大判例

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新宿簡易裁判所 昭和33年(ほ)1号 判決

請求人 松本留雄

決  定

(請求人氏名略)

右の者に対する窃盗被告事件につき昭和二十七年七月二日当裁判所が言渡した有罪判決の一部に対し、同人から再審の請求があつたので、当裁判所は請求人及びその相手方の意見をきいた上次の通り決定する。

主文

本件再審を開始する。

理由

請求人の請求の趣旨は、請求人は昭和二十七年七月二日新宿簡易裁判所に於て、窃盗罪により判示(33)乃至(36)の点(昭和二十七年(ろ)第二一九号事件公訴事実(1)乃至(4))に付懲役六月に、其の余の判示所為に付懲役二年(計二年六月)に処する旨の判決を受け、前記各刑の服役終了したところ、右懲役六月を以て処断された犯罪の中、判示(35)及び(36)の事実は同人に無関係であり、同人は右事実については無罪であることを最近にいたり悟つた。即ち判示(35)及び(36)の事実は、その犯行日時がそれぞれ昭和二十三年十月一日及び同年十一月二十三日であり、当時同人は京都松原警察署に逮捕拘束され、引き続き京都拘置所に拘禁中であつたので、前記犯罪には無関係であつたのにかかわらず、原審に於ける審理当時は、同人は右犯罪を自己の犯した他の窃盗犯罪と取り違え、その犯行を認めたので、前記判決は確定し、宮城刑務所に於てその服役も終了するにいたつた。請求人は前記犯罪のほかにも幾多の犯罪を犯していたので、それぞれ有罪確定判決を受けて、前橋刑務所京都刑務所等に服役し、現に京都刑務所に服役中であるが、昭和三十二年十二月二十七日京都地方裁判所に於て、前記その取り違えた犯罪につき懲役四月の有罪判決を受けるに及び初めて自己の過ちを悟るにいたつた。

前記確定判決を受けた判示(35)及び(36)の犯罪は、前述の如く元来同人に無関係のものであり、この点は昭和二十三年十月十二日より同年十二月六日まで京都拘置所に在監したとの在監証明書(昭和三十三年五月三十一日京都拘置所長作成)を以て証明することができる。故に請求人は無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したものであるから、再審の請求に及ぶというにある。

よつて先づ請求人提出の証拠は、刑事訴訟法第四百三十五条第六号所定の無罪を言い渡すべき明らかな証拠であるか否かという点につき審究するに、同人提出の前記在監証明書及び再審請求後当裁判所の事実取調により判明した京都府松原警察署作成の犯罪事件処理簿の記載によれば、請求人は詐欺被疑事件により、昭和二十三年十月九日松原警察署に逮捕拘束され、その後引き続き同月十二日より同年十二月六日まで、京都拘置所に拘禁されたことが明らかである。従つて、人は同時に二つの異つた場所には存在し得ないという自然法則により、前記在監証明書及び犯罪事件処理簿の記載が真実である限り(特段の事情なき限りその真実性は疑うべくもない)、請求人は少くとも、前記判示(36)の昭和二十三年十一月二十三日の犯罪に無関係であることが明瞭である。従つて請求人提出の証拠は、いわゆる確実なる不在証明として、刑事訴訟法第四百三十五条第六号所定の無罪を言い渡すべき明らかな証拠にあたるといわざるを得ない。

次に請求人は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したか否かという点につき審究するに、このあらたに発見したとは証拠の発見があらたなことをいい、その証拠が確定判決前より存在したか、或はその後あらたに発生したかを問わないものと解するのが相当である。そこで前記いわゆる不在証明が、客観的には確定判決前より存在していたことは明かであるが、請求人は不注意にもそれに気付かず、後にいたり気付いたというのであるから(請求人は自己の犯した犯罪を彼此混同したため、肝心の不在証明に気が付かなかつたというのであるが、或は混同を生じたかも知れぬと思われる程同人の犯罪は多数複雑である。)その気付いたことがまさに文字通り、刑事訴訟法第四百三十五条第六号所定の証拠をあらたに発見したことにあたると解すべきである。(この点に関し何等の過失なくして、原審に於て提出し得なかつた証拠のみが、あらたに発見した証拠にあたるとの見解があるようだが、かかる見解は法文自体に何等その根拠を見出し得ざるのみならず、被告人の過失をとがめ立てして、再審による救済を拒否することになり、実体的真実の発見と、法的正義の実現を旨とする刑事訴訟の本義にもとるものと考える。ちなみに、故意に原審に於て提出しなかつた証拠については、この場合は、無罪証拠の存在の当初より知つていたのにかかわらず、何等かの理由により、ことさらこれを提出しなかつたのであるから、初めから発見していたのであつて(発見とは証拠を提出することではない)、これをあらたに発見したものとはいい難いであろう。)

故に本件再審請求中少くとも判示(36)の事実については、刑事訴訟法第四百三十五条第六号所定の無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとの要件を具備するものというべきである。

以上述べたところにより前記新宿簡易裁判所の言い渡した確定判決の中判示(36)の事実については、再審の理由ありと認められるが、右判示事実は判示(33)乃至(35)の事実と併合罪の関係にあるため、一括して懲役六月の判決主文の対象となつており、これらの犯罪と不可分の関係にあるから判示(33)乃至(36)事実につき、一括して再審開始の決定をなすを相当と認める。

よつて主文の通り決定する。

(裁判官 井上功)

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