大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)651号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人堂野達也、同阿部三郎の上告理由第一点について。

民法七〇八条にいう不法の原因のための給付とは、その原因となる行為が、強行法規に違反した不適法なものであるのみならず、更にそれが、その社会において要求せられる倫理、道徳を無視した醜悪なものであることを必要とし、そして、その行為が不法原因給付に当るかどうかは、その行為の実質に即し、当時の社会生活および社会感情に照らし、真に倫理、道徳に反する醜悪なものと認められるか否かによつて決せらるべきものといわなければならない。

本件において、原審の確定したところによれば、上告会社は本件揮発油売買に当り、七〇、二四〇立につき、配給割当公文書と引換でなくこれを被上告会社に譲渡し、代金は一立当り五〇円とする約で売り渡したというのであつて、右揮発油の売買は、当時の臨時物資需給調整法一条およびこれに基づく石油製品配給規則一条、一一条、一二条に違反するものであることは原判示のとおりであり、右違反行為は、公の秩序に反する事項を目的としたものとして無効であることも原判示のとおりであり、原判示は、この点においては正当である。しかるに原判決は、不当利得返還の請求についての判示において、右の揮発油売渡は、上告会社にとつて不法な原因のため給付したものであるとし、上告会社は右揮発油の返還を請求することは許されないと判示しているのであるが、上告会社が違反した本件石油製品配給規則が、たとえ原判示のように、わが国における産業の回復振興に関する基本的な政策および計画の実施を維持するため石油製品の譲渡を制限したものであるとしても、このような統制法規に違反した行為が、民法七〇八条の不法原因給付に当るものであるというためには、更に右違反行為が、当時の社会における倫理、道徳に反した醜悪なものであつた旨の首肯しうべき理由が示されなければならないのであつて、原判決には、その理由は示されていないのである。されば、原判決にはこの点において違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすものと認められるから、破棄を免れない。

同第二点について。

記録によれば、被上告人が、所論揮発油の交付は、割当証明書によらない売買に基づくものであつて、臨時物資需給調整法および石油製品配給規則に違反し無効であると主張していることは明らかであり、右主張には、本件揮発油の交付が不法原因給付であるとして、上告人の不当利得返還請求を否定している趣旨をも包含するものと解せられないことはない。それ故、原判決には所論の違法は認められない。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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