大判例

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旭川地方裁判所 昭和55年(わ)73号 判決

主文

被告人を懲役三年六月に処する。

未決勾留日数中七〇〇日を右刑に算入する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、的屋寄居関三代目赤石組の一家名乗りを許された親分であるが、

第一  昭和五四年九月一四日午前三時ころ、北海道旭川市五条通七丁目所在のパチンコ店「ボンボン」前付近路上において、被告人配下の藤沢勝信及び山口隆史の両名が、かねてから対立関係にあつた的屋全丁字家連合蜂谷三代目中田一家川村英輔配下の富永徹(当時二〇年)に日本刀で切りつけられ、負傷したことから、被告人配下の谷口章、早月俊志、藤間裕秋、高桑宣就、木村章、山中一彦、高橋明の七名において、共謀のうえ、その後に予想される全丁字家系組織との話し合いに備えて、富永を人質として拉致監禁しようと企て、既に谷口らの反撃を受けて抗拒不能の状態に陥つていた富永を、同日午前三時一五分ころ、右同所から早月運転の普通乗用自動車後部座席に押し込み、谷口、藤間、高桑、木村、山中が同乗して発進し、同市神居八条二丁目一二番二〇所在の被告人所有家屋二階の居室に拉致して、同所において、富永の両手足をいわゆる逆えび型に背後に折り曲げ、玩具用手錠及び鎖を用いて緊縛し、かつ丸めたシャツを口腔内に奥深く押し込んで猿ぐつわをかませた後、更に同人の身柄を他所に移そうと企て、右自動車後部トランク内に、右のような状態にあつて身動きのできない同人を丹前及び毛布に包んで押し込み、谷口、早月及び藤間の三名において、同所に居合わせた被告人の抱え運転手である関吉彦が運転する右自動車に乗り込んで同所を出発し、同市内を走行中、谷口において、富永の身柄の処置について的屋寄居関三代目赤石分家鈴木哲夫配下の山形英二を介して被告人の指示を仰ぐ意図のもとに、同市旭町にある公衆電話から同市四条通六丁目アーバンライフ島田二〇八号室の寄居系実子分会本部に電話をかけて、山形に富永の身柄を拉致監禁すべき場所の指示を求めたところ、これに応じて山形が、落ち合うべき場所として同市忠和五条八丁目一二番地所在の神居石油株式会社給油所敷地内(以下「神居給油所」という。)を指定したので、谷口らにおいて、同日午前四時三〇分ころ、右同所に富永を連行したが、そのころ既に谷口らが富永を監禁していることを了知していた被告人においても、右実子分会本部で、山形を通じて、谷口らが富永の身柄を他所に移そうとしていることを知り、その後の前記全丁字家連合の川村英輔との話し合いに備えて、富永の身柄を人質として確保しておくため、谷口らをして引き続き富永の監禁を継続させようと決意して、その旨を山形に指示し、その指示に従つた山形が神居給油所に赴き、同所において、谷口及び早月と共に富永の生存を確認したうえ、谷口らと共に引き続き富永を監禁する旨の意思を相通じ、ここにおいて、被告人は、山形、谷口、早月、関の四名と順次富永を監禁することの共謀を遂げたうえ、山形、谷口、早月において、関の運転する右自動車に、富永を同車両の後部トランク内に右の状態で押し込めたまま乗り込んで、同所を出発し、同日午前七時二〇分ころ、北海道留萌市大字留萌村字マサリベツ自衛隊留萌演習場内に至るまで走行し、その間富永の行動の自由を奪つて右自動車内から脱出することが不可能な状態におき、もつて同人を不法に監禁し、その際における監禁の手段である口腔内へのシャツの挿入、猿ぐつわ、緊縛により同人を呼吸困難に陥らせ、よつて、神居給油所から右自衛隊演習場まで走行する間に、同人を気道閉鎖により窒息死するに至らしめ、

