大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(あ)761号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人岡本徳の上告趣意は、単なる法令違反の主張、同横田静造の上告趣意は、事実誤認の主張、被告人本人両名連名の上告趣意は、事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。〔関税法(昭和二九年法律第六一号)一一八条二項により犯人から追徴すべき金額の基準価格、すなわち同項にいう「その没収することができないもの又は没収しないものの犯罪が行われた時の価格」とは、輸入貨物については、その犯罪が行なわれた当時における国内卸売価格(関税および内国消費税込)をいう(昭和三二年(あ)第九三五号同三五年二月二七日第二小法廷決定、刑集一四巻二号一九八頁参照)ものであるから、本件密輸入貨物全体について本件犯罪の行なわれたときの価格に相当する金額を追徴した第一審判決を支持した原判決は正当であつて、なんら所論の違法はない。もつとも、右追徴すべき金額は本件貨物に対する関税を含んでいること前記のとおりであるから、同条項による追徴が行なわれた場合には、その犯罪貨物等の関税はこれを徴収すべきものではない。関税法一一八条は、本件犯行後に至り昭和四一年法律第三六号により改正され、その第三項において、「第一項及び第二項の規定により犯罪貨物等の没収又はこれに代わる追徴が行なわれた場合には、当該犯罪貨物等については関税を課さない。」と規定するに至つたが、これはこの当然の理を規定したにすぎないものであつて、明文のなかつた右改正前の関税法においても同様に解すべきものである。そして、本件においては、被告人らは本件貨物の契約価格を実際のものより低額に偽つて輸入申告し、被告会社においてその申告額に相応する関税を納付していること所論のとおりであるから、本件犯罪貨物につき追徴が行なわれた場合には、国は、被告会社が先に納付した関税の限度において、二重に関税を徴収したこととなるので、国は所定の手続によりこれを右関税を納入したものに返還すべきである。〕

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、被告人蔡金火に対する追徴の点につき裁判官大隅健一郎、同藤林益三の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

裁判官大隅健一郎の反対意見は、次のとおりである。

私は、多数意見が、被告人株式会社大同貿易公司(以下被告会社という。)に対し追徴を科した第一審判決を支持する原判決を是認した点については、別段異論はないが、被告人蔡金火に対する追徴についても同様原判決を是認している点において、これに賛成するこがとできない。

昭和四二年法律第一一号による改正前の関税法(以下関税法というのは同法を指す。)一一八条二項所定の追徴は、没収に代わるべき換刑処分または補充処分の性質を有するものであつて、追徴を科せらるべき犯人は、犯罪貨物等の所有者または所有者であつた者に限られると解すべきことは、当裁判所昭和四五年一〇月二一日大法廷判決(昭和四一年(あ)第八〇九号、裁判所時報五五七号)における反対意見において述べたとおりである。

これを本件についてみるに、記録によれば、第一審判決の判示第一(二)の犯罪にかるか貨物は、被告会社が不正の行為により合計四五三、二八〇円の関税の支払を免れて輸入したうえ、その犯罪(関税法一一〇条一項一号参照)後これを情を知らない第三者に売却処分したものであつて、被告会社の所有に属していたものであることは明らかである。そして、被告人蔡金火は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務につき右の違反行為をした結果、関税法一一七条により処罰されたものであつて、右犯罪貨物が同人の所有に属するものでなかつたこともまた明らかである。しかるに、第一審判決は、昭和四二年法律第一一号附則第八項により、同法による改正前の関税法一一八条二項を適用して、その判示第一(二)の犯罪につき被告会社に対してのみならず、被告人蔡金火に対しても、その犯罪かにかる貨物の犯罪が行なわれた時の価格に相当する金額の追徴を言い渡しているのである。してみれば、第一審判決およびこれを支持する原判決には、被告人蔡金火に対し追徴を科した点において、関税法一一八条二項の解釈適用を誤つた違法があり、破棄を免れないものと考える。

裁判官藤林益三は、裁判官大隅健一郎の右反対意見に同調する。

(大隅健一郎 長部謹吾 岩田誠 藤林益三 下田武三)

弁護人岡本徳の上告趣意

一、〈省略〉

二、原判決が被告人及び被告会社に対し貨物の全額(金三、〇二一万四、九九〇円)の追徴を命じた第一審判決を容認、支持したのは法の解釈を誤つた不当な判決である。

仮りに本件の場合差額関税逋脱罪が成立するとしても被告会社の申告価格の合計は金一、八三九万一、五五八円で鑑定価格は金二、一九六万七、四四一円であるから、その差額金三五七万五、八八三円に相当する部分が犯罪に係る貨物と解すべきであつて貨物全体を犯罪に係る貨物として全額の追徴を命じた第一審判決を容認した原判決は不当である。

