られた利益は双方が折半するという約束を実現するために設立されたもので、設立当初の定款で出資口数が原告側二五〇口、高橋側二五〇口というように対等とされたのも右の約束を反映するものと見られ、しかも、原告忠義は約束に従って労務を提供し、宮本に働きかけるなどして用地の取得、土地改良区の同意のとりつけに成功するなどし、そして、平成二年一月から原告側と高橋側とが同額の役員報酬を受けてきたことからすると、原告らも被告の社員として出資持分を有するとみるべきである。

二  被告の解散事由の有無について

1. 前記のとおりの事情により、被告においては折角取得した本件土地での産業廃棄物処理事業を断念せざるを得なくなったものであるところ、証拠(甲一八の一ないし四、三七の一ないし七、乙四三、原告浅野忠義、被告代表者)によれば、平成元年九月には高橋も被告の代表取締役に就任したものであるが、その後、本四土地株式会社が本件土地周辺でゴルフ場の建設を計画しているという情報が被告につたわり、そこで被告は、平成二年五月ころ、本件土地を含む諸物件を代金三億七〇〇〇万円で売却したこと、右の売却処分については原告忠義も同意して積極的に関与したこと、被告としては、本件土地等を本四土地株式会社に売却したことによる税金として、平成八年以降において一億五四〇〇万円の課税が見込まれること、ところで、原告忠義と高橋との仲は、平成二年一一月ころ、原告忠義が廃棄物処理事業とは別に営んでいた運送業で正式の許可を得るのに車庫が必要となり、被告に右の売却代金が入っていることから、この車庫建設費用として五〇〇〇万円を被告から用立ててほしいと頼み、高橋がそれを断ったことから不仲になっていったものであること、これが原因で、高橋側は平成三年一一月になって、原告らが任期満了により退任して高橋及び勉がそれぞれ代表取締役、取締役として残った旨の登記をし、被告の定款上も出資口数は高橋が四五〇口、勉が五〇口と改める措置をとったこと、以上のとおりの事実が認められる。

2. 原告らは、被告には多額の利益が出ているのに、高橋において原告忠義との約束に基づく利益配分を全く行わず、原告らの出資口数をも否定し、その結果、原告らと高橋側との間で被告の経営をめぐって対立関係があり、原告らの利益を擁護するためには被告の解散を求める以外にない旨主張する。

しかし、右認定の事実に前記二の事実を合わせ総合すると、被告につき原告らが高橋側と対等の出資持分を有するものとはいえ、原告らは現実の出資をしてはおらず、会社財産として被告が取得した本件土地の購入代金も実質的には高橋が全額調達したものであるうえ、本件では原告忠義が本件土地の取得及び土地改良区の同意を得るのに尽力してはいるが、結局は目的とした本件土地での産業廃棄物処理場の設置には失敗しているから、高橋との当初の約束も果たせず、その限りでは右の事業の開始及び存続を前提としたうえで分配することが約束された利益そのものが出ていないとみるべき余地があるところ、原告らの目的は、産業廃棄物処理事業からではない不動産売却によって得られた利益につき、その対等な配分を被告の解散、会社財産の清算によって実現しようとするものであり、他方、被告が右処理事業を事実上断念して本件土地等を転売することにより少なからざる利益を得ているものであるが、売却で得た金銭の管理それ自体は当然被告代表者の経営判断に委ねられる事柄であるといわねばならず、本件において、高橋が右の売却代金にあたる被告の預金を個人資産と同様に扱って処理するなど失当な財産管理をしている事情を認めうる証拠はない。また、高橋側において原告らの被告に対する出資口数を否定する態度に出ている点については別途にその存否を確定させる法的な手段が残されているのであり、この点につき争いのあることで直ちに被告に解散事由が存するとはいえない。

このような事実関係のもとでは、たとえ現在原告らと高橋が対立関係にあるとしても、被告の今後の経営自体に特段の支障が生じており、原告らにおいて被告の解散を求める以外に方策がないとは考え難く、本件において、被告に有限会社法七一条ノ二所定の解散事由があると認めることはできない。

三  結論

以上により、原告らの請求はいずれも理由がないのでこれを棄却する。

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