第二  前記山形と共謀のうえ、前記監禁致死事件の犯人である谷口、早月、藤間、高桑、木村、山中、高橋明及び関の八名を隠避させようと企て、山形において、昭和五四年九月一四日午前一一時五〇分ころ、北海道旭川市六条通一〇丁目所在の旭川方面旭川警察署に出頭して、警察官片倉敏夫に対し、山形が単独で富永を殺害した旨虚偽の事実を申し立てて自首し、もつて谷口ら八名の逃走を容易にし、更に、的屋寄居関分家小坂庄司配下の金田こと高権稔及び同寄居関三代目赤石秀雄配下の堀口吉信と共謀のうえ、右八名の発見、逮捕を免れさせるため、右同日から同月一七日までの間、谷口、早月及び関の三名を、同月一五日から同月一七日までの間、木村、山中、高桑、藤間及び高橋明の五名を、それぞれ同市永山七条八丁目一〇七番地所在の金田政雄こと金慶花方に潜伏させ、また更に的屋寄居関分家佐藤茂配下の星川隆二こと里政秋及び同人配下の高田克行と共謀のうえ、同月一七日から同月一九日までの間、右八名を北海道北見市美芳町九丁目三番一〇号所在の右高田方に潜伏させ、また更に、堀口と共謀のうえ、同月一九日、関を除く谷口ら七名を釧路空港から羽田空港まで東亜国内航空の飛行機で高飛びさせてその逃走を容易ならしめたうえ、同月二〇日から、谷口及び早月については同年一〇月半ばころまでの間、山中、木村、藤間、高桑及び高橋明については同月七日ころまでの間、いずれも神奈川県川崎市幸区戸手四丁目一二番三三号所在の大山義徳こと羅容徳方に潜伏させ、もつて犯人を隠避せしめるとともに蔵匿し

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(事実認定の補足説明並びに弁護人の主張に対する判断)

一監禁の共謀について〈省略〉

二監禁致死罪の成否について〈省略〉

三犯人蔵匿、隠避罪の成否について

弁護人は、被告人が公訴事実第一の監禁致死事件につき仮りに有罪であるならば、その共犯者である谷口ら八名を隠避せしめ、蔵匿した公訴事実第二の所為については、被告人は、右谷口らを逃走させるのは勿論のこと、被告人自身も罪責を免れる目的で同人らを隠避せしめ、蔵匿したものであるから、被告人にはかかる行為に出でないことへの期待可能性がなかつたのであり、無罪である旨主張する。

よつて、まず本件犯人隠避、蔵匿の目的をみるに、前掲関係各証拠によれば、山形、谷口、早月、関は、前記自衛隊留萌演習場内において、前記自動車のトランク内に監禁されていた富永が既に死亡しているのを発見したが、このとき同行していた的屋寄居関三代目赤石分家鈴木哲夫配下の上里茂が、同石川斤三に対し、電話で右事情を連絡したところ、同人が金田こと高橋稔方に直ちに電話をして、上里からの右連絡の内容を高橋稔及び被告人に報告したこと、更にその約二〇分後に、山形が高橋稔方に電話をし、被告人に富永が死亡した旨を伝えた際、被告人から高橋稔方に来るように命じられたこと、被告人及び高橋稔らは、富永が死亡したことを知り、じ後の対策を相談したが、富永を監禁し死に致らせた事件の関係者に対する捜査当局の厳しい追求が予想されたため、これをかわすには、関係者中の誰かを自首させることにより真実を隠蔽する必要があり、その際、山形一人を自首させるか、谷口、早月も共に自首させるかについて議論がなされたこと、しかし、結局被告人は、谷口、早月を自首させた場合には、同人らが捜査当局の取調べを受けて不用意に真実を供述してしまうおそれがあり、その結果、本件監禁致死事件について必然的に被告人に対しても捜査の手が及ぶことが懸念されたため、あくまでも真実を隠蔽し、被告人及び谷口ら八名の全員が本件監禁致死事件に加担したことの非責を免れる目的から、山形一人を自首させることに決定したこと、被告人は、高橋稔方に出向いた山形に対し、一人で自首するよう命じ、これを諒解した同人が、同日前記旭川署に単身出頭し、警察官片倉敏夫に対し、単独で富永を殺害した旨の虚偽の事実を申し立てたこと、被告人は、山形を通じて、谷口、早月、関と順次監禁の共謀を遂げたものであつたので、山形が一貫して単独による犯行である旨虚偽の事実を供述し続けることが、被告人が本件監禁致死事件の刑事訴追を免れ、あるいは裁判の審理及び判決を有利にするためにも最も重要なことであつたが、そのためには、谷口ら八名が捜査当局に逮捕され、取調べを受けて不用意に真実を供述するといつた事態を極力回避しなければならなかつたこと、特に谷口、早月、関、藤間については、山形が本件監禁致死事件に加担するに至つた経緯を体験しており、同人らが真実を供述した場合には、山形の虚偽の供述が根底から覆されることになること、また高桑、木村、山中については、前記自動車のトランク内に富永を監禁するまでの経過を体験しているだけであり、更に高橋明については、前記「ボンボン」前付近路上において、富永を被告人の前記居宅に連行するために自動車に押し込んだ経緯までしか体験していないものの、仮りに、右四名が取調べを受けて真実を供述した場合には、それによつて山形の虚偽の供述が崩壊する危険があつたこと、被告人は、こうした谷口ら八名の本件監禁致死事件への関与の概要を理解しており、谷口ら八名の逮捕を免れさせ、山形の虚偽の供述を破綻させない目的で、前認定のとおり同人らを隠避せしめ、蔵匿したこと、谷口ら八名も、山形が自首し、谷口らが隠避せしめられ、蔵匿されるのは、自己の利益のためであると同時に、既述のとおり被告人の利益のためでもあることを認識していたことが認められる。

