大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)333号 判決

上告人 根津玉一

被上告人 根津ユノブ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人代理人弁護士下向井貞一の上告理由第一点について。

しかし、民法七七一条によつて裁判上の離婚に準用される同法七六八条三項は当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮して、財産分与の額及び方法を定めると規定しているのであつて、右にいう一切の事情とは当該訴訟の最終口頭弁論当時における当事者双方の財産状態の如きものも包含する趣旨と解するを相当とするから、原判決が最終口頭弁論当時における、所論のいわゆる判決言渡期日現在の上告人の財産状態を斟酌して判示財産の分与を命じたからといつて、そこに所論の違法ありというを得ず。それ故所論は採用できない。

同第二点について。

しかし、原判決は前示法条にいわゆる当事者双方の協力によつて得た財産の額及びその他一切の事情をるる認定の上、これに基づいて判示財産の分与を命じているのであつて、右判断は当裁判所もこれを正当として是認する。そして原判文によつても明かなとおり、原判決は所論の財産関係のみを考慮に入れて右判断をしているのではなく、それ以外の一切の事情を斟酌しているのであるから、所論財産関係の判示にやや尽さないものがあるとしてもそれが右判断に影響ある程のものとは認められない。それ故所論も採るを得ない。

同第三点について。

しかし、原判決挙示の証拠によれば所論の認定ができないわけのものではなく、所論はひつきよう原審がその裁量に基いてなした事実認定に対し如何にも所論の違法あるが如く非難するだけのものであつて、これまた採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決をする。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

上告代理人下向井貞一の上告理由

第一点法令違反。(民法第七六八条、同第七七一条)

配偶者が別居し事実上婚姻の継続を中止したような場合に於ての財産分与請求の対象となり得る財産はその別居当時の財産を基本とすべきである。

そのことは民法第七六八条第三項に「前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並に分与の額及び方法を定める」との注意によつて明らかである。

ところで、被上告人は訴状の請求原因第十、十一項に於て自認しておるように上告人と昭和二十六年十月二十五日に別居し、同二十七年二月六日広島家庭裁判所呉支部に離婚並びに財産分与の調停申立を為し、同年六月三日附で本訴訟を提起しておるのである。

然るに、

原審は「云々、控訴人の昭和二十六年度における所得及び営業用財産(土地建物を除く)は負債を差引き正味資産二十四万六千三百七十九円余であり、昭和二十七年度は四十四万八千九百四十八円と上昇し、昭和二十八年度八月末の仮決算では六十五万千七百九十一円となり、控訴人の営業は発展の一途を辿りつつあり、これに控訴人所有の不動産及び他の動産を加えて結局現在控訴人の有する積極財産は三百万円を下らず云々」と説示し、その判決言渡は昭和三十二年一月二十二日であるので、右説示になる「結局現在」とは、その判決言渡当時を標準としておることはその判文上明らかである。

すると原審は、被上告人が上告人と別居してより五ヶ年以上も経過して、その間に被上告人の協力なしに得た上告人並びにその家族の所得をも含めてその財産分与の対象としておるが、そのことは全く衡平を欠き右法律に違反した違法がある。

第二点理由不備若くは釈明権不行使の違法がある。(民訴法第三九五条第六項、同第一二七条)

被上告人の上告人所有財産に対する立証は、昭和二十八年二月二十一日附鑑定人畝田浅吉、原田岩槌の各鑑定の結果が主である。(勿論甲第七号証の一、二、三、甲第八号証の固定資産評価額証明で不動産に対する昭和三十一年度評価額を立証しておるが)

依つて上告人も亦その防禦方法としてその当時を標準に上告人の負債を立証し、それに止めておる。

ところで、被上告人が上告人と別居したのは前述の通り昭和二十六年十月二十五日である。

それを原審が、その判決言渡当時の昭和三十二年一月二十三日当時を標準に上告人の財産を評価しそれに基いて被上告人の分与財産額を定めたについては左の如き違法がある。

(一) その理由を示していない。

即ち、その別居後の営業上の所得財産について、それをも含めて被上告人の分与財産を定めるに至つた正当な理由づけがない。

(二) 上告人は折箱製造販売業者である。

上告人は前述のように昭和二十八年二月二十一日を標準に、それまでの負債を立証したのに止めておる。(被上告人の立証日時に対応して)

ところで、それ以後、原審判決言渡の昭和三十二年一月二十三日迄上告人が営業を継続しておる限り、その間負債皆無と言うことは実験則上あり得ないことである。

故に原審が、その判決言渡当時を基準に、上告人の積極財産を認定するについては、右以降における消極財産につき釈明権を行使しその有無を明らかにしない限り公正な裁判と言うことは出来ない。

その点について原審には釈明権不行使の違法がある。

第三点理由不備若くは理由齟齬。(民訴法第三九五条第六項)

個人の所得は、その所得額全体がただちに財産とはなり得ない。

蓋し、

(一) 自己並に家族の衣食住、その他の費用に消費するからである。

この衣食住費等を償ひ得て、余剰の生じたものが財産となり得る。

(二) 次にその所得額に応じて所得税、市民税、固定資産税等の公租公課費用を必要とする。

現在一般に諸税金は家庭出費の高歩合を示しておる。(上告人は昭和二十八年度十一万五千円、同二十九年度十五万二千余円、同三十年度十五万五千余円を納めておる)

ところで、

原審判決は「云々、控訴人の昭和二十六年度における所得及び営業用財産(土地建物を除く)は負債を差引き正味資産二十四万六千三百七十九円余であり、昭和二十七年度は四十四万八千九百四十八円と上昇し、昭和二十八年八月末の仮決算では六十五万千七百九十一円となり控訴人の営業は発展の一途を辿りつつあり、控訴人所有の不動産及び他の動産を加へて結局現在控訴人の有する積極財産は三百万円を下らず云々」と判示された。

但し右判示には左の不当がある。

(1) 即ち原審が、云々昭和二十八年八月末の仮決算六十五万千七百九十一円となり控訴人の営業は発展の一途を辿りつつありと判断したことは、どの事業もその業種別、資本、立地との関係上、その発展は限度があることの実験則を無視し、上告人の事業が発展の一途を辿りつつありと認定したことは別紙証明願によつて明らかなように恣意的判断である。

(2) 次に原審は、上告人の右判示所得に不動産及び他の動産を加へて云々と判断しておるが、その所得全額を財産と認めたのか、或いは、その一部を財産と認めたのか、その説示自体では何れとも判らない。

その全額を財産と認めて「云々積極財産は三百万円を下らず」としたのだとすれば、原審には全く公知の事実(衣食住その他の費用、諸税金費)を無視した不合理な、理由不備若くは理由齟齬の違法がある。

もし万一、その一部を財産と認めて「云々、積極財産は三百万円を下らず」としたのであれば、その財産と認めた金額並びにその金額のよつて生じた理由を示さなければならない。

(前述の諸税金と別紙証明書記載の所得との計算上、上告人並びにその家族の衣食住、その他の雑費を差引けば財産として残るものはほとんどない)

それを示していないところに原審には審理不尽、理由不備若くは理由に齟齬の違法がある。

以上

(附属書類省略)

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