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新潟家庭裁判所 昭和42年(家)1482号 審判

申立人 泉谷とき子(仮名)

相手方 川本勇(仮名)

主文

一、離婚に伴う財産分与として

相手方は、申立人に対し、

(1)  昭和四三年六月三〇日限り金六〇五万円を新潟家庭裁判所に寄託して支払え。

(2)  相手方の所有する別紙物件目録記載第二の有限会社○○美容院の持分(出資四口)を分与し、持分移転登載手続をせよ。

申立人は、相手方に対し

(3)  第一項の金員受領とひきかえに、別紙物件目録記載第一の建物につき申立人の有する共有持分移転登記手続をせよ。

(4)  申立人の有する別紙物件目録記載第三の有限会社○○工業所の持分(出資二口)を分与し、持分移転登載手続をせよ。

(5)  申立人の所有する乗用自動車(新○-○○○○)を分与し、所有権移転登録手続をせよ。

二、審判費用中、鑑定手数料(金四万七〇〇円)はこれを申立人および相手方の平等負担とする。

理由

一、申立人の申立

相手方は申立人に対し、離婚による財産分与として

(1)  相手方所有の宅地二二三・一四平方メートル(○○市○○町○丁目○○番地所在)の二分の一を申立人に分与するか、又は申立人と共有(持分各二分の一)とし、右所有権移転登記手続をすること。

(2)  相手方所有の有限会社○○美容院(○○市○○町○丁目○○番地所在)の持分(四口)を申立人に分与し、相手方は右持分移転手続をすること。

二、相手方の申立

(1)  離婚に伴う財産分与として申立人は、申立人所有の建物・鉄筋コンクリート造陸屋根五階建店舗兼事務所兼居宅一棟(○○市○○町○丁目○○番地所在)についての持分二分の一を相手方に分与し、かつ右持分権移転登記手続をすること。

(2)  前記建物についての申立人の持分を認めるとするならば、申立人は右建物建設について申立人および相手方が連帯して借用した金員債務一九、五〇万円の半額を負担すること。

(3)  申立人名義の乗用車(新○-○○○○)を相手方に分与すること。

三、当裁判所の認定した事実関係

(1)  申立人と相手方とは元夫婦であつたところ、昭和四二年二月二七日相手方から申立人に対し離婚調停の申立がなされ(当庁昭和四二年(家イ)第六五号離婚等調停事件)、五回にわたる期日が重ねられた末、昭和四二年五月六日相手方と申立人は調停により離婚する、当事者間の養子雅和の親権者を相手方と定める旨の調停が成立した。ただ、離婚に伴う財産分与について当事者双方の合意が成立しなかつたので、当庁の審判を受けることとし、右調停成立後、直ちに申立人から本審判の申立がなされたものである。

(2)  〔離婚に至るまでの経緯〕

申立人と相手方とは昭和二七年八月二三日から同棲し(昭和二九年一一月一日婚姻届出)、両者間に子が生れなかつたので昭和三五年二月一二日川本雅和(昭和三四年一月一日生)を養子とした。ところで、当事者は互に好意を抱いて同棲し夫婦になつた間柄ではあつたが、相手方が、女性関係につき極めて自由な考え方を抱いており、かつ売春婦と機会ある毎に接触するのをみて結婚後まもない頃より申立人は相手方の右のような態度に対し、心よからず思うようになつていたところ、昭和三一年頃、相手方が、申立人の経営する美容店に客として出入りしていた北浦洋子に接近し、これと肉体関係を結んだばかりか、昭和三五年五月頃には同女を相手方の事業(○○工事請負)所の事務員として雇傭するなどして、申立人に対し多大の精神的苦痛を与え、このため申立人は自殺をすら企てるに至つた。昭和三九年七月に至り、漸く相手方は北浦洋子に対し金三〇万円を支払うことにより、同女との関係を清算することとなつたが、その後の夫婦関係は表面的には平和の装いを見せていたものの、申立人の相手方に対する愛情のひびは容易に癒されないままに経過した。こうして昭和四一年一一月頃より、申立人は知人である沢田タカ子の経営するバー「○○」に客として出入りするようになり、さらに、右バー「○○」で顔見知りとなつた松本博と公然と交際し始めるようになつたところ、右申立人らの交際を不貞行為であると断じた相手方は、偶々昭和四二年一月二日、申立人と口論の末激昂の余り、申立人に対し暴力をふるつたところから遂に申立人をして別居を決意させるに至り、ここに、同人は前記松本博のもとに走り、同月五日より同人と同棲することとなつた。ここにおいて、相手方は同年二月二七日当裁判所に前記離婚の調停を申立てたものである。

