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徳島地方裁判所 昭和46年(ワ)54号 判決

原告

久保照雄

被告

村上澄雄

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し金七〇八、一〇〇円及びこれに対する昭和四六年四月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその一を原告の負担としその余は被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告)

1  被告らは各自原告に対し、金一、一三八、一〇〇円及びこれに対する昭和四六年四月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

(被告)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二主張

(請求原因)

一  事故の発生

1 発生日時 昭和四四年二月一八日午後二時二〇分頃

2 発生場所 徳島市応神町古川、吉野川橋上

3 加害車 普通乗用自動車

4 右運転者 被告村上

5 被害車 普通貨物自動車

6 被害者 原告、被害車運転中

7 態様

鳴門方面に向つて進行していた被害車後部に、その直後を追従進行していた加害車が追突した。

8 結果

イ 原告は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、右傷害に基く眩暈症となり、昭和四四年二月二四日、二五日の二日中西整形外科病院へ通院し、同月二六日から同年五月一日まで同病院へ入院し、同月二日から同年一〇月三一日まで同病院へ通院し、同年一二月一二日から昭和四五年七月一三日まで名手耳鼻咽喉科へ通院し治療を受けたが、頭痛、頭重感、頸頂部痛、肩こり、立くらみ、視力低下等の後遺症を残している。

ロ 本件事故により被害車の後部等が破損した。

二  責任原因

(一)1 被告村上は、加害車の所有者であり、本件事故当時自ら加害車を運転し自己の運行の用に供していた。

2 本件事故は、被告村上の、加害車を運転し、被害車に追従して進行するに際し、前方被害車の動向に充分注意し、かつ被害車との間に安全な車間距離を保ち追突事故の発生を防止すべき義務があるのにこれを怠つた過失により発生したものである。

(二) 被告村上は、本件事故当時杜氏として被告会社に雇用されていた。杜氏とは酒譲造職人の長、即ち責任者にすぎず、季節的労務という特殊性があり、酒醸造という高度の熟練労働性からその職務の遂行上一定の裁量が是認されているが、被告会社と被告村上の関係は、使用者と従業員との関係にあつた。

そして徳島の津乃峰酒造会社において、業者の招待により、酒醸造機の展示、見本会が開かれたが、被告会社からは被告会社の専務と技術責任者たる被告村上とが右展示、見本会に出席し、被告村上が専務を加害車に同乗させて被告会社へ帰る途中本件事故を惹起したものである。杜氏である被告村上の職務内容には、被告会社で使用すべき醸造機の選定、調査購入に関する業務が含まれており、従つて被告村上の前記展示、見本会への出席は被告会社の業務の一つであり、右展示、見本会へ出席するにつき、自己が自動車で往復すること及び被告会社の専務を送迎することもその業務に含まれている。

以上のように本件事故当時、被告会社は加害車を被告会社の用務に利用し、自己の運行の用に供していたものであり、又被告村上は被告会社の被用者としてその業務を執行していたものである。

三  損害

(一) 慰藉料 金一、〇〇〇、〇〇〇円

前記傷害の部位、治療期間、後遺症を考えれば慰藉料の額は金一、〇〇〇、〇〇〇円を下らない。

(二) 入院雑費 金一九、五〇〇円

前記の如く本件事故による傷害の治療のため六五日間入院したが、その間一日につき金三〇〇円の入院雑費を要した。

(三) 車両修理費 金一八、六〇〇円

本件事故による被害車の破損個所の修理のため金一八、六〇〇円を要した。

被害車は、原告が勤務する匠工務店が所有するものであるが、原告がその業務のため専属的に使用していたもので使用貸借関係にあり、右修理費用は匠工務店に対する関係では原告が負担しなければならないものである。

仮にそうでないとしても被害車の使用に関しては原告は、匠工務店のいわば機関即ち手足であり、匠工務店と全く同一体的な関係にある。そして右修理費用につき匠工務店は被告らに対して請求しないことは明らかであるので、原告の損害として被告らに請求しうる。

(四) 弁護士費用 金一〇〇、〇〇〇円

四  結語

よつて原告は被告らに対し、本件事故による損害賠償として金一、一三八、一〇〇円及びこれに対する弁済期日経過後である昭和四六年四月四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(答弁)

一  請求原因一項1乃至7の事実は認める同項8の事実は争う。

二(一)  請求原因二項(一)の事実は認める。

(二)  請求原因二項(二)のうち、被告村上が杜氏であり、被告会社において酒の醸造を行つていたこと、本件事故が、被告村上において徳島の津乃峰酒造会社において業者の招待により開かれた酒の醸造機の展示見本会に出席した帰途に発生したこと、本件事故当時加害車に被告会社の薦田専務が同乗していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告村上は杜氏であり、杜氏の業務は独立性を帯びたものである。そして被告村上は、被告会社から酒の醸造を請負い、独立して自己の計算において補助者を使いその業務に携つているものであり、被告会社の従業員ではない。

