大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(行ツ)31号 判決

上告人 植松虎一郎

被上告人 高等海難審判庁長官

訴訟代理人 上野国夫 外四名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大津民蔵、同森謙の上告理由第五章第一節について。

所論は、本件裁決は海難原因を解明しただけの裁決であつて行政事件訴訟法にいう行政庁の処分にあたらないから、その取消を求める本件訴は不適法である旨の原判決の判断には、海難審判法五三条の解釈および法律上の利益に関する判断を誤つた違法があるという。

原判決の確定した事実によれば、本件裁決は海難原因を解明しただけの裁決であると認められるところ、このような裁決が行政事件訴訟法にいう行政庁の処分にあたらず、裁決の主文で海難について過失があるとされた者でも海難審判法五三条によつてその裁決の取消を求める訴を提起することができないことは、昭和三六年三月一五日最高裁判所大法廷判決(昭和二八年(オ)第一一〇号、民集一五巻三号四六七頁)の趣旨に徴し明らかである。論旨は、本件裁決に対し出訴が許されないとすれば裁決の認定、判断に係る海難の原因についてその誤りを是正する途が閉され、海難審判法の目的である海難原因の解明、海難の予防が達成されなくなるというが、高等海難審判庁の如何なる裁決に対して出訴できるかについては規定がないのであるから、この問題は行政訴訟の一般原則によつて解決しなければならないのであり、仮に、その者が裁決における海難原因の認定につき違法があると考えた場合でも、その裁決がその者の権利義務に直接関係せず、その者の法律上の利益を侵すような効力を持たないものである以上、行政事件訴訟法による裁決の取消請求は、訴の利益を欠くものとして許されないのである。そして、論旨は、上告人に過失ありとした本件裁決により上告人は所論のような利益を侵害されたというが、本件裁決は上告人の過失を確定する効力を有するものではないのみならず、所論のいう利益はいまだ行政事件訴訟法にいわゆる法律上の利益にあたると認めることはできない。これと同趣旨に出た原判決は正当である。しからば、原判決には所論の違法は存せず、論旨は採るをえない。

同第二節について。

所論は、本件裁決では上告人が水先人の身分を喪失した後においてもなお受審人として審判し、しかもこの点についてなんら法律上の根拠を示し判断を加えていないと主張する。しかし、仮に右に関し本件裁決になんらかの違法があつたとしても、すでに前述のとおり本件裁決が行政処分たる効力を持たず、その取消を求める訴が許されない以上、このことによつて本件裁決を違法として取消すべき理由にはならない。その余の所論は、本件裁決が本件海難の原因を上告人の過失によるとしたことについて、その事実認定、法律の解釈適用を争うものであるが、如上のとおり本件訴が許されない以上、原判決が右の点につき審理判断しなくても所論審理不尽理由不備の違法があるといえないことは明らかである。論旨はすべて理由がない。

同第三節について。

所論は、原判決は憲法七六条二項、三二条、一三条に違背すると主張するが、論旨はすべて本件裁決が上告人の権利義務に直接影響を及ぼす行政処分にあたることを前提とするものであるから、違憲の主張は前提を欠くものであつて採るをえない。

同第一章ないし第四章、第六章および第七章について。

所論はすべて前期各上告論旨の前提として、またはその論旨を詳述しているものであり、その原判決に対する不服の趣旨は、結局前記各論旨と同趣旨と認められるから、その採るをえないことは、前叙判示により明らかである。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

上告理由〈省略〉

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