(3)  〔当事者の職業および財産関係〕

相手方は結婚前後を通じて○○工事請負業を営んでおり、昭和三一年一〇月一日には右事業を有限会社○○工業所と組織化してその取締役に就任し現在に至つている。

申立人は相手方と結婚後、相手方の奨めにより美容師になるべく、美容学校に入つて技術を修得し、昭和三〇年一〇月美容院を開業し、昭和四〇年一〇月一日には右事業を有限会社○○美容院と組織化し、相手方と共にその取締役に就任し現在に至つている(なお同社の代表取締役はもと申立人であつたところ、昭和四二年八月一四日辞任し、翌同年八月一五日相手方が代表取締役に就任した旨の登記がなされているけれども、申立人の右代表取締役の辞任は同人の意思に基くものとは認められない)。

(4)  〔当事者の財産関係〕

相手方は、○○工業所から取締役としての報酬月額一六万円および、後記申立人の共有建物の一部を右○○工業所および右○○美容院へ賃貸しているところから、賃料月額各五万円の計一〇万円(右賃料は申立人との共有であるが、相手方が単独で取得していることが認められる)の月収があり、この他相手方名義の○○市○○町○丁目○○番地所在の宅地(以下本件宅地と略称)二二三・一四平方メートル(時価一五、〇〇万円)、申立人と共有名義の同番地所在の鉄筋コンクリート造陸屋根五階建店舗兼事務所兼居宅一棟(以下本件建物と略称)床面積計五二四・一六平方メートル(時価一四、〇〇万円)、相手方名義の有限会社○○工業所(資本総額二〇万円)の出資口数一〇口(一口当り一万円)、有限会社○○美容院(資本総額五〇万円)の出資口数四口(一口当り五万円)の各持分、ならびに、申立人と共有の乗用車一台(昭和三九年一二月、金七〇万円で購入)の各資産を有する。而して、相手方は肩書住所において実母川本よし(当年六七歳)および養子雅和(当時八歳)を扶養している。

一方、申立人は、有限会社○○美容院の取締役の報酬月額三万円(ただし、申立人は相手方との協約により、目下暫定的に○○美容院の支店(○○市○町○丁目○番地所在)のみを経営)の収入のほか、相手方と共有名義の前記建物一棟、前記○○工業所の出資口数二口(一口当り一万円)、○○美容院の出資口数六口(一口当り五万円)の各持分、時価約六〇万円相当のダイヤの指輪、乗用車○○○○一台(昭和四二年五月二五日代価六〇万円で購入するも代金未払)の各資産を所有する。而して申立人には扶養家族はいない。

以上の各資産のほか、当事者には、前記建物建設資金として株式会社○○銀行および同○○相互銀行より金一六三〇万円(金七、〇〇万円、金五、〇〇万円、金四、三〇万円の三口)および有限会社○○美容院の経営資金として金三〇万円の合計金一六、六〇万円の負債があり、このうち昭和四一年一二月三一日までは当事者双方により右借用金の利息の一部が支払われ、昭和四二年一月以降は相手方が単独で右債務の元金および利息(一〇〇円につき日歩二銭八厘)を約四年間の割賦により弁済しつつある。

以上の事実は、昭和四二年(家イ)第六五号離婚等調停事件記録の調停事件経過表、戸籍謄本、右事件についての当裁判所調査官青木一男の調査報告書、同報告書添付の本件土地、建物の各登記簿謄本、有限会社○○美容院の商業登記簿謄本、株式会社○○相互銀行○○町支店長の回答書、当裁判所の川本よし、藤崎ハツエ、申立人(第一、二、三回共)、相手方(第一、二回共)に対する各審問の結果、証人松本博の証言、申立人提出の申述書、有限会社○○美容院定款および商業登記簿謄本、同会社第一期決算報告書、戸籍謄本、相手方提出の申述書および上申書、有限会社○○工業所の商業登記簿謄本、同有限会社定款、ならびに鑑定人芋川豊文作成の鑑定書を総合してこれを認める。

四、財産分与

(1)  そこで財産分与につき考えるに、相手方は申立人との離婚が申立人の不貞行為に原因するものであり、かつ当事者に前記のような資産が蓄積されたのは相手方独りの努力によるものであるから、本件建物につき申立人の有する持分は相手方に分与すべきであり、況や、新たに相手方から申立人に分与すべきものはなく、従前、相手方が申立人に贈与した分を以てあてれば十分であると強調する。

なるほど、当事者が離婚するに至つた直接の原因は前記認定のとおり、申立人の不貞行為によるものと一応いえるかもしれない。しかしながら、申立人が松本博と同棲するようになつた経緯をみると、前記認定のとおり長年にわたる、妻である申立人の存在を無視した相手方の節度のない女性関係が大きな影響を与えていることは明らかであり、自分の過去の非行を棚にあげて、申立人の不貞だけを殊更強調するのは片手落といわねばならない。要するに、当事者の離婚には双方ともその責任を負わねばならない。

さらに、申立人の美容師としての職業活動についてみるに、相手方の援助も無視できないけれども、有限会社○○美容院の基礎を築いたのは多年にわたる申立人の手腕力量に負うところ多大であり、かつまた、相手方の事業経営について申立人を通して同人の叔母藤崎ハツエから資金援助をうけたこと、および申立人が本件建物建設に際し、その金融面において奔走するなどして相手方のために尽した有形、無形の内助の功も十分評価されなくてはならない。そうだとすると、相手方の前記主張は独断に満ちており、たやすく賛成し難いのである。以上の観点により、当裁判所は一切の事情を考慮して、以下のとおり財産分与の額および方法を検討する。