そして被告村上が酒の醸造機の展示、見本会に出席したのは、業者の招待によるもので、杜氏たる業務の参考に資するためであつた。又本件事故当時加害車に被告会社の薦田専務が同乗していたのも、私的な理由で便乗させたものである。

三  請求原因三項(一)、(二)の事実及び損害額は争う。同項(三)の修理費を用したことは争う、原告が被害車の所有者でない以上原告は被害車の修理費を原告の損害として請求し得ない。

(抗弁)

本件事故当時、被害車の後尾灯は泥で汚れ、その効力を失つていた。後尾灯が完全であれば本件事故の発生は防止できた。したがつて過失相殺がなされるべきである。

(抗弁に対する答弁)

抗弁事実は争う。

理由

一  事故の発生

請求原因一項1乃至7の事実は当事者間で争いはない。

〔証拠略〕を総合すれば、原告は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、事故当日徳島市民病院で治療を受けたが、その後、頸部痛、頸部の運動障害、頭痛、頭重感、右手のしびれ等の症状が顕われ、昭和四四年二月二四日と同月二五日の二日中西整形外科病院へ通院し、同月二六日から同年五月一日まで同病院へ入院し、以後同年五月に一七日、同年六月、七月、一〇月に各七日、同年一一月に一日同病院へ通院して治療を受けたこと、しかし前記症状は全治せず同年一二月一二日から昭和四五年七月一三日までの間、昭和四四年一二月に一六日、昭和四五年一月に一九日、同年二月に一七日、同年三月に一二日、同年四月に四日、同年七月に二日名手耳鼻咽喉科へ通院して治療を受け同年七月一三日、頭痛、頭重感、頸部痛等の後遺症を残して症状が固定したこと、名手耳鼻咽喉科の林医師は右後遺症は自動車損害賠償保障法施行規則別表の一四級に該当するものと判定していることがそれぞれ認められる。

〔証拠略〕によれば、加害車が被害車に追突した衝撃により、被害車が前方に押し出され、被害車の前方に停車していた貨物自動車に追突したこと、そのため被害車は後部及び前部が破損したことが認められる。

二  責任原因

(一)  請求原因二項(一)の事実は当事者間に争いはない。

(二)  本件事故当時、被告村上が杜氏として被告会社において酒造の業務に従事していたことは当事者間に争いはない。〔証拠略〕によれば、被告会社は、昭和二八年頃設立された酒の醸造を営む会社であること、被告村上は、被告会社設立当時から毎年酒造期には、被告会社において酒造の業務に従事しており、他の酒造業者でその業務に従事したことはないこと、そして被告村上は、当初、杜氏であつた被告村上の叔父の下で右酒造の業務に従事していたが、約一〇年前からは杜氏として右酒造の業務に従事していること、被告村上が被告会社において酒造の業務に従事するのは、毎年一一月頃から翌年の四月頃までの酒造期間内のみであること、そしてその間杜氏である被告村上は、自らが選んだ一〇名前後の酒造労務者を連れ被告会社へ赴き被告会社に住込み、被告会社が提供する醸造用の機械器具及び材料によつて酒造を行うこと、酒造の技術面は全て杜氏である被告村上にまかされ被告村上が全責任を負つており、被告会社の代表者といえども指示をしたりないしは口出することはないこと、被告村上やその他の労務者に対する対価は、杜氏である被告村上に対しては、一仕込単位でその額を定めて被告会社から支払われ、その他の労務者に対しては日給制により、被告村上がその明細書を被告会社に提出し、それに基き被告会社が支払うことがそれぞれ認められる。以上の事実によれば、本件事故当時、被告村上は、被告会社の被用者であつたものと解するのが相当である。勿論酒造という特殊な業務であるため季節的な労務という特殊性を有しており、又被告村上は杜氏として酒造に関する全責任を負つているとはいえそれは酒造の技術面での最高責任者というにすぎないものと考えられ、これらのことが、被告村上が被告会社の被用者と解することに何らの妨げとなるものではない。〔証拠略〕中に、被告村上は酒造を請負つているとの部分があるが、前記認定の事実に照らせば、被告村上が被告会社から独立して酒造を請負つているものとはとうてい解せられない。本件事故が、被告村上が、徳島の津乃峰酒造会社において業者の招待により開かれた酒醸造機の展示、見本会に出席した帰途に惹起されたものであること、本件事故当時、加害車には被告会社の薦田専務が同乗していたことは当事者間に争いはない。〔証拠略〕によれば、前記展示、見本会への招待は、被告会社とは別に被告村上個人に対してもなされ、被告会社に対する招待に基き薦田専務が出席し、被告村上個人に対する招待に基き被告村上が出席したものであること、又被告村上は、杜氏として酒造に関し自らの知識を広め技術を向上させたいとの考えもあつて右展示、見本会に出席したものであることが認められる。ところで前記認定の被告村上が被告会社の被用者であり、杜氏として、被告会社設立以来被告会社において酒造の業務に従事しており他の酒造業者で酒造の業務に従事したことがないとの事実に照らせば、前記展示、見本会へ出席するにつき被告村上に右認定の如き意思があつたとしても、被告村上が酒造に関する技術を向上させることはひいては被告会社の酒造技術が向上することとなるものと考えられる。又〔証拠略〕によれば、前記認定の如く、被告村上が杜氏として被告会社における酒造の技術面について全責任を負つており被告会社の代表者も口出はしない立場にあることから、被告会社において、酒造用の機械器具等を購入する際は、杜氏である被告村上の意見を聞きそれにより決定することが認められる。したがつて被告村上が右展示、見本会へ出席することは被告村上の被告会社における職務行為の範囲内にあるものと解される。そして〔証拠略〕によれば、被告村上は薦田専務の依頼により、被告会社から右展示、見本会場への往復、被告村上所有の加害車に同乗させたことが認められ、右事実によれば、被告会社は、被告村上が前記展示、見本会へ出席すること及び右出席するにつき被告村上所有の加害車を使用することを、認容していたものと推認される。そうすれば、本件事故当時の被告村上の加害車の運転行為は、被告会社の事業の執行行為と解するのが相当である。よつて被告会社は、民法七一五条一項により本件事故により原告が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

