大判例

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徳島地方裁判所 昭和39年(わ)366号 判決

被告人 寺前学

主文

被告人を懲役三月に処する。

この裁判が確定した日から一年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、証人沢田保、同岡本賢治、同横田和孝、同柴田喜義、および同浦川真義に各支給した分は、被告人の負担とする。

本件公訴事実中、集団行進及び集団示威運動に関する徳島市条例(昭和二七年一月二四日条例第三号)違反の点は無罪。

理由

第一事実

一、本件集団示威行進の状況と被告人の行動

被告人は日本労働組合総評議会の専従職員であるところ、昭和三九年一一月一三日、徳島市幸町の徳島市役所前を出発し、同市通町、両国通り、両国橋、銀座通り、籠屋町、東新町、新町橋を経て元町、徳島駅前、鉄道管理部前に至る、「安保反対、平和と民主々義を守る県民会議」主催の、原子力潜水艦の日本寄港に反対を表明する参加者約一、〇〇〇名の集団示威行進(右主催者の代表者によつて集団行進及び集団示威運動に関する徳島市条例一条に基く届出とともに、道路交通法七七条に基く道路の使用許可の申請がなされ、徳島東警察署長により、三列縦隊で行進を行い、蛇行進及び渦巻き行進等をしないこと等六項目にわたる条件の下にこれが許可された。)に参加したものであるが、右行進が、同日午後六時一五分ごろ同市銀座通り道路にさしかかつた際「わつしよい、わつしよい、原潜反対」などと、次いで午後六時二〇分ごろ同市東新町道路にさしかかつた際「わつしよい、わつしよい、原潜反対、原潜帰れ」などと、更に午後六時三〇分ごろ同市元町交差点附近(新町橋北詰附近)道路にさしかかつた際「原潜寄港反対」などと、更にまた午後六時四七分ごろ同市徳島駅前東側道路にさしかかつた際にも前同旨のことをそれぞれ隊列の外から集団行進者に対し、携帯用マイク(昭和四〇年押第五四号の一の一)で大声で呼びかけるなどし、その都度、集団行進者の一部が蛇行進をするについて、気勢を添えて蛇行進行為のせん動をし、かつ、右集団行進者の一部とともに道路交通法七七条違反の行為をした。

二、罪となるべき事実

そこで、同日午後六時四七分ごろ右駅前東側道路において徳島県警察本部巡査部長横田和孝、同巡査浦川真義(いずれも機動隊員)、徳島東警察署巡査柴田喜義、および同巡査岡本賢治が同警察本部警部補沢田保の指揮により、被告人を集団行進及び集団示威運動に関する徳島市条例三条三号、五条違反ならびに道路交通法七七条違反の(準)現行犯人として被告人の両手足をとらえて逮捕しようとしたところ、被告人は、その逮捕を免れるため、登山靴(同号の四)で、被告人の右斜前からその両足をとらえようとする前記岡本巡査の顔面、右手を数回蹴つて暴行を加え、もつて同巡査の職務の執行を妨害するとともに、右暴行によつて同巡査に対し全治まで約五日間を要する右示指擦過傷の傷害を負わせたものである。

第二証拠の標目〈省略〉

第三法令の適用

被告人の判示所為中、公務執行妨害の点は刑法九五条一項に傷害の点は刑法二〇四条、罰金等臨時措置法二条、三条に各該当するところ、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により重い傷害罪につき定めた懲役刑をもつて処断すべく、その所定刑期範囲内で被告人を懲役三月に処するが、諸般の情状にかんがみ同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から一年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して主文三項のとおり被告人に負担させる。

第四本件公訴事実中、集団行進及び集団示威運動に関する徳島市条例違反の点は無罪である理由-同条例(昭和二七年一月二四日条例第三号)(以下、市条例と略称する)三条三号、五条の違憲性

