大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和50年(す)82号 決定

右の者に対する殺人被告事件(昭和四九年(あ)第二七六六号)について、

昭和五〇年五月八日当裁判所がした上告棄却の決定に対し、

申立人本人から異議の申立(標題は特別抗告申立)があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

本件は、当裁判所が刑訴法四一四条、三八六条一項三号により申立人の上告を棄却した決定に対し、申立人から標題を特別抗告とする不服申立がされたものであるが、最高裁判所のした上告棄却決定に対して特別抗告をすることは許されず、右決定の内容に誤のあることを発見した場合に限り同法四一四条、三八六条二項により異議の申立をすることができるものと解すべきである(昭和三六年(す)第一九一号同年七月五日第二小法廷決定・刑集一五巻七号一〇五一頁)から、申立人の真意は、当裁判所の許容する右異議の申立をしたものと認めるのが相当である。

本件異議申立の理由について

しかし、当裁判所は前記決定の内容に誤のあることを発見しないので、所論は理由がない。

よつて、同法四一四条、三八六条二項、三八五条二項、四二六条一項により、裁判官団藤重光の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

裁判官団藤重光の補足意見は、次のとおりである。

最高裁判所のした上告棄却決定に対してはその内容に誤のあることを発見したときにかぎり刑訴法四一四条、三八六条二項により異議申立が許されるというのが、当裁判所の判例になつている。ここで同法三八六条二項の準用をみとめることが正当かどうかについては、疑問がないではない。けだし、この規定は、控訴裁判所の決定に対して最高裁判所への抗告を許すことは最高裁判所の負担を増大させるから適当でないというのが、その立法趣旨とするところであつて、これを上告審に準用することは性質に反するというべきだからである(団藤・新刑事訴訟法綱要・七訂版・五七三頁参照)。しかし、ひるがえつて考えれば、刑訴法は上告裁判所がその判決の内容に誤のあることを発見した場合について訂正の判決の制度をみとめているのであつて(同法四一五条)、これと同趣旨の制度は、上告裁判所がした上告棄却決定の内容に誤のあることを発見した場合にも、適当な要件のもとに、これをみとめる必要があると思われる。これは刑訴法の規定するところではないが、最高裁判所は、その憲法上の地位から考えて(ことに憲法七七条参照)、この種の場合に必要な制度を創設する固有の権限を有するものというべきである。上記の判例は、同法三八六条二項の準用(同法四一四条)という方便を用いることによつて、実はかような権限を行使し、一種の訂正の決定の制度を創設したものと解する。同法三八六条二項の準用によつて三日という提起期間(同法四二二条)や執行停止の効力(同法四二五条)なども抗告に代る異議申立の場合と同様とされるが(ただし、なお、同法四一五条三項参照)、上告裁判所が上告棄却決定の内容に誤のあることを発見した場合にかぎつて許される点でこれと異る。また、この制度は上訴に代るものではないから、原決定に関与した裁判官が訂正の決定をするのについて職務の執行から除斥されるものでないことも(同法二〇条七号参照)、当然である。この制度は、すでに法廷慣行として定着している。わたくしは、以上のような理解のもとに、判旨に完全に同調するものである。

(団藤重光 藤林益三 下田武三 岸盛一 岸上康夫)

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