三  過失相殺

被告らは、本件事故当時被害車の後尾灯が泥で汚れその効力を失つていた旨主張するところ、右主張にそう被告村上澄雄本人の供述部分は〔証拠略〕に照らしたやすく採用できず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。よつて被告らの過失相殺の抗弁は採用しない。

四  損害

(一)  慰藉料 金六〇〇、〇〇〇円

前記本件事故の態様、傷害の部位、程度、治療経過、後遺症その他の事情を考慮すれば、慰藉料の額は金六〇〇、〇〇〇円をもつて相当する。

(二)  入院雑費 金一九、五〇〇円

入院にともない雑費を要することは公知の事実であるところ、その額は一日につき金三〇〇円をもつて相当とするので前記六五日の入院期間中の雑費は金一九、五〇〇円となる。

(三)  車両修理費 金一八、六〇〇円

〔証拠略〕によれば、本件事故による前記被害車の破損個所の修理のため金一八、六〇〇円の修理費用を要したことが認められる。

〔証拠略〕によれば、被害車は、原告が勤務している匠工務店の所有であり、原告が属する課に配置されていたものであること、そして原告は、匠工務店においてその職務を行うにあたり、常時被害車を運転し使用していたこと、本件事故当時も、原告は、匠工務店における職務を行うため被害車を運転していたものであることが認められ、右事実によれば、匠工務店においてその職務を行うにつき、原告が被害車を使用することが許されていたものと推認される。ところで労務者は、使用者に対し、その労務を提供するについては、善良な管理者の注意を要求されており、したがつてそれに附随して本件被害車の如き使用者から使用を許された物については善良な管理者の注意をもつてそれを保管すべき義務があるものと解される。したがつて前記認定の事実のもとでは、原告は、匠工務店に対し、被害車を、善良な管理者の注意をもつて保管すべき義務があり、これを破損した場合自らの無過失を立証しない限り匠工務店に対して損害賠償の義務を負うものと解される。しかるに本件全証拠によるも本件事故の発生につき原告に過失があつたか否かは不明であり無過失の立証がない。そうすれば原告は、匠工務店に対し前記認定の被害車の破損による損害金一八、六〇〇円を賠償すべき義務があるので、これと同額の損害を蒙つたものといわねばならない。

(四)  弁護士費用 金七〇、〇〇〇円

原告が弁護士である本件原告訴訟代理人に本件訴の提起及び追行を委任したことは本件記録により明らかである。前記(一)乃至(三)による認容額及び本件に顕われた一切の事情を考慮すれば弁護士費用のうち被告らにおいて負担すべき額は金七〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

五  結語

以上により被告らは原告に対し、本件事故による損害金として金七〇八、一〇〇円及びこれに対する弁済期日経過後である昭和四六年四月四日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よつて原告の本訴請求は右認定の限度で理由があるのでその限度で認容し、その余の部分は失当であるので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し仮執行免脱宣言の申立については相当でないので却下し主文のとおり判決する。

(裁判官 寺崎次郎)

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