大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成3年(オ)545号 判決

上告人

野上昭治

右訴訟代理人弁護士

髙橋崇雄

宮岡孝之

被上告人

東京ダイヤ工業株式会社

右代表者代表取締役

芹川澄夫

右訴訟代理人弁護士

貞友義典

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人髙橋崇雄、同宮岡孝之の上告理由について

一原審は、(一) 被上告会社は、昭和六三年三月二六日、東京都新宿区を招集地として招集された臨時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を開催した、(二) 右の当時の被上告会社の本店は福島県南会津郡只見町に置かれ、その定款には株主総会の招集地についての規定はなかった。(三) 本件株主総会当時の被上告会社の発行済株式の総数は七六八万株であり、株主は、総数五四〇名で各地に散在していたが、只見町内には数名、福島県内には数十名が散在していた、(四) 本件株主総会に出席した株主は二〇六名でその持ち株総数は四八八万五〇〇〇株であり、その全員の賛成によって、原告ほか二名の取締役と監査役石川誠を解任する旨の決議及び芹川澄夫ほか四名を取締役に、住谷甲子郎を監査役にそれぞれ選任する旨の決議(以下両決議を併せて「本件決議」という。)がされた、(五) 被上告会社においては、同四九年に本店を只見町に移転し、翌五〇年五月には只見町内で株主総会を開催したが、東京都で株主総会を開催することを希望する株主がいたため、その後は、一〇年以上にわたって東京都内を招集地とする株主総会が開催されてきたが、株主から異議が出たことはなかった、(六) 上告人は、被上告会社の代表取締役として昭和六二年七月開催の株主総会を東京都港区に招集したが、それは、同地に招集することが違法であるとは知らずに前例に従ったものである、との事実を適法に確定し、右事実関係の下において、本件株主総会の招集手続は商法二三三条に違反するが、その違反は重大なものではなく、決議に影響を及ぼさないから、本件決議の取消請求は商法二五一条の規定により棄却されるべきであると判断して、右請求を認容した一審判決を取り消し、上告人の請求を棄却した。

二しかし、前記一の(一)及び(二)の事実によると、本件株主総会の招集手続には定款に特別の定めがないのに本店所在地又はこれに隣接する地に招集しなかったという違法があるところ、前記一の(四)及び(五)の事実を考慮に入れても、右の違法は重大でないとも、本件決議に影響を及ぼさなかったともいえず、商法二五一条の規定により本件決議の取消請求を棄却することはできない。

これと異なる原審の前記判断は、同条の解釈適用を誤ったものであり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記事実関係の下においては、上告人の本件決議の取消請求が信義則に反するとはいえず、これを認容した一審判決は正当であるから、被上告会社の控訴はこれを棄却すべきものである。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小野幹雄 裁判官大堀誠一 裁判官味村治 裁判官三好達 裁判官大白勝)

上告代理人髙橋崇雄、同宮岡孝之の上告理由

原判決は、明らかに法律の解釈適用を誤った違法、重大な事実誤認及び手続法違反があり、到底破棄は免れない。

第一 原判決の法令解釈の誤りについて

一 原判決は、その「理由」第四項で被上告人会社が昭和六三年三月二六日に東京都新宿区新宿六丁目一四番一号所在新宿文化センターで開催した臨時株主総会が商法第二三三条に違反する重大な手続違反に該当することを認めながら、結局は一〇年間以上株主から特段のクレームがなく、東京都下で開催したとしても、これは恣意的な招集地の選定に当たると評価することは出来ず、また、東京都下で株主総会を開催することは株主の出席の便を害するものでなく、本件株主総会の招集手続の違反は重大なものでなく、その違反は決議に影響を及ぼさないとするのである。

二 然しながら、右原判決は商法第二三三条及び同法第二五一条の解釈適用を明らかに誤ったというべきなのである。

即ち、

1 商法第二三三条の趣旨は、取締役による恣意的な株主総会招集地の選定を防ぎもって株主の総会出席の便を図ることである。そして、本条が昭和一三年の商法改正で新たに規定されたその理由は、従前招集地に関する規定がなく、取締役が裁量で株主総会招集地を決定できると解されていたことから、取締役が恣意的に株主総会招集地を決定していた弊害を防止することにあったのである。