原判決のような見解をとれば極端な例ではあるが仮りに一〇〇万円の貨物に対し九九万円と申告し、その差額一万円に対し何パーセントかの関税を免れた場合はその貨物全体を没収するか或いは没収することができないときは一〇〇万円プラス若干の追徴金を科されることになる。

この場合の追徴金にはその貨物に対する関税額が包含されるので犯人は二重課税されたと同様の結果となり不合理であるばかりでなく関税を全額逋脱した場合と同様の負担となり彼此権衡上過酷である。

このような不合理且過酷な結果を招来する原因は犯罪に係る貨物の範囲意義を差額に相当する部分の貨物に限定しないところにある。

然してその論拠は逋脱した関税額を貨物の総数で除して得た数が各貨物についての逋脱関税額ということになるから各貨物について言えば通脱関税額の何分の何らかの割合で関税が逋脱されていることになるので結局貨物全体が犯罪に係る貨物であると解するものである。

然しこれは余りにもこねつけた理論であつて現実と遊離し社会通念に反するものである。

低価申告をして差額の関税を逋脱した場合輸入貨物のうち関税額と逋脱額との比率に相応する貨物が法にいう「犯罪に係る貨物」であり関税額と納税額との比率に相応する貨物は関税を納付した貨物と認めることが社会通念に合致するので、これは「犯罪に係る貨物」の範ちゆうに入れない。

反対論者は貨物を「犯罪に係る貨物」と然らざる貨物に分離することは不可能である上、二重課税及び無申告で全額逋脱した場合と権衡を失し一見犯人に酷に見えるも犯人が低価申告という不正な手段をとつた当然の帰結である又没収の場合に納付ずみの税金を返還しないとすると没収に代るべきものとして認められた追徴の場合にのみ別異に解する根拠に乏しい旨説明せられるも関税を逋脱した貨物と然らざる貨物は前述の割合に算術上分離可能であるから「犯罪に係る貨物」は輸入貨物のうち関税額と逋脱額との比率に相応する貨物と解することにより前述の不合理性及び全額逋脱の場合と権衡を失する過酷も解消されると思料しその旨控訴趣意書の第四において申述した。

これに対し原判決は

「しかしながら前記関税法一一八条二項において逋脱犯罪に係る貨物を没収し、またはこれを没収することができない場合にその没収することができないものの犯罪が行なわれた時の価格に相当する金額を犯人から追徴すべき旨規定された趣旨は単に犯人が現実に取得した不正の利益だけを剥奪せんとするに過ぎないのではなくして、むしろ国家が関税法規に違反して輸入した貨物または、これに代るべき価格を犯人において納付せしめもつて密輸入の取締を厳に励行せんとするに出たものであり(最高裁判所第一小法廷昭和三五年二月一八日判決刑集一四巻二号一五二頁)」

と判示しているが引用の判例は犯人から貨物を没収し、または追徴金を科する法の目的を説示したものである。

昭和四二年五月頃までは国家が関税法規に違反して輸入した貨物を没収し、またはこれに代るべき価格を犯人から追徴するのは密輸入の取締を厳に励行せんとする目的に出たものとして常に御庁の判例の趣旨を踏襲して来たものであるが、その後「犯罪貨物」等を没収し、または、これに代る追徴を科すことは犯人が個人の場合は一生多額の負担を背負つて苦しみ犯人が法人の場合は倒産、閉鎖するに至るという他の刑罰法に比し著しく過酷なものがあるとして昭和四二年五月法律第一一号をもつて関税法の一部を改正し没収する貨物は同法にいう「輸入制限貨物」に限定しその他の貨物については没収しないことになり制裁が著しく緩和されたので本件が法改正後に行われた犯罪であれば今争われているような追徴問題は起らないこと及び「犯罪に係る貨物」の意義を関税額と逋脱額との比率に相応する部分の貨物と解することにより論議の対象となつている二重課税の不合理又び全額逋脱の場合に比し権衡を失する過酷を解消し、その結果は社会通念に適合すると思料されるので従来の判例を変更されるよう御検討賜わりたく上告を申立てた次第である。

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