大判例

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最高裁判所大法廷 昭和37年(あ)937号 判決

主文

原判決及び第一審判決中被告人A、同Bに関する部分を破棄する。

右両名に対する頭書被告事件を神戸地方裁判所に差し戻す。

その余の被告人らについては、各その上告を棄却する。

理由

被告人Aの弁護人和島岩吉の上告趣意について。

所論のうち判例違反をいう点は、Cが本件犯罪貨物(第一審判示第三の(三)を除く)の単独所有者であるとの原判決の認定しない事実を前提とする主張であって、その前提において採ることができず、その余の論旨は、事実誤認と単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。

被告人Bの弁護人前田力の上告趣意について。

所論は、事実誤認と量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当らない。

被告人Dの弁護人井関安治の上告趣意について。

所論のうち判例違反をいう点は、原判決の認定しない事実を前提とする主張であり、その余の論旨は、単なる法令違反の主張であって、すべて適法な上告理由に当らない。

被告人Eの弁護人横田静造の上告趣意について。

所論は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。

被告人Fの弁護人井関安治の上告趣意について。

所論は、単なる訴訟法違反(所論の自白が所論の如き脅迫誘導により得られたと疑うに足りる証跡は存しない。)と事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当らない。

しかし、職権により調査するに、原判決が被告人A、同Bに対し関税法(昭和二九年四月二日法律第六一号による改正前のもの)八三条一項を適用して没収を言い渡したスイス製腕時計七〇〇個(神戸地方検察庁昭和二九年八月一四日領置第一五五六号)は第一審判示第二の「被告人A、同Bが、C、Gと共謀して、昭和二八年五月三〇日神戸港に陸揚げ密輸入せんとした」犯罪にかかる貨物であるところ、原判決の認定するところによれば、「右時計の密輸入はX公司の事業にかかり、同公司は会社としては未登記であるが、資本金は千万円であって、その本店は香港にあり、社長はH、大阪支店長にG、同副支店長に被告人A、経理係に被告人B、同支店顧問にCが夫々就任し、被告人Aも百五十万円、同Bも七十万円、Cは百八十万円出資している」とされ、記録によれば起訴のなかったGも、明示的には共犯者とされていない公訴外Hも出資者であることが窺われる。

右の事実関係によれば、原判決が没収の言渡をなした右時計七〇〇個は、被告人Aを始めとするX公司の出資者全員の共有に属するものと認むべきところ、原審はその没収をするに当り公訴外共有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えていないことが記録により明らかであり、右没収処分が憲法三一条、二九条に違反して許されないことは、当裁判所大法廷判例(昭和三〇年(あ)第九九五号同三七年一一月二八日判決、刑集一六巻一一号一五七七頁)の示すとおりである。従って原判決は、この点において破棄を免れない。

よって、刑訴法四一〇条により原判決中被告人A、同Bに関する部分を破棄し、なお原判決後に昭和三八年法律第一三八号刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法が施行されたので、前記時計七〇〇個の没収については、第一審裁判所において同法の定める手続を採ることを要するから、第一審判決中右両被告人に関する部分をも破棄し、刑訴法四一三条本文に基づき、本件を神戸地方裁判所に差し戻し、その余の被告人らについては、同四一四条、三九六条により各その上告を棄却することとし、主文のとおり判決する。

