大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(あ)195号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

により調査するに、第一審判決が公訴事実の存在を確定していないのに控訴審が何ら事実の取調をすることなく、刑訴四〇〇条但書に基き、訴訟記録及び第一審裁判所において取り調べた証拠だけで、書面審理によって公訴事実の存在を確定し有罪の判決を言渡すことの違法であることは、当裁判所の判例とするところである(昭和二六年(あ)二四三六号、同三一年七月一八日大法廷判決、集一〇巻七号一、一四七頁)。しかるに、本件においては第一審判決が、本件公訴事実中売春等取締条例違反の点につき「……しかし、右佐藤登美子、大西勝子が売春婦であるとのことは、本件に顕われた全証拠によるも未だこれを認めるに足りない。すなわち、この点については、爾余の判断を俟つまでもなく犯罪の証明がないことに帰するから刑事訴訟法第三百三十六条後段の規定に則り、無罪を言い渡すこととする。」と判示して、売春等取締条例違反の点を無罪としているのに対し、原審は、この点につき、「原判決は……売春婦の意味について誤解したか、或は証拠の取捨選択を誤ったことに基因するか、いずれにするもその事実認定に過誤あるものといわなければならない」と判示しながら、何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠のみにより、右佐藤登美子、大西勝子の両名を右条例四条の売春婦と解し得るとして、第一審判決がその存在を確定していない右条例違反の公訴事実の存在を確定し有罪としているのであって、原判決はこの点において前記大法廷判決に反する違法があるを免れず、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって、弁護人間宮三男也の上告趣意に対する判断を省略し刑訴四一一条一号により原判決を破棄し、同四一三条本文により本件を東京高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官斎藤悠輔の反対意見を除くほか、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

裁判官斎藤悠輔の反対意見は次のとおりである。

事後審とは、原則として第一審における訴訟資料で第一審判決の当否を判定するものである。されば、事後審たる控訴審は、訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠だけで公訴事実の存在を認定することができるものと認めるときは、そのほか何等無用な事実の取調をしなくても、事件につき有罪判決をなしうること当然であって、これが刑訴四〇〇条但書の法意とするところであることは、前掲大法廷判決中のわたくしの意見で述べたとおりである。しかのみならず、本件では、第一審判決が無罪としたのは売春婦の意味について誤解した結果によるに過ぎないと見ることができるのであるから、この点からいっても新らたに事実の取調をする必要がないものと考える。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)

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