(2)  前記認定のとおり、当事者の共有資産として本件建物と前記乗用車があるところ、右乗用車については現在相手方においてこれを利用し、申立人には自己所有の乗用車があるので、共有にかかる乗用車は相手方に分与し、同人の単独所有とするを相当とする。而して、相手方の申立人に対する従前の贈与行為に鑑み、右自動車の分与は無償とし、価額償還は認めないこととする。

(3)  次に本件建物について考えるに、右建物は時価一四、〇〇万円の価格を有するものの、その建設資金としては一六、三〇万円の借財があり、右借用元利金返済のためには今後四年にわたり月平均約三〇万円以上の弁済を必要とするところ、申立人にはその半額を返済し得る能力はないと認めざるを得ないし、さらに離婚した当事者が今後も建物を共有するのは諸般の事情に鑑みて妥当でないと思われるので、本件建物はむしろ全借用金の返済を含めて相手方の単独所有とするのが相当と考える。

(4)  ところで本件宅地の所有関係について検討するに、右宅地は当事者らの結婚後である昭和二九年九月頃、相手方が新潟県より代金一、一九万三、四二〇円で分譲を受けたもので、購入に際して納入すべき代金の一部五〇万円は申立人を通じ同人の叔母藤崎ハツエから融資を受け、残代金六九万三、四二〇円は昭和三四年一一月二八日これを支払い、昭和三五年三月二六日県から相手方への所有権移転登記がなされたものであり、これらの点に鑑みると、右宅地の取得については申立人が実質的、経済的に寄与していることは明らかであるから、宅地の所有名義は相手方になつてはいるもののその所有関係は申立人と相手方の共有と推定せざるを得ない。況して、現在の右宅地の時価が購入価額の一〇倍以上の一五、〇〇万円に高騰しているのは相手方の努力によるものではなく、むしろ偶然にすぎないものといえるから、右経済的価値は離婚に伴う財産分与に際し当事者間に公平に配分せられるべきものである。

しからば、本件宅地、建物共に相手方の単独所有と認めるを相当とするけれども、右各不動産の有する経済的価値、すなわち時価金二九、〇〇万円の二分の一は申立人に帰属させるべきである。もつとも、本件建物を建設するについては前記のとおり金一六、三〇万円の負債があるから、右時価と右負債との差額の二分の一すなわち金六、三五万円が相手方から申立人に償還さるべき額となる。而して、相手方は、○○美容院の事業資金として申立人名義で借用した金三〇万円を右金一六、三〇万円の負債に含め弁済しつつあることが認められるところ、右金三〇万円の負債は後記のとおり申立人単独の負担すべき債務とするのが相当であるから、前記金六、三五万円から右金三〇万を差引いた金六、〇五万円が相手方から申立人に分与さるべき額となる。そこで、右金員の弁済期限について考えるに、相手方が、前記のように、金一六、六〇万円の元利金を独力で今後四年間にわたり弁済していかねばならぬこと、申立人の資産・事業内容ならびに本件宅地、建物の有する現在および将来における社会的、経済上の発展的価値(右発展性は○○市内では公知の事実である)等を考慮し、相手方は申立人に対し、右金六、〇五万円を昭和四三年六月三〇日限り支払うべきものとし、申立人は、右金員完済後相手方に対し本件建物につき共有持分移転登記手続の義務を負うものとする。

(5)  次に、申立人の有する有限会社○○工業所の持分(出資二口)について考えるに、前記認定事実によれば、同有限会社は、相手方の単独事業であつた○○工事請負業をそのまま法人組織にしたにすぎず、実質的には相手方の個人会社と目すべきものであるから、申立人の右持分は相手方に分与さるべきである。

(6)  他方、有限会社○○美容院についてみるに、同有限会社は、申立人が昭和三〇年美容院を開業後一〇年間の単独事業を発展継承させたものであつて、その実質は申立人の個人会社と目すべきものと解される。なるほど、事業開始にあたつては相手方の援助資金もあつたことは認められるけれども、右援助資金は相手方の申立人への贈与と認められ、かつ、その後の美容院から得る収益は相手方を含めた家族全員のために費消されるなど、右援助資金は相手方の利益に回収されており、さらに○○美容院の発展はあげて申立人単独の功績によるものと認められるから、申立人の有する有限会社○○工業所の持分を相手方に分与する趣旨と同じく、相手方の有する有限会社○○美容院の持分(出資四口)は申立人に分与するのが相当である。そうすると、それに伴い、○○美容院の営業資金として申立人名義で借用した前記債務金三〇万円は申立人単独の負担とされねばならない。

よつて、審判費用中鑑定手数料について非訟事件手続法第二七条、第二八条を適用して主文のとおり審判する。

(家事審判官 山下薫)

別紙 物件目録 編略

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