右は裁判官奥野健一、同田中二郎の意見および裁判官山田作之助の少数意見があるほか裁判官全員一致の意見である。

裁判官奥野健一の意見は次のとおりである。

職権により調査するに、

一、原審認定によれば、第一審判示第二の犯罪貨物(スイス製腕時計七〇〇個)は、被告人A、同Bを始めとするX公司の出資者全員の共有に属するものであるというのであるから、これを没収するには公訴外の共有者に対し告知、弁解、防禦の機会を与えるべきであるにかかわらず、何らかかる手続を経ることなくした原審の没収は憲法三一条、二九条に違反し許されないことは当裁判所の判例(昭和三〇年(あ)第九九五号同三七年一一月二八日判決刑集一六巻一一号一五七七頁)の示すとおりであって、原判決はこの点において破棄を免れないところであるが、本件犯行は昭和三八年法律第一三八号刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法が施行される以前のものであり、犯行当時は第三者所有に係る物件の没収については、その手続規定を欠き、没収することができなかったものである。かかる犯罪に係る犯罪貨物につき、その後に制定施行された右法律を遡及適用して没収の附加刑を科することは憲法三九条の趣旨に反し許されないものと解するから、原判決を破棄し没収言渡の部分を削除すべきである。

二、原判決は、第一審判示第二以外の犯罪貨物は没収できないとして、被告人A、同Bより、それぞれ関係の犯罪貨物の全価額に相当する金額を追徴しているが、原判決によればこれらの貨物は同被告人らと他の者との共有に係かるものであるというのであるから、本件被告人らに対して右貨物の全価額を追徴すべきではなく、同被告人らの共有持分に相当する金額を追徴すべきであると解する。けだし、共有物件の価額全部を共有者の一人から追徴することは、若しその物件が存在し、没収可能であったとすれば、自己の共有持分についてのみ、実質的に利益を奪われるに過ぎないのにかかわらず、没収不能の故を以って、これに代わる追徴を科せられる場合に、その物件の全価額を追徴されることは、没収の場合に比し著しく不合理な負担を命ずるものであって、没収に代わる追徴制度の法意の正当な解釈とは云えないからである。従って、この点についても原判決は破棄を免れない。

裁判官田中二郎の意見は、左のとおりである。

原判決の認定するところによれば、本件時計の密輸入はX公司の事業にかかり、同公司は、会社としては未登記であるが、資本金は千万円であって、その本店は香港にあり、社長はH、大阪支店長にG、同副支店長に被告人A、経理係に被告人B、同支店顧問にCがそれぞれ就任し、被告人Aも百五十万円、同Bも七十万円、Cは百八十万円出資しているという。そして、同公司は会社としては未登記故に、その取引にかかる犯罪貨物は、すべて出資者全員の共有に属するものと認定するのが相当であるというのである。

本件多数意見は、「右の事実関係によれば、原判決が没収の言渡をした右時計七〇〇個は、被告人Aを始めとするX公司の出資者全員の共有に属するものと認むべきところ、原審はその没収をするに当り公訴外共有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えていないことが記録により明らかであり、右没収処分が憲法三一条、二九条に違反して許されないことは当裁判所大法廷判例の示すとおりであるから、原判決はこの点において破棄を免れない」としている。

しかし、私は、原判決を破棄すべきであるとの点においては右多数意見と結論を同じくするけれども、その理由については、多数意見には賛成しがたい。

まず、多数意見は、原判決の「本件時計の密輸入は、X公司の事業にかかる」との認定事実を是認しながら、「同公司が会社として未登記である」との一事から直ちに「本件時計は出資者全員の共有に属する」との結論を導いた原判決を支持しているものと考えられる。してみれば、多数意見は、一方においては、同公司の事業主体性を認めながら、他方において、これを否定するという矛盾を蔵しているのではないかとの疑問を抱かざるを得ない。私は、たとえX公司が法人格をもたないとしても、それが独立の事業主体として行動している以上、この法人格のない社団自体が密輸入犯の犯罪主体として、その罪責を問われるべきが本来の筋合いであると考える。もっとも、一般に法人格のない社団自体の犯罪主体性を認める明文の規定はなく、関税法も、他の法律にしばしば見るのと同様、いわゆる両罰規定を設け、「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務又は財産について………違反行為をしたときは、その行為者を罰する外、その法人又は人に対して当該各条の罰金刑を科する」ものとしている(一一七条、旧八二条ノ三)。この規定は、法人格のない社団の犯罪能力を認めるものではないというのが普通の見解のようであるが、私は、右の「人」というのは必ずしも自然人のみに限定して理解すべきではなく、法人格のない社団が事業主体として密輸その他の罪を犯した場合をも含めて理解すべき合理的理由が存するのではないかと考える。