本件公訴事実中、被告人が蛇行進をせん動した事実は、第一の一、において判示したように、証拠によつてこれを肯認できる。

ところで市条例三条は、「遵守事項」として「集団行進又は集団示威運動を行おうとする者は、集団行進又は集団示威運動の秩序を保ち公共の安寧を保持するため、次の事項を守らなければならない」とし、その三号として「交通秩序を維持すること」と規定し、これに違反して行われた集団行進又は集団示威運動のせん動者に対しては五条により一年以下の懲役若しくは禁錮又は五万円以下の罰金が科せられることとなつている。

しかしながら、そもそも集団行進又は集団示威運動は、多数人の集団が道路その他の公共場所を相当長時間にわたり占拠よう塞し、一般大衆に訴えようとする政治、経済、労働等に関する何らかの思想、主張を表現しつつ行進又は運動することを本質的内容とするものであつて、それは、必然的に、右のような場所における他の人車の交通等に影響を及ぼし、時、場所、方法等によつては、右のような集団行進等の行われない場合に想定される交通秩序に服し難い状況を惹起せしめるであろう。換言すれば、集団行進等は、右のような交通秩序を重視する観点にたてば、これをみだすに至るべき性質を有するものである。

ところで、右のような性質を有する集団行進等に対し、何らかの形における法的規制が必要であり、そのために市条例は、その一条と二条により、いわゆる事前届出方式を採り、それ自体憲法二一条の保障する表現の自由の一形態である集団行進等を事前に規制する立法形式としては首肯できるところであるが、前記のようにその五条に罰則を設け、その犯罪構成要件の一として三条の規定違反をかかげ、その三号に「交通秩序を維持すること」をあげている。即ち、これは、集団行進等の方法、形態等を規制しようとするものであることが明らかであるが、それ以上に何らの具体的規定すら設けることなく(この点に関し集団行進及び集団示威運動に関する埼玉県条例-昭和二四年条例四三号-三条三号参照)、ただ単に「公共の安寧を保持するため」「交通秩序を維持すること」という、それ自体、およそ一般的、抽象的かつ多義的な概念を内容とするものであるばかりでなく、それは、前記のように集団行進等の行われない場合に想定される「交通秩序を維持すること」であるのか、それとも集団行進等の行われる場合には、およそかくあらねばならぬ「交通秩序を維持すること」であるのか、かつ、もし後者であるならば、それはどのような内容を想定しているのであるのか甚だ不明確な立言であつて、犯罪構成要件の明確性を要請する罪刑法定主義にもとり、これを宣言したと解すべき憲法三一条に違反するものといわなければならない。

もつとも第一の一、において判示したように、本件集団示威行進に際し、予め主催者たる「安保反対、平和と民主々義を守る県民会議」の代表者によつて市条例一条に基く届出とともに、道路交通法七七条に基く道路の使用許可申請がなされ、所轄警察署長である徳島東警察署長により、三列縦隊で行進を行い、蛇行進及び渦巻き行進等はしないこと等の条件の下にこれが許可されていたのであるが、このことから、検察官は、右条件を遵守することが即ち市条例三条三号の[交通秩序を維持すること」である旨主張する。

しかしながら、道路交通法は、その一条の規定からも明らかなように専ら道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を期する見地から、道路上における一定の行為を規制対象とするものであつて、本来、憲法二一条の保障する表現の自由とはかかわりのない性質の法規範であるのに対し、市条例は専ら「公共の安寧を保持する」(三条)見地から、右の表現の自由の一形態である集団行進等を規制対象とするものであつて、両者は本質的に異なる性質のもといわなければならない。ただ現実の問題として、前に考察しように、集団行進等は、必然的に、公共の場所である道路上で行われる以上、行進者等は道路交通法による規制にも服するという関係があるに過ぎず、両者は本来、一を以て他を補うというような関係にあるものではない。要するに、市条例三条三号に「交通秩序を維持すること」と規定されているからといつて、それが一般的、抽象的、多義的また不明確であるがゆえに、直ちに道路交通法七七条に基く警察署長の道路使用許可条件の事項を内容とするものと解すべきでない。よつて、ある行為が前記の許可条件に違反した場合に道路交通法による処罰の対象とはなることがあつても、右条件違反が直ちに市条例三条三号違反の構成要件を充足し、五条による処罰対象となると主張することに帰着する検察官の所論には賛同し難い。

