大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)5470号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中六〇日を被告人山田為蔵の本刑に算入する。

理由

被告人山田為蔵、同陳斗槐の弁護人黒田覚の上告趣意について。

所論第一点、第二点は、原判決が弁護人のいわゆる囮捜査の抗弁につきなした「被告人山田は囮である広瀬に初めて犯行を誘発せしめられたものであるということはできない。」との事実判断は、重大な事実の誤認であり、証拠に基かない事実認定であり、採証法則に反するというに帰し、同第五点、第六点は、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、原判決の右事実判断は、論旨第二点で主張するような推測又は予断に基いたものではなく、結局第一審第四回公判調書中の証人林広之の供述記載によったものであることその説示に照し明白であり、且つ、これによれば原審の右事実判断を肯認できるから、所論のごとき誤認又は訴訟法違反も認められない。また、所論第三点、第四点は、右のごとき単なる訴訟法違反又は事実誤認を前提とする違憲の主張であって、右のごとくその前提を欠くものであるから、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、他人の誘惑により犯意を生じ又はこれを強化された者が犯罪を実行した場合に、わが刑事法上その誘惑者が場合によっては麻薬取締法五三条のごとき規定の有無にかかわらず教唆犯又は従犯として責を負うことのあるのは格別、その他人である誘惑者が一私人でなく、捜査機関であるとの一事を以てその犯罪実行者の犯罪構成要件該当性又は責任性若しくは違法性を阻却し又は公訴提起の手続規定に違反し若しくは公訴権を消滅せしめるものとすることのできないこと多言を要しない。それ故、本件では刑訴四一一条を適用すべきものとも思われない。

被告人陳斗槐の弁護人徳岡一男、同高田完の上告趣意について。

所論第一点は、原判決が弁護人のいわゆる囮捜査の抗弁につきなした「被告人陳斗槐は佐々木等より本件犯行を誘発されたものでない。」との認定を証拠上条理上誤認であるというに過ぎないものであるから、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、原判決並びに所論挙示の証拠によれば、被告人陳斗槐は相被告人山田為蔵から麻薬の第三号を世話してくれと頼まれこれに応じ原判示のごとき麻薬取締法第四条第三号所定の塩酸ヂアセチルモルヒネ約六七六瓦の多量な麻薬を入手したものであること明らかであり、この事実と就中その交渉の際における「取引は現金と品物引換だ、勿論試験した上で良い」と隣の部屋にお客さんが居り聞えるといけないと思ったから筆記で話した旨の供述記載等を綜合すれば、原判決の右認定を肯認できるばかりでなく、寧ろ被告人は麻薬取引の常習者であることを窺い知るに難くはないのである。また、所論第二点、第三点は事実誤認を前提とする理由不備又は違憲の主張であって前述のごとくその前提を欠くものであり、同第四点は、単なる訴訟法違反の主張に帰し、同第五点は量刑不当の主張であるから、すべて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、記録を精査しても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四一四条、三八六条一項三号、刑法二一条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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