2 そこで、商法第二三三条は株主総会招集地について定款に別段の規定のない限り本店所在地又は隣接地に限定し、取締役の恣意の介在する可能性を排除したものというべきものである。そうすると、仮に株主が東京都内での株主総会の開催を求めたとしても株主総会招集地の変更については本店所在地の変更又は定款で別段の定めをしない限り、取締役が恣意的に招集地の選定を行う可能性があるのである。このような場合、商法第二三三条に違反することは明白であり本件株主総会の招集手続は重大な手続違反に該当し、その瑕疵は重大なものと言わざるを得ないのである。そうすると、本条の趣旨は株主総会開催地の違反について、株主からクレームがあったこと自体で即違反と評価されるのであり、「一〇年以上株主からクレームがなかった」ということで商法第二三三条が当該会社の株主総会に当然のように適用がなくなるという解釈は本末転倒であり、明らかに法律の解釈を誤るものである。

3 ところで、判例によれば「株主総会招集の手続に当該規定の性質等から見て重大な瑕疵がある場合には、その瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるときでも、裁判所は決議取消の請求を認容すべきであって、これを棄却することは許されないものと解するのが相当である。蓋し、株主総会の手続に重大な瑕疵がある場合にまで単にその瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないとの理由のみをもって決議取消の請求を棄却し、その決議をなお有効なものとして存続せしめることは、株主総会招集の手続を厳格に規制して株主総会の適正な運営を確保し、もって、株主及び会社の利益を保護しようとしている商法の規定の趣旨を没却することになるからである」とするのである(昭和四六年三月一八日民集二五巻一八三頁)。現在の商法第二五一条はこの判例を前提として規定されたものであるから、現在でもこの判例は効力を有するのである。

三 従って、原判決は商法第二三三条に違反し、株主総会招集手続に重大な瑕疵が存在する本件事案において、裁量棄却を求めた点で明らかに商法第二五一条の解釈を誤ったものと言わなければならない。

第二 原判決の重大な事実誤認等について

一 原判決は東京都下で株主総会を開催したことに取締役の恣意性は認められないというのである。

二 然しながら、昭和五〇年当時の代表取締役芹川澄夫が被上告人会社の株主総会を本店所在地で開催せず東京都下で開催するようになったのは次のような事情によるものであり、取締役の恣意に基づくものと言わざるを得ないのである。

三 即ち、被上告人会社は昭和四九年九月八日に訴外田子倉鉱山株式会社(以下訴外会社という)と業務提携契約を締結(〈書証番号略〉資料二の二)し、訴外会社が採掘する鉱山の販売により利益をあげるということで全国的に株主を募集したのである。

ところが、訴外会社は被上告人会社の業務提携契約に基づく資金援助が全くなされないことから昭和五一年九月の段階では従業員の賃料すら支払えない状態となり事実上倒産したのである。そもそも被上告人会社はそれまでも営業活動を行っていなかったのであるがここに至り被上告人会社は訴外会社から鉱石等の買付けを行うことができず営業を行う可能性を喪失したのである。

また、被上告人会社は本社社屋及び工場を設けるために只見町の住人から土地を賃貸借していたのであるが、全く賃料を支払っておらず地元住民から明渡を求められていたのである。

四 このような事情から被上告人会社代表取締役芹川澄夫は第二回株主総会を本店所在地である只見町で開催すると地元株主から株主総会の席上責任追及されること、また株主が現地で工場等を見学すると全く事業を行っていないことが判明することを怖れて株主総会を東京都下で開催するようになったのである。

五 以上のように、被上告人会社が東京都下で株主総会を開催するようになったのは、まさに取締役の恣意に基づくものなのであり、この点を全く考慮せず株主総会決議取消の訴えを裁量棄却した原判決には重大な事実誤認がある。

六 また、右のような被上告人会社取締役の恣意的な株主総会招集地の変更により株主は会社の只見町における現状を視察する機会を失ったのであり、仮に只見町で株主総会が招集されていれば営業活動がなされていないことを知り、株主総会での決算決議等に意見を述べることができたのであるから、東京都下で被上告人会社が株主総会を招集したことは決議に影響を与える可能性があるものといわなければならないのである。この点からしても株主総会決議取消の訴えを裁量棄却した原判決は明らかに法令の適用解釈を誤るものである。

第三 原判決が審理不尽であるということについて

一 原判決の口頭弁論は平成二年六月二九日及び同年一〇月一九日の二回行われたのみである。然しながら、第一回は控訴人が控訴理由書を提出していなかったことから、実質的審理は一回なされたのみである。

二 そして、本来であれば本件株主総会で取締役が恣意的に株主総会招集地を変更したかどうか、本店所在地で株主総会が招集されればその決議に影響があったか等を判断すべきであったにも拘らず、単に形式的に法律判断を行うのみであり全く事実審としての機能を果たしていないのである。

三 このような原判決の実体からすれば、原判決は当事者に保障された攻撃防御の機会を奪うものであり、民事訴訟法第一二五条第一項に反する重大な手続違反が存在するのであり、この点でも原判決は破棄を免れないのである。

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