大判例

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最高裁判所大法廷 昭和40年(あ)65号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人矢島惣平の上告趣意一、二について。

所論第一審判決添付の犯罪一覧表一ないし三、六ないし一〇および一三の各事実に対する判例違反の主張について考えてみるに、論旨引用の昭和二四年(れ)第八九三号同年七月九日第二小法廷判決および同三三年(あ)第一五六九号同三八年二月一二日第三小法廷判決は所得税に関するものであり、同三三年(あ)第二五三五号同三八年四月九日第三小法廷判決は物品税に関するものであるが、要するに、いずれも、これらの税の逋脱罪が成立するのは、詐偽その他不正の手段が積極的に行なわれる場合に限るのであって、かかる行為を伴わないいわゆる単純不申告の場合には、逋脱罪としてこれを処罰することはできないという趣旨のものであり、論旨は、所論各事実が物品を移出して販売した事実を全く正規の帳簿に記載しなかったというような消極的な不作為にすぎないものであるのに、これを詐偽その他不正の行為に当ると解したのは、前掲の各最高裁判所判例と相反する判断をしたものであるというのである。

よって按ずるに、所論所得税、物品税の逋脱罪の構成要件である詐偽その他不正の行為とは、逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行なうことをいうものと解するのを相当とする。所論引用の判例が、不申告以外に詐偽その他不正の手段が積極的に行なわれることが必要であるとしているのは、単に申告をしないというだけでなく、そのほかに、右のようななんらかの偽計その他の工作が行なわれることを必要とするという趣旨を判示したものと解すべきである。原判決が、その理由の中で、「物品税を逋脱する目的で、ことさら、物品を製造場から移出してこれを販売した事実を全く正規の帳簿に記載しないで、その実態を不明にする消極的な不正行為も、その実体においては、正規の帳簿にことさら虚偽の記載をした最も極端な場合に当り、又その結果においては、少くとも正規の帳簿を破棄した場合と少しも変りがないのであるから、また右にいう詐偽その他の不正の行為に当るものと解するのが相当である。」と判示している部分をみると、その表現は措辞妥当を欠くところがあって所論のような誤解を招くおそれがないでもないが、その全判文を通読すれば、原判決は、単に正規の帳簿への不記載という不作為をもって直ちに詐偽その他不正の行為にあたるとしたものではなく、被告人桜木浩一が、物品税を逋脱する目的で、物品移出の事実を別途手帳にメモしてこれを保管しながら、税務官吏の検査に供すべき正規の帳簿にことさらに記載しなかったこと、他に右事実を記載した帳簿もなく、納品複写簿、納品受領書綴または納品書綴によっても右事実が殆んど不明な状況になっていたことなどの事実関係に照らし、逋脱の意図をもって、その手段として税の徴収を著しく困難にするような工作を行なったことが認められるという意味で、右判例にいう積極的な不正手段に当たると判断した趣旨と解せられる。したがって、原判決は、当裁判所の判例と相反する判断をしたものとはいえず、所論判例違反の主張は理由がない。

その余の論旨は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当たらない(被告人桜木浩一の前示所為は、逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるような工作を行なったと認められるから、同被告人に旧物品税法〔昭和三七年法律第四八号による改正前のもの〕一八条一項二号の罪責ありとした原判決の判断は正当であって、法令の解釈適用を誤ったものともいえない。なお、第一審判決添付犯罪一覧表八ないし一〇に「逋脱企図」とあるのは、記録に徴すれば「逋脱」の誤記であることが明らかである。また、同判決摘示の事実をその挙示の証拠と対照して読めば、その「税務官吏に対し虚偽の申立・申告をなし」たことは、前記一覧表四、五および一一ないし一三の犯行の手段とした趣旨を判示したもので、同表記載のその余の犯行の手段とした趣旨ではないと解せられ、原判決もまた右趣旨の第一審判決を是認したものと解せられる。)。

同三について。

所論は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当たらない。

また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠 裁判官 下村三郎 裁判官 色川幸太郎 裁判官 大隅健一郎)

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