大判例

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新潟家庭裁判所 昭和43年(少ハ)1号 決定

本人 K・N(昭二三・四・一生)

主文

本人を昭和四三年四月一日から同年一二月一日まで特別少年院に継続して収容することができる。

理由

久里浜少年院長申請にかかる本件申請の要旨は、「本人は昭和四一年一一月一二日新潟家庭裁判所において、傷害、道路交通法違反保護事件により中等少年院送致の決定を受け、同月一三日八街少年院に収容されたところ、その後同少年院内において、三回にもわたつて暴力事件を引きおこし、成績不良により昭和四二年七月一九日同少年院から特別少年院たる久里浜少年院に移送されてきたものであり、昭和四三年三月三一日をもつて期間満了となるものであるが、本人は昭和四二年一〇月三〇日その希望により従前のタイル科より電工科に編入され、現在電気工事士資格試験の受験準備中ではあるものの、いまだ電工科の学科、技能両面において修得未了であり、これが受験にあたつてはなお相当期間の履修が必要であるところ、出院後の受入れ体制も保護者が引受けを拒否していることもあつて万全を期し難いうえ、本人自身も上記試験を受験したのち出院したい旨の希望を有しているところから、本人に対しては電工科の課程を未了のままで出院させるよりも引き続き少年院内においてこれが課程を全うさせ、上記試験を受験させたのち出院させる方が本人の更生のため望ましいので、電工科の課程の終了時期に仮退院後の保護観察期間をも考慮して昭和四三年一二月一日まで本人の収容継続を申請する。」というにある。

よつて、検討するに本件審判における久里浜少年院分類保護係長法務教官岡田俊二、同少年院職業補導担当法務教官桑原正および本人の各陳述ならびに本人に対する社会記録を総合すると、本人は本件申請どおりの経過により現に久里浜少年院に在院中のものであり昭和四三年三月三一日をもつて期間が満了するものであること、本人は昭和四二年一一月一六日最高処遇段階たる一級上に進級し、現在少年院内において小康を保ちその知能も正常域(IQ=一〇七)に属しているが、その性格面では情緒不安定で自己中心的、自己顕示的ないしは独善的な傾向がいまなお強く、意思、感情の統制が不十分で周囲からの影響を受けやすく軽卒に行動しがちな面が目立つうえ、共感性に乏しく非協調的なところがあつて社会適応性が低く、昭和四二年二月二七日、同年三月八日、同年六月三〇日の三回にわたり移送前の八街少年院内において暴力事件を引きおこしたが、これも上記性格的負因に基因しているものと窺えること、本人の実父は本人の出生時から全く消息不明であり、実母も本人が一二歳の折病死し他に兄弟姉妹もなく、本人の後見人で喜多方市に居住する実母の姉K・S子、また新潟市に居住する実母の妹Y・T子の両名はいずれも本人の出院後の身柄引受け方を固く拒否し、他に本人の保護を委ねるべき資源もなく、したがつて、出院後における本人の保護体制に十全を期し難いこと、しかも本人は比較的早期より飲酒を覚えるようになり、これまでの経過を見ると、昭和四〇年二月一二日に初等少年院を仮退院し、その後一か月も経ないうちに飲酒のうえ暴力行為等処罰に関する法律違反の非行を犯し、該事件は不処分となつたものの、再び飲酒が原因となつて傷害事件を引きおこし、「飲酒が事故のもとであることを自覚し、厳にこれを慎しむこと」が遵守事項の一つとなつて試験観察に付されていたのにその後もこれが遵守事項を守ることなく飲酒を続け、結局は本件申請の基礎となつた中等少年院に収容されるに至つたもので、これらが示すように本人に対しては飲酒の習癖化がアルコール中毒の疑いさえもたれて一つの問題点となつていたが、現在においてもなおこの点に関する本人の内省心に十分なものが窺えず、したがつて、期間満了とともに出院した場合飲酒上での問題行動ないしは非行が憂慮されること、またこれまでの本人の非行原因として身についた仕事がなかつたこともあつて職業に対する定見がなくまたそれに対する意欲に乏しかつたことも見逃すことができず、したがつて、本人に対しては、職業訓練を徹底的に施し、技能を身につけさせることが是非必要であり、そうでないと、社会に復帰した場合、上記のように保護体制も十分でないこともあつて仕事に定着できず生活の破綻をきたすおそれが強いこと、ところで本人は昭和四二年八月二三日久里浜少年院タイル科に編入したが、両親もなく他に頼るべき者もないとしてかねてより興味を持つていた電気工事関係の技能を身につけようと考え、同少年院電工科がその課程を終了するまでにほぼ一年間は必要であり、したがつて出院がかなり遅れることを知りながらあえて電工科に実科変更方を希望し、同年一〇月三〇日同科に編入され、現在いまだそのほぼ半分の課程を修了したにすぎないこと、現在本人は電気工事士の資格取得を目指し、そのための受験勉強中であり、これが試験としては六月に学科試験、九月に技能試験がそれぞれ実施されるが、本人は現在学習時間にも極めて恵まれ、また適切な指導者を得て意欲的に学習し着着と成果を上げつつあり、このまま施設内で電気工事関係の学科、技能を履修すれば本年における試験合格の見通しもかなり明るいものがあるが、期間満了とともに出院して上記試験を受験するとすれば、横浜付近で稼働する意向を有している本人としては勤務をしながら自学自習するか、またそのかたわら神奈川県電業懇話会が実施している六か月間の夜間講習を受ける方法しかなく、上記のような性格、受入れ体制、これまでの行動歴等からすると仕事に定着し施設内と同様の意欲をもつて電気工事関係の学習を続けてゆくことには相当な困難が予測されること、この点に関し本人自身も職業に対する自覚心が芽生え、現在直ちに出院するのは不安があるとしてなお少年院に残つて学習に努め上記試験を受験して出院したい旨の希望を表明していること、などの事実を認めることができ、以上の事実によると、期間満了とともに直ちに本人を少年院から出院させるとすれば再非行のおそれがあり、したがつていまだ犯罪的傾向が矯正されていないものというべく、なお本人を改善するためには然るべき期間引き続き特別少年院に継続して収容するのが相当である。

そこで進んでその期間について検討するのに、前掲各供述および記録ならびに上記認定事実によると、一応電工科は九月に実施される試験を目標にしてほぼ一年間の履習を続けるものであり、これからすると昭和四三年九月までには全課程を終了するものと考えられ、最終的に試験に合格しなくともそのころまで履習を続ければ電気工事関係の職業に就く場合かなりの効果が期待できるのみか将来の試験のための基礎が築かれるものと考えられ、したがつて、本人を出院させる時期としては昭和四三年九月を限度とするのが相当であるが、なお上記のように出院後の本人の保護体制に十全を期し難い面があるので、仮退院後の保護観察期間として少なくとも二か月はどうしても必要であり、したがつて、本人を少年院に継続して収容すべき期間は本件申請のとおり昭和四三年一二月一日をもつて必要かつ十分であると思料する。

よつて、少年院法第一一条第四項、少年審判規則第五五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 松村利教)

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