この点に関し、被告人は、当公判廷において、山形が一人で自首したのは、同人が一方的に一人で自首する旨を強く申し出た結果であり、谷口ら八名を隠避せしめ蔵匿したのは、もつぱら谷口らの利益のためのものであつて、被告人自身が監禁致死事件の罪責を免れるためではなく、自己が本件監禁致死事件を理由に刑事訴追されることは全く考えていなかつた旨の供述を繰り返している。しかし、右供述は、被告人が本件監禁致死事件への加担を否認していることに由来するものと推認されるのであつて、前記認定事実に照らし、また罪となるべき事実として認定したとおり被告人につき本件監禁致死罪が成立することに照らしても、到底これを信用することができない。

以上を要するに、被告人の本件犯人隠避、蔵匿は、谷口ら八名が捜査官の取調べを受けて真実を供述した場合には、同人らの犯行が発覚するだけでなく、山形の虚偽の供述も破綻し、ひいては被告人が本件監禁致死事件に加担した事実が明らかになるという蓋然性が高かつたので、このような事態の発生を阻止するため、被告人が自己及び谷口ら八名の双方の利益のためにする目的でこれをなしたものであつて、被告人自身の刑事被告事件の証憑湮滅としての側面をも伴有していたものと認められる。

そこで、本件のように、先の犯罪の共犯者中の一人が他の共犯者を蔵匿し、隠避せしめ、その犯人蔵匿、隠避が同時に行為者自身の刑事被告事件に関する証憑湮滅としての側面をも併有している場合に、まず、刑法一〇四条が、自己の刑事被告事件に関する証憑湮滅については、一般的に期待可能性がないが故に不可罰としている趣旨に照らして、右犯人蔵匿、隠避についても、これを期待可能性がないとして不可罰とすべきか否かを検討しなければならない。

ところで、共犯者中の一人が自己及び他の共犯者の利益のために双方共通の証憑を湮滅した場合の同法一〇四条の罪の成否に関しては、判例は必ずしも一貫した見解を示していないし、学説も帰一していないが、その点の解釈はしばらく措き、同法一〇三条、一〇四条の保護法益をみるに、これは、抽象的には、いずれも国家の刑事司法作用であるが、同法一〇四条の証憑湮滅罪は他人の刑事被告事件に関する証憑の完全な利用を妨げる罪であるのに対し、同法一〇三条の犯人蔵匿、隠避罪は犯人を庇護して当該犯人に対する刑事事件の捜査、審判及び刑の執行を直接阻害する罪であつて、このような法益保護の具体的な態様の相違に着目すると、本件のように、共犯者に対する犯人蔵匿、隠避が、行為者である被告人自身の刑事被告事件に関する証憑湮滅としての側面をも併有しているからといつて、そのことから直ちにこれを不可罰とすることはできないものと解すべきである。けだし、かように被告人自身の刑事被告事件の証拠方法となるのみならず、終局的には共犯者である犯人自身の刑事被告事件における刑執行の客体ともなる者自体を蔵匿し、隠避せしめて、当該犯人に対する捜査、審判及び刑の執行を直接阻害する行為は、もはや防禦として放任される範囲を逸脱するものというべきであつて、自己の刑事被告事件の証憑湮滅としての側面をも併有することが、一般的に期待可能性を失わせる事由とはなりえないというべきだからである。

更に、被告人と本件監禁致死事件の共犯者である前記谷口ら八名との間のいわゆる親分、子分としての人的な関係、本件犯人蔵匿、隠避に至る経緯等の具体的な事実関係に照らして検討してみても、被告人に適法行為の期待可能性がなかつたとはいえるほどの事情は存在しないと認められる。

したがつて、右いずれの観点よりしても、被告人に判示第二の犯人蔵匿、隠避罪が成立することは明らかである。

以上の次第であるから、弁護人の主張には理由がない。

(累犯前科)〈省略〉

(法令の適用)〈省略〉

(量刑の理由)〈省略〉

(福島裕 伊藤紘基 長秀之)

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