大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

最高裁判所第一小法廷 昭和38年(オ)719号 判決

上告人

大岩あきゑ

右訴訟代理人

大池龍夫

被上告人

大岩京市

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大池龍夫の上告理由について。

原審の認定したところによれば、上告人は被上告人の意思に反して上告人の岡田金作らを同居させ、その同居後において金作と親密の度を加えて、夫たる被上告人をないがしろにし、かつ右金作などのため、ひそかに被上告人の財産より多額の支出をしたため、これらが根本的原因となつて被上告人は終に上告人に対し同居を拒み、扶助義務をも履行せざるに至つたというのであり、右認定は挙示の証拠によつて肯認しうる。

所論は、およそ夫婦の一方が他方に対し同居を拒む正当の理由がある場合においてもこれによつて夫婦間に扶助の義務は消滅することなく、依然存続するものであり、従つてこれを怠るときは悪意の遺棄にあたるとの見解に立つて、被上告人の行為は上告人を悪意にて遺棄したものであると主張するのである。しかしながら、前記認定の下においては、上告人が被上告人との婚姻関係の破綻について主たる責を負うべきであり、被上告人よりの扶助を受けざるに至つたのも、上告人自らが招いたものと認むべき以上、上告人はもはや被上告人に対して扶助請求権を主張し得ざるに至つたものというべく、従つて、被上告人が上告人を扶助しないことは、悪意の遺棄に該当しないものと解すべきである。されば原判決には所論の違法はなく、所論は畢竟独自の見解に立つて原判決を非難するに帰し、採用し得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官松田二郎 裁判官入江俊郎 長部謹吾)

上告代理人大池龍夫の上告理由

原判決には理由不備若くは理由齟齬の違法があり延いて法令の解釈を誤つた違法があると信ずる。<中略>

凡そ夫婦の一方が他の一方の同居を拒むに付て正当な事由が存する場合に於ても夫婦の協力扶助義務は当然に消滅するものではないというべきである。

仮に原判決摘示の如く被上告人(被控訴人)が上告人(控訴人)との同居を拒むに付て正当な事由があつたとしても被上告人の同居拒否が同居義務違反による悪意の遺棄に該当しないというに過ぎないのであつてその様な場合に於ても――仮令上告人が被上告人に対して離婚の訴を提起した後に於ても――上告人が現実に生活能力がない場合には上告人に対し被上告人の生活費の供与(扶助の義務)を怠つた場合には如何なる程度の扶助を為すかは別としてそのこと自体によつて遺棄に該当するものと云わなければならないと解するのである。

本件に於ては上告人は証拠上明らかな如く生活保護法の適用を受けていたものであり右適用を受くるに至つたのは生活能力のない上告人に対し被上告人が扶助しなかつたことに基因することは明らかであつて仮令被上告人が上告人との同居を拒むに付て正当な事由があつたとしても斯る状態にある上告人に対し夫婦の一方として扶助の義務を免れることは出来ない筈である。

然るに原判決は此の点に留意することなくして上告人が被上告人から同居を拒まれ且つ扶養を断たれたことは上告人が自ら招いたものと非難されても仕方がない場合に当るものと考えられるから被上告人が上告人を悪意を以て遺棄したものでないと判示したのは明らかに理由不備亦は理解齟齬の違法があり延いて法令の解釈を誤つた違法があるというべきであつて判決は此の点に於て到底破毀を免れないと信ずる。

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com