のみならず市条例四条は「違反に対する措置」として「徳島市警察長は…第三条の規定…に違反して行われた集団行進又は集団示威運動の参加者に対して、公共の秩序を保持するため警告を発してその行為を制止し、その他違反行為を是正するにつき必要な限度において、所要の措置をとることができる」旨規定し、警察官に制止等の裁量による措置権限を与えている。

ところで市条例三条三号の「公共の安寧を保持するため」「交通秩序を維持すること」という概念は、前に考察したように一般的、抽象的かつ多義的であるばかりでなく、不明確であるので多様の解釈を許す可能性を包蔵するものであるが、それと同様に、右四条の措置権限の行使に要請される基準として規定されている「公共の秩序を保持するため」という立言は、それ自体、極めて伸縮性に富む概念を内容とするものである。従つて集団行進等の具体的場面において、警察官が市条例三条三号の規定に違反するものであると解釈判断した場合、「公共の秩序」の「保持」を重視するの余り、その妥当であらねばならぬ裁量範囲を逸脱して市条例四条に規定する制止等の措置権限を行使し、ひいては、憲法二一条によつて保障された表現の自由に属する集団行進等の自由を制限ないし禁圧するに至る危険性がないとはいえない。

要するに、市条例三条三号の規定は、その構成要件の一般的抽象的、多義的かつ不明確性がその四条の規定とも相まち、憲法二一条の保障する表現の自由に対する侵害を招来せしめるおそれがある点においてもまた、右憲法の条規に違反し、従つて無効であるといわなければならない。

なるほど、市条例六条は、「この条例は第一条に定めた集団行進又は集団示威運動以外に集会を行う権利を禁止し、若しくは制限し、又は集会、政治運動を監督…する権限を公安委員会、警察吏員その他の公務員に与えようとするものでない。」と規定しているが、この規定ならびに市条例の他の何れの規定からしても以上の当裁判所の判断をくつがえすに足る根拠は見あたらない。

以上のとおり市条例三条三号の規定が違憲無効のものである以上、これに違反して行われた集団行進等のせん動者を処罰する同条例五条の規定もまた、右の点に関する限り、違憲無効であることに帰着し、結局、本件公訴事実中市条例違反の点は罪とならず、刑事訴訟法三三六条前段によつて、被告人に対し無罪の言渡しをなすこととする。

第五公務執行妨害罪の成否

被告人は、判示第一の二、のように、岡本巡査らによつて市条例違反ならびに道路交通法違反の(準)現行犯人として逮捕されようとした際、同巡査に暴行を加えてその職務の執行を妨害したものであるが、道路交通法違反による逮捕行為の適法性は問題ないとして、第四に示すように市条例三条三号、これに違反した行為者を罰しようとする限りにおける五条が違憲無効の規定と解される以上、同巡査の右市条例違反を理由とする逮捕行為は適法でなく、これに対する公務執行妨害罪は成立しないのではないかとの疑問を生ずる。

しかしながら、公務員がその一般的権限に属する事項に関し一定の行為を行つた場合、たまたまその職務執行行為の原因である具体的事実に対する法規の解釈適用を誤つたとしても、その行為がその公務員の一般的権限に属するものであり、集団行進等について、本件市条例のような届出方式でなく、これよりも厳しい事前規制であるとされている、許可方式を採つた、他の、いわゆる公安条例に関し、既に最高裁判所が合憲の判示をしていたのであるから、判示岡本巡査らが、その職務行為を適法と信じ、かつそのように信ずることもやむをえない状況にあつたと考えられるので同巡査らの職務行為が、直ちに、適法でなかつたと解することはできない。ゆえに、その職務の執行にあたり、これに対し第一の二、において判示したような暴行に出た被告人の行為は、公務執行妨害罪を構成するものというほかはない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川寛吾 深田源次 田村承三)

(参照資料)徳島市条例〈省略〉

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