しかし、今このような犯罪主体の本質論に立ち入って論ずることは、本件の解決上には、直接必要のないことである。従って、右の本質論はしばらくおき、問題を没収手続だけに限定して考えれば、本件の事業主体である右社団自体が被告人に対する関係において、少なくともいわゆる第三者に当ると観念することは、決して不可能ではなく、また、あながち不当ともいえないのではないかと思う。

多数意見のように、X公司が法人格を有しないからといって、直ちに、本件時計七〇〇個が同公司の出資者全員の共有に属するものと解するのは論理の飛躍であり、また、かりに右時計がX公司の出資者全員の共同所有に属することを否定し得ないとしても、その共同所有の法的形態をどう理解すべきかについては疑問の余地があるのであって、それは、多数意見の認めるような共有ではなく、むしろいわゆる合有の一種とみるべきものと解する。そして、本件没収処分をなすに当っては、同公司のわが国における代表者に告知、弁解、防禦の機会を与えることを要し、かつ、これをもって足りると解すべきである。この考え方は、当裁判所大法廷の「農業協同組合の支部は独立の会計を有していることなどにより独立の団体としての実質を具えていると認められる場合には、法人格を有しないとしても、右支部自体が第三者供賄罪の第三者に当るのであり、その代表者につき告知、弁解、防禦の機会が与えられているときは、公訴外の第三者である右支部からの追徴は正当である」旨の判例(昭和三八年(あ)第二三三号同四〇年四月二八日大法廷判決、刑集一九巻三号三〇〇頁)の趣旨から考えても、是認されるべきである。従って、原判決には、本件没収の要件事実について、審理不尽の違法があることに帰し、原判決は、この点において破棄を免れない。

なお、かりに本件犯罪貨物が前記公司出資者全員の共有であること多数意見のとおりであるとすれば、このことを前提とするかぎり、訴外共有者全員に対し告知、弁解、防禦の機会を与えるということは、形式的には、一応、筋の通った考え方といえないことはないが、実質的には、殆ど無意味な措置の要求に帰するか、又は密輸品であることの明らかな貨物について、没収の途を閉ざすことになる虞れが多く、このことたるや、われわれの常識に合した措置であるとはいいがたい。ともかく、現行の没収、追徴に関する実体規定及び手続規定は、きわめて不備であって、解釈上にも疑義が多く、見解の分れることが少なくないのであるから、この際、全面的な再検討の上、早急に規定を整備する必要があることを附言しておく。

裁判官山田作之助の少数意見は、次のとおりである。

わたくしは、刑事訴訟において、被告人に対する裁判手続、従ってまた被告人に対して言い渡された判決の効果は、その被告人に対してのみ生じ、訴訟当事者となっていない第三者に対しておよぶものではないと解する。第三者所有の物件について、被告人がこれを占有保持しているか若しくは共有者関係にあるということから、その被告人に対して言い渡された右物件を没収するという判決は、単にその被告人が右物件に対して有する占有権、使用権若しくは共有権(共有持分)を剥奪する効果を生ずるに止まり、第三者がその物件に対して有する所有権が、右判決により、奪われるというが如きことはあり得ない。本件第三者所有物件についての被告人に対する没収の判決の効果が第三者の所有権を奪うものであるとの前提のもとに、この点につき原判決を破棄せんとする多数意見には賛同しがたい(昭和三〇年(あ)第二九六一号同三七年一一月二八日大法廷判決、刑集一六巻一一号一五九三頁におけるわたくしの少数意見参照)。

(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 下村三郎 裁判官山田作之助は退官につき署名押印することができない。裁判長裁判官 横田喜三郎)

弁護人の上告趣意〈省略〉

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