大判例

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新潟地方裁判所長岡支部 昭和61年(ワ)95号 判決

原告 森山アイコ

右訴訟代理人弁護士 宮本裕将

被告 林昭治

右訴訟代理人弁護士 大塚勝

主文

一  被告が森山良之助に対する新潟地方裁判所長岡支部昭和四九年一二月九日付仮差押命令に基づいて同月一一日、別紙物件目録記載の土地共有持分二分の一についてなした仮差押えを許さない。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、森山良之助(以下「良之助」という。)に対する請求の趣旨記載の債務名義に基づいて、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の共有持分二分の一(以下「本件持分」又は「本件持分権」という。)に対し仮差押え(以下「本件仮差押え」という。)をなした。

2  原告は、本件土地につき、良之助から、昭和五一年二月二七日、その贈与を受け、かつ、引渡しを受け、同占有開始時点において、無過失で一〇年間占有し、昭和六一年二月二六日、原告のため本件持分権の取得時効が完成した。

3  原告は、右取得時効により、本件持分権を昭和五一年二月二七日に遡って取得したことになり、この反射的効果により、本件仮差押えは排除されるべきものとなった。

4  原告は、本訴において、右時効を援用する。

よって、原告は被告に対し、本件持分権に基づき、請求の趣旨のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は否認する。

3  請求原因3の事実は否認する。

三  抗弁

原告の本件土地に対する占有は、所有の意思がなく、強暴かつ隠秘であり、占有の始め悪意であった。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  本件仮差押えについて

被告が、本件持分に対し、本件仮差押えをなしたこと(請求原因1)については、当事者間に争いがない。

二  原告の本件持分権の取得について

1  《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  原告の男兄弟である良之助及び森山髙之助(以下「髙之助」という。)は、昭和一七年一二月一日、本件土地を、母の土地を売った代金で、電力会社から買い受けた。

(二)  そして、原告の父は、人夫を頼んで本件土地を田畑に作り替えた。

(三)  本件土地は、前記(一)のとおり、良之助と髙之助の共有名義になっていたが、二人ともサラリーマンで実家にはいなかったため、実際は森山家の財産として、原告の父が、田として耕作していた。

(四)  その後、昭和三八年頃から、原告とその姉が、本件土地を耕作するようになった。

(五)  一方、良之助は、役場を退職したのち、長良設備という会社を設立し、同社のために、昭和四八、九年にかけて、被告から借金をした。

(六)  そして、被告は、良之助からの借金返済の見通しが立たなかったので、昭和四九年一二月一一日受付で本件仮差押えの登記をした。

(七)  その後、森山家では、髙之助及び良之助が、いずれも他で独立して所帯を持ったため、結局、原告が森山家の財産や家のことを引き継ぐことになり、農業委員会の許可も得たうえ、とりあえず、昭和五一年二月二七日付けで、良之助から原告が本件持分を贈与によって譲り受け、その旨の登記も経て、以後、その固定資産税は原告が負担し、かつ、原告が同日以後現在に至るまで本件土地を自分の土地として耕作してきた。

(八)  なお、本件土地のうち、残り二分の一の持分については、髙之助がその登記名義を有しているものの、これについても、当初から原告に取得させることで合意がなされていたが、登記名義を変更すると税金がかかる可能性があったので、それを避けるために、いまだにその登記を原告名義にしていないものである。

(九)  ところで、原告は、良之助から本件持分を譲り受ける際、本件仮差押えがあることを知っていた。

(一〇)  しかし、原告は、被告が本件仮差押えを解消してくれるものと考えていた。

(一一)  また、原告は、銀行支店長を介して、本件仮差押えを解消してもらいたい旨の希望を被告に伝えていた。

(一二)  更に、原告は、前記支店長が本件仮差押えにかかる債務を弁済することによって、いずれは同支店長が本件仮差押えの登記を抹消するべく努力してくれているものと思っていた。

(一三)  原告は、前記(七)の占有開始後、同様の状態の占有を一〇年間継続した。

(一四)  他方、被告は、本件仮差押えの登記をしたのち、良之助から何度も返済する旨の話があったとはいえ、積極的に請求手続をしたことがなく、また、良之助が死亡する昭和六〇年までの間、原告に対し、何らの請求も話合いもしなかった。

2  所有の意思(自主占有)

以上のいきさつからして、原告には、本件持分が自分に属することに間違いないと考えてもおかしくない事情があり、従って、原告は、本件持分権者と同一内容の支配をする意思で、その主張の日から、本件土地に対して耕作という事実支配、つまり、自主占有を始めたものということができる。

3  平穏公然

また、以上の事実によれば、原告は、本件持分にかかる本件土地について、右譲り受けの際、平穏かつ公然にその占有を開始したものということができる。

4  善意無過失

更に、原告は、その占有の始めにおいて、自己が本件持分権を持っているものと信じ、かつ、これを信じるについては、前記いきさつから考え、過失がなかったものということができる。

すなわち、なるほど、本件持分には本件仮差押えがなされており、その旨の登記も経ているうえ、原告はそのことを知っていたのである。

しかし、そもそも仮差押えは、金銭債権又は金銭債権に換えることができる請求権のために、債務者の財産を確保し、将来の強制執行を保全することを目的とする制度であるから、その処分は暫定的・仮定的であり、最終的判断を本案の裁判に任せ、それまでの間のつなぎの働きをするに過ぎないのである。

更に、不動産に対する仮差押えの執行の効力には、処分禁止の効力があるが、それは、当該執行との関係でのみ仮差押え後の処分が無効となるだけのことであって、相対的なものであり、そうであるからこそ、本件においても、本件仮差押えの登記後であっても、良之助から原告への、贈与による本件持分移転登記を認めているのである。

これらのことに鑑みると、原告の場合、仮差押えの登記以後の贈与ではあるが、その贈与は元々有効性を秘めているのであるから、原告には、その贈与を有効と考えるのも無理もない事情があり、結局は、本件仮差押えの存在自体は、原告の取得時効における善意無過失を認める妨げとはならないものというべきである。

5  時効の援用

原告が、その主張の取得時効を援用したことは、記録上明かである。

6  時効取得

よって、原告は、その主張どおり、本件持分権を、一〇年間の占有により、時効取得したものというべきである。

三  時効による原始取得と仮差押えの執行の排除について

1  時効取得は、原始取得と解すべきであるから、その反射的効果として、取得前の権利者の下で負担していた制限を時効取得者が容認していたとき(このときは、その制限を負った権利を取得することになる)以外は、時効取得者は、その制限を受けることはなく、遡るべき時効の起算点が右制限を負った時点よりも後であっても、時効の遡及効を上回り、制限のない完全な権利を取得するものと解すべきである。

2  これを本件についてみるに、原告は、前記特に二ノ(一〇)ないし(一三)の事情からして、本件仮差押えがあっても構わないと思っていたわけではなく、やはり、早晩これがなくなってもらいたいと思っていたことは確かであり、しかも、他人を介してではあるが、本件仮差押えを解消するための働きかけも行っているばかりか、前記二ノ(一四)のとおり、被告は、本件仮差押えの登記後、そこで述べたような事情があったとはいえ、積極的に請求手続をしたこともなく、原告に対し、何らの請求も話合いもしなかったことなどの主観的事実及び客観的事実を総合すると、原告は、本件仮差押え(右1でいう制限)を容認していなかったというべきであるから、本件仮差押えの執行は排除されるべきである。

四  結論

よって、本訴請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大島哲雄)

〈以下省略〉

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